オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

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セガの歴史を調べていたら意外な話につながった話(2) リズムシステム実在の証拠発見

2018年01月21日 14時12分39秒 | 歴史

ワタシの手元に、宛先を「ラスベガス」の「SEGA」とする郵便物があります。それは1枚の紙を折り畳んで手紙の体裁にしたもので、開くとジェニングス(かつてあったスロットマシンメーカー。バーリーが1964年にスロットマシンに革命を起こすまでは、ミルズ社とトップの座を競う大手メーカーだった)の新製品のフライヤーとなっています。差出人は明記されていませんが、消印やフライヤーの内容から、「MAR-MATIC Sales, Inc. 」という、ジェニングスに関連する販社のようです。


画像3:宛先がラスベガスで、宛名が「SEGA」となっている郵便物の宛名部分。添えられているメモは、手紙に同封されていたものなのか、それとも後から誰かが付け加えたものなのかは不明で、誰が誰に向けて書いたものかもわからない。「これがジェニングスの最新のフライヤーである。彼らは大量払い出し機構のマシンを売り出しているところも見せているが、そのフライヤーはまだない」とある。


画像4:折り畳まれた郵便物を開いた、内側の面。ジェニングスの新製品「galaxy」と、取扱業者である「Mar-Matic」社を紹介するフライヤーとなっている。

この郵便の宛先は、前回(セガの歴史を調べていたら意外な話につながった話(1))の画像1にある住所とほぼ一致するので、その「Service Games」が、この「SEGA」と同一であることは間違いないでしょう。そして、「galaxy」の製造年は、日本に「セガ・エンタープライゼス」ができた翌年の1966年(1961年とする新資料発見。文脈には影響せず/2020年3月28日追記)ですから、時系列上の齟齬もありません。以上から、ラスベガスにService Gamesのオフィスがあった時期は1957年以降で、その後どこかのタイミングで社名を「SEGA」に変え、少なくとも1966年までは存続していたことがわかります。

日本のセガが、なぜラスベガスにオフィスを置いた(移した?)のか、その理由はわかりません。単純に、(おそらくはジョンソン法が免除されている)ネバダにスロットマシンを売り込むつもりだっただけかもしれません。ただ、ブロムリーは、世界をまたぐシンジケートを活用して税の支払いを回避したり、アジアやヨーロッパの米軍基地に食い込むため倫理に反する手段も積極的に駆使するような人物であったため、アメリカのある業界誌が70年代に彼を特集した記事を掲載した際には「White Collar Bandit(ホワイトカラーの盗賊、の意。スロットマシンの別名「One Armed Bandit」に引っかけているのかもしれない)」と言うタイトルを付けています。また、ワタシに資料を下さったCoin Machine Historianも「金儲けの天才」と評するくらいでしたので、日本のセガの発展のためというよりは、その壮大なシンジケートの金儲けシステムの一環として設立されたものだったことは間違いないでしょう

それは、「米国政府が買い入れるものは米国製品を優先する」とする「バイ・アメリカン法(Buy American Act)」に対応するためでした。しかしその実態は、日本から輸入した部品をネバダで組み立てて米国産に「偽装」していました。場合によっては組み立てさえせず、日本から船で運んできた完成品を船から降ろすことなく「出荷」していたケースもあったようです。(訂正:2024.11.07)

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さて、これまで長々とラスベガスのセガについて愚にもつかない推測(≒妄想)を拡げて参りましたが、今回ワタシが本当に記録しておきたい事柄は、実はセガとは全然関係しないところにあります。

早いものでもう一年以上も前のことになりますが、ワタシは2016年12月29日に、「リズムボーイズ ―― スロットマシンの必勝法の話」という記事をアップしました。詳細は本文をご高覧いただくとして、一部を要約すると、「1975年に刊行された『カジノプレイ入門』というハウツー本に、かつて『リズムボーイズ』と呼ばれる人たちによってスロットマシンが攻略された逸話が記述されており、長年それを裏付ける他の資料を探していたら、『Scarne's New Complete Guide To GAMBLING』という本がその元ネタであろうことを発見した」という内容でした。

しかし、ワタシはこれまでアメリカのギャンブルに関する展示のある公設・私設の博物館をいくつも見て回ったり、あるいはスロットマシンに関する書籍類にも目を通して来ましたが、元ネタ以外でリズムボーイに言及されている展示や解説を見たことがありません。そのため、元ネタの著者であるスカーニー氏の証言だけでは「リズムボーイズ」や「リズムシステム」の存在を確信することができず、ワタシはその後もリズムボーイズに関する直接の証拠を探し続けておりました。

そして今回、セガの歴史を調べている最中に、意外なところで意外なものを発見してしまいました。それが、このラスベガスのセガに宛てられたジェニングスのフライヤーです。ポイントは、galaxyのセールスポイントの記述にありました。


画像5:ラスベガスのセガに届いた手紙の宛名側の面。郵便物の体裁の時には内側に折り込まれていた部分に、今回の新製品のセールスポイントが列挙されている。


画像6:画像5から、不正防止機能を謳った部分の拡大図。「銀行の金庫室のように造り上げた防護。組み込まれる不正防止機構」とある。

そこには、galaxyに組み込まれている不正防止機構として、

*Anti-spoon (スプーン防止)
*Anti-rhythm (リズム防止)
*Anti-drill (ドリル防止)

の三つが謳われています。このうち2番目の「リズム」こそが「リズムシステム」を指すものと思われ、これはリズムシステムが実在したことを明瞭に示す証拠と言えましょう。その他の「スプーン」や「ドリル」も元ネタの中で言及されていた不正の方法で、同じく実在したことがわかります。「Scane's New Complete Guide To GAMBLING」では、リズムボーイズが1950年前後の出来事として記述されていたものですが、galaxyが製造された1966年時点でも、オペレーターにはまだリズムシステムの記憶が払拭されていなかったことが窺われます。

今回のこの発見によって、「リズムボーイズ(システム)」が都市伝説や作り話の類でないとの確信を得ることはできました。ただ、まだまだ関連資料は極めて乏しいと言わざるを得ないので、今後も他に言及している文献や、できれば「当時5ドルで売り出された10ページのパンフレット」の現物のような直接の証拠は探し続けようと思います。

(このシリーズ終わり)