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極楽飯店.最終回

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極楽飯店での食事を終えてから、どれほどの時間が経ったろうか。(いや、この次元においては、この問い掛けすらも的確でないことは、既に承知の上ではあるが。)

その後も俺たちは浮遊や変身、また、人間界とのアクセス方法やカルマに巻き込まれないための防衛術、その他各種の規約(法律などが存在するわけではないが、それなりに避けねばならぬ注意事項等が色々ある。閻魔曰く、人間界を混乱させないための配慮であるらしい。)などをこってりとレクチャーされた。

それらのレッスンは、決して容易なモノばかりではなかった。

閻魔は俺たちが何かにつまずくたびに「人間以上に人間を理解しなければ、守護は勤まらない」と言って熱弁を奮っていたが、一通りのレッスンを終えたいまは、確かにその通りだと思っている。

藪内や俺は、特に勘違いしていた。

閻魔の説明を受けるまでは、「守護霊」という存在は、人間を様々な苦難や被害から守る役目のモノだとばかり思っていた。

しかし、実際するべきことは、まるで違っていた。

俺たちがこれからすることは、対象となる人間を守る事ではなく、「いかにして、彼らが幻想世界にいることを気づかせることができるか」というものだった。

その視点に立てば、守る事ばかりが人間にとっていいことではない。むしろ(彼らにとっては)災難だと思えることを突きつけることによって、より大きな気づきや理解が引き起こされる可能性が感じられた。

閻魔は言った。「いいかい? 君たちがこれから人間界に行って、彼らに伝えることは『苦難という名のハードルを乗り越える術』じゃない。『そんなハードルなど、もともと存在などしていない』という、そのことに気づいてもらうことなんだ」

無論、いまの俺たちなら、閻魔のその言葉の意味がよく理解できる。が、しかし。その言葉の指す本当の意味を、そのまま人間に伝えることの難しさも、同時に理解していた。


「つい先日まで、人間として仮想世界にどっぷりと浸かっていた君たちだからこそできるアプローチがあるはずなんだ。実はね、君たちは、神や聖霊以上に人間の事がよく分かっている。人間としての経験を終えたばかりの存在だからね」

閻魔は、「期待してるよ」と添えてそう言った。

「実はね、人間がどれほど苦しんでいようと神は何もしてはくれない。それらが現実でないことを知っているからね。彼らから見たら、あらゆる事が『大丈夫、大丈夫』ってことになる。勿論、真実はそっちだ。それでもやはり、仮想世界、人間の次元に立てば、そこには確実に苦悩が存在している。その間の次元において、人間に働きかけるのが僕たちなんだ」

「いわゆる『菩薩行』ってヤツだな」と、坂本が相づちを打った。

「うん、そういうこと。いいかい? これから救うのは特定の人間じゃない。先日までの君たちと同じように、自分が何者かを見失ってしまった『僕たち自身』なんだ。彼らは、兄弟でも、友でも、家族でも、仲間でもない。僕たち自身だ。いいね?」

閻魔が最後の忠告を終えると、メンバーは静かに頷いた。

「じゃ、行こうか」

閻魔はそう言うと、その懐からおもむろに五通の封筒を取り出した。

「なんですか、その封筒?」

白井が訊くと、閻魔は「君たちの行き先だよ」と微笑んだ。

「翔ちゃんは彼女の元に行くことになってたけど、君たちはまだ行き先を知らないだろ?」

すると閻魔は、表に「藪内翔吾」と書かれた封筒を開け、中から一枚の紙を取りだし読み上げた。

「辞令。藪内翔吾殿。あなたを、本日をもって聖霊隊日本支部第二四班へ配属するとともに、佐倉美咲、および佐倉翔一の守護を任命する。以上」

「じ、辞令?」

田嶋が驚いている横で、その辞令は藪内の手に渡った。

「美咲はわかるけど、翔一って……。ハッ!これ、もしかして俺の子ですか?」

「まだお腹の中だけどね。どうやら彼女は君の名前から一字貰ってその名にするらしい」

目に大粒の涙を貯め、グスンと鼻をすする藪内の肩をたたいてから、閻魔は続いて新たな封筒を開けた。

「辞令。田嶋智也殿。あなたを、本日をもって聖霊隊日本支部第二四班へ配属するとともに、添田正樹の守護を任命する。以上」

「誰だ、『そえだ』って」

田嶋が受け取った辞令を覗き込むように坂本が頭を寄せてきた。

「いや、誰でしょう……」

僕にもわからないと、田嶋が首をかしげた。

「あの、これ、誰ですか?」

田嶋が閻魔に尋ねると、島根在住の高校生だと言う。その説明を受けてもなお、田嶋は添田正樹が誰なのか、サッパリ分からないと肩をすくめていた。

「わからなくてもね、彼は君と非常に近いエネルギーを持ったソウルメイトなんだ。会ってみればわかるよ。まるで、これまでの自分自身を見ているように感じると思うよ」

閻魔は田嶋にそう告げると、辞令の読み上げを再開した。

「辞令。白井宗雄殿。あなたを、本日をもって聖霊隊日本支部第二四班へ配属するとともに、大守健太郎の守護を任命する。以上」

「おおもり? けんたろう?」

田嶋同様、白井も首をかしげた。閻魔は大守のことを長崎で菓子職人をしている者だと説明したが、やはり白井の知らない人物らしい。

「辞令。峰岸琢馬殿」

そして、俺の名が呼ばれた。

「本日をもって聖霊隊日本支部第二四班へ配属するとともに、田淵淳の守護を任命する。以上」

「なっ! た、田淵だって?」

俺が思わず声を上げると、閻魔はニヤリとして意味ありげな視線を送ってきた。

「そう。これから君が守護するのは、君を殺した、あの田淵くんさ。タクちゃんは元ヤクザだからね、ヤクザの考えそうなことは手に取るようにわかるでしょ? ね、適任適任」

そう言って高らかに笑う閻魔につられて、俺も思わず笑ってしまった。

なるほど。菩薩行とはそういうものか。「これから救うのは自分自身」、そう言った閻魔の言葉の意味がここに来てようやく理解できた。

俺と田淵は、似たようなカルマを背負っている。そのカルマに、俺と田淵という別な次元からアプローチをかけるのだ。

これまで頑なに向き合う事を拒否してきたカルマに真っ向から向き合い、それを溶かしていかねばならない。

と、いうことは……。

田嶋や白井らが担当する、素性の分からぬお相手もまた、田嶋や白井にとっては厄介な存在になることだろう。


そして、閻魔が最後の封筒を開けた。

「辞令。坂本竹蔵殿。本日をもって聖霊隊日本支部第二四班へ配属するとともに、黒沢一樹の守護を任命する。以上」

「黒沢……、いつき、……。う~む、やはり知らんな。誰だそいつは?」

閻魔は北海道にいる広告クリエイターだと説明したが、坂本の追求はさらに続いた。

「なぜ私が、見ず知らずのこの者につかねばならないのかね?」

「あのね、その黒沢って子と坂もっちゃんは、同じ前世を持っているんだよ」

「同じ前世?」

「うん、同じ前世。まぁ、言ってしまえば僕も同じことなんだけどね。遣唐使の時代、日本(倭国)にある一人の僧侶がいたんだ。彼はなかなか優秀なお坊さんでね、勉強熱心で誠実、村民からの信頼も熱く、将来が期待されていた人だったんだ。その評判が広まって、ついには遣唐使のメンバーに抜擢され、中国から仏教経典の収集を仰せつかることになった」

「な、なんと!最澄や空海と同じ時代じゃないか!」前屈み気味で坂本は話しに聞き入った。

「中国(唐)に向かう船が出航するその日、港には多くの村民が集まり、彼にたくさんの餞別を贈った。飲料水や食料、薬など、村のみんなから本当に多くの期待と応援を受けて旅立ったんだ。なんだけど……」

「なにかあったんか?」

「その船の上で事件は起きた。原因不明の高熱に倒れる仲間が次々と現れだしたんだ。そんななか彼は、持ち前の優しさで倒れる仲間たちを必死で看病した。村の人たちが自分のためにくれた食料や薬も、全て仲間に分け与えてしまったんだ」

「そりゃあ、我ながらアッパレだ」

坂本は嬉しそうに膝を叩いた。

「でもね、その食料や薬が全てなくなってから、今度は彼自身が病に倒れてしまうんだ。仲間が回復していくなか、彼だけは衰弱していき、最終的には、唐(中国)に辿り着く前に船の上で絶命してしまう」

「なんだって!?」

「たくさんの期待や応援を受けながらも、その使命を完遂できなかったそのことが、彼の大きな未練となった。その未練のエネルギーを受け継いでいるのが、坂もっちゃんであり、黒沢君だってことなんだ。つまり、黒沢君を助けることによって、坂もっちゃん自身も同時に癒される」

「ふ~む……」

坂本は顎に手をあて、神妙な面持ちで何かを考えていた。


全ての辞令が渡されると、閻魔は腕をグルグルと回しだし、空中に大きな額縁の様な光の輪を作り出した。

「さて、そういうことで、いよいよ人間界に行くよ。彼らに源(ソース)エネルギー、たくさんの愛を届けよう。 あっ、そうだ! せっかくだから、このことを一番最初に届けるメッセージにしてみよう。『愛(ソースエネルギー)は世界を救う』、このことを君たちならどうやって伝える? それができたら、このゲートをくぐって。そのまま人間界に繋がってるから。いまは丁度……、日本では深夜二時だ。君たちの送るエネルギーは、彼らの睡眠を通じて届くだろう。じゃあ、僕は先に言って君たちを待ってるからね、用意ができたら、僕に着いてきて」

そう言い残して、閻魔はゲートの中へ消えていった。

これまでのレッスンの最終試験とでも言うべき投げかけが閻魔からなされると、まず初めに田嶋が大きなハート型に化けた。真っ赤に脈打つそのハートには、地球の大陸が刻まれている。

そして、その大きなハートは、吸い込まれるように光の輪の中へ消えていった。

続いて白井が姿を消した。空間に溶け込み、そのままゲートに入っていった。エネルギーそのものを通じて「愛は世界を救う」という波動を声として送っている。

二人がゲートをくぐるのを見届けると、スカジャン姿の藪内が口を一文字に結んで立ち尽くしていた。

多分、生前の姿そのままでゲートをくぐるつもりなのだろう。

一歩後ずさりしてから、弾みを付けるように駆け出すと、「やっ!」っとかけ声を上げて頭から輪の中に入っていった。

坂本は、再度辞令書を眺めてから、ボワンと煙に巻かれてTシャツ姿になった。

「どうだ? 似合うかね?」

坂本は少し照れくさそうに振り向いて俺に姿を見せると、自分のTシャツの胸元を指差した。

そこには、大きく「24」とプリントされている。

「まぁ、その、なんだ。あけぼの台なんたらの四八班から、今度は『聖霊隊日本支部第二四班』らしいしな。それにあれだ、こうして黄色のTシャツなら、何となく24時間テレビのTシャツに見えなくもないだろ。ほら、『愛は地球を救う』ってヤツだよ」

「ん? 閻魔は『愛は“世界”を救う』って言ってなかったか?」

俺がそう言うと、坂本は「ん? そうだったか?」ととぼけた顔をしたまま俺に手を振り、「じゃ、あとでな」と言い残してゲートへ入った。

あとは俺一人。

さて、田淵の枕元にどんな風にメッセージを伝えてやろうか。

しばし考えたが、ピンとくるものがない。

閻魔の課題からはずれることになってしまうが、まぁいいだろう。

俺も藪内同様、生前の姿のままヤツのところにいく事に決めた。

「あはは。俺に会ったら、どんな顔しやがるかな。田淵のやつ」

俺はゲートを前に、肩を揺らして笑いを吹き出すのを堪えていた。




『極楽飯店(ブログ版)』完



※この物語はフィクションです。実在の人物及び団体とは一切関係ありません。




←長期にわたる連載にお付き合いいただき、ありがとうございました!
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極楽飯店.67

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「もっと大切な理由? もしかしたら、さっき転生がどうのこうのって言ってたことですか?」藪内が訊いた。

「うん、そのとおり。よく覚えてたね。余計なカルマが残ってると、人間界に行き着く前に輪廻に巻き込まれる可能性があるんだ」

「輪廻に巻き込まれる? そりゃ、どういうことだ?」坂本の声が聞こえたが、姿は見えない。

「輪廻転生は、死後に持ち越されたカルマ、もっと分かりやすく言えば『未練』によって引き起こされるんだ。でもそれは、未練の『持ち主』が新たな肉体を得るってことじゃない。『持ち主』っていうのは、カルマの壁がある時だけ存在しているように見える錯覚だからね。



輪廻転生は、未練の『持ち主』が継続するんじゃなくて、未練(カルマ)の側が新たな持ち主を作るんだ」

「んん?」眉間に皺を寄せた坂本が、よく分からんと言いながら姿を現した。

「ゲームのコンテニューみたいなものだと思えばいいよ。ゲームオーバー(死)を迎えた後、コンテニュー(転生)を選択する理由は、ゲーム(人生)に対する『もっと遊びたい・もっと上手にプレイしたい・他の謎も解いてみたい・もう一度同じ試練にチャレンジしてみたい・別のステージを経験したい』などといった未練、執着だ。ゲームの世界に登場した『キャラクター』自身がコンテニューを望んでいるワケじゃないでしょ。それを望むのは『プレイヤー』側。それをもっと突き詰めればプレイヤーに残る『未練』だ。だから、徹底的に遊び尽くすとか、ゲームに飽きるとか、そういった状況がない限り、コンテニューはひたすら続いてしまう。カルマが、カルマの存続のために新たな自我を作り出し、輪廻しつづけるんだ」

閻魔がそう言い終わり、チラリと藪内と目が合うと、藪内はハッとした表情を浮かべてスライムの噴き出し口へ向かった。

「お、俺、もう一回かぶってきますっ!」

場に閻魔の笑い声がこだました。

「アハハハ!もう大丈夫だって!それよりもほら、浮遊と変身の練習を始めよう」

閻魔は藪内を呼び戻してから浮遊術と変身術の講義を始めた。



その講義は決して難しいものではなかった。

閻魔曰く、スライムをかぶりさえすれば誰でもできる事らしく、とにかく自分の存在をどのように意図するか、それだけらしい。

「できる」と思えればできる。「できない」と思えばできない。

講義内容はそれだけのことだった。

か、しかし。「やってみて」と言われ、実際にやってみると、その単純な事が、思いの外難しい。

意図しろ、と言われても、何をどう意図すればいいのか掴めないのだ。

自分が浮遊する、何かに変身する事をイメージしようとは思っているのだが、そのイメージがいまいち定まらない。

悪戦苦闘している俺たちを見て、閻魔はこうアドバイスした。

「じゃあさ、浮遊はちょっと置いといて、変身からやってみよう。いきなり別物になるのは難しいだろうから……、最初は着替えをしてみようよ。一度姿を消してから、服を着た状態の自分をイメージしながら姿を現すんだ」

そのアドバイスに沿って、まずは坂本が姿を消し、しばらくして、ゆっくりとその姿が現れる。宿舎の会議室で初めて坂本を見た時に着ていた、あの仰々しい袈裟を纏っていた。

「おおっ、できた!」

衣の袖を振りながら、坂本は嬉しそうにメンバーを見回した。

なるほど、見慣れた自分の姿ならイメージしやすい。坂本に習って、俺はダブルのスーツ姿になってみた。

続いて白井がポロシャツとチノパン姿に、藪内が白いTシャツとジーパン姿になって現れた。

田嶋は……、これはたしか「連邦軍」。昔流行ったロボットアニメの制服姿になって、はしゃいでいた。


その後は、皆徐々にコツを掴み、人相や体型、性別なども変えられるようになった。

中でも田嶋は飲み込みが早く、魔法使いの女の子みたいになってみたり、ジェダイの騎士になってみたりと、瞬く間に自分の姿をヒョイヒョイ変えては嬉々としている。

白井はその足下で、なぜか「ぶんぶく茶釜」の狸になっていた。




……つづく。



【トークライブ・インフォメーション】

下記会場の参加を受付中です。リンク先よりお申し込みください。

◎9月24日(土) 名古屋(with とみなが夢駆)

◎10月1日(土) 宮崎

◎10月2日(日) 沖縄



←「お、俺、もう一回押してきますっ!」という、藪内くんバリの勢いで
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極楽飯店.66

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閻魔はセーラー服姿のまま、近場にあった岩にチョコンと座って話を続けた。

「そういう風に、僕たちはあえて言葉やビジュアルに加工しなおしてメッセージを送る事がある。純粋なソースエネルギーよりも、そうやって一度加工したものの方が受け取って貰いやすいからそうするんだけど、それには弊害もある。表現という『制限』が生まれてしまうため、誤解も生まれやすいんだ。メッセージが歪んで届いてしまう」

「じゃ、誤解が生まれないようにするには?」白井が訊いた。

「言葉やビジュアルなどに変換することなく、エネルギーそのものを送る。みんなにも経験があると思うよ。『なんの理由もなく、ただ気づいたらそうしていた』という事が。なんとなくテレビのチャンネルを変えたとか、意味もなくいつもと違う道を通ってみたくなったとか、それまで意識したこともなかった電柱の張り紙に目がいったとか、理想のタイプとはまるで違う女性に一目惚れした、とかね。でも、エネルギーの純度が高ければ高いほど、それが自然になじんでしまうから『インスピレーション』と言えるような自覚にはならない。それがメッセージだと気づいてもらえないんだ」

メッセージを歪み無く伝えようとすると、それがメッセージであることにさえ気づいてもらえない。

逆に、メッセージに気づいて貰うために、(言葉やビジュアルなどに変換するなど)一度エネルギーに手を加えると、今度は誤解される可能性が生まれる。

どちらにせよ、カルマの壁が厚い(分離意識の強い)人間とコンタクトを取るのは一筋縄ではいかないのだと閻魔は説明した。

それに、人間の多くは、どんなに的確なメッセージを送られたとしても、その意味を自分の固定観念(狭い枠組み)の中で理解しようとする。だからこそ、自分の思考を超えたモノを素直に感じとれないのだ、とも。


「これから君たちが人間界に伝えていくメッセージは、自我を手放すことによって初めて触れる事ができる次元のこと、いわば「自我の死」の先にある次元のことでしょ。っていうことはつまり、これまで大切に築き上げてきた「自分」というパーソナリティーを丸ごと奪われるという、自我にとってはこれ以上ないぐらい不都合な話なんだ。だからこそ、自我はその話に決して耳を貸そうとはしてくれない。そのメッセージ内容を巧妙に書き換え、逆に「自我の存続」に役立てようとする」

そして閻魔は俺たちに、これまでの物事の認識方法を客観的に振り返って見よと告げた。

「あるものごとが目の前に現れた時、そのままを把握することではなく、『どのように把握したいか』という姿勢が先にあって、その姿勢によって自分が見たいように見、聞きたいように聞く。つまり、自我の都合にあわせて物事を歪めて解釈していたってことなんだ。そうやって見たくないモノ、聞きたくないモノから目を背けさせるのが、自我の防衛術なんだ。だからこそ、話が本質に近づくにつれて、そのメッセージは通じなくなっていく」

「それでは結局話が通じないままじゃないですか。そんな状況の中で、私たちに何ができるというんです?」白井の声は、ますます熱を帯びていた。

「どうするかは僕たち次第さ。決められた道はない。聞く耳を持つ気になってくれるまで徹底的に関与せず、じっと見守り続けるも良し、ちょっとしたタイミングも見逃さず、気づいてくれるまで繰り返しメッセージを伝え続けるも良し。まぁ、どちらにせよ地道なことには変わりないね」

閻魔はそう言い終わるとその身をドロリと変形させ、あっという間に元の緑色の化け物になった。そして、何かを思い出したように話を続ける。

「あ、そうそう。この話もしておかなきゃね。さっきダルマ・スプリングスでカルマを流した理由は、君たちをオバケにするためだけじゃない、もっと大切な理由があるんだ」


……つづく。



【トークライブ・インフォメーション】

昨日twitterでも告知いたしましたが、10月のソロトークライブ受付を開始しました。

ヾ(≧▽≦)ノ 来月は宮崎と沖縄にお伺いいたします!


あの世に聞いた、この世の仕組み in MIYAZAKI

【日時】2011年10月1日(土) 13:30開場 14:00開演(16:30終演予定)

【会場】宮崎グリーンホテル 大会議室
    宮崎市大橋2丁目36-1

【料金】お一人様:3,000円

お申し込みは<こちら>から。

※宮崎会場では、当日、受付のお手伝いをしてくだる方を探しています。
 お手伝いくださる方は苺企画(下記メールアドレス)までご連絡ください。


【9/3追記】お手伝い頂ける方が見つかりました。ありがとうございます!


あの世に聞いた、この世の仕組み in OKINAWA

【日時】2011年10月2日(日) 15:30開場 16:00開演(18:30終演予定)

【会場】あやかりの杜 多目的ホール
    沖縄県北中城村喜舎場1214番地

【料金】お一人様:3,000円

お申し込みは<こちら>から。

※沖縄会場の駐車場は駐車スペースがあまり広くありません。なるべくお車を乗り合わせてご来場くださいますよう、お願い申し上げます。




←どうするかは君たち次第さ。決められた道はない。
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極楽飯店.65

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「さて、」と閻魔が身を乗り出し、話を続けようとしたその時。左半身が半透明になったままの坂本が「ちょっといいか?」と閻魔に声を掛けた。

「こうして姿を消したりすることも面白いし、浮遊や変身てのも確かに興味深いんだが……。これじゃあホントにオバケか幽霊だ。まるで人を脅かすための練習をしてるみたいじゃないか。こんなことを習得して一体なんの意味があると言うんだね?」

坂本がそう言い終わると、「言われてみればホントにそうですね」と白井が笑った。

返答を求める皆の視線が閻魔に集まると、閻魔は「チッ」と一つ舌打ちをして、背中を丸めて後ろを向いた。

「もう少しでおまえらを完全な浮遊霊にすることができたのに……」

「えっ!?……いま、なんて!?」

濁らせるように口元でボソボソと呟いた閻魔の言葉に、藪内が素早く反応して目を見開いた。

「冗談、冗談だってば。そんな怖い顔でみないでよ」閻魔が振り向きながら藪内を「まあまあ」となだめて笑う。

「勿論、しようと思えばできないこともないけどさ。この練習は人を脅かすためのものなんかじゃないよ。人間とコミュニケーションするための練習なんだ」

「人間とのコミュニケーション?」

人間とのやりとりに、なぜそんな練習が必要なんだと坂本がさらに訊いた。

「君たちが肉体を離れるずっと前から僕は君たちを見守ってきたけど、その間君たちは僕の姿を見たことはないでしょ? 多分、この声も聞き覚えないと思うんだ」

メンバーは互いに顔を見合わせ、確かに見覚えも聞き覚えもないと一様に頷いた。

「この次元の存在形態は人間界とまるで違うから、僕が声を掛けてもなかなか気づいてもらえなんだ。霊と肉体の周波数に違いがあるって言えばわかってもらえるかな。とにかく、直接コミュニケーションをとるということは、なかなか難しいものなんだ。だから、詰まりが消えている僅かなタイミングを見計らってメッセージを送る工夫をする必要がある」

「工夫?」今度は田嶋が訊いた。

「人間には人それぞれ個性があるよね、僕たちはその個性にあわせて、コンタクトの取り方を模索しているんだ。人間の個性や気質は、どんなカルマを保持しているかで違いが現れる。それは、言い方を変えれば、ソースとの分離を生む壁の違いと言ってもいい。僕たちはその壁の薄いところや僅かな隙間をぬってコンタクトを図っているんだ。僕たちが上手く接触することができれば、人間はそれを様々なインスピレーションとして感じ取ることができる。ある人はビジュアルとして、またある人は音楽や言葉として受信する」

閻魔はそう言うと、クルリと身を翻して宙に舞い、その身体から緑色の閃光を放った。

俺たちの頭上高くに飛んだ閻魔はその閃光を四方八方へ飛ばしながら、間もなくストンと着地を決めた。

が、そこに立っていたのは見慣れた緑色の怪物ではなく、セーラー服を纏ったグラマーな少女だった。

どこかで見たことがある様な気がする、と坂本が眉間に指をあてている横で、田嶋が目と口を限界まで広げていた。

「ああ!田嶋くんのスケッチブックに書かれていた女の子だ!」

いち早く気づいた白井が手を叩いて笑った。

「うん、そういうことだよ。トモちゃんが以前から描き続けてきたオリジナルキャラクターはほら、僕の姿さ」

聞き慣れた閻魔の声が、セーラー服の少女の口から発せられた。

「カルマの壁に隙間があれば、そこを通って何かを送れる。トモちゃんの場合は『ビジュアル層』にその隙間があったんだ。だから僕は、色々なビジュアルを通して君にメッセージ(インスピレーション)を送ることが多かったんだよ」

そして少女(閻魔)は説明を続け、変身は映像的なメッセージを送るため、姿を透明にするのはカルマの壁が厚い場合に、そこをすり抜けられる状態に変化する必要があるからなのだと話してくれた。



←ボタンを押さずに素通りする読者を前に、黒斎は「チッ」と一つ舌打ちをして、背中を丸めて後ろを向いた。
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極楽飯店.64

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俺がすっかり透明になると、ゆっくりと坂本が近づいてきた。

「峰岸。おまえさん、今どこにいる。ここら辺か?」

暗闇の中で何かを探すかのように手を前に突き出し、右へ左へと揺れながらゆっくり歩みを進めてきた。

どうやら、俺に触れる事ができるかを確認したいみたいだ。

「ここだよ」

俺が声をかけると、坂本は身体をビクリと弾ませて視線を変えた。どうやら声は届くらしい。

若干怯え気味でいる坂本を見ていたら、俺の悪戯心に火がついた。

坂本の後ろに回って背中を突っついてやろう、そう思って忍び足で坂本の背後に回った。

が、次の瞬間、驚いたのは俺の方だった。

坂本に向けて突き出した俺の手は、彼の背中に触れることなく、そのまま素通りしてしまったのだ。

「お!」

驚きで俺が思わず声を上げると坂本は振り返り、そのまま俺の身体を通りすぎた。

閻魔がケラケラ笑っていた。閻魔には、俺の姿が見えているということだろうか。

「タクちゃん、そこで自分の身体をハッキリ思い出してごらん。消えた身体に、色やカタチが戻っていくことをイメージするんだ」

閻魔に言われたとおり、自分の身体を見下ろす様に目線を下に向けながら、自分の身体に色とカタチがもどっていく事を想像する。

すると、身体の中心から煙が立ち上るようにモヤモヤと色が広がっていき、俺はスライムを被る前の姿を取り戻していた。

「おおーーー!」

俺の姿が見えるようになると、メンバーから歓声が上がった。

坂本が足下から頭までを舐めるように観察しながら、ペチペチと俺の腕を触った。

「すっかり元通りだな」

皆が不思議そうに俺を眺めている中、次いで藪内が頭を指差しながら、慌てるように声を発した。

「峰岸さん、耳も、耳も元通りになってる!」

足下の水たまりを覗いてみたら藪内が言うとおりだった。久しぶりに耳のある自分の顔を見た。

が、それほど高揚するモノではなかった。

身体があろうが無かろうが、自分はカタチに依存せず、こうして存在しているのだという不思議な体験をした後ということもあるだろうか。耳があってもなくても、どっちでもいいやという気持ちだった。

とはいえそれは、「どうでもいいや」という陰鬱とした感情ではなく、諦観とでも言う様な超然としたものだった。

もしかしたら、あのスライムが身体への執着さえも洗い流してしまったのかもしれないな。と、そんな事を思っている中、閻魔が再度声をかけてきた。

「タクちゃん、今度はその身体を消すことを意図してごらん」

閻魔の指示に従えばどうなるか、今度はやる前から想像できた。

身体を消すことを意図した途端、想像通り俺の身体は透明度を増していき、ついにはすっかり姿を消した。

それと同時に、源(ソース)の元に溶け込んだ時に似た晴れ晴れとした開放感が身体いっぱいに広がる。……いや、今は身体は無いんだったな。とにかく、気持ちがいいことこの上ない。

閻魔は俺に、繰り返し身体を現したり消したりすることを練習しろといい、他のメンバーには俺同様スライムを身体に浴びるよう指示した。

俺が消えたり現れたりをしている中、白井、藪内、田嶋、坂本の順に「おばけ化」が進んでいく。

「あぁ~」とか「ふぅ~」とか、メンバーがスライムをかぶるたびに甘ったるい声が聞こえてきた。

これまた不思議なことに、スライムをかぶった者どおしだと、姿を消しても相手の事がよく見えた。

だが、「見える」といっても、肉眼でカタチを捉えるのとはだいぶ違った。

ハッキリとしたカタチはないのだが、「気配」がそのまま「像」として捉えられる。


半透明になってゆらめく俺たちが、しばし「おばけ演習」を楽しんでいると、閻魔はニヤリと口角を上げた。

「うん。みんな上手になってきたね。じゃあ、次のステップ。浮遊と変身にチャレンジしよう」



←押してもらってももらえなくても、どっちでもいいやという気持ちだった。(ウソです)(沢山押してもらえたら、とにかく、気持ちがいいことこの上ない。)
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