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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0751「寒がり」

2019-12-20 18:17:38 | ブログ短編

 彼はすこぶる優秀(ゆうしゅう)な探偵(たんてい)だ。どんな難事件(なんじけん)でもたちどころに解決(かいけつ)してしまう。だが、彼にはちょっと困(こま)ったところがあった。それは冬(ふゆ)になると依頼(いらい)を断(ことわ)ってしまうことだ。要(よう)するに、彼は寒(さむ)さが苦手(にがて)なのだ。寒い日に出かけようなんて、そんなことを考えるだけで身体(からだ)が震(ふる)えてしまう。まして雪(ゆき)でも降(ふ)った日には、こたつの中から出ようともしなかった。
 このことで一番迷惑(めいわく)しているのは助手(じょしゅ)の加奈子(かなこ)だ。冬だからと言って、依頼が無(な)くなるわけでもない。事務所(じむしょ)の電話が鳴(な)るたびに、彼女はため息(いき)をついた。
「あの…」こたつの中で丸(まる)くなっている探偵に加奈子が声をかけた。「警察(けいさつ)から電話ですよ。昨日(きのう)あった殺人事件(さつじんじけん)の捜査(そうさ)に協力(きょうりょく)してくれって」
 探偵は顔だけ上げて答(こた)えた。「私は、休養中(きゅうようちゅう)なんだ。君(きみ)だって分かってるだろ。春(はる)になるまで私は仕事(しごと)はしない。だから、君から、その…。頼(たの)むよ」
「今日はお日様(ひさま)も出てるから暖(あたた)かいですよ。お仕事しましょうよ」
「私はフルタイムで働(はたら)いてきたんだ。冬の間ぐらい休ませてくれたっていいじゃないか。休んでもいいだけの稼(かせ)ぎはあるはずだ。君の給料(きゅうりょう)だってちゃんと払(はら)ってるじゃないか」
 加奈子はため息をついて、「そういうことじゃなくて…。困ってる人がいるんですよ。助(たす)けてあげようって気にはならないんですか?」
「私だって困ってる。もし凍(こご)え死(じ)んだらどうしてくれるんだ。誰(だれ)が――」
「すぐに迎(むか)えに来るそうです。さあ、行きますよ。こたつから出て下さい!」
<つぶやき>探偵はしぶしぶ出かけたんでしょうね。助手の苦労(くろう)は春まで続くのでした。
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