ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

一見敵なしの安倍政権だが、私達も決して無力ではない。 全力で戦争国家への「手口」を止めていこう!

2013年11月11日 | 日本とわたし
【4】知る権利と報道又は取材の自由は保障されない 

1 知る権利と報道又は取材の自由をめぐる修正経過とその意味するもの


(1) 修正経過
9月3日に発表された特定秘密保護法案(以下「本法案」という)の概要では、
(この法律の解釈適用)の項で、
本法の適用にあたっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならない旨を定める」との訓示規定の提案がされていた。
 
その後、パブリックコメントにおける、国民のきびしい反対意見を経て、発表された政府原案の第6章「雑則」の(この法律の解釈適用)の項では、
報道の自由に十分に配慮するとともに、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならない」(傍線は修正部分)と、
報道の自由に配慮する旨の規定を、追加する修正がなされた。
 
さらに、国会上程前に、自民党と公明党との間で修正協議が行われて、結局、前記の点は、上程法案の21条1項で、
この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」と修正され、
また、21条2項で新しく、
出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする」(傍線はいずれも修正部分)との規定が加えられた。

(2) その意味するもの
この間の経過は、政府が、国民の意見を形式的に聞いて、臨時国会開会と同時に法案を上程し、多数を頼んで一気に法案を通そうと画策したものの、
国民の強い反対の前に、法案の手直しを余儀なくされ、その上程が遅れたことを示している。

 
ちなみに、1985年の「国家秘密に係るスパイ行為の防止に関する法律案」は、国会に上程されたあと、大きな反対運動の結果廃案となったが、
その後、(この法律の解釈適用)の項で、今回の法案の概要とほぼ同様の、基本的人権に関する訓示規定に、「表現の自由その他」を加えたうえで、
2項で新しく、
「出版又は報道の業務に従事する者が、専ら公益を図る目的で、防衛秘密を公表し、又はそのために正当な方法により業務上行った行為は、これを罰しない」との規定(傍線はいずれも修正部分)が、提案されたことが想起される。
結局この修正案は、国会上程に至らなかったが、この修正案は、今回の修正案の法的性格を考えるにあたって、参考となる。
 
本法案の修正過程は、1985年から1986年にかけての修正過程と類似しているが、
今回は、法案上程前に、いわば切り札とも言うべき修正をせざるを得なくなって、予定を遅らせて国会上程に至ったことが特徴
である。

2 解釈適用規定(21条)の性格と検討

(1) 21条1項
この項は、第6章の(雑則)の章に規定されており、
しかも、基本的人権に関する規定も含めて、「知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」との配慮を求めるだけの規定にすぎないうえ、
そもそも本法案は、特定秘密を隠して、その限りで知る権利も、報道、又は取材の自由も否定する立場に立っているから、
このような訓示規定に、権力の濫用を防ぐ効果のないことは、明らかである。
 
むしろ、多くの批判を受けて、ことさらこのような規定をおくこと自体、
実は立法者が、本法案が、基本的人権や、報道又は取材の自由を侵害する危険性を内在させていることを、自認していることの反映だと言うべきである。
 
また何よりも、昨年末に廃案となった情報公開法改正案における、「知る権利」の保障規定は目的条項であり、
国政に関する情報は国民のものであって、情報公開法は国民の知る権利に奉仕するものであるという、この法律の基本的性格を示しているのに対し、
本法案に規定された知る権利は、単なる訓示規定であるから、その性格は全く異なる

(2) 21条2項
取材行為に関する規定であり、1986年に提案され国会上程には至らなかった
いわゆる「スパイ防止法」(国家秘密法)の修正案や、刑法230条の2の名誉毀損罪における「専ら公益を図る規定と、類似した条文である。
 
しかし、これが、以て非なることは、①項で明らかにし、
②項以下で、いわゆる、スパイ防止法の修正案の際に批判された多くの論点が、ここでも妥当することを明らかにする。

① 
1986年に提案された前記修正案は、まがりなりにも「これを罰しない」との規定であったが、
それでも、これが、違法性阻害事由か訓示規定か、必ずしも明らかではないと批判され、
また、詳細な検討の結果、この規定の新設によって、不可罰となることはほとんど考えられない、と批判された。
次に、名誉毀損罪については、一定の要件のもとに、「これを罰しない」と規定され、違法性阻却事由として解釈適用されているのに対し、
本規定の末尾では、「正当な業務による行為とするものとする」と、あいまいな規定がされているだけであって、
立法者が、これを違法性阻害事由として規定しているとは思われない
 むしろ、「雑則」の章に、明らかに訓示規定である1項と並んで、規定されていることは、この2項もまた、訓示規定であるとの疑いを強めざるを得ない。

② 
「出版、又は報道の業務に従事する者」「正当な業務」の定義とその範囲を、どう考えるのであろうか
フリージャーナリストがこれに含まれるのか疑問であり、また、オンブズマン、NPO、学者・研究者、一般国民については、当然不適用になると思われる。
次に、「正当な業務」とされるのは、「特定秘密の取得行為」とされる「取材行為」だけであろうから、
業務従事者だけの、かつ情報に接近する行為の一部が、この規定の適用を受けるにすぎない。
これでは、出版、又は報道の業務に従事する者の「取材行為」だけが、「正当な業務」として一応保障の対象になる、ということになる。

③ 
しかも、「取材行為」の「正当業務」性には、「専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは」との限定が付されている
しかし、「専ら」が文字どおり「専ら」なのか、「主として」と解釈されることになるかは明らかではない。
また、「著しく不当な方法による」とあるが、その対象となる行為は「取材行為」であって、
結局、犯罪とされる「特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得」する行為を指すことになるから、同じことを言っているに過ぎず
いずれにせよ、そのあいまい性、無限定性は著しい

④ 
また、そもそも「公益」とは何であろうか
本法案第1条に規定された目的は、
「我が国及び国民の安全の確保に係る情報」(引用者注、「秘密」)の保護であるから、このいわば「国益」に優越する「公益」とは何か明らかではなく、
結局、本法案の目的に優越する「公益」が認められる余地は、ほとんどないであろう。

⑤ 
さらに、出版、又は報道の業務に従事する者の取材行為については、
もともと刑法35条を根拠に、報道目的という正当業務行為に基づく違法性阻却事由を主張することもあり得るところ、
本規定による「専ら公益を図る目的」は、むしろ要件を加重する結果になることにならないであろうか。

⑥ 
そもそもこの規定は、本法案に基づいて指定された秘密についても、適用されるということにはならないと思われるから、
結局、この規定によっては、何も保障したことにならない

⑦ 
「取材行為については」「専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは」との規定が、
実際の取材現場や、警察等の捜査、刑事裁判における審理のあり方に、具体的にどう影響を与え機能するのであろうか
仮に刑事裁判になってから、被告人、弁護人が、違法性阻害事由の主張ができたとしても、少なくとも犯罪構成要件には該当するので、
これに基づく捜索、押収、逮捕、呼び出しなどがなされれば、それは取材、報道の自由に対する重大な脅威となり、
取材する側にも取材される側にも、著しい萎縮効果が及ぶ
であろう。

また、「専ら公益を図る目的」「法令違反又は著しく不当な方法」についての立証責任は、事実上、捜査や裁判を受ける側が負うことにならざるを得ないであろう。  
(守川幸男・千葉)


【5】秘密保護法と国会の弱体化・空洞化 

1 憲法が保障する国会の権能・・・特に行政監視権能

 
国会は、主権者である国民の代表機関であり、憲法上、国権の最高機関、唯一の立法機関である(憲法41条)。
国会は、その憲法上の権能を発揮するために、行政機関が保有する情報を広く収集し、法案審議に活用し、行政を監視する活動をなす。
国会は、立法機関であると同時に、行政監視機関である。
 
憲法上、衆参両院には、国政調査権が保障されている(憲法62条)。
国政調査権は、国政に関して調査する、議院に与えられた権利である。
実際には、野党が国家権力に対し、国政調査権を通じて、国民の知る権利にこたえる情報を入手し、国政に反映させるという重要な役割を果たす
行政の保有する情報は、国民のものであり、原則として公開されなければならない
行政の保有す情報を活用し、行政を監視することは、行政権限が強化されている「行政国家現象」と言われる現代社会において、
国会の各院が、主権者たる国民の負託にこたえる、極めて重要な権能である。

2 秘密保護法案による国会権能の変質・・・「秘密会」
 
ところが秘密保護法案は、「特定秘密」を各院に提供する場合は、「公開しない」こと、非公開の「秘密会」(憲法57条1項但し書)とすることを要求している
憲法上の「秘密会」の開催には、公開原則の例外として、「出席議員の3分の2以上の賛成」が必要である。
 
日本国憲法のもとで、本会議において、秘密会が開催されたことはない。
しかし、戦前の大日本帝国憲法の下では、秘密会が頻繁に行われていた
衆院・参院あわせて、本会議で、少なくとも41回にのぼっている。
政府の要求で開催された秘密会は、総計31回(衆院17回、貴族院14回)と、約8割を占めている。
その内容は、治安維持法事件の報告、戦争(満州事変、支那事変)の報告、空襲被害状況の報告等である。
戦前の帝国議会が、議会を非公開とし、国民への情報提供を拒絶した内容は、
侵略戦争や言論弾圧などの、権力の暴走や大災害など、国民の安全、国の将来にかかわる重大問題ばかりである。

 
重要な情報を国民に隠ぺいし、国会を、政府の戦争遂行の翼賛機関としてきた事実がある。
 
現在、衆院で、自民・公明の与党は、3分の2以上の議席を占めており、野党議員の要請があっても、与党が反対すれば、秘密会は開催できない。
参院では、自民・公明の与党が過半数の議席を占めており、秘密会開催は不可能である。
安倍自公政権のもとでは、「秘密会」による国会での秘密の審議は、事実上不可能である。

3 「秘密会」での討議内容も秘密・・・5年以下の懲役刑
 
秘密会が開催されても、秘密会で知りえた秘密を漏えいすれば、国会議員といえども、5年以下の懲役に処せられる(秘密保全法22条2項)。
 
秘密会に出席して、「特定秘密」を知得した議員は、
自分の所属する政党・会派に持ち帰って議論することも、その調査を秘書に命じることも、国民にその情報を知らせることも、専門家に意見を聞くことも、
「秘密の漏えい」に該当し、処罰される
ことになる。

4 重要情報の提供拒否も可能
 
秘密会が開催されても、行政機関の長が、「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす」と判断すれば、結局、秘密を提供しないことが可能である(同法10条1項)。
国会で、秘密会の開催が決まっても、最終的には、行政機関の長の判断によって、重要情報が国会に全く提供されないことになる。
 
国会議員には、議院で行った演説・討論・表決については、院外で責任を問われないという免責特権(憲法51条)がある。
秘密会で知得した秘密を、院内の活動で発言しても、刑事責任は問えないことになっている。
「秘密漏えい」の懲役5年以下の刑罰の脅しが、効かなくなる。
そのため、行政機関の長に、秘密提供の拒否権を認めた
のである。
 
免責特権は、国会議員が自由に発言を行うことができなければ、その本来的な使命を果たすことが出来なくなりことから、
院内における言論の自由を、特に保障することによって、議会制度を保障するものであり、各国の憲法において等しく認められている。
特に、日本においては、戦前、大日本帝国憲法のもと、治安維持法による言論統制が強まり、
翼賛議会のもとで、国会議員の活動が制限され、本来の使命を果たせなかった、という苦い教訓もあって、
主権者たる国民の代表者としての、国会議員の活動を保障するための、重要な権利となっている。
 
この免責特権による国会議員の活動を制限するのが、秘密保全法案である。

5 独自ルートによる秘密の入手と公開
 
国会議員が、独自のルートから秘密を入手して、国民に知らせること、国会の審議の中で提示し活用することは、処罰の対象となっていない。
 国会議員に対する処罰は、「秘密会」に提供された秘密を、「漏えい」した場合のみである(秘密保護法10条2項)。
 
1985年に、国会に提出された「国家機密法」には、独自ルートで入手した秘密の単純漏洩罪も、処罰対象とされていた。
しかし、偶然に入手できた秘密の漏えいを、処罰対象とすることは、国民の知る権利や、議会制民主主義も否定するに等しい、との痛烈な批判がなされた。
そのため、秘密保護法案では、国会議員の処罰対象を、「秘密会」に提供された秘密の「漏えい」に限定したのである。
 
ただし、その秘密の入手が、「管理を害する行為」によるものとされた場合には、国会議員といえども処罰は免れない
秘密を公開した国会議員は、入手の段階で、刑事責任の追及を受けるリスクを甘受せざるを得ない。

6 国会の弱体化・空洞化・・・戦前国家体制の復活
 
秘密保護法制定の狙いの一つは、国民代表機関である国会を、弱体化・空洞化することである。
憲法によって、国権の最高機関としての権能が認められている国会が、国家権力の問題点を浮き彫りにし、国政に国民の声を反映させることを、阻止する狙いがある。
国会への情報提供を、「秘密会」により制限し、提供を受けた国会議員による情報の漏えいを、刑罰で脅し、
免責特権により保障されている国会議員の、院内での活動を制限するために、「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす」と判断して、情報提供を拒絶する。
国会は、国権の最高機関の地位を失い、国家権力の監視下に置かれることになる。
まさに、戦前の翼賛議会、治安維持法下での、言論弾圧のような社会が生まれることになる。  
(長澤 彰・東京)


【6】秘密保護法が生み出す暗黒裁判―――「秘密」の立証、「秘密」は裁判所に提出されない

1 秘密保護法による重い処罰

 
法案には、重い罰則規定が存在する。
 
罰則の内容は、特定秘密の取扱いの業務に従事する者が、その業務により知得した特定秘密をもらしたときは、10年以下の懲役(法案22条1項)、
第9条、又は第10条の規定により、提供された特定秘密について、当該提供の目的である業務により、当該特定秘密を知得した者がこれを漏らしたときは、5年以下の懲役(同条2項)に処する。
これらの罪の未遂も罰し、過失により漏らしたときも罰する
 
また、人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取、
若しくは損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス行為、その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、
特定秘密を取得した者は、10年以下の懲役に処し(23条1項)、未遂も罰する
更に、これらの行為の遂行を共謀し、教唆し、又は扇動した者も、処罰することにしている。
 
国家公務員法に違反して、秘密を漏らしたときは、1年以下の懲役(国家公務員法109条)であり、
自衛隊法に違反して、防衛秘密を漏らしたときは、5年以下の懲役(自衛隊法122条)とされている。
これらと比較しても、極めて重い処罰である。
 
この重い刑罰を課すための捜査、裁判は、どのように行われるのであろうか。
 
表現の自由に関する裁判は、必ず、公開の法廷で行わなければならないのであるから(憲法82条2項)、
公開の法廷に、その漏らしたと言う「特定秘密」を顕出すると、「特定秘密」の内容が公表されることになるので、
「特定秘密」を指定した側は、それを拒否する
ことになる。
そのようにして、「特定秘密」の内容が明らかにされないまま、裁判が進み、判決を言い渡されることになる
と予想される。
 
事件と裁判はどうなるか。

2 基地に反対する住民の逮捕と起訴
 
現在、米軍移動式早期警戒レーダー(Xバンドレーダー)を、京都府丹後市の航空自衛隊経ケ岬分屯基地に、配備する計画が進行している。
 
こんなことも起こるだろう。
 
住民のなかに、配備されるXバンドレーダーが、健康に悪い影響がないか、
あるいは、多数の米軍人が配属されて、米軍人による犯罪が増えるのではないか、などの心配が広がった。
反対する住民たちが、Xバンドレーダーの詳細を知りたいとお思い、相談をして、基地の自衛隊員に接触をして、情報提供を呼びかけた・・・。

 
秘密保護法では、「特定秘密をもらすこと」を「共謀し、教唆し、又は扇動した」者は、処罰されることになっている(24条)。
この規定によって、共謀しただけで共謀罪が成立し、
教唆(そそのかし)をしただけで独立教唆罪が成立し(教唆をされた側が秘密を漏らさなくても成立する)、
他の人に呼びかければ扇動罪とされることになる。
 
これらを違法行為であると判断した警察は、住民の代表者らを逮捕し、警察が関係すると考える、あらゆる箇所の捜索差押を実施した。

住民の反対運動は、大きな打撃を受けることになる。
 
逮捕された代表者らが起訴されると、裁判を受けることになるが、
裁判では、住民が知りたいと思った「バンドレーダーの詳細」は、全く明らかにされないまま、審理が進むことになる。
被告人や弁護人は、刑罰をもって保護すべき、特定秘密(実質秘)に該当するかを争うことになるので、
「詳細」を明らかにするよう求め、証拠開示命令の申立をすることになるだろう。
しかし、検察官が、これを明らかにすることはない

3 法廷に「秘密」は提出されない
 
大阪高等裁判所、昭和48年10月11日、国家公務員法違反被告事件判決は、
「刑罰によって保護するに値する秘匿の必要性、すなわち、いわゆる実質的秘密性を備えたものでなければならず、単に、国家機関により秘扱の指定がなされているだけでは足りない」
「裁判所は、国家機関の判断に拘束されることなく、独自に実質的秘密性の有無を判断すべき」
「もっとも、裁判の公開の原則と、秘密保護の要請は、互いに矛盾する関係にあるから、実質的秘密性を立証するには、必ずしも、秘密とされる事項の内容自体を、明らかにしなければならないわけではない」
「当該事項の種類、性質、秘扱を必要とする由縁を立証することにより、実質的秘密性を推認せしめ得る場合も」あるとしている。
つまり、外形から実質的秘密性を立証できる、としているのである(外形立証)。
 
裁判所は、インカメラ(刑事訴訟法316条の27第1項)により、「バンドレーダーの詳細」を見ることはできるが(法案10条1項ロ)、
これは証拠ではないので、これにもとづいて判決することはできない。
仮に、裁判所が証拠開示命令を出しても、検察官が提出に応じない場合(刑事訴訟法103条)は、「詳細」は法廷に提出されないことになる。
 
かくして、運動団体の代表者らには、自分たちが知りたいと思った秘密の内容を、全く知らされないまま、有罪判決が言い渡されることになるのである。
裁判官も、秘密の内容を知らないまま、有罪判決を言い渡すことになる。
有罪としても、本来は保護する利益(保護法益)との比較で、量刑が決められるのであるが、
何が秘密であり、被告人が侵害したと言う、保護法益の内容が明らかにされないまま、例えば「懲役~年」と決められることになると言う、
恐ろしい裁判を受けることになるのである。

4 記者の取材と報道の場合
 
特定秘密を取り扱う者が、新聞記者の、いわゆる「夜討ち朝駆け」等の取材攻勢に根負けして、
「A」という特定秘密を漏らし、その記者が取材源を秘匿して、「A」の存在を記事にしたとする。
 
どのような捜査と裁判が行われることになるのであろうか。
 
まず、「A」を漏らした犯人捜しが始まる。
 
捜査をするためには、「A」の内容を知らなければ捜査できないとして、
法案10条1項ロにより、「当該捜査又は公訴の維持に必要な業務に従事する者」として、検察官や警察官の一部の者に、「A」の内容が提供される。
警察官や検察官は、「A」の内容から、「A」を漏らした人を特定する。
 
裁判所から、逮捕状、捜索差押令状の発布を受けて、強制捜査が行われる。
但し、逮捕状請求書や捜索差押令状の請求書には、「A」は使用されず、特定秘密であることだけが記載されることになる。
最近の捜索差押は、捜査する側が大きく網を広げて、事件と関係があるかないかにかかわらず、一網打尽に押収する
パソコンを押収し、内部データをコピーして解析をするなどの、大がかりな捜査が行われる。
漏らした人は逮捕され、連日の取調べで、自白を強要される。
その結果、不当な取材方法であったとして、記者も逮捕・起訴されることがある。
 
取材行為については、
「専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反、又は著しく不法な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする」(法案21条2項)とされているが、
それを判断するのは裁判所であるので、判決までの間、裁判をたたかわなければならない。
 
最終的に、最高裁判所で無罪判決を勝ち得たとしても、この間の、失われた数年間の時間は取り戻せないのであり、
なによりも、国が隠そうとする秘密に対する記者の取材活動が、強制捜査の対象になり得ること自体が、
報道に与える萎縮効果は甚大
、と言わざるを得ない。                          


【7】イラク派兵違憲訴訟と「秘密」―――なにが裁判所の違憲判断を可能にしたか

1 イラク派兵差止め訴訟と情報収集

 
2003年、イラク戦争は、アメリカによる一方的な攻撃で始まった。
日本は世界に先駆けて支持し、イラク特措法を作り、2004年から本格的に、自衛隊をイラクに派兵した。
 
国は、イラク派兵の実態について、「人道支援」という宣伝をするばかりで、
その実態を明らかにするように求める情報公開請求に対しては、「墨塗り」の書面を出しつづけ、イラク派兵の実態を国民に隠蔽し、欺き続けた
 
そうしたなかで、イラク派兵差止訴訟弁護団は、独自の情報収集をした。
また、中日新聞・東京新聞など、一部のジャーナリストが、精力的にイラクでの航空自衛隊の活動の実態を取材し、報道を続けた。
そういった積み重ねの上で、
2006年7月に、陸上自衛隊が撤退したと同時にこっそりと始まった、航空自衛隊によるバグダッドへの輸送活動の実態が、武装米兵の輸送であることが判明した。
 
2008年4月17日、名古屋高等裁判所は、バグダッドが、当時激しい戦闘地域であり、
その最前線に、武装した米兵を多数送り込むことが、米軍との「武力行使一体化」にあたるとして、
憲法9条1項に違反するとの、イラク派兵違憲判決を宣告した。
 
もしあのとき、秘密保護法が成立していれば、弁護団の情報収集も、中日新聞・東京新聞の取材活動も、処罰の対象となりかねなかったのではないだろうか。
イラク派兵の実態は隠蔽されたままで、当然、違憲判決なども出ることがなかったであろう。
 
2008年4月に、違憲判決があり、当初、政府は、この判決を軽視する発言を繰り返していたが、
2008年の年末には、イラクから自衛隊を完全撤退させた。
 
憲法9条が、力を発揮したと言っていい。

2 情報収集と秘密保護法
 
名古屋高裁が、憲法9条違反の判決を宣告したのは、原告側が、イラクでの自衛隊の活動を、詳細に証拠として提出したからである。
その証拠は、我々原告弁護団が、イラク隣国ヨルダンへの調査を行うなどによって、独自に入手したものもあれば、
中日新聞・東京新聞の優れた記者達が、地道な取材活動によって入手したものもある。
 
こうした情報は、「外交・防衛」に当たるため、特定秘密に指定され、入手できなくなる。
そうであれば、憲法違反の事実が、海外で積み重ねられたとしても、情報入手ができない以上、憲法9条を活かす訴訟自体が不可能となり、憲法9条は空文化してしまう
 
さらに、違憲判決から1年あまり経った2009年10月、
国はそれまで、ほぼ全面的に墨塗りに形でしか「開示」してこなかった、航空自衛隊の活動実績について、全面的に開示をしてきた
その「全面開示情報」から、航空自衛隊の輸送活動が、人道支援でも何でもなく、武装した米兵の輸送が多数に上っていたことが、明らかとなった
 
仮に、特定秘密保護法があり、「特定秘密」に指定されていたとすれば、こうした情報が開示されることはなかったであろう。

3 国家安全保障基本法=平和憲法破壊基本法
 
安倍政権は、現在、秘密保護法と同時に、「日本版NSC設置法」を強行しようとしている。
さらに、来年には、国家安全保障基本法の制定を狙っている。
 
国家安全保障基本法は、集団的自衛権のみならず、海外での武力行使を、全面的に解禁していくことにつながる法案であり、
憲法9条を、完全に空文化させしまう法案である。
同法案では、国民に対する「防衛協力努力義務」も課されれ、
この基本法の下で作られて行くであろう様々な法律によって、戦争に反対すること自体が、処罰対象となりかねない
 
国家安全保障基本法の中には、秘密保護法制の制定と、日本版NSCの創設自体が明記されており、
この国家安全保障基本法と、特定秘密保護法と、日本版NSC法とは、一体となって、日本を軍事国家に作り上げる法体系の基本として機能していくことが予定されている。
 
国家安全保障基本法は、まさに「平和憲法破壊基本法」である。
 
明文改憲手続きを経ることなく、憲法9条に規範を根こそぎ否定し、
軍事中心の新たな国家体制を作り上げるのが、国家安全保障基本法であり、その大事な骨格となるのが、特定秘密保護法
である。
 
このようなやり方が認められては、もはや我が国は、立憲主義国家とは言えない
しかし、現実には、内閣法制局長官のクビをすげ替え、集団的自衛権を容認する人物を「長官」として送り込んだ
内閣法制局を握った安倍内閣は、一見「敵なし」である
国家安全保障基本法も、来年、制定に向けて大きく動くであろう。
 
特定秘密保護法は、戦争国家への大きな第一歩である。
 
特定秘密保護法が出来れば、自衛隊が海外に派兵されても、もはやその活動実態について、調査することは不可能になり、
活動実態についての情報公開について、国は応ずることもないだろう。
 
海外で、自衛隊が、憲法9条違反の行為をしていたとしても、その実態を、私達が直接情報収集をしていくことは、極めて困難になり、
憲法9条違反の活動は、国民に隠さてしまうだろう。 
そして、国家安全保障基本法の下、9条違反の事実が次々積み重ねられ、その「事実」に合う形で「法律」が次々作られ
憲法9条は、明文改憲手続きを経ることなく、あってもなくても良い規定になってしまう
 
特定秘密保護法は、単に「知る権利」云々、という問題にとどまらない。
私達が今直面しているのは、「平和憲法」の危機であると同時に、「立憲主義」の危機である。
 
立憲主義を破壊する、一連の「手口」に対して、大きく連帯していくべき時である。
 
幸い、広汎な連帯を行う大きな素地が出来つつある。
一見敵なしの安倍政権であるが、私たちも決して無力ではない。
全力で、戦争国家への「手口」を止めていこう。
  
(川口 創・愛知)

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