水車ボランティア(+山家鳥虫歌)

ボランティア解説員としての見聞から始めた、ボケ防止メモ。12年目。新たに「山家鳥虫歌(近世諸国民謡集)」を加える。
 

日の名残り(72)

2019-05-23 09:53:08 | 日の名残り
There is one situation and one situation only in which a butler who cares about his dignity may feel free to unburden himself of his role; that is to say, when he is entirely alone.

執事が執事としての役割を離れてよい状況はただ一つ、自分が完全に一人だけでいるときしかありえません。


「みずからの地位にふさわしい品格」を備えるべきと思っている、スティーブンス氏とすれば、たとえ身内の女中頭といえども、仕事から離れている状況を他人に見せてはならなかった。だから、強硬に部屋から出るよう言いつのった、と弁明します。

テレビ映画で見るイギリス社会における執事は、確かに、いつも執事然としていて、とりつくしまもなさそうです。
それをよし、とする仕事なのですね~。

日の名残り(71)

2019-05-16 09:56:55 | 日の名残り
A weighted book - a scholarly study, say - while it might have been more generally improving would have tended to be couched in terms likely to be of more limited use in the course of one's normal intercourse with ladies and gentlemen.

学術書のような重厚な著作は、もちろん、人格を磨くには適しておりましょうが、難しい言葉がふんだんにちりばめられております。そうした言葉は、お客様との通常の会話ではあまり使い道がありません。


スティーブンス氏は、「おセンチおな恋愛小説」を選びがちであったが、それは、その種の本がよい英語で書かれ、利用価値の高いエレガントな会話を多く含んでいて、執事としての会話術に有効である、と主張しています。

しかしまあ、一生懸命こじつけているなあ、との印象を受けてしまいます。

カズオイシグロの文章作成能力の非凡さを示す、部分ではないでしょうか。



日の名残り(70)

2019-05-14 08:04:45 | 日の名残り
Good gracious, Mr. Stevens, it is not anything so scandalous at all. Simply a sentimental love story.

まあ、ミスタースティーブンス。 嫌らしいどころか、これは、ただのおセンチな恋愛小説ではありませんか。


期待を完全に裏切る結果でした。固い、政治や経済の本ではなかったし、だからといって、下品な小説でもなかった。

しかし、スティーブンス氏はいたくプライドを傷つけられ、ミスケントンを断固として、部屋から追い出したのでした。
さらにスティーブンス氏は、見られた恥ずかしさを隠すため、この本を読んでいた理由として、「英語力を維持し、向上させるため」と、苦しい弁明はするのでした。



日の名残り(69)

2019-05-03 11:19:44 | 日の名残り
I wonder, is it a perfectly respectable volume, Mr. Stevens, or are you in fact protecting me from its shocking influences ?

それはちゃんとしたご本ですかしら、ミスタースティーブンス。 それとも、あなたはショッキングな内容から私を守ろうとしておられるのかしら?


読んでいる本に異常なほどの興味を示すミスケントンに、とまどいながらもかたくなに拒否するスティーブンス氏。


拒否の言い方が素晴らしい。
原理原則の問題として、あなたが私のプライバシーに踏み込んでくるようなことには、強く抗議せねばなりません。
As a matter of principle, I object to you appearing like this and invading my private moments.

結局、ミスケントンは、スティーブンス氏の指を、一本一本引きはがすようにして取り上げたのでした。
そして、叫んだ。