オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

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「アメリカンパチンコ」・ジェミニ

2017年09月18日 13時10分01秒 | 風営機
パチスロの嚆矢であるオリンピアが稼働を開始した時期は1960年代の半ばでしたが、当初こそ耳目を集めたものの、その後人気は尻すぼみとなり、70年代半ば以降は殆ど見られなくなっていたように思います。しかし、市場から消えゆくオリンピアと入れ替わるかのようなタイミングの1977年、市場に新たなスロットマシン型風営機「ジェミニ」が登場しました。

 
ジェミニ(マックス商事・1977)のフライヤーその1




ジェミニのフライヤーその2。右上に「Ballyの伝統を受け継ぐ確かなマシーン」の文字が見える。ジェミニのフライヤー画像の提供はいずれもウッキーさま。

二匹目のどじょうを狙うには冷めているオリンピア市場に、どうして新たな風が起こったのかはわかりません。2001年に刊行された「月刊Amusement Japan別冊 完全保存版 PACHISLOT2001」に、ジェミニの開発に携わった人へのインタビュー記事が掲載されています。そこでは、回胴式の風営機を開発しようと決意した動機として、「(自分たちは)元々はバーリーのスロットマシンを輸入販売していたが、これを使用した賭博営業を行う者がおり、このままではスロットマシンは警察の取り締まりを受けて潰れてしまうと危惧した。これを単なるギャンブル機で終わらせたくなかった」と述べられています。

しかし、これは綺麗ごとに纏められているように思います。ゲーム機による賭博行為は1970年代初頭から流行を見せており(関連記事:ロタミントの記憶 / セガのスロットマシンに関する思いつき話)、ゲーム機賭博による検挙数が毎年増加していたこの時期にスロットマシン類を輸入販売する業者は、顧客の中に違法な賭博営業を目的とする者が含まれていることは織り込み済みだったはずです。ともあれ、ジェミニは当初から風営機としての認可を得て合法的に稼働することを前提に開発されており、そして実際そうなりました。

ジェミニの外観は、バーリーのスロットマシンそのものですが、それもそのはずで、フライヤーの「Ballyの伝統を受け継ぐ確かなマシーン」の言葉通り、ジェミニのキャビネットや主要部品の殆どが米国バーリー社から提供されていたものでした。おそらくは、自らが本来バーリーの製品を輸入している業者だった縁を頼ったのだと思います。

 
バーリーの5-Line Pay Progressive(1972)とQuick Draw(1966)のフライヤー。ジェミニのキャビネットは5-Line Pay、フロントドアはQuick Drawで使われていたもの(ただしボタンスイッチはそれぞれ全く異なる原理による)を流用したことは疑いようがない。リールを覆うガラスのデザインなどはほぼ丸々オリジナルをなぞっている。

また、似ているのは外観だけでなく、内部機構もバーリー製品の流用でした。


バーリーが1980年頃に発行したフライヤーから、当時のバーリーのリールメカニズムを示す画像。ジェミニのフライヤーに見られる内部の画像とほぼそっくりそのままである。

もちろん、パチスロ(実はこの当時はまだパチスロという言葉はできておらず、「アメリカンパチンコ」あるいはその短縮形で「アメパチ」などと呼ばれていた)とするにはスキルストップボタンの設置が必要であるため、オリジナルにはない機構も必要となります。


ジェミニのリールユニット(画像提供:S川さま)。リールに仕込まれた磁石で現在位置を検知する装置(1)と、リールの回転を維持する補助回転装置(2)が追加設置されている。

この時のバーリー側の担当者が、「スロットマシンキング」の異名を持ち、拙ブログでも何度か名前が出ている「ウィリアム・サイ・レッド」(関連記事:ワタクシ的ビデオポーカーの変遷(3)米国内の動き・他)で、日本側の技術的な相談にも親切にアドバイスしたと、前述の「月刊Amusement JapanJapan別冊 完全保存版 PACHISLOT2001」に書かれています。

ジェミニを作った人たちは、業界団体を立ち上げるために、バーリーから得た部品を同業他社にも供給したそうです。そのため、アメリカンパチンコはどこのメーカーのものも似たような印象の機械となりましたが、そのうちパチンコ台を設置する島のサイズに合わせた筐体が開発されるようになり、これを境に回胴式遊技機は「パチスロ」と呼ばれるようになって、現在に至っています。

なお、ジェミニのフライヤー画像をを供給してくださったウッキーさまもブログをお持ちでらっしゃいますので、ご紹介しておこうと思います。「ウッキーののほほん絵日記」http://ukeyman.blog91.fc2.com/