旅限無(りょげむ)

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最近のチャイナ 一触即発 其の六

2006-12-08 11:55:40 | 外交・情勢(アジア)
■今のところは、日米両国が耳を澄ませば人民解放軍の潜水艦を探知するのは容易なようですが、それがいつまでも続くと思ったら大間違いのようであります。潜航時間が理論的には無制限とされるのが原子力潜水艦で、酸素で燃料を燃焼する必要も無い上に、無尽蔵に作られる電力で海水を電気分解してしまうので艦内の酸素が不足することも有りません。但し、夢の潜水艦には「騒音」という頭痛の種が有りました。米ソ両国はこの難問を解決しようと必死になっていた時に、日米経済摩擦を起源とする「東芝事件」が起こったのは忘れられない不快な話です。東芝製の高性能工作機械がソ連原潜のスクリュー表面の研磨作業に使われて、騒音が消えてしまった!という無茶な言い掛かりでしたなあ。本当はそんな事実は無かったと判明しているのですから、まったく酷い話です。

■チャイナは1964年に原爆を炸裂させてから、ソ連の技術援助を受けて大陸間弾道弾と原子力潜水艦という全面核戦争には必須の装備に努力して来ました。1968~1972年には、既に「習作」の原子力潜水艦を建造したそうですが、文化大革命の大混乱も影響したらしく、今でもこの時に試作した騒音の塊のような時代遅れの原潜を実戦配備していると言われます。グアム島を一周して日本の領海を無断で横切った漢級原潜は、最初から最後まで米国のロサンゼルス級原潜に、全てを監視されていたのでした。しかし、それを笑って安心などして居ては行けません。米軍の主力として配備されているロサンゼルス級後期型や、ロシア海軍のヴィクターⅢ級と同等の性能を持つと言われる「商級」原潜という後継艦が海上試験の段階に入っているそうです。

■実戦となれば最も活躍すると思われるディーゼル型の潜水艦も最高軍事機密に属する「無反響タイル」を付け終わっているのですからなあ。キロ級潜水艦の11隻を筆頭に、元級の2隻、宋級でも10隻が「無反響タイル」装備済みだそうです。残念ながら日本の潜水艦が全艦装備には到っていないのですから、本気で鬼ごっこ・隠れん坊を仕掛けられたら楽勝というわけには行かないかも知れませんぞ。有り余る外貨で本当に米国海軍が手出し出来ないほどの海軍力を持つ可能性は確かに有りそうですぞ。2005年は「鄭和航海600年」に当たっていて、人民解放軍の海軍は『500カイリ制海圏』構想という恐ろしい大計画を打ち出したのだそうです。海洋法が既定する200海里の倍以上を自国の海とすると言うのですから、隣国は黙っているわけには行きませんなあ。

■以前のブログ記事でも紹介しましたが、陸地の領土に負けないくらいに広大な領海を主張する地図が一般の地図や教科書に掲載されています。それに加えて中学校歴史教科書には、驚くべき「本来の領土」が紹介されています。キー・ワードが「朝貢貿易」の歴史だと言うのですから、年末年始の挨拶もうっかり交換できない国ですぞ。お歳暮やらお中元を持って挨拶に行ったら、翌日から親戚扱いされ、翌年には召使扱いで、100年経ったら「自分の家だ」と言い出されたら困りますなあ。チャイナの天子に臣従を誓った「本来の領土」に含まれるのは、シンガポールを含むインドシナ半島全域、タイ、ネパール、朝鮮半島、琉球というラインナップです。チベットはもう「祖国に復帰」していますし、台湾は予約済みですから言及はされずに、既に領土内に含まれているのです。

■漢民族とは何の関係も無い女真族が支配した清王朝が支配したり、影響力を及ぼした所は全部、中華人民共和国の中に含まれねばならないのだそうです。清朝時代に出来た「新疆(ウイグル自治地区)」という地名は新しく領土になった辺境の土地という露骨な意味ですが、まだ清朝滅亡後に他国に奪われたり身の程知らず?にも独立などしている国は認められないわけで、そういう地域は「戦略的辺疆」と呼ぶのだそうです。東シナ海のガス田問題で日中間で対話が成立しない原因はここに有りそうです。陸の「新疆」のように海上にも領土の予約地帯が有るという事ですが、それがどうやら「第一列島線」の内側に当たるらしいのです。2010年までにこの海域を完全に支配下に置くことを目標にしているのが、現在の人民解放軍の海軍なのですから、暢気に構えていると日本の潜水艦が子ども扱いされるような事になるかも知れませんなあ。