水車ボランティア(+山家鳥虫歌)

ボランティア解説員としての見聞から始めた、ボケ防止メモ。12年目。新たに「山家鳥虫歌(近世諸国民謡集)」を加える。
 

日の名残り(8)

2018-02-26 10:57:12 | 日の名残り
I must say this business of bantering is not a duty I feel I can ever discharge with enthusiasm.

冗談の言い合いなど、とても私が熱意をもって遂行できる任務とは思えません。


スティーブンスが、新しい雇い主の、米国人特有の、冗談にうまく対応できず悩んでいる一節。


米国人は本当に冗談がすきだ。それに対応できないとほとんど相手にされない。日本人にはつらいことだ。

昔、レーガン大統領が銃弾に撃たれてケガをし、病院に担ぎ込まれた。奥さんが駆け付けた時、レーガンは次のように言った、と言われている。

「Honey, I forgot to duck.」「かあちゃん、「おれ、弾を躱すの忘れちゃったよ」(ひょいと、かわせるのにさ~)

"duck"という絶妙な言葉を使って、奥さんや周囲の人々の不安感を一掃させ、腹も据わっていることを証明した。
アメリカ流冗談の最高傑作だと思う。レーガンはこれで、圧倒的信頼を得た。

オバマもうまかった。スピーチライターが凄腕であったらしい。

トランプはどうか?彼の話は全部ブラックジョークかと思えるほどだが、どうもそうではないがらしいから深刻だ。
いい脚本家を雇えばもうすこしましになるのでは。

日の名残り(7)

2018-02-23 10:43:41 | 日の名残り
'My, my, Stevens. A lady-friend. And at your age.'
This was a most embarrassing situation, one in which Lord Darlington would never have placed an employee.


「おいおい、スティーブンス。ガールフレンドに会いにいきたい? その年でかい?」
決まり悪いことこの上ない瞬間でした。


新しい雇い主のファラディ氏から、「旅行でもしなさい」と言われ、行く理由のこじつけを種々考えた。
その一つ、使用人の絶対的不足の打開として「旅行の途中で、昔の同僚(女中頭)に声をかけたい」、と言ったところ、上のような返答が返ってきた。

実は、その女中頭とは、相思相愛であったにもかかわらず、心持のすれ違いが続いて、結局離れ離れになってしまうのだが、この時の「きまり悪さ」が、のちのちの話の伏線となる。

主人公ス、ティーブンス氏の、不器用さが的確に表現されているように感じる部分だ。

日の名残り(6)

2018-02-19 13:13:15 | 日の名残り
he is not one of those gentlemen prone to that most irritating of traits in an employer - inconsistency.

召使泣かせの最たるもの、あの「気まぐれ」という悪癖は、彼(ファラディ様)にはありません。


新しい雇い主である、ファラディ氏はアメリカ人なのだが、その人のもとで数か月仕事をした経験をもとに、感じたことを言っている。
スティーブンスは、雇い主の言動に一貫性のないこと、を最も嫌っている、ということでしょう。

言うことがクルクル変わる人には、確かに付き合ってはいられませんよね~。
洋の古今東西を問わず、この種の「だんな」は結構珍しくはないのでしょうね~。


それにしても、翻訳にてこずる文ではないでしょうか。確かに名翻訳だと思います。

日の名残り(5)

2018-02-15 20:17:38 | 日の名残り
one is not struck by the truth until prompted quite accidentally by some external event.

なんらかの偶発的事件に接し、初めて「目からうろこが落ちる」ということが・・・・。


主人公スティーブンスが、ダーリントンホールを4人という少人数で切り回すために、staff plan を練り上げたのだが、どうも齟齬があるようだ、と気づいたときの、思いの文章。

「one is not struck by the truth 」「を「目からうろこが落ちる」と翻訳なさっているわけだ。
英語の言い回しも絶妙なのでしょうが、この翻訳は、やはり「お見事」と言うべきでしょうか。

日の名残り(4)

2018-02-12 11:02:19 | 日の名残り
一部に見られるような、伝統のための伝統にしがみつくやり方にも反対です。

There is no virtue at all in clinging as some do to tradition merely for its own sake.


主人公(スティーブンス、執事)が、新しいアメリカ人雇い主(ファラディ氏)に、新規召使の雇用が難しい、と報告したところ、氏から、とりあえず今の四人でなんとかならないか、と言われ、心中考えた一節。
過去に27人もの召使がいたこともある、ダーリントンホールを4人で切り回すにはどうすればいいか?
一生懸命になって、staff plan を作成しようとする動機付け。

直訳的には、「なんら正当性がみあたらない」とでも書くところを「反対です」と言い切る、翻訳のプロのすごさに感じ入っている。

日の名残り(3)

2018-02-08 10:58:26 | 日の名残り
「いやしくも執事たるもの、職務計画の作成には、慎重のうえにも慎重を期さねばなりません」

It is of course, the responsibility of every butler to devote his utmost care in the devising of a staff plan.


イギリス貴族家庭における執事の仕事って、知っているようで知らない。
この文章によれば、執事の重要な仕事として、staff plan が挙げられている。
翻訳は「職務計画」。理解、できるようで、できない。

次の文章(英語)を読むと、そのへんがわかってくる。
直訳すると、「staff plan 作成段階での執事のいいかげんさが原因で、これまで、多くのけんか、告訴合戦、解雇、有能な人材の逸失、が発生した」

これから理解される staff plan とは、人事管理計画、ということでしょう。 
職務計画では、ちょっとずれてしまっているのではないでしょううか。

まあとにかく、今日わかったことは、イギリス貴族社会における執事(butler)のうち、重要な部分を占める仕事は、何十人といる召使などの人事管理、ということです。

江戸時代の武家における「家老」と考えればいいのでしょうか。

日の名残り(2)

2018-02-05 12:14:20 | 日の名残り
「晴天の霹靂とでももうしましょうか。突然のことで、どうお答えしてよいものかわからず、ご配慮に感謝したのは覚えておりますが、おそらく、行くとも行かないとも煮えきらない態度だったのだと存じます。ファラディ様は次にこう言われました」

「Coming out of the blue as it did, I did not quite know how to reply to such a suggestion. I recall thanking him for his consideration, but quite probably I said nothing very definite for my employer went on: 」


ダーリントンホールと呼ばれるお屋敷の執事、スティーブンスが、新しい雇い主、ファラデイ氏から、氏が数週間アメリカに帰国するあいだ、旅行しなさい、と言われたときの、応答の様子を説明した文章である。

翻訳って、こんなにも自由なのですね~、というのが感想。

特に後半、直訳すると、
「旦那の配慮に謝意を表したのは覚えているが、彼が続けてしゃべったことに対し、明確に反応できなかったように思う」

意味は同じか。 でも、なんかニュアンスが違うんだよな~。



日の名残り(1)

2018-02-01 12:31:32 | 日の名残り
「ここ数日来、頭から離れなかった旅行の件が、どうやら、しだいに現実のものとなって行くようです。」

カズオ・イシグロ著、日の名残り、の冒頭である。
早川文庫、土屋政雄訳だ。p361、丸谷才一の解説に「土屋政雄の翻訳は見事なものとある」

ブッカー賞受賞作、ノーベル賞受賞者。 どのような小説なのか読んでみたい、と思った。

なぜか、

It seems increasingly likely that I really will undertake the expedition that has preoccupying my imagination now for some days.
これが、土屋の翻訳によると、上のようになる。

そして、小説の英文タイトルは「The Remains of the Day」。
直観的にいって、これを「日の名残り」とは訳せない。私であったら、「あの誇り高かった日々(の残照)」とでも翻訳したい。

翻訳文の意味合いが原文とどのくらい合致しているか、原文を参照しながら、暇に飽かせて読んでみる。
さてどうなることか?続けられるか?お楽しみに!