4) 須恵器を作る環境。
③ 轆轤(ろくろ)に付いて。
須恵器制作の特徴として、轆轤の使用が挙げられます。
埼玉県の入間郡三芳町新開遺跡から、須恵器の工房跡が発掘され、回転台(轆轤)の
軸芯棒を埋め込んだと思われる穴(ピット)が発見されます。
) 轆轤の使い方は現在と異なります。
以前には、小型の須恵器は現在と同じ、水挽きによる方法と考えられていました。
しかし、当時の工房跡から発見された軸芯棒の穴から、強い遠心力を発生する事は不可能な
事が解かる様に成りました。高速で回転させ強い遠心力発生させる事が出来ないと、土を上に
伸ばす事は出来ません。それ故、轆轤(回転台)を使ったのは事実ですが、他の方法で制作
した事が解かります。
) 轆轤を使った、巻き上げ又は輪積み方法。(巻き上げ水挽き技法)
この方法は、轆轤(回転台)の上に円形の粘土板を載せ、その周囲に粘土紐を巻き上げ
又は、輪積により積み上げて、轆轤の回転力により形を整える方法です。
a) 成形時に手間は掛りますが、小さな(弱い)遠心力で同一規格の製品を短時間で作れます
b) 須恵器の壷などの外側には、轆轤によって巻き上げの粘土痕が消されたと思われる跡が
見られる物や、内側には不完全な処理で積み挙げた痕がある物もあります。
c) 7世紀の須恵器では高台の付く器が生産されますが、ほとんどは、付け高台に成って
いますので、轆轤より切り離した跡は見られません。
8世紀に成ると盤(皿)など平たい須恵器が多く作られる様になり、8世紀中頃からは
轆轤での「糸切」跡や「箆(へら)起こし」などの跡を処置せずそのまま残す作品が多く
なります。その結果、渦状の跡や同心円状の「箆おこし」の跡が底に残り、轆轤を使って
作品を作った事が解かります。
・ 糸切の場合、轆轤を回転させながら切る回転切と、轆轤を静止させた状態で糸切を
行う場合では、その跡に違いが出ます。同様に「箆起こし」も回転と静止の状態では
その跡は異なります。
・ この底跡から、轆轤の回転方向や、糸を入れる際の方向、糸のからめ方等が判明する
様に成ります。
) 整形の仕方。
轆轤の上で成形された粘土は次に整形の作業に入ります。整形には「撫(なぜ)整形」と
「箆整形」が有ります。
a) 「撫整形」とは、指や皮革を使い器面を綺麗に撫ぜ、平滑に仕上げるものです。
轆轤の回転に合わせて一定方向に撫ぜる方法と、方向性の無い方法があり、前者の方が
新しいやり方です。
b) 「箆整形」とは、箆(へら)状の工具を使い余分な個所を削り取ったり、肉厚を薄く削り取る
などの方法で整形する方法です。轆轤を回転させながら連続的に削る方法と、静止した
状態で削る方法があります。回転削りは須恵器で多用されています。
) 叩き(たたき)技法。
壷や甕(かめ)などの大物は、内側に当て用具を当て、外側から叩き棒(木製、陶製)で叩き
整形する方法です。その目的は、土を締める事で割れを少なくする事と、肉厚を薄くし重量を
軽くする事です。 土を叩く事で、粘土中に残る空気を叩き出す事も出来、更に器面の
平行文様や同心円状の文様は叩き棒の叩いた跡や、棒に付けられた文様の跡です。
5) 須恵器の種類。
以下次回に続きます。