akikoの「活動」徒然記

活動弁士佐々木亜希子の身の周りの出来事やふと感じたこと

『ランジェ公爵夫人』

2008-04-29 | 映画・芸術・エンターテインメント
岩波ホールで公開中のバルザック原作『ランジェ公爵夫人』を観に行く。
大学時代の友人たちと鑑賞した後、バルザック研究で昨年フランスから表彰された大学時代の恩師を囲んで、プチ講義?を受けつつ楽しい食事。
バルザックの小説はどれも非常に長い。しかも、全体の小説がつながっていて、一つの作品のようになっている。原作を読まずに観に行ったのだが、先生によると原作にかなり忠実に描かれていたとのこと。

ナポレオン軍の将軍モンりヴォーは社交界の華であるランジェ公爵夫人に恋をする。無骨で女性に疎く一途な男は、毎日夫人に会いに公爵邸を訪れる。その気にさせながらはぐらかしてばかりの公爵夫人だが、彼に(十三人組の働き)拉致された後に一変して彼を本気で恋い慕い、その想いに応えてもらえず修道女になる。意固地になっていた男が彼女を探し求めて修道院へ行くが、今度はどんなに愛の言葉を並べても彼女は神のもとで男への世俗を超えた愛に生きる、という。ならばそこから連れ出すしかないと彼(十三人組の仲間たち)が修道院に忍び込んだ時には、彼女はすでに天に召された後だった。

とまあ、ランジェ公爵夫人と将軍モンりヴォーの死に到る恋を描いたものだが、二人の心情や行動には違和感を感じる部分が多かった。ベースになっている19世紀前半のフランス社交界、その風俗やキリスト教と密着した価値観、貞操観念、それだけのせいではないと思っていたのだが、どうやら友人たちも同じ感想。だいたい、拉致された後言い争った挙句に一人帰された公爵夫人が、その後ころりと男を本気で恋い慕うくだりは、かなり不自然な流れだ。これは監督のせいではなく、原作がそうなのだからしかたがない。

先生によると、バルザック自身が社交界きっての花形夫人に恋をした体験をもとに書かれているらしい。だが、実際どんなにアプローチしても結局応えてはもらえず、小説の中でその腹いせをしていたのかもと。まあ、そう考えると不自然なストーリーも納得。彼女を想い、恨み、バルザックはきっと想像の上で、あんなふうに拉致して彼女の肌に自分の焼印を押して…などと考えていたのに違いない、そして逆に男に熱を上げた夫人は、手紙を書いても返事の一つももらうことができず煩悶する。彼を想うあまりにすべてを捨て修道女になり葛藤のうちに死んでいくー。しかも死んだ女に男は未練も見せず、海へ葬るのである。小説の上で見事な復讐を果たし、カタルシスを得ていたバルザックの姿が見えるような気がして、なかなか面白い映画体験だった。

それにしても、映像はきれいだった。徹底した時代考証のもとに作られたという邸宅、装飾、そして美しい衣装。それだけでも観る価値はあったと思う。
ただし、公爵夫人役の女優はもっと若いほうがよかった。20代後半から30代の人物だと思うが、今年40歳のジャンヌ・バリバールが40代後半に見えてしまった。それも違和感を感じる一つの要因だった気がする。
コメント
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