水車ボランティア(+山家鳥虫歌)

ボランティア解説員としての見聞から始めた、ボケ防止メモ。12年目。新たに「山家鳥虫歌(近世諸国民謡集)」を加える。
 

世界の水輪(1)(Norse Wheel)

2009-10-29 11:14:35 | 水車解説関連
 Norse Wheel。「ノルウェー(水)輪」とでも訳せばよいか。

 上端に碾き臼がつけられた軸の下端にプロペラ羽がついている構造の水車を、特に西欧で、このように呼ぶことがある。羽に水流を当てると、軸が回り、臼も回る。近代タービン、そのものだ。

 なぜこれを、Norse Wheelとよぶのか? このあいだから、インターネットで検索しているが、まだうまい回答に出くわさない。

 ある辞書(コロンビアエンサイクロペディアと記憶)によると、「このような名にもかかわらず、紀元前1世紀ごろの中東で、このタイプの水車が出現した。上掛け・胸掛けタイプの水車は、この後地上に出現した」そうだ。
 
 本当にそうか?上に示した疑問に対する回答を探しながら、水車の歴史もひもといてみようと思い立った。もちろん、もっぱらインターネットに頼って、だ。
そして、放棄することを避けるために、標記タイトルのもとにシリーズ化し、途中経過を記録することにした。

小雨時々降る(53/72)

2009-10-28 01:38:16 | 72候
 今日は72候の「小雨時々降る」だ。

 72候の表現には、時々しっくりこないものがある。これもそのひとつだ。
確かに、二三日前、曇天・小雨が続いた。だから、当たっている、といってもいいのかもしれない。がしかし、この雨を、規則性を有する雨季のひとつ、とはいえないであろう。台風がくることを言っているのであろうか。

 日本列島での雨季は、四回だ。それぞれ名前もついている。すなわち、
①なたね梅雨、シベリア高気圧が弱まる時期(3月)
②梅雨、太平洋高気圧が強まる時期(6月~7月)
③秋霖、太平洋高気圧が弱まる時期(9月)
④さざんか梅雨、シベリア高気圧が強まる時期(11月)

 今の時期は③と④の間だ。この時期に、「小雨時々降る」とは、やはり、よくわからない。この辺が、一般に、72候が受け入れられない理由のひとつかもしれない。



島村論文(7)

2009-10-26 10:42:57 | 水車解説関連
 前回(10/20)の文末は、「なんとかなるべえ」とした。この言葉で、当時の一流職人が持っていたであろう、仕事に対する"強烈な自信"を表現したつもりだ。なぜそうしたか?

 島村氏は論文の最後に、わざわざ、「当時の寸法単位及び素材加工技術の事情等」という節を設け、水車大工の技術レベルを高く評価なさっている。このことにシンクロしたかったからである。
この節で氏は、江戸時代の「百分表」や関孝和の「括要算法」を引用しつつ、材料の木取りや水輪の設計を、当時の方法で再現してしまったのだ。

 脱帽だ!
 そして、ありふれた対象(この場合は都指定有形民族文化財)の背景にとんでもないモノ(心意気というべきモノも含まれるかもしれない)が隠されていることに気づかせていただいた、島村氏に心の底から感謝申し上げる。

 締めくくりとして、次に示す文を島村論文から引用する。

 「江戸時代の日本人においては(ギリシャ数学の伝統による西洋一般諸国と違い)正多角形は全て”存在するもの”であり、またそのための数値寸法も曲尺で物を作るうえで必要な「実用的な数値」が和算という計算結果で公開されており、当時の和算が一般の人々にも広く受け入れられていた事情を汲めば、大工に限らずその心得が有る者ならば誰でも、その数値を自在に利用・応用することができたであろう」(p16~17)

霜始降(52/72)

2009-10-22 07:07:39 | 72候
 明日は、72候の「霜始降」(しもはじめてふる)だ。

ちょっと早すぎる、と思うが、24節気の「霜降」でもあるので、そんなもんかとも思う。

 手元の理科年表をみると、初霜の、東京での平年値は12月1日であった。
最も早い日は1937年に観測され、10月21日だったそうな。ほぼピタリですな。

 ついでに、国内(島嶼を除く)での初霜観測で、最も早い記録は札幌1888年、9月9日、最も遅かった記録は横浜1995年、12月9日であることを知った。

 横浜がこんな感じで出てくるのは、温暖化の証拠と断言してもいいのではないか。

 今見ている理科年表は平成13年版だから、最新の理科年表ではもっと異なる、面白い記録になっているかもしれぬ。通常ならそろそろ買い換える時期だ。
 が、何年か前に、蔵書のほとんどを処分し、それ以後、本は買わない、を原則としている。身辺整理の一環だ。ピンシャンコロリと逝けないものか。

 「太陽の季節」にしびれて、海のスポーツにのめりこんだ者にとって、あの女優の逝去に至るまでの話はこたえる。

島村論文(6)

2009-10-20 08:34:08 | 水車解説関連
 くも手の数について

 この節では、前節で得た水受け枚数42を、三枚ひと組(このひとつをハコという)に分解することによって14角形ができた、と説明している。

 島村氏のすごいところは、このハコの1/2模型を製作してしまったことだ。だから氏の、「一つのハコに羽根板と小底板で構成される水受け三枚を入れることは構造上、よほど理にかなっている」との言は、説得力が大きい。

 示された写真をみても、そのことはよく解る。しかも、このまま家具として使ってもよいのではないかと思われるほどの美しさを持っている。機能を極限まで追及した道具の美しさに通じる。ここに目をつける島村氏の芸術家としてのセンスに脱帽。

 水車のハコがどうなっているかをインターネットでチェックしてみた。水受けの数が二枚もしくは四枚のものが多く、三枚はみつけられなかった。「水受け三枚」が固有流派のノウハウなのか、新車固有の設計なのか、よくわからない。


 さて、そろそろ終わり。島村氏は、水理条件から演繹的に論じ、「円の14分割」という、現代ではその利用を考えもしない、極めて特殊な図形が、新車にとって「必然の形だった」との結論に到達した。
興味深く論理展開を読ませていただいた。是非続稿を発表していただきたい。

 ここまで書いてきて、ふと、自分が江戸時代にタイムスリップし、水車大工だったら、最初にどう按配するか、考えた。
以下は思いつき、

① 得られる、水の落差は3尺が可能最大。
② 水車小屋(覆屋)の屋内高さの上限は2間(それ以上高くすると建屋建築費用がべらぼうに高くなるはず)
③ とすると、水輪の直径は16尺が可能最大。
④ 水受け三枚ひと組をひとハコ、とする。
⑤ 直径16尺もののハコ数の最大は16、15尺もののハコ数の最大は15。
⑥ 少ない材料で、なるべく大きな効果を得ようとすると、直径15尺とし、14ハコが落としどころか。
⑦ 360度の14分割は、ちょっと苦労するが、なんとかなるべえ。

 
 

蟋蟀在戸(51/72)

2009-10-18 05:30:48 | 72候
 今日は、72候の「蟋蟀在戸」(きりぎりすとにあり)だ。

家の戸口の前にまで、きりぎりすがやってきて、盛んに音を立てる季節になった、との意だ。

 大字典をひくと、「蟋蟀」は音読みで「シツシュツ」、訓読みで「こおろぎ」と読ませる。つくりの悉や率は、それらの字の持つ意味に関係ないようだ。
 
 大辞林で「キリギリス」をひくと、漢字は確かに「蟋蟀」もあるが、第一番目に「螽斯」と書かれている。

 今度は、大字典で「螽」をひくと、訓読みで「いなご」とよませていた。音読みは「シュウ」だ。

 迷路に入りそう。

「蟋蟀」を、国語辞典は「コオロギ」と、古語辞典は「キリギリス」と読ませていた。

 今日の結論。「蟋蟀」を「きりぎりす」と読もうが「こおろぎ」と読もうが、どっちでもかまわない。ただ、昔は「きりぎりす」と読んでいた。中国で、秋に鳴く虫全体「シツシュツ」といっていた言葉を輸入し、日本の言い方を当てはめた。時代とともに、このあて読みが「きりぎりす」から「こおろぎ」に変化した。

だから、標記を(こおろぎとにあり)と読んでも笑われることはない。

島村論文(5)

2009-10-15 05:48:31 | 水車解説関連
 設計について

 島村氏は、この節において、次のふたつを明らかにしている。
① ハネイタの取り付け角度を、CADで計測。「水面と交差する水輪外周接線との角度」として、120度強を得た。
② 水受けの数を演繹的に42枚と決定した。根拠は側板の深さを330mmと設定することと銚子口水深の推定値。

 後者の論理展開は、まだすんなりと理解できていない。ちょっと無理があるのではないか。


 この節の結びは、「水受けの水離れにかなり配慮していることが窺える」である。
100%同感だ。理由は下のふたつ。

① サブタから水車に当たるまでの水路構造、いわゆる銚子口、は興味深い仕掛けだ。もしかすると、水流を射流から常流に変化させようとしたのではないか。これで跳水現象が発生するとすれば、そこに思いが至った洞察力、そしてその思いを現実にする技術力、は驚嘆に値する。
② 水流は、水輪に対して、水平よりやや下向きの方向を向いて当たる。この力の、水輪の接線方向分力が水輪を回す。一方、もう一方の分力(接線方向分力に対して直角方向)は、水輪の回転を阻害する。その分力をいかに消すかが、問題だ。P5図3をながめていると、この分力をくも手(レバーアーム)で受けさせている、と理解できる。そしてさらに、残った力(水輪は回転するので、くも手だけではこの分力の100%を吸収できない)を抜かねばならぬ。このため、ハネイタに対する小底板の角度および小底板の高さ(換言すれば、水を水車の裏に逃す空間)も大切で、これらが計算されつくして決められているらしい、と観察できる。

 島村論文に掲載された、どの図や写真も正確で、明瞭なので、見る者に対してさまざまな示唆を与えてくれ、実に楽しい。
そして新車は、観察すればするほど、ただうなるだけの仕掛けがそこここに隠されているのである。

菊花開く(50/72)

2009-10-13 10:51:01 | 72候
 今日は、72候の「菊花開く」(きっかひらく)だ。

 随分昔、日比谷公園の菊花展を、通りがかりに見たことがある。あれはもう芸術展だ。11月だったように記憶している。伝統は今年も引き継がれることだろう。

 Wikipediaによれば菊に野生種はないのだそうだ。和名:イエギク、英名:florists' daisy とあった。なんだなんだ?「花屋のデージー」だと。

 菊の英名は、Chrysanthemum と記憶している。なぜ記憶しているか。
ベネディクト著の「菊と刀」(The Chrysanthemum and the Sword)を読む宿題が出て、例によってなにもせず、ひどい評価を食らった経験が忘れられない。脳みそのかたすみにこびりついている。

 世の中、どうも大変革の時代に入ったようだ。
こんな時期だからこそ、上のような、外国人が書いた日本人論の古典(発表されてから50年以上は経過しているはずだから、もうそう言っていいだろう)をペラペラめくっておくのは意義あり、かもしれない。
この際脳みそにくっついたオリを除去しようか。

  

島村論文(4)

2009-10-10 21:18:33 | 水車解説関連
回転数/分について

 水輪の回転数を把握するために、島村氏は三次元CG上に装置の全容を再現し、バーチャルに水輪や杵を動かした。
部品・部材を採寸し、CG上に組み立てた労力の大変さは想像を越える。そして、その努力が実り、成果として、次のようなことが分かった。

「杵が落ちる途中でナデ棒がハゴ板に当たってしまうので、いろいろ(水輪の)回転数を変えてみるが七回転/分辺りがギリギリであった。」

 この発見、というか確認は、大ホームラン、だと思う。

 水輪の、馬力は10馬力程度出したらしい、回転は毎分10回転ぐらいだったらしい、と教えられていた。が実は、疑っていた。というのは、馬力をトルク(kgm)と回転数(rpm)と定数(0.001396)の積であらわす簡単な公式があって、それに10馬力をあてはめると、どう考えても五回転/分ぐらいなのである。

 杵の運動に制約があることに気づかなかった。三次元CGの、考察を加える際の武器としてのすばらしさをあらためて再確認した。島村氏の三次元バーチャル実験の結果(杵を動かす場合、七回転/分がmax)を信じます。


 しかしどうも、島村氏は「毎分10回転」にこだわっているようだ。寄与の水流の速度(2.4m/s)と水輪の回転速度が近似すると仮定し、毎分10回転を使って、水輪の直径を、4.57mと求めた。そして、この値が、現状(直径一丈五尺一寸)とほぼ同じ、だと言っている、ように読める。

 水流の速度が水輪の直径を決める因子なのだろうか?
もし、そうだ、とおっしゃるなら、それには同意できない。

 

 

雁来る(49/72)

2009-10-08 02:59:47 | 72候
 今日は、72候の「雁来る」(がんくる)だ。
また、24節気の寒露でもある。確かに、このところグッと気温が下がった。

 カギになりサオになり、飛んでいる雁を見なくなったのはいつごろからだったろうか。見なくなって30年は経たかもしれぬ。

 冬鳥の代表格で、全国で見ることができたのに、今では、飛来地は東北日本に限られているらしい。都市化の進行により、彼らのエサ場である水田や湿地が減ったからだ。


 ところで、雨音が気になって起きだしたのだが、インターネットの天気情報を見ると、今台風は志摩半島のすぐ南にあり北上している。速度は50kmだそうだ。
東海地方を中心に被害が発生するにちがいない。
台風外縁部に発生した雨雲の勢いが強く、関東地方での雨も相当な量になりそうだ。神田川上流などで溢れるかも。

一段と、雨音が激しくなってきた。


島村論文(3)

2009-10-07 04:39:31 | 水車解説関連
 馬力について

 前回示した流水量を使って、島村氏は、新車が得る馬力を、理論値9.4、実効値6.58、と推定した。しかし、峰岸氏が水車の替わりに7.5kwのモーターを設置していたことから、「新車の水量・馬力はもっとあったのかもしれない」と結んでいる。

 氏が疑った問題の根っこは、流水量の設定値(0.6342m^3/s)にある。前回示したように、マニング式を使うのではなく、「サブタ」をスルースゲートと扱って(実際、そのように扱っていたはずなのだが~~~)水量を推定し直せばよい。理論値で、軽く1m^3/sは生み出せたはずだ。
新車の10馬力は、絵空事ではない。


 論文の真骨頂はこれからだ。乞うご期待。

島村論文(2)

2009-10-05 10:23:06 | 水車解説関連
 島村論文の、詳細な考察は、まず、「新車の立地条件」という名の節からはじまる。

 この節では、主としてマニングの平均流速公式を利用して、水輪に当たる直前の水流の、流速を2.4m/s、流量を0.6324m^3/s、と推定している。

 上の結論に至る論理展開はちょっと苦しい。率直に言って賛成できない。
p6の写真を見れば、「サブタ」は、明らかにスルースゲートである。これは流水量の管理を容易に行うためのもので、水を、堰き止め、堰板の下を潜り抜けさせる構造物である。
 この「サブタ」で流速2.4m/sを得るには、理論的には、堰板の上流側の水深を0.3mに、また堰板の上げ幅を0.175mにすればよい。
新車では、その特性をフルに引き出すべく「サブタ」が巧妙に使われていた、と観察されるのだ。

 いずれにしても、この節については再考が必要、と思う。


以下はつけたし。

 島村氏は、水面勾配を水路勾配に近似するとし、地形図(1942年)と航空写真(1947年撮影)を利用なさった。マニング公式で流速を算出するための苦労のひとつであるので、このことについてとやかく言うつもりはない。

 示した写真は、手元にあった、復刻版地形図(1880年測量、明治前期測量2万分1フランス式彩色地図、図名「神奈川県武蔵国北多摩郡石原駅南多摩郡長沼村」)の北東端(野川と人見街道が交差する付近)である。

 水車記号が二つ記載されている。もちろん、上(北)が大車、下(南)が新車。ヘタな写真なので、判別していただけるか、心配。
が、ただただ世の中に、新車と大車が水車記号で記載されている地形図がある、ということを言いたかっただけです。

 

水始涸(48/72)

2009-10-03 04:31:59 | 72候
 今日は、72候の、「水始涸」(みずはじめてかる)だ。

 先月は、台風か上陸しなかったし、前線の停滞もなかったし、記録的な少雨であったそうだ。

がしかし通常、今の時期の風景を、枯れ始めた、というのは早すぎる。
標記は、刈り取りのために、水田の水が干された状態を言っている、と思う。

 
 話が変わるが速報によると、五輪候補の東京は落選した。「南米最初の五輪」が効いたのだろう。ブラジル・リオデジャネイロ、がんばれ!

 1964東京五輪も、1940まぼろしの東京五輪に引き続き「アジア最初の五輪」がキャッチフレーズであった。日本もがんばった。
抜けるような青空に、五機の飛行機が見事な五輪を描いた、あの開会式当日、10月10日の天気は忘れられない。前日は土砂降りだった。
10月10日は 統計的に、雨の降らない「特異日」というそうだが、さて、今年はどうなるだろう。このところの天候(雨、遠くに台風が存在)を見ていると、気になってしょうがない。

島村論文(1)

2009-10-01 05:15:01 | 水車解説関連
 彫刻家・島村俊和氏(ホームページあり)は、しんぐるま(新車)の設計過程を洞察した論文(新車は何故14角形なのか?、民具マンスリー、第42巻6号、2009年9月、p1~20、神奈川大学日本常民文化研究所)を発表した。何回かに分けて(多分、不定期に5回ぐらい)、その内容を紹介する。加えて、氏のこれからの考究に多少はお役にたつのではないかと勝手に思い上がり、氏とは異なる愚考も披瀝してみたい。

 過去に4回(4/18、4/23、9/19、9/22)言及したが、一言で言えば、論文に惚れちゃった。
着眼の独創性(和算の成果が水車設計に利用されていることを実例で示した)、疑問解明への追求(CGを駆使した机上実験、模型の製作)など、見習わねばならぬことばかりだ。さすが、一流芸術家だ。

 前書きはこれくらいにし、まず今日は下に、氏の結論(p4、下段)を紹介する。


 「新車の水輪はその直径と水路の水深から14角形(14本のクモデ)となった」
① 水輪が何角形になるか(クモデの本数)は水受けの枚数による。
② 水受けの枚数はその水車の水輪直径と得られる水路の水深による。
 言い換えると、新車が欲した回転数(分)と馬力、そして新車の立地条件により、新車は現在の姿になった。14角形は新車にとって単なる美意識だけではなく必然、大沢の新車として”合理的な答え”が、クモデ14本に隠されていた。