まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

「公正な価格」の算定時点―株式買取請求の場合

2009-08-26 00:22:48 | 商事法務

     事業譲渡・合併・分割・株式交換/移転・その他譲渡制限する定款変更等の場合、反対株主には株式買取請求権が与えられ、会社は、請求のあった株式を公正な価格で買い取らねばなりませんね。例えば、合併の場合、消滅会社側株主は785条、存続会社側株主は797条で反対株主は、消滅会社・存続会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。」としています。旧法では、408条の3等で「承認ノ決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格ヲ以テ買取ルベキ旨ヲ請求スルコトヲ得 」と規定していました。

     この変更理由としては、株主の中には合併自体については賛成であるが、合併対価として交付される財産の割当には不満足である者も存在しうる。このような株主が株式買取請求権を行使するのは、「合併の決議がなかったとすれば有していたはずである公正な価格」による株式買取ではなく、合併による企業価値の増加を適切に反映した「公正な価格」による株式買取であるので、「公正な価格」としたと説明されています。

     また、上場株式の「公正な価格」は、合併時の時価を基本とするが、合併直前に(直前ではない筈だが、直前と「一問一答新・会社法」には書いてある)消滅会社にTOBが行われた後に株価が下落したような場合には、合併の相乗効果はTOB価格に反映され、TOB後に公開買付者が支配権を取った影響と考えられるので、通常の公正な価格はTOB価格を下回ることはないと考えられると解説されています。

     上場株券を前提にして考えて見ましょう。反対株主は、株券が上場されていますので、何時でも売却できますね。即ちお金になります。売れないのは楽天のようにTBSの株式を持ち過ぎているときですね。20%弱(19.83%)も持っていたら、5%ルールで売却している事はすぐに分かるし、価格が下落してしまいます。合併が公表されるとその比率(合併比率=消滅会社の株式X株に対する存続会社の株式Y数)に従い、株価が鞘当てされますし、合併効果をマーケットが認めれば将来収益の増加期待で株価が上昇します。尚、TBS(楽天)の場合は、合併では無く、TBSが放送・映像・文化事業を完全子会社に吸収分割し(本体の中身を子会社に渡して)、TBS本体を持株会社化させるものですね。

     TOBがなされてその後株式交換で完全子会社にする場合は、価格が見えますね。合併とか株式移転の場合は合併比率・株式交換比率、TBSの様な吸収分割では、価格が見えません。しかし、株券は上場されていますので、株価が建っています。マーケット価格は無視できませんが、TOBがなされるケースもあります。従い、「公正な価格」とは何時の時点で何を基準に考えれば良いのかがポイントになります。

     買取請求権の行使は、例えば合併の場合①承認決議のなされる総会に先立って会社に通知し、②総会で反対の議決権行使を行い、③合併などの効力発生日の20日前から前日までの間に会社に買取請求しますね。株価は基本的には時価、その時の価格ですね。

ですから、「公正な価格」の時点としては、原則としては買取請求した時点でしょうね。まあ一応立案者が言うように合併時等になるでしょう。但し、その前に買収者がTOB等して株式をかき集めて、しかる後に株式交換等する場合は、TOBの価格になると思います。会社側としては、TOBの価格以外に公正な価格は、特別の事情の無い限り主張できないですよね。会社側がTOB以外の価格は提示したら、TOB価格より高値をだすとTOBに応募した株主から文句がでます。TOB価格より低い価格を出せば、二段階買収であり、最初は株主に有利な条件で株を集めて、それなりに集めてから残りを不利な条件で行う不公正買収ということで避難を受けることになります。

     レックス・ホールディングのように、業績の下方修正を公表してMBOするというのは、ごまかしですね。東京高裁は、会社提示価格の1.5倍が公正な価格として、現在最高裁で争われていますね。

     これに関して、「公正な価格」をチョー曲解して主張している企業があります。楽天ですね。顧問の法律事務所はどこなんでしょうね?西村あさひでしょうか?TBSの吸収分割の効力発生日は20094月1日ですね。ですから、TBS側の株式買取額は、3月31日の終値即ち1,294/株としています。しかし、楽天は改正放送法成立(20071221日)の前日終値2420円に提携実現による想定利益を加えて、日経新聞の推定で一株3,900円ぐらいが「公正な価格」と主張している様ですね。よくまあこんなこじつけと言いますか、1年半も前の株価を持ち出し、それに想定利益を加えて主張しますね。見境無く取得総額を回収しようとしています。それにしても、法律事務所というのは、顧客の要望とあれば、法律をこねくり回して突飛なと言いますか、まあでたらめに解釈するのだということがわかりますね。そういえば役職員への1円(=行使価額)ストックオプションでも、労務などの反対給付も明示もせずに有利発行にはならない、特別決議不要等と、曲解して論文まで出している弁護士もいますね。困ったものですね。

     では「公正な価格」の算定時点は何時が良いのでしょうか。考えられる時点としては、①合併などの時―会社法の立案者はそれを原則と考えているのでしょうね。効力発生日の20日前から前日までの間に会社に買取請求ですからね。その他②合併承認決議等がなされた時=総会で反対の議決権行使をした時ですね。また③TOB+株式交換のときも株式交換の決議が承認された(反対した)とき、又は株式交換の効力発生の時。但し、TOB価格が、承認決議・効力発生時よりも高値のときは、TOB価格を公正な価格とする。というのが常識的なところではないでしょうか。

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企業価値とのれん代の算出

2009-08-16 11:19:35 | M&A

       会社計算規則11条には、「会社は、吸収型再編、新設型再編又は事業の譲受けをする場合において、適正な額ののれんを資産又は負債として計上することができる。」としていますね。のれんは買収会社の投資勘定と被買収会社の公正価値評価による純資産の額との差額ですね。純資産=資産―負債ですから、「買収金額=資産―負債+のれん」となります(特殊な場合はマイナスのれんもありますが)

       買収金額の算定で一般的な方法として定着してきたのはDCF法ですね。米国の経営大学院で教えているCorporate Financeの基本理論です。優秀な多くのMBAの人達・学者先生が、様々な疑問も提示せず・十分な批判もせず、単純に日本に持ち込んだ猿まねの考え方です。この方法が不適切であることは、このブログでもしばしば書いてきました。Warren Buffettも、「バフェットからの手紙」で、「企業の所有者、すなわち株主たちにとって、学者たちのリスクのとらえ方は全くもって的外れで、ばかばかしいほどです」と言っていることも紹介しました。

企業価値・投資収益評価-DCF法について

http://blog.goo.ne.jp/masaru320/d/20070206

資本コストWACCの誤った考え方

http://blog.goo.ne.jp/masaru320/d/20080102

       DCF法による、企業・事業価値の算出は、その企業の将来のfree cash flowの現在価値の総和ですね。つまり企業が永久に存続する(Terminal Valueperpetual baseで計算した場合ですが←そんなことは現実にはあり得ませんが)前提等で計算されますね。前提の置き方と算出する人の意図で、いくらでもと言うと言い過ぎかも知れませんが、かなり自由に数字が作れる数字遊びの世界です。

       投資銀行(証券会社)などが、売り手Rep. ・アドバイザーとしてInformation Packageを作って持ってきます。大きく分ければ、①事実の記載、と②将来の業績予想・事業計画の2部構成です。事実はともかく、②の部分については、これ程信用出来ないものは無いですね。売り手企業は、買い主を見つけて企業・事業を買って貰えば良いわけですね。自分はこの企業を見捨てて売却します。あんたが買えば将来こんなにもうかりまっせというのが、事業計画の内容です(普通の金融商品販売では、必ず儲かると言えば金融商品販売法違反ですね)。勿論リスクファクターは書いていますけど。自分が経営を継続するわけでも無い将来の事業計画に基づいてDCF法等に基づき企業価値を算出しています。

  経営が替わるのに(一部は残るケース、あるいはMBO等もありますが)、また株主が替われば、相互補完・相乗効果も替わってきますが、そういう重要ファクターを無視したDCF法に基づく企業評価は、ばかばかしい方法です。

  これから事業が成長し利益も出るのに、何故売却するのですか?(勿論戦略転換等いろいろ理由があるにしても)。儲かるなら何故継続して自分で経営しないのですか。

では、話を元に戻して、どのようにして企業・事業価値を算出すればよいかですが、いろんな方法がありますが、一つとして方法としては、上記の算式の「のれん」を計算すれば良いのですね。

       事業は、人を前提として、物・金・情報(知恵)・(メーカ等なら)技術等が有機的一体として機能することによって始めて成り立ちます。上の算式を分解すると以下ですね。 

企業価値・事業価値・買収金額=資産―負債+のれん

         物+金=資産―負債

        のれん=情報(知恵)・技術等

  「のれん(営業権)とは、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊な製造技術及び特殊な取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を獲得することができる無形の財産的価値を有する事実関係」と判例では言っていますね。簡単には「超過収益力」等を言われています。

   まあ、「超過」かどうか別として、資産・負債だけ、特に例えば有形・無形固定資産等は収益・利益を生み出す基盤ですが、それ自体では収益・利益は生みません。従い、情報(知恵=例えばビジネスモデル等)・技術などに基づく利益創出力がのれんなわけですね。

   のれんは維持、改良・強化、追加等しない限り、急激に低下しぼんで行きます。のれんは非償却資産だなどという考えが、欧米(国際会計基準と米国会計基準)では一般的です。不可解な考え方です。

       ではのれんの適正な額はいくらなのでしょうか。簡単です、公正な価格とか適正な価格とかは無いのです。当事者が交渉して合意した価格がのれんの価格です。公正な価格では無く、合意価格です。即ち、税引き後利益の5年分とか、税前利益の3年分とか、あるいは経常利益の3年分とか、当事者が合意すれば良いのです。豚に真珠、のれんを取得する意味の無い人には、価値はありませんが、自分の事業と相互補完等ができる人には価値がありますし、高値で買ってくれる可能性があります。

       単体のれん(営業権)は、耐用年数5年の無形の減価償却資産です。これを有償取得した企業にとってみれば、やはり取得後3年目ぐらいには利益を出さないと買収する意味がありません。勿論相乗効果を十分考えれば、経常利益の5年分ぐらいののれん代を払っても3年目ぐらいで利益が出せるかもしれません。従い、のれん代は利益(税後、税前、経常)の3-5年分ぐらいが妥当だと思いますが、その範囲内で、当事者が交渉を重ねて合意した価格がのれん代となりますね。

       利益やキャッシュフローで企業価値を算出する方法がいくつかあります。例えば、EBITDAmultiple等ですね。利益だけということで、ちょっと単細胞的ですね。

私は、「資産―負債+のれん」という考え方は、結構合理的な考え方だと思います。

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産業革新機構について その②

2009-08-08 00:35:47 | 社会・経済

前回に引き続いて、産業革新機構についてです。今回は、投資対象と、投資の意思決定機関の産業革新委員会という、投資対象評価等出来る筈の無い集団無責任機関の「産業革新委員会」について述べます。

●投資対象:投資対象として以下の3つが書いてありましたので、それぞれについてコメントします。

     大学の特許の事業化:独立行政法人の科学技術振興機構(JST)は、大学発ベンチャー創出推進を行って来ました。「大学発ベンチャー」と言っても、実際は、大学の先生とベンチャー企業等が共同で申請して研究開発費等を受領していますので、民と学との協力による特許・技術の事業化ですね。

かなりおこなわれているようですが、全般的にはそれ程目立った成果は出ていないのではないでしょうか。大学発技術の展示会などでテーマを見ても、ちょっとRemoteというか、実用化という視点がないのが多いですね。社会に役立つ技術というのは、お客さんが興味を示し買ってくれる可能性のある技術・特許ですね。厳しい言葉で言えば、自己満足・唯我独尊では社会に貢献しませんね。

有力な特許を取得していても、それが事業化に結びつくと考える事自体、全く技術の事業化を理解していない人の発想ですね。仮にコアの特許を取得しても、事業化をするためには、関連特許、周辺特許を押さえないと事業化等出来ません。そんな周りの特許まで大学で取得している例を私はあまりしりません。大学には、そんな周辺迄開発できる人材、時間、技術、人(大学院生等)の継続性はありません。特許を元に要素技術のいくつかを開発しても、事業化の道のりは長く険しいですね。

でも成功例が無いかと言えば、少しはあります。筑波大学山海教授のロボットスーツの会社、サイバーダイン株式会社(http://www.cyberdyne.jp/index.html)ぐらいでしょうか。これも一朝一夕に出来た訳では無いですね。いろんな技術の組み合わせの成果ですね。20年間のロボット技術研究の成果です。こういう将来性の明るい会社には、多くの企業がお金をもって集まります。官民ファンド等のお世話は、大きなお世話ですね。

大学発ベンチャーは、山ほど出来ましたね。補助金を売上計上して、売上がたった等という馬鹿げた事も行われています。大学院の学生の事業化・企業化もありました。ただの事業遊びですね。かなり消えました。そんな大学院生の開発するおもちゃでどうして事業として存続・発展できるのですか?

     技術力はあるが資金の無いベンチャー企業

例えば、バイオベンチャーが一時はやりました。大学の先生が関与したベンチャーもありました。いくつかのベンチャーには金が集まりました。技術力があるのでお金が集まったわけですね。今は、これらベンチャーの話はあまり聞きません。たまに聞いても、累積損失が一杯の事業の現状の話です。

技術力がないと話になりませんが、それが売れる技術か、買ってくれる人がどれだけいるかですね。お客さんがいて始めてお金がもらえて事業として成り立つわけですね。

技術力があるかないかという視点がおかしいのです。要するに売れる技術を持っているかどうかなのですね。しかし、他にまねされない売れる技術の確立には短くて数年から10年ぐらいかかります。この産業革新機構というのは、成功するかどうかわからないのに、5年―10年ベンチャー企業を支えられるのですか?非常に疑問ですね。

ベンチャー企業が手がけられる事業分野は限られています。当然装置産業や製造装置製造等はかなり無理ですね。設計分野、ソフトウェア等の分野でしょうか。数少ない成功例として液晶=FDP関連半導体のファブレスメーカーのザインエレクトロニクスがあります。創業は91年です。時代の波に乗った、受託設計・下請けからスタートした、雌伏のときが10年弱あった、そうして花が咲いたわけですね。

技術力はあっても成功しない企業の数の方が多いですね。つまり投資をしても普通は失敗例の方が多く、しかも失敗の事例が先に出てくるという事です。失敗事例が山ほどでてきても産業革新機構は、諸々の批判・政治的圧力に耐えられるのですか?

     同業他社の特定部門を一本化して新会社設立

まあ、わかりやすい事例としては、日本で唯一のDRAMメーカであるエルピーダメモリ等ですね。NECと日立のDRAM部門の統合会社ですね。マイコン・ロジック等のシステムLSIメーカのルネサステクノロジは日立と三菱電機の合弁企業ですね。

これらは、民間が主導してやったのとエルピーダ等は経営者に恵まれてなんとかやって来られたのです。

産業革新機構が絵を書いて、一本化出来ると考えるのが間違いですね。今までに政府主導でそんな事出来ましたか。まあ、将来性の無い企業等は出来るかもしれませんが、それでは税金の無駄使いですね。

こんなこと考える前に、多くの独立行政法人の重複・類似部門を一本化して統合して欲しいですね。自分の傘下の独立行政法人の統合・整理もろくに出来ていないのにね。

    産業革新委員会

  投資の意思決定は産業革新委員会が、収益性や事業の公共性等を精査して決めるとの事。メンバーは、委員長として科学技術振興機構の吉川研究開発戦略センター長、メンバーとして新日鐵の三村会長等が委員になるとのこと。

  りっぱな人を揃えて権威を持たせて、如何にも慎重判断で決めた振りをするスタイルですね。委員会を開催して、ファンドマネジャーの作成した投資プロポーザルを読んで、差し障りの無い質問をいくつかして、何となくうまくいくかもしれない、あるいはよく分からないけどまあOKと言うのでしょうね。

  技術は、一つ隣の分野だともう分かりません。ましてやその技術・製品が将来大きく成長する等、判断の段階で分からない事が多いのです。収益性を精査と言いますが、投資プロポーザルは、ファンドマネジャーが右肩上がりの事業計画を作ります。そういった数字を並べて、如何にもそのように成長するかのように思うようになるのです。これが間違いなのです。

  投資判断は、直接ベンチャー企業の社長に会って話して、この社長なら信頼できるか、事業をやり遂げる情熱があるか、Andrew S.Groveが言うように、Only the Paranoid can surviveParanoidかどうかを自らチェックして、この人なら事業を大きくできるオーラがあるとか、そういった感触や理屈で説明出来ない事が結構重要なのです。自分の事業の事なら、しゃべり出したら半日でも、真夜中まで話し続ける人かなどですね。当事者にも会わずに、委員会室で書面だけ読んで判断するという事なら、投資判断はやめて頂きたい。

  投資を決定する委員には、自らの判断に責任を持って欲しいです。自分がYESというなら自分のお金を100万円その企業に出資して下さい。将来何倍にもになって戻ってくるかも。

 ベンチャー企業投資は、10件投資してうまくいって2―3件が成功ですね。2-4件が失敗。後は泣かず飛ばずですね。委員には、権威ある人ではなく、ベンチャー企業を興して成功した人等にやってもらいたいですね。

 

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産業革新機構について その①

2009-08-02 20:28:40 | 社会・経済

       前回、産業革新機構=「官民ファンドは税金の無駄遣い」と言いました。その具体的な例としてIPA=情報処理推進機構をあげて説明しました。その後725日の日経新聞に追加の記事が出ていました。私は、技術の事業化を数年やっていましたので、その経験なども踏まえてコメントしてみましょう。

       出資者「官民ファンド」と言われますが、実質政府ファンドですね。政府の経済活性化の一つの施策としてのファンドです。但し、政府出資のみでは、大儀も不足がちですし、成功可能性等に疑問も出る可能性もありますので、有力企業にも出資してもらって挙国一致の振りをしています。政策投資銀行は10億円ですが、各出資企業は5億円で、政府出資の820億円と併せて全部で905億円ですね。各企業はただの「おつきあい」です。企業にとってはただの5億円、何の真剣さもないし、金額もはした金ですので、寄付金みたいなものですね。

       人材:新聞によれば「財務面だけでなく、技術の目利きや販路開拓などの経験が豊富な人材が必要になる」との事こういう発想は全く表面的です。事業化ができる技術かどうか、その目利きが出来る人材というのがどういう人かわかっていませんね。

例えば、業務外の闇研究でフラッシュメモリを発明した元東芝の東北大学名誉教授の桝岡さんの場合、フラッシュメモリ発明当事、その将来性に技術会社の東芝は気づきませんでした。安くインテルや韓国サムスンに技術供与してしまったのではないでしょうか。あるいは、半導体ステッパーでも、これ以上は物理限界で製造不可能等という結論をだして開発を辞める理論を論文で出している、優秀な?技術屋もいます。目利き等の言うことは当たりません。

では、技術の目利きが出来る人がいるのかですが、少しですがいます。それはいろんな問題を改良しようと意欲的な顧客側にいるのです。新規技術を採用すれば、技術・製品が改良できるか真剣に考えている人達ですね。一般的に技術屋は非常に保守的で、新規技術・革新的な技術の採用をためらいます。

当然です。例えば製造技術等は、生産性向上・効率化では、現在の技術の改良しかしません。もし革新的な技術を採用しようとしても、その予算・リスク等、米国と異なり日本では経営陣が簡単に採用・OKしません。新規技術を採用すれば、工場の生産工程・作業が異なってきます。歩留まりが向上しないどころか、操業中断等のリスクもあります。工場の操業中断では、簡単に何億円の売上がパーになりますし、顧客への納期厳守も危うくなります。そういった危険を現場の技術屋は冒しません。

米国では、技術責任者が外部アドバイザー等コンサルタントを雇って絶えず新規技術を探しています。良い技術があれば、トップダウンで決めます。トップが責任とリスクを負うのです。日本の様にボトムアップで、しかも上に上げない風土とは違います。日本の大企業の技術系経営陣(現場の部長クラス)は、新規技術を検討して採用するのではなく、他社の事例を横並びに見て採用するのです。こういった事も、技術の事業化を考えるファンドの人はよく理解しておかないといけないでしょう。

但し、日本でも新規技術に積極的な企業が少し存在します。例えば、昔はミシンを作っていましたが、現在は事務機器メーカであるB社等は、落ち目のミシン専業を若い人達で改革し成功したDNAがありますので、結構積極的です。その他、オーナー型企業で、オーナーが技術屋の場合は、その企業に技術がその企業マッチしておれば採用(+お金があれば)される可能性もあります。どこに最初に採用してもらうか、どこを狙って技術を売り込むか等は、実は結構重要ですね。それでお金になるかですからね。お金にならないと事業は出来ません。技術が採用されるかは、そういった革新的な人・会社に出会うかどうかという運の世界の部分も随分あるのです。

販路開拓の経験ある人についてですが技術マーケティングの出来る人という意味でしょう。米国の技術マーケティングについては、アップルのマッキントッシュ等のマーケティングを成功させたレジス・マッケンナの事などを書いた翔泳社のキャズム(ジェフリー・ムーア著)という本が多少参考になりますね。

販路開拓は、何年もかかります。簡単に採用してくれません。その間技術・製品を顧客の要望も取り入れかつ他社にも売れる汎用性も確保しながら改良しなければいけません。大変な労力・お金・時間・人材が要りますね。ファンドで、販路開拓の経験ある人を雇っても役に立ちません。人の紹介くらいしかできませんし、そんなファンドの人の口先アドバイスで技術・新製品が売れると考えること自体、技術の事業化等、汗水タラしてやったこと無い、頭だけで考える人の発想です。

長くなりますので①はこれぐらいで。②では投資対象と、投資の意思決定機関の産業革新委員会という、投資対象評価等出来る疑問の機関「産業革新委員会」について述べる予定です。

キャズムキャズム
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2002-01-23

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