彼女は食べていた。いつもいつも、気がつくといつの間にか口の中へ食べ物を押(お)し込んでいた。それは友だちに指摘(してき)されるまで、彼女にはまったく自覚(じかく)がなかったようだ。
――その友だちの家に遊(あそ)びに来た彼女は異様(いよう)だった。大きなリュックを背負(せお)い、お菓子(かし)の大袋(おおぶくろ)からポテトチップスを取り出しては口へ運んで行く。彼女の口の回りと指先(ゆびさき)は、油(あぶら)でべとべとになっていた。友だちは彼女を部屋へ入れるなり心配(しんぱい)そうに訊(き)いた。
「どうしたのよ? あなた、変よ。何かあったの?」
彼女は口をモゴモゴさせながら、「別に何にもないよ。何かお腹(なか)が空(す)いちゃって…」
彼女は背負っていたリュックを開いて、別のお菓子の袋を引っぱり出した。リュックの中を覗(のぞ)くと、いろんな食品(しょくひん)でパンパンになっている。友だちは彼女の腕(うで)をつかんで言った。
「近くに良いお医者(いしゃ)さんがいるの。そこへ行って診(み)てもらいましょ」
その医者は診察(しんさつ)を終えると、待合室(まちあいしつ)で不安(ふあん)そうにしている友だちに言った。
「過食(かしょく)になったのは、食欲(しょくよく)の虫(むし)が原因(げんいん)ですな。最近(さいきん)多いんですよ。虫下(むしくだ)しを飲んでもらいましたので、すぐに良くなるでしょう」
トイレ中から水の流れる音がした。配管(はいかん)を通って汚物(おぶつ)が下水(げすい)へと流れていく。その流れの中で浮(う)き沈(しず)みしている小さな虫。よく見ると、それは下水の中に無数(むすう)に存在(そんざい)していた!
<つぶやき>食べ過ぎは身体(からだ)によくありません。無理(むり)なダイエットにも気をつけましょ。
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