徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:吹井賢著、『破滅の刑死者 内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』1~4巻(メディアワークス文庫)

2023年02月12日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

吹井賢の作品は今回が初めてなのですが、松岡圭祐の最新作を購入する際に角川の本に仕える25%割引クーポンがあり、こういうクーポンに惹かれて何か買うと貯金ができなくなるとは思いつつ、角川コーナーにあったこの素敵な怪しさの表紙と電撃小説大賞受賞に惹かれて『破滅の刑死者 内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』全4巻と『犯罪社会学者・椥辻霖雨の憂鬱』全2巻を大人買いしてしまいました。

『破滅の刑死者 内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』は、内閣情報調査室に極秘裏に設置された「特務捜査」部門、通称CIRO-S(サイロス)で扱う「普通ではない事件」、すなわち異能者がらみの事件の話です。
とはいえ、1巻でヒロイン雙ヶ岡珠子が勤めていたCIRO-Sは本物ではなく、Cファイルという異能者となる可能性のある子どもたちのリスト(と目されている)を取り返すべくとある企業グループが雇った組織でした。
そのCファイルのありかのヒントがあると目されていた暴力団事務所が襲撃に遭い、1人を除いて全員惨殺された。生き残ったのは一人の大学生・戻橋トウヤ。
珠子はトウヤに接触し、情報を得ようとしますが、彼が暴力団事務所から逃亡する際に襲撃者に見られてしまったということが分かると、保護の必要があると見て、上司のところに連れて行きます。
人手不足なのと、トウヤ本人の意思とで、保護ではなく事件解決のために協力することになります。

トウヤは実は異能者で、常に命を賭けていないと生きられないという人格破綻者。軽い口調とは裏腹にかなり頭脳明晰。
珠子は心臓が弱く、病院生活が長かったが、心臓移植を受けて健康になり、どうもドナーの正義感を受け継いでしまったらしく、純粋な正義感の持ち主。その純粋さがトウヤの気に入って、騙されていた彼女を救い出すことになります。
2巻以降は本物のCIRO-Sが登場し、トウヤと珠子の2人を組織に組み込むことにします。直接の上司は、警察庁からの出向だとういう椥辻未練警視。エリート官僚ではある一方、大学生の頃から能力が発現し、CIRO-Sのメンバーとして働いていたという過去の持ち主。かなり味わい深いキャラです。

Cファイルを巡る攻防は3巻で一応の決着を見るのですが、その決戦舞台となった豪華客船から救助されたのは珠子だけで、トウヤは彼女の救助を優先するために自分は船に残ってしまったので死んだものと思われ、4巻では記憶を消されてしまった珠子が自分を取り戻すストーリーになっています。
雰囲気的にこれで完結という感じではなかったので、再会して絆を深めたトウヤと珠子のコンビの今後の物語があるのではないかと思われます。

異能者関係の事件を担当する異能者で構成される警察内の秘密組織という設定はよくあるような気がしますが、エンタメ性は非常に高く、一度読み出したら止まらなくなる面白さがあります。
登場人物は皆どこかしらおかしく、破綻しており、精神的な健常人・常識人があまり出てこないというのも特徴的かもしれません。