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極楽飯店.63

※初めての方はこちら「プロローグ」「このblogの趣旨」からお読みください。

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「え? え? え? ちょ……、え?」

あの、人間界に行くって言ってましたよね、と藪内が閻魔に確認した。

今の状況に困惑しているのは藪内だけではない。俺を含む他のメンバーも同じだ。

「じゃ、そろそろ行こうか、人間界に」そう言った閻魔が、その直後に風呂桶とタオルをどこからともなく取り出して、俺たちに渡したのが困惑の原因だった。

……なぜ風呂桶。なぜタオル。これで一体なにをしろと?

メンバーは渡された風呂桶を手に、一様に首をかしげた。


パンッ、パンッ。

閻魔が手を叩くと、目の前にある壁が二つに割れ、ゆっくりと左右に開きだした。

ガゴン……。

鈍い音とともに壁の動きが止まると、その先に明かりが灯る。上へと続く、長いエスカレーターが見えた。


「さぁ、みんな、ここを出るよ。ほら、乗って乗って」

閻魔が急かすように言う。

「これ、乗ったらどこに出るんスか? そのまま人間界に?」

藪内がそう尋ねると、閻魔は首を横に振った。

「いや、そう慌てないで。その前にね、ちょっと寄らなきゃいけない所があるんだ。君たちがこのまま人間界に向かっても、多分無事にたどり着くことはできない。街を出た瞬間、カルマに引きずられて転生がはじまってしまう可能性が大きいんだ。だから一度ダルマ・スプリングスへいく必要がある」

「え、何処にいく必要があるって?」坂本が聞き直した。

「通称『カルマ流し温泉』、ダルマ・スプリングスさ。君たちに残っている未練の数々を洗い流してくれる、温泉みたいなところだよ」

「それで、風呂桶とタオル?」田嶋が手元の桶を見ながら呟いた。

「そういうこと。まずはほら、とりあえずここを出よう。後で詳しく話してあげるから」

閻魔の促すままエスカレーターに乗り、俺たちは上へと向かった。

エスカレーターが上までつくと、温泉旅館の脱衣場みたいな所に出た。

壁にいくつもの棚があり、その中には衣類を入れておく籠が並べられていた。

「どの籠を使っても構わないから」

閻魔に言われるがまま、俺たちはつなぎを脱いで籠に放りこむ。

風呂桶片手に股間をタオルで隠した男が五人並んだ。会社の慰安旅行みたいだと白井が笑った。

「みんな用意できたね。じゃ、こっちこっち。あ、足下すべるから気をつけてね」

閻魔の手招きで先へと進む。ガラスの自動ドアを出ると、むんとした空気が漂う場所に出た。温泉と言うにはほど遠い雰囲気だが、確かに露天風呂っぽく見えなくもない。視界を妨げるほどの湯気が漂う岩場の中に、蓄光顔料のように鈍く光る青白いスライムの様なものがトロトロと湧き出していた。

時折水面がボコンっと泡立ち、ガスが漏れている。周囲には、僅かに緑茶のような匂いが感じられた。

「な、なんスかこれ……」

藪内がおっかなびっくり覗き込んだ。

「さっきも言ったでしょ、君たちのカルマを洗い流してくれるエネルギー体だよ。桶にとって、まずは足下にかけてごらん」

閻魔はいつもの軽い調子でそう言ったが、やってみるには少々勇気が必要だった。

よし、と自分に気合いを入れてタオルを腰に巻き付ける。桶をスライムの湧出口に入れ、どろりとした液体を取ってみた。グチョンという音を立てて糸を引くそれは、思った以上に重い。

ビチョリ。皆の注目を受ける中、恐る恐る足下にかけてみた。生温かい液体が、膝下を包み込むようにゆっくりと下降する。

「ふわぁぁ……」

気持ちよさに思わず変な声が漏れ、首筋がぞくりと痙攣した。

「うわぁ!!! み、峰岸さん、大丈夫っスか!」

藪内の声と同時に、メンバーが後ずさりする。

何を大げさな、と思ったが、その後自分の足下に目を向けたら、後ずさりの意味が理解できた。

スライムをかけた部分が、綺麗になくなっている。

「ゆ、幽霊みたいですね……」

田嶋が言った通り、膝から下が消えていて、浮いているように見える。

が、足がなくなったワケではなさそうだ。確かに見えはしないのだが、感覚はしっかりと残っている。

その場で二・三度足踏みをしてみると、時折うっすらと足の輪郭が浮かび上がった。

「プレデター」みたいな感じといえば伝わるだろうか。「なくなった」というより「透明になった」という方が近い。

閻魔の表情を確認したら、よしよしと頷いていた。ついで、もっとかぶれとジェスチャーしている。


再度スライムを桶にとり、今度は肩口からかぶってみた。

先ほど同様、スライムのかかった部分が透明になってゆく。

そして、あらゆるものが溶けて流れていくような感覚が、とにかく気持ち良い。

三度目は、なんのためらいもなくアタマからスライムを被っていた。


俺の様子を観察していたメンバーの視線はやがて空を舞い、「とうとう完全に消えた」と目を丸くした。




←応援が「なくなった」というより「更新がないのだから当然」という方が近い。
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極楽飯店.62

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熱意は嬉しいけど言葉が難しくてよく分からないと、熱弁を奮う閻魔をよそに藪内は煮え切らない表情を続けたままだ。

「あ、いや……。なんかすいません。バカで」

微妙な間が漂う中、突き出した首をひょこひょこ上下させて藪内が謝る。

対する閻魔はといえば、そんなに難しいことを話しているつもりはないのだけどもと、こめかみに人差し指をあてていた。

いや、まぁ、確かに。どちらの気持ちも分からないではない。

藪内は元よりメンバーは皆、閻魔はこの先どうするのかと上目使いで次を待った。


よし。

閻魔が一人頷き手を打つと、「ならば」と藪内に問い掛ける。

「じゃあ今度は難しい言葉を使わずに話そう。ねぇ翔ちゃん、もしいま君の右手の甲が痒くなったらどうする?」

意図の見えない問いに、藪内は顎を突き出したままの姿勢で眉間に皺をよせた。

「え? いや、どうするもこうするも……、痒かったら、掻きますけど?」

どうやって?と、さらに閻魔の問いが被さる。

すると藪内は、こうやって、と大げさに手を前に出し右手の甲を左手で掻いて見せた。

閻魔がうんうんと満足げに微笑んでいと、すかさず坂本が突っ込みをいれた。

「なんだそりゃ。新手の公案(禅問答)か」

閻魔はそういうことじゃないと、ハードボイルドを気取ってチッチと指を振る。

「ねぇ翔ちゃん。もしもだよ、君の右手と左手が独立して自意識を持っていたらどうなると思う?」

「え?」

「もし右手が翔ちゃんで、左手がタクちゃんだったらどうなると思う?」

そうきたか、と坂本が笑った。

右手は右手自身で自分を掻くことができない。左手、もしくは他の部位などの助けがあって始めて搔くことができる。

が、もし身体の部位それそれが分離意識を持ち、それぞれが「自分」という感覚を保有していたとするなら厄介だ。

「個と全という言葉で話したかったのは、大雑把にはそういうことなんだ。決して難しい話しじゃない」

その言葉に、ようやく藪内もなるほどと頷いた。

それを確認すると閻魔は「じゃ、そろそろもう一度あそこへ行ってみようか」と言いながら大きく手を振った。

「え? もう一度って、どこへ?」

田嶋が、まさか景洛町ってことはないですよね、と恐る恐る確認すると、閻魔は「プリズムの向こうだよ」と光のドアを創り出した。

「やっぱりさ、言葉でアレコレ説明されるより、どっぷり体感しちゃった方が早いでしょ。このドア何度か往復したら、これまでの話しはもちろんそれ以上の理解も深まるからさ」

「じゃあ、最初からそうしてくれれば良かったじゃないっスか」

藪内が尤もな突っ込みをいれたが、「でもそれじゃ君たちが人間界に行った時に、説明の仕方に困るでしょ」と軽くあしらわれた。

「こうしてこの部屋で話す以上に、人間界とのやりとりは厚い壁に阻まれているんだから。コミュニオンの体験だけじゃなく、コミュニケーションの方も考慮に入れとかなきゃ」というのが閻魔の言い分ではあったが、それが本当かどうかは俺たちにはまだ分からない。

とにかく俺たちは、その後も閻魔から聞かされる話しと源(ソース)への往復を繰り返し、存在の全てが神(愛と同義)であること、苦悩は分離意識を発端とした錯覚によって生まれること、また、その錯覚の多様性、そして、時間や空間という認識すらも幻想の世界であること等を学んだ。

そして、

「うん。みんなもいい感じに繋がってきたみたいだね。じゃ、そろそろ行ってみようか。人間界に」

その告知は、やはり突然に訪れた。



……つづく。




じゃ、そろそろ行ってみようか。福岡に。


ということで、久方ぶりのソロライブもいよいよ明後日。

福岡でお会いします皆様、どうぞよろしく!



←「あ、いや……。なんかすいません。いつも」 (更新に)微妙な間が生まれる中、突き出した首をひょこひょこ上下させて黒斎が謝る。
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極楽飯店.61

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その答えに納得した田嶋が静かに頷くと、閻魔は「じゃ、ここまでの所をもう一度整理しよう」と人差し指を立てた。

それを合図に、これまで何もなかった無機質な壁がスクリーンと化し、いままでの話しが綺麗に綴られていく。それを指差しながら音読していく閻魔は教師のように見えた。

その光景を学校の授業と重ね合わせたのは俺だけではないようで、「こういう内容なら、もう少しは勉強したかも」と藪内が苦笑いを浮かべていた。


1、求めよ、さらば与えられん。(願うことからはじまる)

2、具現化するためのエネルギーは源(ソース)にある。願いはそこへ送ること。

3、願いを源(ソース)へ送るには、その間にある詰まり(思考と恐れで構成された「カルマ」)を無くさなければならない。
  ※ただし、多くの願いにはすでに恐れが内包されている。

4、「願い続けている(願いがある)」という状態は、願いが源(ソース)に届いていない証。願いは、願いを手放した時(源へ届いた際)に叶う。

5、詰まりは、思考と恐れを手放すこと(源に対する絶対的な信頼)によって消滅する。

6、源(ソース)に届いた願いは、「与える者」を担う場へと分散される。


  願う→手放す→源に届く→具現化が始まる


そして閻魔は振り返り「これで終わりじゃないんだ」と意味深に微笑む。

  →受け取る

「願いが源(ソース)に届きプレゼントが用意されたとしても、君たちは最後のこの段階でも躓いちゃう。ムネっちや翔ちゃんは特にこの傾向が強いね」

「え、俺っスか?」「私が、ですか?」

突然の指摘に、白井と藪内がびくりと身を弾ませた。

「うん。自己卑下っていうのかな。自分の価値を自分で下げてしまっているんだ。『自信の無さ』が引力になって余計なカルマを引き寄せやすい傾向があるんだよ。そのカルマのせいで『私には受け取る資格がありません、私にはふさわしくありません』って、折角のプレゼントを受取拒否しちゃうんだ」

すると、閻魔はまた手をマジシャンのように動かし、どこからともなく虫眼鏡を取り出した。

折角だからカルマの中を見せてあげるよ、そう言って虫眼鏡を風船の中にある氷に重ねた。



「名前や性別・年齢に職業・趣味嗜好などといった『自分』の定義(他者との違い)や、善悪基準や価値観、罪悪感、劣等感や優越感また、『自分以外』に対する意味づけなど、ありとあらゆる観念がカルマの元になっちゃうんだ。その観念が固定化されていくと錯覚が増して、いよいよカルマ自体がイニシアチブを取ろうと働き出す。『この詰まり(分離した自分)こそが私だ』と錯覚しているから、決して詰まりを手放そうとはしない。むしろ『分離した自分』という状態を守ろうと、より『個』を強化させることを選んでしまう。『あなたより不幸な私』や『今まさに苦しんでいる私』なんて言うのも、『個』を維持するための大切な材料になるんだ。そして、こうして生まれた源(ソース)との分離感の深さが、苦しみとして現れ『不幸』や『地獄』というバーチャルな世界を生むんだ」

「バーチャル? 不幸が、バーチャル?」

納得できないと首をかしげる藪内に視線を合わせて閻魔は話しを続けた。

「うん。それは、世界は一つだけじゃないってことなんだ。世界は人(分離した自己)の数だけ存在するんだよ。例えばね、『馬鹿』と言われて平気な人もいれば、深く傷ついちゃう人もいるでしょ。さっき話した通り、カルマは思考と恐れによって形成されてる。そして、その内容も人によって違うんだ。恐れの対象も、思考のクセも人それぞれ。それがポジティブなものでもネガティブなものでも、思い込みの強さは源(ソース)からの乖離を生んでしまう。凝り固まった思考であればあるほど、壁が厚くなっちゃうんだ。その厚み(分離感の増幅と、それに伴う信頼の欠如)が、苦しみの深さと比例していくんだよ」



「とにかく、君たちに何かを『願う』必要が生まれたのも、その『成就』を受け取れずにいるのも、ひとえに自分が神である自覚を見失ってしまった事が原因なんだ。自分を神として認めないその姿勢が、『天の王国にふさわしくない者』として自分を不幸に追いやるエネルギーになってしまっているんだ」




……つづく。




←受取拒否?しません、しません!
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極楽飯店.60

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「え?なんスか、『個』を超えた『全』の動きって……」

藪内がそう訊くと、閻魔はおもむろに右手を差し出し、何かを求めるようにキョトンとしている藪内の前で、ひょいひょいと上下に動かす。

「え?なに?握手?」

藪内が手を握りかえすと、閻魔はまた「難しく考えないで」と微笑みながら握手を続け、「ほら、これが『個を超える』ってことだよ」と付け加えた。

それでもまだ、藪内は納得することなく小首をかしげている。

「あ、いや、なんつーか……、つまり『個を超える』ってのは、『仲良くする』ってことっスか?」

藪内が自信なさげに訊くと、閻魔はデカイ顔をふるふると横に震わせ、そうじゃないと告げる。

「個を超えるっていうのはね、『関係の消失』のことを言うんだよ」

「関係の消失?」

「そう、関係の消失、もしくは変化。『関係』っていうのはさ、二つ以上の物事が互いにかかわり合うことを言うでしょ。つまり、そこには『自他』という概念があるってこと。分離のないところに『関係』は生まれない。分離がなくなると、同時に『関わり』の意味が覆ってしまうんだ」

藪内は「余計にわからない」と、眉間に皺を寄せて肩をすくめる。

「難しい話をされても、俺にはさっぱり……。それに、それと握手になんの繋がりがあるんスか?」

「ねぇ翔ちゃん。君は今、手を握られている?それとも握っている?どっち?」

「え?どっちって……。どっちも……」

「うん、そうだよね。どっちも、なんだ。握手には「握られているのみ」も「握っているのみ」も存在しない。能動と受動が同居しているでしょ。その時、与える者は与えられる者になる。「他」がなくなることによって、全てがダイレクトに自分に返るんだ。君たちは壁を取り去り、文字通り一つになることによって「神」となり、互いに与え合うことを選択したんだ。ほら、これを見て」

そしてまた、あの風船が宙を舞う。見ると、いつの間にか中の氷が消えていた。



「君たちの間に壁がなくなったとき、あらゆる願いはスムーズに叶えられる。皆がみな、神として、与える者として動きだす。翔ちゃんの願いが源(ソース)に届くと、源(ソース)が司令塔となって、その願いを具現化してくれるものの所へと運ばれる」



「翔ちゃんの願いが、一つとなったタクちゃんやムネッち、坂もっちゃんにトモちゃんの元に届く。そして、翔ちゃんの願いを受け入れたみんなが、翔ちゃんの願いを叶えてくれる。『個』から発せられた願いは『個』を超えて、『全』の力によって叶えられるんだ」

「あの……。僕が『藪内君の願いなど叶えたくない』と思っていたら、どうなるんです?」

あくまで仮の話、本心ではないと前置きして田嶋が訊いた。

「簡単な話だよ。トモちゃんが拒否するなら、そこに壁ができて源(ソース)からの流れは遮断される。エネルギーは、受け入れてくれるところにいくだけだよ。ただその場合、壁があるワケだから、当然のことながらトモちゃんの願いは源(ソース)に届かない状態になっているからね。自分で作った壁によってできた、分離という錯覚の中で生きる事になる」



「握手は、仲直りや協力、信頼や友好、喜びを表す挨拶でしょ。心を開いて一つになる意思表示。そこにはもう、恐れも思考もいらない。互いに与え合うことができるということを知れば、欠乏を恐れることもない。そこではじめて『個』を超える扉を見いだせる。その象徴が、君たちが来たこの極楽飯店なんだ」


……つづく。



【トークライブ・インフォメーション】

やっぱりブログってのは、言葉に詰まりますね。^^;

文章で見て「?」となっている部分も、ライブで聞くことで「!」となることも多いと思います。

ご興味・関心がありましたら、ぜひ会場に遊びに来てください。


◎7月24日(日) ソロライブ in 福岡  《詳しくはこちら》

◎8月14日(日) コラボライブ in 横浜(with とみなが夢駆) 《詳しくはこちら》



←もしアナタが『黒斎の願いなど叶えたくない』と思っていたら、どうなるんです?
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極楽飯店.59

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閻魔の説明は、白井の婆さんが教えてくれたもう一つの言葉とも綺麗に符合した。

「婆さんが教えてくれた《願いは、願いを捨てた時に叶う》っていうのは、こういうことだったんだな。願いを捨てると、その実現を妨げるエネルギーも捨てることになる」

「いや、でも……。やっぱり分からない。それじゃあ『実現を妨げるエネルギー』と一緒に、願いそのものも捨てちゃってるじゃないっスか。それでなぜ願いが叶うんです?」

俺の言葉を遮るように、藪内が頭を掻き毟りながら訊く。

その問いに、「だから!」と力強く返したのは白井だった。

「願いを叶えるのは分離した意識じゃなくて、神の意識の方なんだよ!氷が溶けるってことはつまり、恐怖を抱えていた『錯覚の自分』が消えて、『創造主、神としての自分』が目覚めるってことなんだ」

その言葉は、藪内の質問に答えるというよりも、白井が自分自身に言い聞かせているように見えた。

白井はおもむろに藪内の手を取ると、両の手でしっかりと握り、じっと目を見つめて言葉を続ける。

「僕たちは極楽飯店で、文字通り「ひとつ」になることができたんです。ひとつになることで生まれた『神としての自分』が、願いを叶えたんですよ!それはつまり、僕の願いを、君が叶えてくれたってことなんだ!ありがとう、ありがとう藪内君!!」

「ちょ、ちょっ…。白井さん!」

白井は、互いの鼻がぶつかるのではと思えるほど藪内に顔を近づけて力説したが、藪内は勘弁してくれと言わんばかりに身をよじらせ、俺たちに暗黙の助けを求めている。

それを見た閻魔が、笑いながら暴走気味の白井をなだめてフォローに入った。

「そう、ムネッちの言う通り。君たちは『ひとつ』になることで願望を実現したんだ」

閻魔の前には、五つの突起がある風船。その突起の一つ一つを氷の壁が塞いでいる。

「ねぇ翔ちゃん。ちょっと、これまでの話を踏まえて考えてみてね。もし翔ちゃんが願いを叶えたいと思ったら、その願いを源(ソース)に送らなきゃいけない。そのためには何が必要?」

「えっと……、だから、源(ソース)と俺の間にある氷を溶かさなきゃいけないんスよね」

「そう。つまり、思考と恐れから離れなきゃいけないってこと。君たちはここへ来る前に、すでにその答えを見つけたよね。『天国にあって地獄にないもの』っていう話、極楽飯店に入る直前に話してたでしょ?」

「え?」

「思考と恐れの対局にあるもの。それは、君たちが気付いた通り『信頼』なんだ。それは、大いなる力に委ねるということ。分離感が錯覚であることを受け入れる姿勢。奪い合うことではなく、与え合うことによって開かれる道。『個』という錯覚を手放した時、君たちは源(ソース)のエネルギーと一体となって動き出すんだ。いいかい?」

すると、目の前に浮かぶ風船の突起の一つから、氷が消えた。

「この風船の中にある星を翔ちゃんの『願い』だとするね。もし、その願いが源(ソース)に届いているとしたら、ほら。願いはすでに、翔ちゃん(小さい風船)から離れているでしょ?逆に言えば、翔ちゃんの中に願いがあるとするなら、それはまだ源(ソース)に届いていないってことなんだ」



「『願いは願いを捨てた時に叶う』って言われると矛盾しているように思えるけど、こうしてみると矛盾していないでしょ?」

「はぁ…。なるほど」

「そしてね、もし源(ソース)に願いが届いたとしたら、そこからは神の仕事。『個』を超えた『全』の動きになっていくんだ」



……つづく。



【お知らせ】

今年も早いモノで、いよいよ折り返し地点を超えましたね。

7月に入りましたので、今月のライブ予定を再度告知させていただきます。( ̄Д ̄)ゞ

今月は24日、福岡にお伺いいたします。詳細は→《こちら》

また、その他の地域についても、ただいま開催準備を進めております。

受付準備が整い次第告知いたしますので、よろしくどうぞ。

それから…

5周年記念プレゼント企画へのご応募もありがとうございました。今年も沢山のご参加をいただきました。

こちらも、まもなく抽選に入ります。当選発表まで、今しばらくお待ちを。



←ええ。勿論皆様のことを信頼していますとも!(ひときわ意味深な表情で)
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