ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

人生勉強

2013年08月15日 | ひとりごと
日本が酷暑でうだってるというのに、こちらは冷夏で掛け布団を一枚追加した。
最高気温でさえ25℃前後、夜などは13℃にまで下がってしまい、窓なんか開けてたらさぶくてしゃあない。



さて、旦那とわたしが、海辺でボォ~ッとしてた時、次男くんのガールフレンドまなつちゃんが、えらい災難に遭うてた。
ひと言で言うと、詐欺に遭うた。
彼女の妹が、半年ばかり、マンハッタンの語学学校で勉強するということになり、
独りで渡米して、こちらの大学を卒業し、今は自分の夢に向かってインターンをして頑張ってる彼女は、
自分と同じような苦労や思いをさせたくない、うんと楽しく過ごせるようにと、毎週末になるとアパート探しにマンハッタンに出かけてた。

詳しい話や経過を全く知らないまま、アパートが見つかったこと、そこは学校に歩いて通えて、周りの環境もすごくいい所だと聞いて、我々も喜んでた。

ところが……。



妹ちゃんが日本からやってきて、さあアパートにという時になって、仲介者にも、部屋のルームメイトにも、全く連絡がとれなくなった。
部屋の鍵を持ってる女性が、家族に急な問題が発生したとかで、フロリダに行ってしもた、などと言う。
すべては、Eメイルでのやりとりで、契約するにあたっての家賃一ヵ月分と委託金は、相手の銀行口座に振り込んでしもてた。
まなつちゃんはそら、真っ青になって慌てたやろうと思う。
結局、彼女がプリントアウトして持ってる、契約に関する書類は、次男くんですら、目を通してすぐに、なんでこんなんで契約になる?という、かなりチャランポランなもんやったらしく、
全部ひとりでやろうとした彼女の頑張りが、あだになってしまい、警察に届けようにも、相手が特定できんケースとして、どこの警察もまともに受け付けてくれんかった。

我々が海に行ってた間に、まなつちゃんと妹ちゃんは、必死で新しいアパートを探し、とりあえず8月の間だけ住めるハーレムのアパートを見つけた。
次の所はまだ検討中。



落ち込むまなつちゃんに、なんと言葉をかけてあげたらええのかと思いあぐねてたのやけど、
よう考えたら、このわたしこそ、子どもの頃からええ年した大人になるまで、なんべんも騙されてきた。
そや、まなつちゃん、あんたはひとりやないで、ここにもおるで!とばかりに、いろんな騙され話の中から、こちらで騙された話を選んでしゃべった。



あれは、こっちに引っ越してきて少し経った頃のこと。
中学の頃からの相棒で、わたしの家のゴタゴタにも十分過ぎるほど巻き込まれ、時にはやくざの家に、時にはどっかの倉庫に、時には三畳のボロボロの畳の上に、時にはすぐ下に排水溝がある湿気100%の部屋に置かれて、
満身創痍の、時には戦友、時にはなぐさめ役、時にはいじわるい友人やったピアノは、こちらに引っ越す際に、エイッとばかりに、ピアノを持てずに困ってる音大生にあげてきた。
ピアノなんか、そうそう簡単に買えるもんやないとわかってたけど、やっぱり家の中にピアノが無いというのはかなり落ち込んだ。
仕事もいつかは始めなあかんのやしと、旦那の父が半分出したるから、思い切って買えと言うてくれたので、
それならばと勢いこんで、丁度その頃、新聞の広告に入ってたピアノフェアの会場に行って、試し弾きしながら、値段とも相談しながら、まあこれやとまあまあ満足できると思たピアノを買うことにした。
契約の際に、AS IS という項目にチェックを入れなあかんかったのが気になったけど、新品のピアノなんやし、滅多なことはないやろと、旦那と話し合うてサインした。

ピアノが運ばれてきて、部屋にセットされ、運搬の業者にチップを払い、さあ、まずは磨いてやろうとピアノのフタを閉めた時、直径5センチぐらいの、板が剥がれて欠けてるところが目に入った。
え?なにこれ?
運送中の事故かな?
慌てて運送会社に連絡した。
絶対にそんなばずはないと言う。
分厚い布でグルグル巻きにしてたんやからと。
では、グルグル巻く時に、その傷に気がつかんかったかと聞くと、気がつかんかったと言う。



これでは埒があかんので、支払いをしたピアノ屋に電話をかけた。
全く誰も出ない。
次の日も、その次の日も、そのまた次の日も……。

悔しかった。
そういや、会場でもずっと、ピアノのフタが開いてた。
うちに運ばれてきた時も、やっぱり同じように開いてた。
開けてると、丁度その折り目の中に隠れて、見えへんとこに傷がある。
AS IS(ありのままで)というのは、こういうことやったんやな、と旦那はあっさりと降参し、それがまた悔しくて腹を立てた。
ファックスしたり、Eメイルを書いたり、電話をしたり、毎日毎日悔しかったし、腹を立ててた。
自分で自分を詰ったりした。
あっさり諦めて、わたしと同じように悔しがってくれへん旦那を恨んだりした。
ああこれは多分、なんぼ頑張っても粘ってもあかんな、ということに気づいたら、気分を変えて、人生勉強させてもろたと諦める。
そういう旦那の言うことを受け入れられたのは、かなり時間が経ってからのことやった。



そんな話を、まなつちゃんと一緒に聞いてた次男くんが、

「僕も騙されたやん、覚えてる?」と言い出した。

初めての、ゲームの世界大会やったEVOに出場するために、ラスベガスに行った時のこと。
次男くんはその時、ネットで見つけたえらい高い時計を買おうとしてて、その売り主と支払いのことで話してるうちに、なんかどうも怪しいと思たので、
丁度その相手がラスベガスに住んでるってんで、代金を直接手渡ししたいと申し出た。
行ってみるとやっぱり、インチキをしようと思てたみたいで、その話はおじゃんになったのやけど、
ホテルの同室の、ゲーム仲間の友だち数人に、いやあ、騙されんでよかったわ~という話をし、その額が500ドルであることも打ち明けた。
朝起きたら、財布から、その500ドルと、彼のグリーンカードが抜き取られてた。
もちろん、友だちにひとりひとり聞いて回ったけど、誰も知らんと言う。
次男くんもまさか、親しくしてるゲーム仲間がそんなことするやなんて……と、なんとも複雑な気持ちで、帰りの旅費を工面するのに散々苦労して戻ってきた。



みんな、騙されてるやん、けっこう。

まなつちゃんの重たい気持ちが、ちょっと軽うなったみたいな気がした。