常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

夢の琴

2019年01月16日 | 万葉集

先日の初吟会で箏の演奏があったが、万

葉集には、大友旅人が、夢に出た琴を都

の権勢者である藤原房前に贈ったことが

歌の贈答で知られる。            

言とはぬ木にはありともうるわしき

君が手馴れの琴にしあるべし 大伴旅人

 

旅人の夢枕の現われたのは、琴の化身と

なった娘子である。その娘が言うことに

は、「私は対馬の高山に生えていた桐の

木です。大空の美しい光に浴び、山や川

の陰で遊び暮らしていました。ただ一つ

の心配ごとは、寿命を終えて世に役立つ

こともなく谷間に朽ち果てることでした。

幸いなことに、立派な匠の手で切られ、小

さな琴になりました。とても立派な音を出す

とはできますまいが、徳の高い方の傍に

置かれることを願っています。」

 

旅人が読んだ歌は、この琴の化身である

娘に応えて詠んだものだ。あなたのよう

お方なら、きっと立派な方の膝に置か

れる琴になれますでしょう。夢から覚めた

旅人は、夢を思い浮かべ、この琴を都の

権勢家である藤原房前へ、公の便に託し

て贈り届けた。この時旅人は、太宰帥で

65歳の老境にあった。大伴氏に権勢は、

すでに衰退に向い、旅人は太宰府にあ

って梅の宴を開き、讃酒歌を詠んでいる。

藤原氏は光明子を皇后に立てるべく、

邪魔になる長屋王を失脚させる策略を立

てていたが無力な旅人は、この琴を贈る

ことによって、自らの延命を図ろうとしたの

である。

 

言とはぬ木にもありとも我が背子が

手馴れの御琴地に置かめやも 藤原房前

琴を贈られた房前の返歌である。この歌

の通り、琴を愛でるとともに、大納言の

職を授け、都の官に復せしめた。琴は

国の漢詩にも出てくるが、古来から貴

族の楽しみとして親しまれてきた。 

コメント
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