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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0754「神隠し」

2019-12-23 18:28:36 | ブログ短編

 同僚(どうりょう)と会社(かいしゃ)から出ると、外(そと)は霧(きり)に包(つつ)まれていた。その同僚がぽつりと言った。
「こんな霧の夜は気をつけないとな。神隠(かみかく)しが出るんだってよ。お前、消(け)されるなよ」
 私はまったく本気(ほんき)にはしなかった。そんな作り話を信じるような歳(とし)でもない。同僚と別れると、私は家路(いえじ)を急いだ。
 ちょうどそこは一本道になっていた。道の両側(りょうがわ)は大きな工場(こうじょう)の塀(へい)が続いていた。街灯(がいとう)が申(もう)し訳程度(ていど)に点(つ)いていて、霧のせいで前がよく見えなかった。突然(とつぜん)、目の前に人の姿(すがた)が現れた。白っぽいコートを着て、ピンクの傘(かさ)が目立(めだ)って見えた。その人とすれ違(ちが)うとき、顔はよく見えなかったが確(たし)かに女性だ。香水(こうすい)なのか、好(い)い香(かお)りがただよってきた。
 こんな時間、こんな場所(ばしょ)を女性が歩いているなんて…。私は気になって振(ふ)り返った。だが、そこには彼女の姿はなかった。さっきすれ違ったばかりなのに、こんなことって…。
 私は思わず駆(か)け出した。五十メートルは走ったか、脇道(わきみち)などまったくないはずなのに誰(だれ)にも出会うことはなかった。私は息(いき)を切らしならが立ち止まった。
 顔を上げると、霧が晴(は)れてきていた。そこで私は愕然(がくぜん)として叫(さけ)んだ。「ここは、どこだ!」
 周(まわ)りの景色(けしき)が一変(いっぺん)していたのだ。工場の塀は森(もり)に変わり、舗装(ほそう)された道路(どうろ)がでこぼこの岩(いわ)だらけの山道(やまみち)になっている。空(そら)を見上げると、木々の間から天(あま)の川がきらめいていた。
<つぶやき>気づかないうちにさらわれちゃったんですね。彼女はいったい何者(なにもの)なのか?
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