旅限無(りょげむ)

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議題は核兵器に限定 其の弐

2006-12-10 11:18:47 | 外交・情勢(アジア)

北朝鮮の核問題解決を目指す6カ国協議が16日にも再開される見通しになったが、北朝鮮は依然、米国側提案に対する明確な回答を示していないようだ。北京の6カ国協議関係者によると、北朝鮮の金桂冠(キムゲグァン)外務次官と米国のヒル国務次官補、中国の武大偉外務次官が先月28、29の両日に協議した際、ヒル氏は寧辺(ニョンビョン)核施設の停止・解体や国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れなどを要求。これに対し、金次官は回答を保留し、そのまま自国に持ち帰った。……「北朝鮮は日程には前向きな姿勢を示している」と指摘する一方、米側の要求には「明確な返事を避けたままだ」と明らかにした。

■完全に北朝鮮は有利な取り引きの皮算用に入っています。米国は焦って交換条件を口にしてしまったのですから、北朝鮮は表向きは「日程」を議題にしつつ、取り分を何処まで吊り上げられるか必死で計算しているでしょう。一方の米国は言い放しの印象が強いですなあ。


……北朝鮮は最近、6カ国協議の枠内での拉致問題提起を主張する日本について「否定役を演じることになる」(6日・朝鮮中央通信論評)と批判して参加を拒否。一方、韓国に対しては「(核攻撃は)同族として想像できない」(先月23日・北朝鮮祖国統一民主主義戦線中央委員会)と強調して自国の立場への引き込みを図るなど、参加国の分断を図ってきた。
毎日新聞 - 12月9日

■日本を協議から締め出す工作が着々と進んでいるのに、肝腎の米国からは日本に対するフォローが聞こえて来ません。イラク問題で手一杯だ!と言われれば、気遣い金遣いの日本政府としては黙って待っているしか無いのでしょうなあ。歯痒い限りであります。


米国の北朝鮮人権委員会によると、2004年8月から2005年9月まで瀋陽など中国と北朝鮮の国境付近の9地域で脱北者1346人を対象にアンケート調査を実施した結果、全体の97%が「北朝鮮に戻るつもりはない」と答えた。

■こんな調査が出来るということは、米中間の交渉は相当に進んでいると思われます。少なくとも、日本は拉致問題に関して調査しようとしても韓国でも中国でも、何の動きも取れないわけですから、米国の人権委員会が好き放題?に脱北者を見つけ出してインタビュー調査が出来るのとは雲泥の差です。それも、日本のマスコミが時々スクープする証言者の数とは比べ物にはならない1300余人というのですから、これは大調査ですなあ。


委員会のチャン・ユンオク研究員らが7日に明らかにした報告書は、脱北者のほとんどが北朝鮮に家族がいるにもかかわらず帰国する意思がないと回答したことについて、迫害に対する恐怖心が脱北者の帰国意思を喪失させる根本的な障害で、脱北者らに難民の地位を与えなければならない明白な理由になっていると強調した。 ……脱北者の3分の2に当たる64%が「韓国行き」を、19%が「米国行き」を希望していることが分かった。脱北した動機については、経済的な理由が95%を占め、政治に対する不満や迫害は4%にとどまった。

■飢餓線上を彷徨って逃げ出した人達ですし、教育と言えば神懸かり的な主体思想と指導者を神聖視する話しか聞かせて貰えないのですから、「政治」を語る資質も動機も無いのは当然でしょうなあ。それにつけても、日本に行きたいという人が皆無に近いのは興味深いことです。


……脱北女性らは中国で人身売買や強制結婚の犠牲となっており、1人当たり平均1900元(約244ドル)で売買されていることが確認された。北朝鮮での生活に関しては調査対象者の67%が、この2年間北朝鮮の食糧事情が改善されていないと答えた。国際社会が北朝鮮に食糧を支援している事実を知っていると回答した脱北者は57%で、このうち食糧支援を受けたと答えた脱北者は3%にすぎなかった。
YONHAP NEWS  12月8日

■国連や各種のボランティア団体が、食糧や医療の援助を続けていますし、中には「効果が上がっている!」と言い張っている人も多かったようですから、支援を受けたと証言したのが「3%」というのは重大な数値です。食糧を運び込んだ団体の中には、横流しや軍隊に優先的に配給している事実を隠すアリバイ用に撮影された給食活動の映像を持ち帰った人も居て、それを垂れ流したマスコミ有りましたなあ。日本の政治家の中にも軽薄な「人道主義」を振り回す人も居ますから、是非ともこうした調査結果に関するコメントが欲しいところですなあ。


中国外交部の秦剛・報道官は7日に開かれた定例記者会見で「中国に不法滞在している朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の人たちは難民ではない。彼らは(大使館など)外交機関や学校などに押し入って中国の法律に違反している。中国としては国内法、国際法、人道主義の原則に従って適切に処理している。事を荒立てないでほしい。いわゆる難民問題とは無関係だ」と述べた。
サーチナ・中国情報局  12月8日

■北朝鮮と米国の間で問題になっているのは核兵器で、人権問題はオマケみたいな扱いになってしまいましたが、米中関係となりますと、徐々に経済摩擦が顕在化していますが、やはり「人権問題」が主要なものになります。中華3千年だろうと4千年であろうと、人権思想などとは無縁な文明を誇って来た伝統を継承しているような国に、突如として欧州生まれの人権思想を押し付けると、何でもかんでも人権の旗を押し立てて暴動が各地に起こるのは目に見えています。鴨緑江を越えて脱出して来る朝鮮族の人達を、人権思想に基づいて手厚く保護したりしたら、国内で広がる深刻な格差の中に放置されている朝鮮族の人々が騒ぎ出しますし、そんな火種が生まれたらあっと言う間に全土で少数民族問題が火を噴くでしょうし、古代から続いている都市と農村との戸籍問題も大爆発を起こしてしまうに違い有りません。

■従って、「6箇国協議」の場で人権問題が取り上げられたりすると、議長国の立場上、他人事として扱えっていられなくなる危険が有ります。「国内法、国際法、人道主義の原則に従って適切に処理している」ということで善処して頂き、協議では北朝鮮の核兵器だけを扱いたいというのが本音であることが、「事を荒立てないでほしい」という珍しく哀願調のコメントに表れていますなあ。

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議題は核兵器に限定 其の壱

2006-12-10 11:18:13 | 外交・情勢(アジア)
■強風に靡(なび)くように、米国ではイラクからの撤退が既定路線のように語られ、残る問題は「何時から?」をブッシュ大統領が決めるだけのようです。イラクの身元保証人には、なんとシリアとイランが指名されそうな流れを見ると、ますますイラク戦争は何だったのだろう?と思いますなあ。イラクとイランが出てくれば、当然、「悪の枢軸」三点セットに加えられた北朝鮮を忘れるわけには行きません。元々、クリントン政権の失敗を論(あげつら)って差別化を計る選挙対策で持ち出されたそうで、どうやらリストに加えられた北朝鮮側は世界の注目が集まる好機と思った節が有ります。その証拠に、「悪の枢軸」演説をした方のブッシュ大統領が、イラクで恥を晒し始めた途端に、北朝鮮問題の扱いが投げやり気味であります。

米国務省高官は8日、北朝鮮の核開発をめぐる6カ国協議が今後10日前後の間に再開される可能性があることを明らかにした。ロシアのタス通信は16日に再開されると伝えている。中国が日米韓など他の6カ国協議参加国に16日開催を提案したものとみられ、協議再開は中国政府により一両日中にも発表される見通しだ。マコーマック国務省報道官は8日の記者会見で、「われわれは1週間かそのあたりのうちに(6カ国協議を)再開できることを期待している」と述べた。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は同日、協議で米首席代表のヒル国務次官補が「中国が一両日中にも次回の協議の日程を発表する」と語ったことを報じた。

■「直接交渉は絶対にしない」と突っ張っていたブッシュ大統領でしたが、それは「テロとの戦争」を推し進める大義を国民に示すための方便でした。イラクの泥沼から抜け出すためには、何と、テロとの戦いを進めるためにはテロ国家の協力が必要だ!という、訳の分からない展開になっているのですから、やらないと言っていた米朝直接交渉が実際にはあっさりと始まっても不思議ではありません。でも、日本の外交はこんな急ハンドルに対応できるのでしょうか?


……年内開催は困難との見方が強まった中、一転して開催の方向になった理由について、6カ国協議筋は「北朝鮮を説得して協議復帰にこぎつけた中国としては、なんとか年内に協議を開催し、議長国としてのメンツを保ちたいのだろう」と語っている。フィリピンで開催される予定だった東アジア首脳会議などの国際会議が8日、延期になったことで、日中韓3カ国の担当者が、協議の準備に専念できるようになったこともある。

■ここでフィリピンという困った不安定要因が突出して来ました。GHQを率いて敗戦後の日本を支配したマッカーサー司令官が、戦前からフィリピンの支配者一族の出身だというのは有名な話で、コーンパイプとサングラスが印象的な写真が数多く残されていますが、その頭に被っていた帽子はフィリピンの支配者を象徴する特殊な帽子だった事はあまり知られていないようです。I shall return.は歴史的な台詞として有名ですが、自分の縄張りだから「リターン」だったのでした。時は流れて、日本の沖縄基地問題やイラクに始まる中東民主化構想などが頓挫している昨今ではありますが、基地問題と民主化ならば、実質的に準領土扱いしているフィリピンが最初に対象とするのが道理というものです。少なくとも、大地主が自分の広大な畑に足を踏み入れるのに武装した傭兵を連れて行かねばならないような国情を放置して、日本の農地を解放して救世主のような顔をしていたのですから、勝手なものです。

■ヴェトナム戦争の時にもフィリピンは重要な攻撃拠点でしたし、その後の太平洋戦略の要でもありました。ピナツゥボ火山の大噴火を言い訳にして、突如としてスービック基地を撤去したのも、実は北京政府との密約が有ったのでは?などと噂されるほど、フィリピンの扱いは過酷です。どこから資金援助を受けているのか分かったものではない共産ゲリラが跋扈し、そこにイスラム過激派のテロも激しくなって、軍部は苛立ち民は怒り心頭に発しているのも当たり前の話でしょうなあ。何故か安倍総理は、フィリピンの深刻な問題を知らないふりをして、夫婦揃って国際親善を演じているようですが、大丈夫でしょうか?


北朝鮮の6カ国協議への復帰表明から1カ月余りを経て、ようやく協議の年内再開が実現しそうだ。ただ、北朝鮮を核保有国と認めず核放棄を求める米国や日本に対し、北朝鮮は核開発を継続する構えを崩しておらず、同筋は進展の見通しは依然としてたっていないと指摘している。
産経新聞 12月9日

■久間さんが変な発言をして見せたのも、もしかしたら米国の変節・裏切りの衝撃を薄める目的を持っていたかも知れませんぞ。既に米国は北朝鮮を核保有国として遇しているのですからなあ。北朝鮮は核保有国であり、長距離ミサイルの開発国であり、国家的拉致犯罪国家と偽札国家であるのは間違いのない事です。日本が「対話と圧力」にしがみ付いているのを尻目に、米国は早々に条件を提示して「食糧援助」まで交渉に含めていますぞ!それに追随したら、拉致問題解決にも各種の援助を差し出さねばならないハメになる可能性が出てきますなあ。

最近のチャイナ 一触即発 其の六

2006-12-10 09:18:35 | 外交・情勢(アジア)
■「キティホーク撃沈?事件」に関しては、ブログ「日々是チナヨチ」さんが収集した貴重な情報が、事件の裏事情を知るのに大いに参考になります。感謝しつつ要点を引用させて頂きます。

中国人権民主化運動ニュースセンター(中国人権民運信息中心)が2006年11月15日…「中国潜水艦がキティホーク戦闘群の後をつけたのは、丁一平・海軍副司令員が直々に指揮したものだった」

●今回の一件は中国海軍が南海艦隊第32支隊の宋級潜水艦にキティホーク戦闘群を追跡させたもので、丁一平・海軍副司令員が自らこれを指揮した。
●丁一平・海軍副司令員はすでに海軍の様々な重大行動の最重要指揮官になっている。

この消息筋によれば、丁一平・海軍副司令員が今年9月に海南省・三亜市へと赴いた後、問題の潜水艦が海南省・楡林海軍基地から姿を消し、10月26日になってキティホーク戦闘群の後方5マイルに突如浮上したとのこと。……

■丁一平という人物は現在65歳だそうです。巨大組織の人民解放軍内部は、地方ごとの人脈が軍管区ごとに独立性の強い物だと言われているので、中南海で行われる暗闘が激しくなると、それが直ぐに地方に影響して目まぐるしく人事が動くので、専門家も追跡には苦労するようです。法治より人治のお国柄ですから、人事は何よりも重要です。その上、人民解放軍の「銃口」から生まれた一党独裁国家ですから、北朝鮮の「先軍政治」ほど露骨でなくとも、軍の動向が政治に対して強い影響力を持つのも確かです。


消息筋によると、1988年に少将へと進級した一平君は当時中国海軍において最も注目株の将官とされていたのが、2003年4月に潜水艦事故で乗員70名が死亡するという不祥事が発生し、運悪くちょうど事故を起こした北海艦隊の司令員職にあった一平君は責任を問われて降格する破目に。…ところが今年8月に一転、海軍副司令員に抜擢されるという異例の人事が行われ、3年後には中国海軍司令員(中国海軍のトップ)になるだろうと目されているそうです。

■胡錦濤さんが最高権力者に就任してから、外遊するたびに軍事的な緊張が高まるような変な動きが見られる事件が必ず起こるような時期が有りました。小平以来、表向きの政治権力が継承された後でも軍に対する支配が、引退したはずの先任者が握ったまま維持されるという習慣が有ります。小平から江沢民へと権力が委譲された後も、軍は完全に小平が掌握している間は「傀儡」と軽ろんじられましたし、胡錦濤さんも軍を掌握するのに慎重な時期を過ごさねばなりませんでした。権力が安定するのも不安定化して最悪の場合には転覆するのも、その命運を握るのは軍の意志ですから、チャイナの動向を探るには人民解放軍の動きをじっくりと観察しなければなりません。

■「すでに海軍の様々な重大行動の最重要指揮官になっている」と専(もっぱ)らの噂が立っている丁一平・海軍少将だそうですから、東シナ海と台湾海峡を自分の縄張りだぞ!と米軍に対してデモンストレーションをするのはこの人物を措いて他には居ないと思われているようです。米太平洋艦隊司令官のラフヘッド大将がチャイナを訪問しているという絶好の機会を逃さずに、西太平洋の鎮(しず)めの象徴の空母を挑発するという決断は、あれこれと会議を開いていては下せないものでしょうなあ。映画みたいに「責任は俺が取る!」の一言で実行されたとしたら、何とも恐ろしい話です。

■イスラム教徒の中にテロを称揚する強硬派が居るように、各国の軍部にも危険な強硬派は大なり小なり存在するものですから、エリート集団を自負する中国人民解放軍の内部にも必ず愛国教育で鍛え上げられた強硬派が必ず居るでしょう。こうした事件が起こるのは、胡錦濤政権がまだまだ軍部を押さえ込んではいない証左でもあるでしょうが、江沢民の権力基盤と言われる上海閥を解体しつつあるのですから、国内的な軍と党との綱引きをしている過渡期のハプニングで済めば良いのですが……。


さらに、尖閣諸島が中国領であることを主張する香港の保釣運動活動家(自称)どもが10月末に尖閣諸島に向けて船出した際の出来事を想起すべきです。
連中を乗せた小型漁船「保釣二号」は悪天候下の台湾海峡を強行横断したために機関を破損するなどヨタヨタとした足取りのドタバタ劇を演じた挙げ句、最後にはわが海上保安庁の巡視船によるお約束の公海処刑に遭って退散したのですが、この間、同じ東シナ海、しかも尖閣諸島から300kmという近距離で中国海軍(東海艦隊)が実弾射撃演習をしています。陣頭指揮だったかどうかはともかく、もしこれも丁一平・少将の独断専行なのであれば、その政治色がいっそう鮮明なものとなります。

■以上が「日々是チナヨチ」さんのブログからの引用です。「日々是チナヨチ」さんは、「擁胡同盟」(胡錦涛擁護同盟同盟)と「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)という対立構造を想定しておられます。組織論としては無党派層みたいな中間派も多いでしょうが、勢いによって勝ち馬に乗ろうと殺到するのが中間派の悲しさですから、どちらかの集団にカリスマが現れるとエライことになります。そういう点から考えますと、今年8月に行われた丁一平の抜擢人事に対応するように始まった『江沢民文選』の刊行とその学習活動に注目するような見方は注目すべきものでしょうなあ。つまり、チャイナには外交と内政との区別も無ければ、文官政治と軍人の動向とは密接に連動しているという事です。キティホーク撃沈?事件は、こういう意味で忘れては行けない出来事なのであります。

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