『悟浄出世』-新たな旅立ちの巻-

 さていよいよ『悟浄出世』も最終回。どんな結末にあいなりますやら……。

 悟浄が木叉恵岸の言葉(前回でご紹介)を聞いて、こんなことをとりとめもなく考えました。

――そういうことが起こりそうな者に、そういうことが起こり、そういうことが起こりそうな時に、そういうことが起こるんだな。――中略――今の夢の中の言葉だって、女禹や蚯髭鮎師(きゅうぜんねんし)の言葉と、ちっとも違ってやしないんだが、今夜はひどく身にこたえるのは、どうもへんだぞ。
 しかし、なぜか知らないが、もしかすると、今の夢のお告げの唐僧とやらが、本当にここを通るかもしれないという気がしてしかたがない。そういうことが起こりそうなときには、そういうことがおこるものだというやつでな。……--

 彼はそう思って久しぶりに微笑した。

 その秋、果たして、大唐の玄奘法師と会い、その力で水から出て人間にとなりかわることができた。そうして、天真爛漫な孫悟空と、怠惰な楽天家猪悟能(猪八戒)とともに、新しい遍歴の途にのぼることとなった。
 しかし、その途上でも、まだすっかりは昔の病の抜けきってきない悟浄は、依然として独り言の癖を止めなかった。彼はつぶやいた。

――どうもへんだな。どうも腑に落ちない。分からないことを強(し)いて尋ねようとしなくなることが、結局、分かったということなのか?どうも曖昧だな!あまり見事な脱皮ではないな!フン、フン、どうも、うまく納得がいかぬ。とにかく、以前ほど、苦にならなくなったのだけは、ありがたいが……--

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 ここから先は、みなさんご存じの西遊記。長い間、連続でお読みいただきました、中島敦著『悟浄出世』、これにて、読み終わりとさせていただきます。
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