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極楽飯店.37

※初めての方はこちら「プロローグ」「このblogの趣旨」からお読みください。

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執事はそう言うと、そのまま土砂降りの雨の中を走り続け、景洛町から唯一出る事ができるというトンネルを通り過ぎた。

あけぼの台の現場へ向かう時と同じ山道をしばらく走ると、白井の婆さんと会ったあの街に入る。

いくつかの信号を右へ左へと曲がっていくと、どこかで見覚えのある街並みが目の前に広がった。

数日前、丁度この逆方向から眺めた景色だ。

「お待たせいたしました。極楽飯店本店、到着でございます」

執事はそう言ってしずかに車を止めた。

「こ、ここは、あの時の……」

メンバーを代表して、田嶋が声を漏らした。

車から出た俺たちの目の前にあったのは、この世界に来て初めて見た、あの閻魔のいる神社の様な建物だった。

「ここが、極楽飯店の本店、なんですか?」

白井が執事にそう尋ねると、執事は「さようでございます」と小さく頭を下げて、こちらへ、と建物の裏側へと案内を進めた。

建物の壁を小さくくり抜いたような通路を通ると、中に小さな庭園があった。

その脇の細い通路を、さらに奥へと進む。その佇まいは、進むにつれて和風の庭園から中華調へと徐々に変化してゆく。

日本的な様な、中国的な様な。どっちつかずのデザインが、空手映画の主人公にカンフーの達人でも出てきそうな、欧米人が誤って認識しているジャポニズムを思わせた。

執事の案内するエレベーターの扉が開くと、そこからふわりと旨そうな料理の香りが流れ出た。

「このエレベーターをご利用ください。3階で降りて右に曲がりますと、そこが極楽飯店の本店でございます。それでは、素敵なお食事となりますよう、皆様のご健闘をお祈りいたしております」

閉じるドアの向こうで執事が深々と頭を下げて俺たちを見送る。

「いま、あの人、『ご健闘をお祈りいたします』って言ってましたよね……。それって、食事を前にした人に対して、適切な挨拶なんでしょうか……」

白井が複雑な表情でメンバーの顔を見回すと、田嶋が無言で「いわんこっちゃない」と言った表情を浮かべる。次いで坂本が「この状況では、まぁ、適切なのかもしれんな」と、苦笑いを浮かべた。

「本店って、支店と違うんですかね。ルールとか違ってたら、どうします?」

藪内がそう聞いたが、誰かが答えるのを待たずにエレベーターのドアが開いた。

これから起こることへの期待と不安。そして、鼻を心地よくくすぐる中華料理の甘美な香りにメンバー全員がゴクリと唾を飲んだ。

恐る恐る歩みを進め通路を右に曲がると、景洛町で見たのと同じ「極楽飯店」と書かれた赤い看板が掲げられ、それを覆うように取り付けられた屋根のような装飾から、星印の入った赤い提灯が二つ吊り下げられていた。

「いよいよ、だな。まさかとは思うが、一応聞いておこうか。ここまで来て、入りたくないなんてヤツはいないよな」

坂本がそう言うと、メンバーの目線は一斉に田嶋の元へ向いた。

「え、ええ。大丈夫ですよ。まずは、坂本さんと峰岸さんの先行で様子を見る、そういう約束ですからね。少しでもやばそうだったら、僕は手を付けません」

「よし。じゃ、行くとしよう」

坂本が先頭に立ち、口元のよだれを袖で拭うと、キッと目を見開いて極楽飯店のドアを開けた。




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←やばくはないので、手を付けていただければと…
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極楽飯店.36

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「とにかく、自分で食べようとせず、誰かの口に食べ物を運べばいいんですよね」

ロビーへ降りるエレベーターの中、藪内が坂本に確認する。

「多分…な。一応、様子を見ながらやってみよう。もしそれでダメなら手を付けずに店を出るしかあるまい」

期待と緊張で表情の固まったままの坂本がそう答えると、続いて田嶋が不安げに口を開いた。

「最初に食べるのは…、誰です?」

「そりゃどういう意味だ?」

「いや、だって…、もし違ってたら棍棒の餌食ですよ。正直、僕はまだ怖いんです」

よほどのトラウマにでもなっているのだろうか。田嶋の言葉はかすかに震えていた。

「一応言い出しっぺだからな、俺が喰うことにしよう。それでいいか?」

「箸は、誰が持ちます?」

坂本の目がゆっくりメンバー間を彷徨うと、最後に俺のところで止まった。

「峰岸、頼まれてくれるか?」

「あ、ああ」

「まずは、峰岸が持った料理を俺が喰う。それで様子を見るということでいいか?」

田嶋が無言で頷くと同時に、エレベーターの扉が開いた。

「よし、行こう」

ロビーに出ると、ガラス張りの自動ドアの向こうにある車寄せに、1台の車が止まっていた。

丸みを帯びた黒塗りのリムジンの横に、燕尾服を着た初老の男が突っ立っている。

男は、俺たちを確認すると恭しく頭を下げてから後部ドアを開け、右手をゆるやかに曲げて中に入れと促した。

「まさか、迎えの車って……あれのことっスか?」

藪内が目を丸くするのも無理もない。そこには、およそ中華料理屋の印象とはほど遠い執事がいた。

歩みを進め自動ドアが開くと、男は「あけぼの台公団住宅B棟建設チーム第48班の皆様ですね。お迎えにあがりました」と、にこやかに告げる。やはり、間違いではないらしい。

促されるまま俺たちが乗り込むと、車は土砂降りの雨の中を滑るように走り出した。

しばらくすると車内に備え付けられた小さなモニターに電源が入り、極楽飯店の案内VTRが流れ出す。

『ようこそ!極楽飯店へ! 当店はその名の通り皆様に至極の喜びを提供する本場四川料理の専門店でございます。肥沃な土地で丹精込めて育てられた豊富な食材を、唐辛子や山椒などを代表とする様々な香辛料や秘伝の調味料で深みのある味わいに仕上げた絶品の数々。四川料理を代表するエビのチリソースや麻婆豆腐、棒々鶏や回鍋肉などは、その美味しさゆえに、日本人の皆様にもっとも愛されている中国料理といえましょう。本日は、そうした本場の味をそのままに、きめ細やかなサービスを添えて至福の世界をお届けしてまいります。どうぞ、豊かなお食事をお楽しみください』

真っ赤な円卓に盛られた旨そうな料理の映像が、軽快なナレーションと共に流れていく。メンバーの誰もが、釘付けになっていた。

しばしの間、思わず画面に気を取られていたところに、藪内の奇声が入る。

「えぇ!?ちょ、ちょっと!?」

「どうした?」

皆が藪内に目を向けると、藪内は車の外を指差した。

見ると、車は先日見た極楽飯店を何事もないかのように通り過ぎていた。

雨に濡れる赤い看板が、徐々に小さくなってゆく。

「ちょ、ちょっと運転手さん!お店、通りすぎちゃってるんスけど!!」

座席から身を乗り出して運転席の後ろにある黒いガラスを叩きながら藪内がそう叫ぶと、ガラスがするりと下降して運転手の後頭部を見せる。

「ご安心ください。あちらは、当店の景洛町支店でございます。皆様は、これらから本店へとご案内させていただきます」

「本店!?」



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極楽飯店.35

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「ほら、あの時のビエルの言った『惜しい』っていう一言だよ。俺たちは、つくづく望まないものに目を向けることが好きらしい」

「どういうことです?」と、白井が興味深そうな様子で話しに加わる。

「現場で俺と藪内が祈った時、ビエルは最後にこう言ったよな、『求めよ、さらば与えられん』と」

「ええ。それで?」

「俺たちは、求めているように見えて、求めていないものに目を向けていたんだ。だから、求めていないものが与えられる」

俺がそう言うと、坂本が眉間の皺を撫でながら俺を見た。

「…よくわからんな。もう少しわかりやすくならんか」

もう少し、と言われても、これを何と説明すればいいのか…。次の言葉を探していると、額がモゾモゾするような感じとともに、自然と口が動き出した。

「要は、『求める』ということがよくわかっていなかったということなんだ。なんと言えばいいのかな…、『求める』ってことは、その結果が『与えられる』ことが前提となった行為だろう?」

「結果が与えられることが前提……、まぁ、そう言われればそうかもしれんな」

「なのに、俺たちはその結果を『自分で作り出そう』としてしまっていたんだ。でもよくよく考えてみれば、それは『結果が与えられる』ということへの不信でしかない。与えられるかどうかわからない、だから自分で結果を作り出さなければ…という。つまり、天国にあって地獄にないもの、『信頼』の欠如だ。そして、望まないものに目を向ける」

坂本が若干イライラしたような口ぶりで先を求めた。「だからなんなんだよ、その『望まないもの』ってのは」

「『地獄から出たい』って思いさ。皆、心のどこかでそう思ってただろ?」

そう言うと、今度は田嶋が口をはさんだ。

「え?なぜそれが『望まないもの』なんです?むしろ逆に『求めているもの』ですよ。だからこそ、僕たちはこれから極楽飯店に行こうとしてるんじゃないですか」

「いや、一見求めているように見えて、目は望まないものに向いているんだ」

「……峰岸さん、さっきから一体何を言ってるんです?さっぱりわからない」

わかりづらい話しだとは自分でも思っているが、他人からこうもハッキリと言われると妙に腹が立つ。が、声を荒げたところで何にもならない。通じるかどうかはわからないが、出来るところまでは話してみよう。

「いや、だからな、俺たちが望むべきは、『地獄から出る』ことじゃないんだ」

「ええ??だったら、何を望めって言うんです?」

「天国に行くこと……、いや、天国にいることかな」

「は?結局、地獄から出たいってのと同じじゃないですか……」

「いや、それが同じじゃないんだよ。いいか、『天国に行きたい』ってのは、天国、つまりは満たされた状態に意識を向けることになる。逆に、『地獄から出たい』ってのは、地獄、不平や不満のある状態に目を向けることになる。同じように思えても、実は目を向けている先がまるで違うんだ」

「んんんん~~?」

自分では上手く説明出来たつもりでいたのだが……。目の前には、明らかに話が飲み込めないと言わんばかりの表情を浮かべたメンバーがあった。

「だから!もう!わかんねぇかなぁ…いいか?俺たちが現実という……」

話を続けようとする俺の目の前に白井が手のひらをかざし、流れを止めた。

「峰岸さん、お話の途中で申し訳ありませんが…、まもなく迎えの車が来る時間です。そろそろロビーに降りませんか」



←いま、目を向ける先。
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Just moved!

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全世界の「あの世に聞いた、この世の仕組み」ファンの皆様、おまっとさんでした。

アナタの街の宣伝本部長…

もとい、北海道から関東へ寒気を引き連れてきたと噂される北風小僧の寒太郎です、こんにちは。

ヒューン ヒューン ヒュルルンルンルンルン。


いやはや、本当にお待たせしてしまいました。

こんなに引越が大変なものだったなんて…。正直若干なめてました。

自宅と事務所の2カ所分に加え、北海道から東京でございましょ、搬出した荷物が即日とか翌日に届くってもんじゃないんですね。

配達にも、中一日取られるんすわ。

でもって、{自由奔放すぎる冬休み中のお嬢様+(行方不明になりがちなお猫様×2)}が一緒でそ、さらにはお手伝いに着てくれる予定だった義母の緊急入院なんかも重なっちゃいまして、何をするにも捗らないったらありゃしない。

今日になって、ようやく普通に生活できる状態までたどり着きました。

ちかれた~_| ̄|○⇒_|\○_⇒_/\○_⇒____○_

もう、全身が筋肉痛状態ですわ。

そんなこんなで、インターネット回線を断たれた環境に2週間ほどおりまして、メール確認はもちろんのこと、自分のブログを閲覧するのも久々。

今までは、更新できずとも、ちょこちょこ閲覧するぐらいはできてましたからね。ここまでネットから離れたのは、ブログ開設以来初めてのことかも。

おかげさまで、ドタバタの新生活開始ながらも、ずいぶんリフレッシュできました。


と、いったところで、そろそろこのブログも再開して行きたいと思います。

どうぞよろしく。<(_ _ )>


←黒斎くんの背中を指圧してあげる気持ちで
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あけおめ!

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ほら、あれだ。

みんなもいい大人なんだから、「乳」は「ちち」ではなく「にゅう」と読んであげるぐらいの優しさを持ってあげてだな……


ヾ(≧▽≦)ノ ってことで、遅ればせながら、エビバデ!ハッピーニューイヤー!



まぁ、色々あるのが人生だけど、深刻な顔してても何も始まらないし。

笑う門には福来たるって言うしね。

不安とか、後悔とか、小難しいアレコレは、どんど焼きにポイッと放り込んで明るい新年を始めましょう。


無病息災、五穀豊穣、家内安全、身体健康。


皆様の実り多き年になりますように。


ラヴ。




←ことよろ!
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