『悟浄出世』-登竜門の譬えの巻-

 悟浄の肉体はもはや疲れ切り、ある日、彼はとある道端にぶっ倒れ、そのまま何日も眠り続けた。
 目が覚めてから、悟浄はどこからともなく聞こえてくる歌に耳を澄まします。

 江国春風吹不起(こうこくのしゅんぷう、ふききたらず)
 鷓鴣啼在深花裏(しゃこないて、しんかのうちにあり)
 三級浪高魚化竜(さんきゅうのなみたこうして、うおりゅうにかす)
 痴人猶斟夜塘水(ちじんなおくむ、やとうのみず)

(名取アヤフヤ訳、トホホ。)
 河の中の国には(心をはればれとさせるような)まださわやかな春風は吹かない
 山うずらはただ啼くばかりで、多くの花の中にいて姿も見えない
 三段の滝をのぼりきった魚は竜になるという故事があるのだが(「登竜門」という言葉はこの話が元)
 愚かな人はいまだに、夜の河の水を酌んでいる

 この歌をいつまでも聞きながら悟浄は夢とも幻ともつかない世界に入っていきます。周囲の水草も魚の影も突然消え去り、えも言われぬよい蘭麝(らんじゃ・※蘭と麝香[じゃこう]の香り)の匂いが漂ってきました。
 と思うと、見なれぬ二人の人物がこちらへ進んで来ます。

 それは…… 観世音菩薩とその弟子、木叉恵岸(もくしゃえがん)の二人。
 さぁて、この二人からのサジェスチョンは……。次回。
 あと二回で終了です。

  ※     ※     ※
 今日から二日間は実家(寺)のお手伝いモード。密蔵院のことも自分のことも、何も手がつけられない二日間とあいなります。
 車で5分の所に在る実家ですが、
「惚れて通えば 千里も一理 父母眠る場所だもの 私が育った寺だもの」(都々逸にしちゃ、最後の七五が余計だわさ)ベ、ベん、べんといったところです。
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