ジーと沈んだ重い声で寂しく螻蛄が鳴いている夜。作者のお父様が意識混濁の中で無意識に口走った言葉が「銃どこだ」だという。徴兵されていなければ絶対に出てこない言葉である。夏と戦争の記録は重なって語られ、戦争を知らない世代にも凄惨な事実突き付けられる。螻蛄に防空壕を連想した自分に少し驚きながら、固唾をのむような緊張した空気感を思った。「銃」は「患い」との戦いの必須として、生きようとしてくれていることが伝わる一言ではなかっただろうか。孤独な想像だにしない戦いを見守る家族の祈る手が見えるような句であった。(博子)