しずくが寝(ね)かされている部屋。朝日(あさひ)なのか、淡(あわ)い光が差(さ)し込んでいる。しずくの顔を見下ろすように双子(ふたご)の姉妹(しまい)が立っていた。姉(あね)のハルがこわばった顔で静(しず)かに言った。
「始めましょ。今なら千鶴(ちづる)おばさんに気づかれずにやれるはずよ」
妹(いもうと)のアキが不安(ふあん)そうに答(こた)えた。「ムリよ。あたしたちだけで、そんなことできないわ」
「いまさら何よ。昨夜(ゆうべ)さんざん話し合ったじゃない。私たちだけでやるしかないの。おばさんは、この場所(ばしょ)をあいつらに教えてるわ。いつ敵(てき)がやって来るか分からないのよ」
「そうだけど…。このお姉さんの意識(いしき)につながったら、あたしたちも、どうなるか…」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。私たち二人でやれば、きっと上手(うま)く行くわ。お姉さんを起こさなきゃ…」
ハルは、自分にも言いきかせるように言った。アキは姉の真剣(しんけん)な顔を見て、やっと決心(けっしん)したように肯(うなず)いた。二人はしずくを挟(はさ)むように両側(りょうがわ)に座(すわ)ると、お互(たが)いに手を握(にぎ)り合った。そして、もう一方の手をしずくにかざした。ハルがアキを見つめて言った。
「絶対(ぜったい)に手を離(はな)しちゃダメだからね。…さあ、意識を集中(しゅうちゅう)して、入るわよ」
――ここは、しずくの意識の中。姉妹が漂(ただよ)うように浮(う)かんでいた。足下(あしもと)には暗黒(あんこく)の世界(せかい)が広がっている。二人は頷きあうと、手をつないだまま暗闇(くらやみ)へ潜(もぐ)って行った。深く沈(しず)むほどに光は消(き)えていき、すぐそばにいる姉妹の顔も見えなくなった。手をつないでいなければ、孤独(こどく)でどうにかなってしまいそうだ。二人は固(かた)く手を握り合った。
<つぶやき>姉妹はしずくを起こすことが出来るのか? それとも、戻(もど)れなくなるかも…。
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