「また君(きみ)か。ここは人生相談(そうだん)をする場所(ばしょ)じゃないぞ。私の仕事(しごと)は、この会社の業務(ぎょうむ)を円滑(えんかつ)にするための――」
「分かってます。それは分かってますけど…。でも、この間、アドバイスしてくれたじゃないですか。あれで、あたし、気持(きも)ちが楽(らく)になったというか、すごく…」
「あれは雑談(ざつだん)だ、アドバイスなんかじゃない。――で、今日は何の用(よう)だ?」
「あの、あたし、気になってる人がいて…。その人のこと、好きになったのかなって…」
「それは仕事のことじゃないよな。くだらない、私にどうしろと言うんだ?」
「だから、どうやったらその人と…。確(たし)かめたいんです、ほんとに好きになったのか…」
「君はそんなことも分からないのか? いいか、よく聞け。コミュニケーションをとらずして何も始まらない。まず、その相手(あいて)と会う機会(きかい)を増(ふ)やすんだ。そして話しかける。何でもいいんだ。天気(てんき)のこととか、たわいのない会話(かいわ)で十分(じゅうぶん)だ。そして君の顔を相手(あいて)に認識(にんしき)させる。そこまで来たら後は簡単(かんたん)だ。その相手に、君とまた会いたいと思わせるように――」
「ムリです。口下手(くちべた)なあたしに、そんな高度(こうど)なことができるはずないです」
「君は…、十分に私と会話をしてると思うがね。どこが口下手なんだ? まったく、その相手の男というのはどんな奴(やつ)なんだ? 一度見てみたいもんだ」
「あぁ、それは…。俺様(おれさま)的な、ちょっと人と見下(みくだ)してるとこがあるけど、根(ね)は真面目(まじめ)な…」
「ふん、まったく分からん。どうしてそんな奴を好きになるのか、理解(りかい)できないね」
<つぶやき>その相手って、もしかして…。どこに魅力(みりょく)を感じるのか、人それぞれですね。
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