まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

米国M&A Asset Deal契約の落とし穴条項

2015-06-12 23:58:32 | M&A
○ M&Aに手慣れた米国大企業の入札式部門売却、即ちAsset Dealでは、一次入札に通過すれば、売主からAsset Purchase Agreementの契約ドラフトを買主候補に提示して、二次入札価格とともに、(買主がマークアップした)契約書の修正版の提出を求められます。多くのカウンターをすれば不利に取り扱うよという脅しの文言付の2次入札手続手順書も送付されます。

○ 相手方提示のAsset Purchase Agreementですので、売主に非常に有利な内容が多いですが、その巧妙な内容に、日本の大手法律所(mhm等)の自称M&A専門弁護士も気づきませんし頼りになりません。特に以下のような実務上の重要点は、弁護士は殆ど知見をもたないので要注意です。
(1) 価格計算formulaと譲渡財産との間に差、即ち買収金額算定の根拠となった資産よりも譲渡される資産を巧妙に少なくしていることに気が付かない。
(2) Asset Dealですから、買主側で受皿会社を用意して従業員を引き受けないといけませんが、社会保険・年金等についての知見はない。
(3) 固定資産の承継や地方税である固定資産税等の税務知識もない。

○ もう少し具体的に記載してみましょう。
① Asset Dealですので、closing date現在の財産(承継資産―承継負債)の額は確定しません。事後的に確定して事後精算が発生します。買収価格としては、入札で提示した基本買収価格(Base purchase price)にclosing dateのNet (現金は承継しない)working capitalを加えて、これからclosing date debtの金額を差し引いた金額になります。
Working capitalを加える、即ちその重要な中身としてはAccount Receivables(A/R)がありInventory等の金額と合算しaccount payableを差し引いて算出します。しかし、ある契約のドラフトを見たら譲渡しないExcluded assetとして、all account receivablesと記載していました。即ち、買収金額算定にはA/Rを加えるのですが、承継対象資産からは除外されていたのです。数人のチームを組んで莫大な報酬を支払っている弁護士さんからは何の指摘もありませんでした。

② 従業員の承継については、結構詳しく記載している契約書ドラフトがあります。承継後1年間は待遇を悪くしてはいけないとか、同等のEmployee benefitsを求めるものもあります。中でも大変なのがasset dealですから年金制度の承継ができません。年金には旧制度の確定給付年金(Defined Benefit Plan=DB)と確定拠出年金(DC=Defined Contribution Plan=401(k))があります。DBなど掛金は会社負担ですが、DCは、枠組みは企業が設計しますが(日本と異なり)米国では個人拠出であり、会社は個人拠出に応じて一定限度までmatching contributionを行います。従いmatching contribution部分は、買収価格の調整でできますが、あくまでもメインは個人拠出ですので、買収会社で制度設計してその個人に加入してもらわないと継続はできません。このあたりの知見は弁護士にありません。買収会社を新規に設立する場合は、どんなに頑張っても類似制度制定までに半年は必要です。制度が無い場合は、60日以内にIRA(Individual Retirement Account)という個人退職勘定へ給付額を移管すれば、引続き非課税メリット(=課税を繰延べ)を享受できますが、各従業員個人で行ってもらうことになります(59.5歳前の引出&転職・退職に該当します)。

③ Asset Dealですので、お客様との契約の承継(契約上の地位の承継)については個別に手続きが必要となります。また許認可(製造業の場合は多いですね)についても自動で承継できるわけではないので個別承継手続きが必要です。ここで注意すべきことは、固定資産譲渡などで州政府などが譲渡税を徴収するのですが、契約書ドラフトでは、さらっと買主負担と記載していることもあります。当然お金を貰う売主負担が当然だと思いますので注意が必要ですね。

他にも、個々の契約では、いろいろ注意点が出てきますね。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« フィリピンでの会社設立 | トップ | 監査等委員会設置会社等について »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

M&A」カテゴリの最新記事