マンゴー、でっかいでしょ?
普通サイズの急須を並べてみました。
マンゴーの皮をむくたびに、幼馴染で親友の佐和子のおかあさんを思い出します。
彼女はいつだって微笑んでいて、口数はあまり多くなかったけれど、とても優しくてエレガントな女性でした。
あんまり優しいので、なんで彼女がわたしのおかあさんじゃないんだろうと、何度も何度も嫉妬したものです。
その親友と一緒に、毎週土曜日に、学校から直行で電車とバスを乗り継いで大阪まで通い、ピアノと音楽全般の英才教育を受けていた時、おばちゃんはいつも一緒についてきてくれました。
もちろん彼女は自分の娘の付き添いで来てたのだけど、わたしのことも大事にしてくれたのです。
ティーン時代から家の事情で暮らしがグチャグチャになり、すっかり疎遠になってしまいましたが、若気の至りで結婚し、30半ばで離婚して今の家族で暮らすようになってようやく、また会いに行こうかなという気持ちになって会いに行きました。
だからその日は本当に久しぶりの再会でした。
佐和子のおばちゃん(彼女の呼び名はいつもそうだった)は台所にいて、
「ほんと久しぶりやわまうみちゃん。ちょっと珍しいの食べさせてあげるから待ってて」と言い、わたしに背を向けて何かの皮をむき始めました。
お皿に乗ったオレンジ色に近い黄色い舟形のそれは、初めて見る果物でした。
「ちょうどいい具合に熟れてるから美味しいよまうみちゃん」
佐和子のおばちゃんはいつも、言葉の最後にわたしの名前を呼んでくれます。
わたしはそのこともとても好きでした。
彼女はニコニコしながら、わたしがそれを口に入れるのを眺めていました。
「うわぁ〜めっちゃ美味しい〜」と言って目を丸くしてるわたしを見るおばちゃんの目は、わたしと反対に虹みたいな線になっていました。
その時の夢のように甘いマンゴーの味と、おばちゃんの嬉しそうな顔を、30年も経った今でもはっきり覚えています。
そして、その果物が高価過ぎて買えなかったその時の暮らしのことも。
さて、果物に目が無い、ちょっと油断すると食べ過ぎるほどの果物好きのわたしに、果物アレルギーが襲ってきました。
50代後半に入った頃で、あまりに急だったので、かなりショックを受けました。
シーズン中には1キロが6ドル程度で買えるブルーベリーを、毎年口いっぱい頬張って食べていたのに、ある日突然唇がブワッと膨れ出し、あれよあれよという間に舌や上顎や喉が腫れて、息がし辛くなったのです。
なんだこれ?と思いながら、その急激な変化が恐ろしかった。
その後も諦めきれずにしつこく何回か試してみましたが、やっぱりダメ。
それなら違うフルーツでと思ったけれど、ベリーと名のつくもの、ブドウ、リンゴ、桃、ビワなどに、強いアレルギー反応が出ました。
しばらく果物を食べるのが怖くなり遠ざかっていましたが、季節の果物が店の棚に並び始めると猛烈に食べたくなります。
ただの食いしん坊ですね。
ブルーベリーを見送り、イチゴを見送り、桃を見送り、ブドウを見送り、そうこうしているうちにオーガニックの小玉スイカが売られているのを見つけました。
もしかしたら…と恐る恐る食べてみたら、あれ?全然大丈夫!
嬉しくなってお店に行くたびに買って食べました。
今のところ食べても問題が無いのは、スイカとザクロとバナナとマンゴーと柑橘類、そして時々梨。
マンゴーは日本だと高くて買えなかったけど、こちらでは巨大なのが一つ100円ぐらいで手に入るから嬉しいです。
それに食品だから消費税もかかりませんしね。
年々開花が遅れていたムクゲの花が、今年はとうとう丸1ヶ月遅れで咲き始めました。