「あの…、本当(ほんとう)に、あたしでいいんですか?」
彼女は念(ねん)を押(お)すように聞き返した。突然(とつぜん)、彼から告白(こくはく)されたのだが、彼女には彼の真意(しんい)がまったくつかめなかった。
彼女は思っていた。自分は人に好かれるような人間(にんげん)じゃない――。美人(びじん)でもないし、性格(せいかく)だって明るい方とはいえない。それに運動(うんどう)は苦手(にがて)で、成績(せいせき)の方もぱっとしない。そんなあたしに、なぜ、どうして告白なんかしてきたの?
きっとあれだわ…。彼女はふと思った。どこかでみんな隠(かく)れていて、あたしのこと笑(わら)って見てるんだ。それで、あたしが告白に「はい」って言ったら、みんな飛(と)び出してきて…。きっとそうよ。――彼女は辺(あた)りを見回(みまわ)してみた。でも、隠れるような所はどこにも…。
ここは、よく考えないと…。彼女は思わず眉間(みけん)にシワを寄(よ)せた。
――そんな彼女の様子(ようす)を見て、彼は彼女に言った。「ごめんね、急(きゅう)にこんなこと…。返事(へんじ)は、今すぐでなくてもいいんだ。よく考えて…。また、今度…。じゃ、僕(ぼく)は――」
彼がくるりと背(せ)を向けて行きかけるのを、彼女はとっさに呼(よ)び止めた。そして、
「いいわよ」と声が出た。これには、彼女自身(じしん)も驚(おどろ)いた。こんなこと言っちゃうなんて…。彼女はうつむき加減(かげん)で繰(く)り返した。「付き合ってあげても、いいわよ。でも、その前に…。あたしの…どこを、好きになったのか教えてくれない?」
<つぶやき>ここで男は考えるのです。顔?パーツ?それとも性格(せいかく)? 何て答えれば…。
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