HON様より以下の質問を、お受けたしました。
◎ 釉薬の不安定領域とは。
シリカ・アルミナ相関図の中で不安定とされている領域についてお聞きします。
相関図の中でAl2O3が0.5でSiO2が3以下の辺りや、Al2O3が0.3以下でSiO2が5の辺りは
不安定と私の本「野田耕一著・釉薬づくり」には出ています。この不安定な領域についてもう少し
詳しく知りたいのです。そもそも不安定とはどの様な状態を言うのか、何故不安定なのか、成分に
よっては安定する場合もあるのかなどです。この領域で釉薬を作ってみたいのでお聞きする次第です
よろしくお願いします。
◎ 明窓窯より
1) 「野田耕一著・釉薬づくり」の著書を読んでいませんので、著者がどの様な状況の下で、述べて
いるのかは解かりません。(前後の記述があれば、推定出来るのですが・・・。)
それ故、一般論を述べます。 ご質問の答えとして、的外れに成るかも知れませんので、
ご了承下さい。
2) 釉薬の不安定とは?
① 釉薬として認められるには、釉が熔け過ぎ、又は熔け過ぎないガラスの状態をいいます。
) 熔け過ぎとは、釉が流動性を持ち過ぎ、作品から流れ落ちてしまう事です。
又、溶け過ぎる事で本来の光沢や色が出ない状態です。
) 熔け不足とは、釉が十分にガラス化しない状態です。
) 不安定とは、熔け過ぎや熔け不足が正常との境界線上に有る事を言います。
時には、過不足であり、時には正常になる状態で、安定的な釉に成らない状態です。
当然、窯の焼成温度によっても、左右されます。
例えば、マット釉の温度が高過ぎる場合、光沢が出る事や、透明釉が温度が低過ぎる場合
マット状態に成る事は、しばしば起こる事です。
② 不安定には、透明、艶消し(マット)、乳濁の状態が安定しない事も上げられます。
相関図は右上がりの数本の直線又は曲線で、描かれているのが一般的です。
) 上記の線は、境界線ですのでこの線上に調合した場合は、どちらに転ぶかは不明です。
実際にはこの線の右側と左側で急激(劇的)に変化する訳ではありません。この周辺で
徐々に変化すると考えるべきですので、この周辺は不安定領域になります。
) 相関図の直線又は曲線の下限が何処まで書き込まれているかです。
縦軸や横軸と交差しているもの、交差していない相関図もあります。
交差していない相関図では、実線で描かれた範囲外での調合は、保障できない範囲と
読み取ります。
・ 相関図は、釉の構成成分や諸々の条件によって各々違います。それ故、普遍的(決定的)
な相関図はありません。一つの目安です。
3) ここからがご質問に対する、私なりの答えです。
① Al2O3が0.5(モル)でSiO2が3(モル)以下の辺りが不安定。
) この調合は極端な艶消し(マット)釉の範囲内です。
SiO2が3(モル)以下とは、ガラス成分を作るシリカ(珪酸)が極端に少ない状態です。
それ故、ガラス質が少ない釉に成ります。(釉として成立するかも疑問です。)
) ガラス質が少ない釉は、素地との密着度が弱くなります。又、表面が「ざらつき」ますので、
汚れに対しても弱いです。 極端に「ざらつく」と手を傷つける恐れもあります。
更に、水を通し易くなりますので、水を入れる花瓶や汁物などの器には不向きです。
即ち、実用的な作品には成らない事になります。
② Al2O3が0.3(モル)以下でSiO2が5(モル)の辺りが不安定。
) この調合は極端な乳濁釉の範囲内です。相関図の中には、この調合では実線の範囲
外の物もあります。 当然不安定になります。
) Al2O3が0.3(モル)以下は、アルミナ成分が極度に少ない状態です。
アルミナ成分は釉のガラスを安定化させる働きです。
SiO2が5(モル)は、シリカ(珪酸)成分が極端に多い状態です。
シリカはガラス質を作る成分です。
・ 上記の調合では、多量に発生するガラス質に対し、そのガラスを安定化させる成分が
不足する事になります。ガラスの安定化とは、熔けたガラスを冷やしてもそのガラス状態を
保持する事です。ガラスの不安定とは、正常なガラス質になっていない事になります。
尚、正常でないガラス質とは、例えば、物理的、化学的強度的に弱い、素地との密着度が
悪い、ガラスが均質な状態に無い(気泡などを含む)等が考えられます。
4) 「この領域で釉薬を作ってみたい」とのご希望の様ですが、上記理由によって推奨できません。
あえて危険を冒してまで行う事は無いと思います。安全な調合は、境界線上や端ではなく
中央の範囲を利用すべきと考えます。
・ 勿論 人のやらない事から、新たな発見が有るのも事実ですので、試す事は悪くはありません
5) 多くの相関図は、著者自ら実験して作り上げたのでは無く、子引き、孫引き(引用、再引用
再々引用)の場合が多いです。
それ故、元のデータ(実験者名、調合例、窯の状態、焼成温度、焼成時間など)が不明な場合が
多く、それらを知る事も不可能になっているのが実情です。
・ 実験のデータにはバラツキが有り、必ず誤差(数%~20%程度)が存在するものです。
多くの相関図にはその様な記載はありません。
それ故、相関図の実線に惑わされず、その近辺は避けて方が無難です。
お持ちの相関図も絶対的と思わず参考程度に利用する事が肝銘かと思います。老婆心まで・・
以上。
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