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極楽飯店.53

※初めての方はこちら「プロローグ」「このblogの趣旨」からお読みください。

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その後も俺と閻魔は、源(ソース)を通して多くを語った。

とはいえそれは、これまで俺の中にあった「語り」とは全く異質なものだ。カタチとしては「個」を保ちつつも、質的には源(ソース)と繋がり、自他が「ひとつ」となっている。

そこにあるのは「やりとり」ではない。自分対自分の「繋がり」だ。

コミュニケーションや、テレパシーには、かならず「相手(自分以外)」が存在するものだが、この次元(閻魔曰く「聖霊の次元」)においては、「相手」が存在しない。奇妙な感覚ではあるが、自分を規定する壁が取りはずされた今、目の前にいる相手もまた、やはり「自分」なのだ。

源(ソース)を通じて「ひとつ」となった己しかないのだから、厳密に言えば、そこで「やりとり」は不可能。

「神」という本質的な自分自身の中において、未知と既知が溶け合う、この不可思議な繋がり。閻魔が「コミュニオン」と言ったそれには、どこか懐かしさに似たものがあった。


(そりゃそうさ。君は一時も源(ソース)と切り離されたことなんてない。ただ、自覚がなかっただけなんだ。その懐かしさや、既に知っていたという感覚はそこからくる。考えてもみてごらん。さっき話した通り、源(ソース)は存在する唯一の「命」、あらゆるエネルギーの原点だ。生命として生きる君が、命から離れられるはずがないじゃないか。君はこれまでも、これからも、この源(ソース)からエネルギーを供給され続ける)

いや、しかし…。これまで俺たちはその源(ソース)との間に「詰まり」が、「カルマ」があったワケだよな?だとしたら、その間エネルギーの供給が途絶えていたということになってしまうじゃないか。

(うん。タクちゃんの言う通りだよ。パイプが詰まっていれば、その間どんなエネルギーも通らない。だからこそ、君には「睡眠」が必要だったんだ)

睡眠?

(さっき話したよね、カルマは「思考」と「恐れ」によって形成されていると。それを逆に考えれば、「思考」と「恐れ」を落とせば「詰まり」がなくなる。つまり、源(ソース)と繋がるってことさ。君はそれを「睡眠」を通じて経験していたんだ。深い睡眠状態には「思考」も「恐れ」も存在しないでしょ?)

夢は?夢を見るのは「思考」じゃないのか?それが悪夢なら「恐れ」もあるだろ?

(「夢」を見るのは眠りが浅い状態の時だよ。聞いたことない?人間は一晩のうちに、浅い眠りと深い眠りを交互に繰り返している。僕が言っているのは「深い眠り」の方。「思考」と「恐れ」が完全に消失した眠りのことだよ。そこにおいて、君は生命エネルギーの多くを得ていたんだ。だからさ、いくら食べ続けても、眠らないと活動し続けられなかったでしょ?)

「思考」と「恐れ」が完全に消失した眠り……。言い換えれば、そこで俺は、神と繋がっていたってことか?

(そう。タクちゃんだけじゃないよ。誰もがそうなんだ。タクちゃんの場合は、その状態を再現できていたのは一晩に数分程度。たったそれだけの中で、24時間活動するだけのエネルギー供給を受けていたんだ。しかし、残念ながら深い睡眠で得られるその感覚は、記憶されることは少ない。「思考」や「恐れ」と同時に、「自覚」も消失してしまっているからね。もしその感覚を朝起きた時に持ち帰ることができたなら、それは「予知夢」などの特異なインスピレーションとして活用されただろうね。タクちゃんにも、少しぐらいなら経験があるんじゃない?)

さて、どうだったろうな。

(本当は「睡眠」じゃなくてもいいんだけどね。問題は、いかに「思考」と「恐れ」から離れられるかって話しだから。「思考と恐れがない」ってことはつまり、「リラックスしきっている」という状態なんだ。君たちはカルマがあるからこその分離感によって、安心感を失ってしまっている。だからこそ、この「リラックス」や「くつろぎ」と呼ばれる状態を深められない。リラックスしきっているとき、くつろぎきっているとき、人は源(ソース)と繋がることができる)


と、その時だった。源(ソース)を通じた繋がりの中に、俺と閻魔以外の声が響く。気がつくと、白井がまっすぐな眼差しで閻魔を見つめていた。

(いや、しかし……。そうとはいえ、人が神を求めるのは、某かの恐れがあるからこそではないですか。数々の問題にさらされ、どうすれば苦悩と決別できるのかと、思考しているときではないですか。その状況において「リラックスしろ」だとか「くつろげ」と言われても、できるものじゃないと思います)

「白井、おまえもっ!」

そのエネルギーを内側で感じた時、またバツンと大きなインスピレーションが降ってきた。

すると、まるで俺の意志に合わせるかのように、閻魔の横で浮かぶ風船が、ボコボコと音を立て瞬く間に変形し、小さな突起を増やしていく。

「ああ、そういうことか!」



……つづく。




←深い眠りに入る前に。
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