福田の雑記帖

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インフルエンザ流行2015(3) 虚弱老人が感染して死亡するのは異常なことではない

2015年02月22日 16時44分12秒 | 医療、医学
 感染の洗礼を受けておらず、免疫が弱い幼児・学童がインフルエンザに罹患することはほぼ自然の摂理である。

 同様に、高齢化や種々の慢性疾患に罹患し、感染に対する抵抗力が乏しくなった虚弱な高齢者がインフルエンザに罹患しやすいのも同様である。しかも、インフルエンザ罹患を機会にもともとあった慢性疾患が悪化したり、摂食困難で全身状態が悪化したり、誤嚥によって呼吸状態が悪化することがある。もともとある慢性疾患の重症度は各人によって様々であろうが、年齢的にみて後期高齢者の多くはギリギリの状態で生きておられる方も少なくない。このような状況にある方がインフルエンザに罹患すると急速に重症化し、時には死の転機を取る。

 もっとはっきり言えば、インフルエンザに罹患してお亡くなりになるような方々は、罹患しなくとも一歩手前におられる方である。このような方は感染に対して実に脆い。

 後期高齢者でも全身状態が良く元気な方はもともと病院とか老人保健施設には入所しておらず、インフルエンザに罹患してもそれほど重症化せず、外来で十分治療可能である。

 病院とか老人保健施設で死亡患者が発生するとメディアは大騒ぎで、その施設・病院の対応の落ち度を探し出し、報道する。勿論、指摘事項は謙虚に受け止める必要があるが、ウイルスが侵入してくることを防ぐことは不可能である。対応に落ち度がなかった、ということもあり得ない。

 別疾患であって感染のレベルが異なるが、2002-03年に中国広東省に端を発した重症急性呼吸器症候群(SARS)は30ケ国で発症し、8069人発症、そのうち775人が死亡した(WHOのデータによる)。さいわい日本国内では発症しなかったが、その当時、私は県医師会の感染症担当であったために患者発生時の対応について国や県の担当部署と連絡を取り合いながら対応を種々検討していた。SARSは感染症として2類に分類され厳しい対応が求められた。患者を収容する医療機関ではスタッフへの感染予防対策を第一に考え、治療部門を独立させ、人的交流の遮断までも計画していた。治療スタッフは一定期間院内にとめおき帰宅させない、なども考慮していた。国内で発生したら大変な事態になっていたと思われる。非現実的な部分もるが、感染症の予防対策の基本はここにある。

 今の季節性インフルエンザは感染症分類では5類に分類され、このような予防対策は行われない。

 虚弱老人の多くは病院や施設に入所している。同じレベルで横並びにある虚弱者を一ケ所に集めてケアするという発想は効率性第一に考えた危険な方法である。それを国が計画し、社会が認めた方法で広く普及している。

 病院や老人保健施設にウイルスの侵入を完全に阻止できない以上、虚弱者が集まっている施設内で感染が生じることはやむを得ない。結果的に高齢者が死亡することも阻止できない。まず、その前提を社会が認めなくてはならない。このような背景の中、高齢者の幸せを願い日夜奮闘しているスタッフたちには敬意を表したい。その上で、院長ほか管理者にはベストな対策を講じることが求められる。
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