旅限無(りょげむ)

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日本語ブームは本物か? 其の参

2006-12-13 08:30:42 | 日本語
■世界中に「親日派」を得ようと画策すると、角が立ったり反発を呼んだりしますが、「知日派」をじっくりと育てて増やす工夫を粘り強く続ければ、それは目立たず反感も買わず、後に大きな成果を得られるのです。しかし、この区別を付ける眼力が日本政府には無いような気がして仕方が有りません。

日豪関係をそれぞれのサイドから眺めると、日本にラブコールを送り続ける豪州の“思い入れ”の強さに対し、日本側には熱い思いが欠けているようにも映る。しかし、現実には日本にとっての豪州の存在感は確実に増している。イラク・サマワでの自衛隊活動に対する豪州軍の支援もそのひとつ。ダウナー外相はリップサービスも交え、「日本の憲法上の制約は理解している」「真の同盟国は負担を分け合うものだ」と語った。日本が豪州に大きな借りをつくったことだけは間違いない。

■この指摘は重大です。陸上自衛隊のイラク派兵が、取り合えずは無事に終了したのは、オーストラリア軍の支援が大きかったことを日本のマスコミはあまり報道していませんでしたなあ。陸上自衛隊がイラクで何をしているのか、それを詳細に報道するのはテロの標的になる恐れが有るからという理由で禁じられていたそうですが、「非戦闘地域」なのに変な話でした。その延長線上にオーストラリア軍やイギリス軍に守って貰っている自衛隊の実態が隠されていたというわけでしょうなあ。


米国が「中国主導、米国排除の枠組み」と強い懸念を表明した東アジア共同体構想にしても、インドを含めた豪州の参加によって、米国が安堵したことは確かだ。米国は今年2月、4年ごとの国防見直し(QDR)を明らかにしたが、その中で英国と豪州の2カ国を「特別な関係」と名指しした。両国については作成過程から関与させており、時折ブリーフィングを受けるだけの日本との違いは一目瞭然(りょうぜん)である。米国がアジア太平洋地域で最も頼りにする同盟国は日本ではなく、実は豪州なのだと指摘する専門家は少なくない。「最近、政治家のキャンベラ詣でがすごい。こんなことは初めて」。キャンベラの日本大使館関係者は驚きを隠さない。日本側も徐々にではあるが、豪州の存在の重さに気づき始めた表れともいえる。豪州もまた、そこに日本取り込みの活路を見いだしている。日本としても豪州をアジア太平洋地域における重要な戦略パートナーとして関係を深め、いかに活用していくか、今後の大きな課題となろう。
9月2日 産経新聞


■「今後の課題」でしょうか?いろいろと不便と不快と不安を我慢していた老後の蓄えが終わるまでは「美しくない日本」にしがみ付いていた人達が、続々と海外に安住の地を求めて脱出中です。その数、毎年、30万人を越えているとか……。例の「シルバーコロンビア計画」の残滓(ざんし)でもあろうし、いよいよ日本はダメになるかも?と戦後の激変を体感して来た団塊の世代が実感しているのでしょうか?逃走組が選ぶ移住先の第一位がオーストラリアなのだそうですが、そこの第二言語が北京語圏になると長期計画で暮らしている人達も戸惑う事でしょう。国会議員の中にも英語の使い手が徐々に増えてはいるようですが、日本語を外交に使えるほどの見識を持っている議員さんは見当たらないような気もします。

■詐欺師は国内産で間に合っていますから、日本語で詐欺を働く外国人が増えるのは困りますが、あらゆる方面での労働者不足が起こるのは目に見えているのですから、自国語以外の言語を習得する努力を惜しまない人材が秘めている可能性を利用しない手は有りません。文科省の変な教育を受けている内に、日本生まれで日本育ちの日本人が、どんどん日本語能力を低下させるのを尻目に、日本人よりも日本語の上手な若者が続々と来日するような事になったら、文科省は喜ぶのでしょうか?それとも、大いに反省して初めて戦後教育の見直しに踏み切るのでしょうか?

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日本語ブームは本物か? 其の弐

2006-12-13 08:30:12 | 日本語

今、台湾の若者の間で日本語がブームです!日本が大好きな若者のことを「哈日族(ハーリーズー)」と言い、日本のドラマを見たり、音楽や映画に親しんだり、日本語を勉強しようとしている若者が増えているのだそうです。そこで、台湾や中国などアジア各国で今、大人気の俳優チェン・ボーリンさんにインタビューしてみました。チェンさんは日常会話でも日本語を使っているのだそうです。例えば「ありがとう、どうも、すみません、最高、すげー」など。さらに、何にでも「超」をつけて「チャオ スワン=超すっぱい」などとも使っているのだそうです。

■台湾問題を日本語という切り口から考えると、ちょっと面白い国際感覚が養われでしょう。台湾は半世紀以上も日本語文化圏に属していた歴史を持っていますし、御高齢の台湾人の中には「最近の日本語は乱れておる!」と耳の痛いお小言を言って下さる方もいらっしゃいますぞ!この軽めの記事に紹介されている「日常会話」を喜んで良いやら、ちょっと恥ずかしいやら、なかなか複雑な思いでありますなあ。


これは、台湾政府の文化開放政策にともない、90年代から日本の文化がどんどん入っていったことが原因のようです。ケーブルテレビを通して放送される日本の番組を見た台湾の人たちは、無意識に日本語を覚えてしまうのです。人気ドラマの台詞を教材にした日本語教材で日本語を勉強したり、カラオケで日本のヒット曲を日本語で歌うなどをして楽しみながら覚えているのです。チェンさん自身、日本語を勉強されていて、そのきっかけは「漢字」だったそうです。また地理的にも精神的にも身近に感じると話してくださいました。文化は言葉から。同じアジアの仲間として、お互いの文化を理解しあいたいですね。
NHK「気になることば」(2005年9月2日)

■NHKの癖なのでしょうか?最近の台湾を無理やり歴史の流れから切り離して、妙に軽く明るく紹介しようとしているようです。台湾の日本文化は途切れることなくずっと継承されていた事実を無視すると、台湾での日本語ブームの歴史的な意味が分からなくなるでしょうなあ。蒋介石が逃げ込んで来てから、日本語廃絶に力を入れた歴史も有りますが、それで根絶やしには出来ない事情が台湾には有りました。そんな台湾国内の虚虚実実の駆け引きを見棄てたのが、米国の跡追いで断行された日中友好条約の締結でした。友好条約自体は目出度い事でしょうが、相手の言いなりに台湾と断行してしまったのが問題だったのでした。「日本語が上手な外国人」という乱暴な括り方は、歴史を忘れ去ってしまう危険が付きまといますなあ。


■海外で最も日本語学習が盛んな国はどこか。それがオーストラリアであることは意外に知られていない。日本の国際交流基金が2003年に実施した調査によれば、豪州の日本語学習者数は約38万人。実数で韓国の89万人、中国の39万人には及ばないが、人口比では50人に1人と世界一である。学習者のほとんどが初等・中等教育段階の青少年であることも特徴だ。国家政策としてアジア言語の優先的学習を推し進めた結果でもある。「主眼は言語運用能力の向上というより、異文化理解や国際理解」。

■ここに出て来るオーストラリアというのが、海外の日本語学習事情の重要な要素になっています。まさかとは思いますが、オーストラリアに日本語学習者が多いという話が聞こえて来た頃、日本はバブル経済に突入しつつありました。そんな時に日本政府が打ち出したのが『シルバー・コロンビア計画』という奇怪なアイデアでしたなあ。国際版の「姥捨て山」ではないのか?!と移住先に指名された国からは直ぐに反発が起こった悪名高い、老後は海外で!というふざけた政策でした。それも忘れては行けない歴史的な事実ですぞ。


同基金シドニー事務所の長谷川雅代さんは豪州側の狙いを解説する。ブームの背景には、最大貿易相手国の言語という経済的事情を否定できないが、長谷川さんは「日本のポップカルチャー、特にアニメや漫画などへの関心が若者の間に高いことも動機」と日本の好感度の高まりを指摘した。しかし、その日本語学習者数も、最近は横ばいないし微減状態なのだという。原因は日本語教員の高齢化で退職が相次ぐ一方、予算不足から補充が追いつかないためだという。

■こうした所にも、日本政府は長期的な戦略の不在が露呈します。外国を相手にして始めた政策は、勝手に止めたら国際信義を失うことになるのです。景気の良い時には、日本語教育に協力するとの名目で、あれこれと予算を付けて教師や教材を送っていたのに、それが細って行けば日本のイメージが悪くなるのは当たり前の話です。


これについて日本側からは特段の支援申し出はないと聞いた。代わって存在感を増しているのが中国である。70年代初頭に白豪主義から多文化主義へと大きく政策転換して以降、豪州にはアジア諸国からの移民が大量に流入した。中でも中国、ベトナムなどからの華人系移民は今や80万人にもなる。シドニーをはじめ豪州の主要都市には、必ずといっていいほど中華街が形成されており、中国語が日常生活に飛び交っている。

■これは「蟻の一穴」のレベルを超えた大きな問題です。アジアを理解しようとしているオーストラリアという重要な駒が、日本語を捨てて北京語に変わって行くのですぞ!東南アジアに広がる華人社会が強い吸引力と影響力を及ぼして、北京語圏がじわじわと広がって行きます。これを大問題だと騒がないのは変ですなあ。

 
民間シンクタンク、ロウィー研究所が最近実施した世論調査によると、日本は好感度の高い国としてニュージーランド、英国に次ぎ第3位。しかし中国もまた、9位の米国を引き離して5位と日本に肉薄している。これについて豪外務貿易省北アジア局幹部は、中国が強硬に反対した日本の国連安保理常任理事国入りを豪州が一貫して支持してきたことを指摘し、「経済以上に重要なことはある。中国との経済関係は重要だが、価値観を共有する日本との関係はもっと重要だ」と日本に秋波を送った。

日本語ブームは本物か? 其の壱

2006-12-13 08:29:38 | 日本語
■日本語の最前線は出版業界と教育界でしょうか。ラジオが地味ながら孤塁を守って、新聞業界やテレビ業界が第二戦線を守っているような順番になるでしょうか?人によってはテレビが第一だ!という意見も有るでしょうが、世の中にはテレビをほとんど見ないで暮らしている日本人も、案外と多いようですぞ。しかし、それならば本を読む人が増えているのか?と言うと、年間に1冊も本を読まないという日本人が、残念ながら恐ろしい勢いで増えているという話が有ります。昔は読み・書き・算盤でしたから、「イロハ」に始まる仮名から漢字へと膨大な読書生活が始まったものですが、今も入り口は同じなのに何故か先細りになってしまうようです。もしかすると売ると、昔の手習いにあった「模倣」が廃れた事に原因が有るのではないか?などとも考えているのですが……。

■模倣が悪で、創造が善というような大きな誤解が教育界に広まって、よたよたと模倣をする段階を飛び越えて、習字を省略して「鑑賞」を始めるような流れが有りませんかな?それも明治以来の「お上から頂いた教科書」信仰みたいなものが生きているらしく、学校が読め!と命じた文章は徹底的に賞賛しなければならない不文律が有るような気がします。ところが鑑賞しなければならない教材が、古典ではなくて誰が選んだのか分からない「新作」だらけなのですから、本当に褒めて良いのかいなあ?と首を傾げたくなるような作品も紛れ込む危険が有りますぞ。

■誰が言ったか「詰め込み主義」は大間違いとかで、名文・名歌の類を暗誦する文化も廃れてしまい、好きな本や好きな文という大切な財産を持たない日本人が随分と増えたようですぞ。まあ、思わず書き写して何度も読み直したい文章に出会わないことが問題なのかも知れませんが……。


日本語を母語としない人が対象の日本語能力試験が3日、日本を含む世界48カ国で実施され、約53万人が受験した。若者の日本語ブームを背景に受験者が年々増加している中国は今年、前年比46%増の21万1591人が受験し、過去最高だった。日本国内では日本国際教育支援協会、海外は国際交流基金が年1回、試験を実施する。外国人が日本の大学に留学する際の選考にも活用される。急速な経済発展に伴い、日系企業の進出が増加している中国では、日本語ができる人材の需要が高まった。若者の就職難も続いており、「日本語ができると就職に有利」として、日本語学習がブームとなっている。

■都市部の大きな書店でないと『日本語能力検定試験問題集』は手に入らないようですので、外国人がどんな問題を解いているのかを知らない日本人が多いはずです。英語検定に準じて級が上がって行くのですが、最上級の問題を一度は覗いていることをお勧めいたしますぞ。まあ、語学の検定試験は国籍や肌の色とは無関係なので、努力した者にはそれをしていない「ネイティブ」は適わないのですから、特に日本語ばかりが危機的なのではないというのも事実です。万難を排して日本国内で英語を学び続けた人達の中にも、英米人が脱帽するほどの英語読みの達人や作文会話の名手もたくさん居ますからなあ。こういう理屈が分からない困った人が、変なナショナリズムを振り回して、「○○人でもない者が、○○語が分かるはずが無い!」などと無責任に放言したりするものです。


日本語能力試験では中国の受験者数が世界最多。今年の受験応募者数は、海外では韓国(9万3750人)が中国に次ぐが、米国が2816人、フランス1187人、英国781人と、中国の多さが際立っている。中国では04年、受験申し込みの受け付け開始から1時間もたたずに定員(約10万人)に達した。受験できず留学を先送りせざるを得ない学生が続出し批判が高まった。このため05年に中国国内の受験会場を14都市から24都市に増やし、今年はさらに29都市に拡大した。
毎日新聞 12月4日

■研修生制度などという、ややこしい仕掛けを捻り出して日中友好を急いだ経緯が有りましたが、その後始末もしないまま、不法滞在問題や違法雇用問題が日本のあちこちで起こるという「モグラ叩き」が続いています。WTOに加盟した以上、北京政府も国際的な評判を気にしますし、学生側でも危ない橋を渡らずに済むのなら、そして学習環境が整っているのなら、正規の資格試験を受けようと思うようになるのは自然の流れではあります。草の根運動として地道に日中友好に努力して来た人達には、中国の受験生が増えたのは喜ばしい事でしょうが、その裏には日本政府の失政による「失われた20年」が有る事を忘れてはなりません。この大問題は大勲位の中曽根さんにお出まし願って、詳細な点検をしなければならないのですが……。