まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

Liquidated DamagesとPenalty

2011-02-26 21:59:34 | 商事法務

○ 今回も前回に続き英文契約の話です。今回はLiquidated Damages(損害賠償額の予定)とPenalty(違約金)についてです。英米では日本の民法(420)の考え方と異なりますので、その点の解説です。

○ 違約金とは、債務不履行の場合に支払うべきものと約定される一種の制裁金ですね。その内容は種々ありうるのですが、通常は実害と予想されるよりも多い金額である場合が多いようです。違約金とは別途に、損害賠償の請求は一般の理論に従ってすることができるものとし、その損害賠償とは無関係に違約金を支払うという場合もありうるとされますね。ただ民法により「賠償額の予定と推定」されますので、債権者は反証をあげてこの推定を覆さないといけませんね。

○ 一方、損害賠償額の予定とは、債務不履行の場合に、債務者が賠償すべき額を、あらかじめ当事者間の契約で定めておくことですね。これにより債務の履行を確保するとともに、万一不履行の場合には、損害賠償に関する挙証の煩わしさを避けようとします。債権者が実際の損害額が予定額よりも多いことを立証しても増額請求出来ず、債務者が実際の損害額は予定額より少ないことを立証しても減額を請求出来ないのが原則です。

○ 英米法では、違約金の合意、合意があるとはいえ、違反があった場合に実害よりも不相応な多額の金額を要求するのは衡平に反するとして、その効力を認めず、現実に生じた損害に対する賠償のみの請求だけを認めています。(Equity would relieve against penalties, cutting them down to the actual damage suffered)

○ 一方損害賠償額の予定については有効とされていますが、その債務不履行が生じたときに発生する損害額の真正(genuine)な見積もりであることを要します。実際の損害よりも少ない取り決めの場合はOKですが、予定額が強迫的に定められたときは(if the sum was fixed in terrorem ) 損害賠償額の予定の規定は適用・強制されずに、通常の損害賠償額が査定されます。

   即ち英米法では、Penaltyとされた場合は実際の損害額となる。Liquidated Damagesの場合は、一応認められるということですね。この場合重要となるのは、両者の区別です。区別については、現実的には難しいと思いますが、判例に基づく基準としては以下等ですね。

  契約の規定、当事者の意思、及び締結時の諸事情を考慮して決めるが、Liquidated DamagesあるいはPenaltyという契約記載の言葉には拘束されない。

  契約に定める予定額が法外な場合にはPenaltyとする。

  複数の違反を前提としている場合で、ある違反は大きな損害を与え、他の違反はわずかな損害にもかかわらず、いずれかの違反の場合にも単一の金額を合意している場合はPenaltyである。

違反結果を正確に金銭に見積もることが困難であるということは、その合意した金額をLiquidated Damagesであるとする妨げにはならない。

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英文契約のConsideration(約因)

2011-02-19 21:17:37 | 商事法務

  英文契約書の前文・事実説明部分(Recital)の後に、Now therefore, in consideration of premises and mutual covenants set forth herein, the parties hereto agree as follows等と記載しますね。このConsiderationとは何かというのが今回のテーマです。まず前提として、有効な契約の成立要件は何か、英米契約法(田中和夫著)によれば、以下の諸要件が必要としています。

 合意=申込(offer)と承諾(acceptance)の一致

② 捺印証書(deed)または約因(Consideration)

  法律的効果を発生させる意思

上記3つが基本ですね。更に契約が完全に有効=無効・取消の原因の不存在の為には、更に以下が必要と記載されていますね。まあ実務上はあまり考えなくても良い事ですけど、一応記載します。

   契約締結能力

  意思表示の真正:錯誤(mistake)=無効、以下は取消原因=詐欺(fraud,善意不実表示(innocent misrepresentation),強迫(duress)及び不当威圧(undue influence)

  目的の適法

   強行性に必要な要件

  ということで、英国の場合ですが、契約の成立には一定の様式に従った捺印証書又はConsiderationが必要となっています。約因などというと、何?となりますが、まあ「対価」関係と考えると分かりやすいですね。これがないと履行の強制即ちenforceableではないということになります。しかし、約因がない契約でも、履行されると有効に権利の移転が生じます。従い、後になって無償贈与したものの返還は請求することができません。約因のない契約は法的効力が無いというのは、それに基づいて請求することができないという意味ですね。

  ではConsiderationの定義は何でしょうか。おたくの人用に、正確に書いてみましょう。Currie v. Misa (1875)の判例で述べられた定義です。

A valuable consideration, in the sense of the law, may consist either in some right, interest, profit, or benefit accruing to the one party, or some forbearance, detriment, loss, or responsibility given, suffered, or undertaken by the other“(Anson’s Law of Contractから)」範囲は結構広いですね。不作為や損失等も約因になりますね。

約因は、契約成立時における履行行為(現在の履行=executed consideration, present consideration)であっても、将来履行するという約束(将来の約因=executor consideration, future consideration)でも構わないのですね。但し、過去の約因は、契約の約因にはなりません。

  では、英国法を継承している米国ではどのように考えられているかですが、米国では州によって違いますね。どうなっているかと言うと、書面による契約には全て約因があると推定する州や、書面による契約は約因がなくても有効とする州などがあります。形骸化しているところもあります。“In consideration of $1.00”等と「1ドルを対価として」等と書く場合もありますね。勿論企業同士の契約は、無償の贈与等は普通ありませんので対価関係がある契約が殆ど全てですから、約因があるのかどうかという争いは通常は起こりませんね。

  英国法と米国法の違いで重要なのは、英国では”Consideration“は、直接相手方から受けなければならないというルールがあります。従い、第三者のためにする契約は認められませんが、米国では殆どの州で、第三者のためにする契約は有効です。

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株主名義人と実質上の株主

2011-02-12 00:44:40 | 株式関連

   旧商法201条では以下の規定がありました。即ち、1項では「設人名義又は承諾をずに他人名義株式引受けたものは、株式引受人としての責任を負う」との定めがあり、実際に引受・払込をした者が株主になることに異論はなかったですね。 2項では「他人ト通ジテ其ノ名義ヲ以テ株式ヲ引受ケタル者ハ其ノ他人ト連帯シテ払込ヲ為ス義務ヲ負フ」との規定(今の会社法には同種の規定は無し)があり、これについては名義人が株主となるという少数の形式説と、実際に引受・払込を行った名義借用者が株主になるとする実質説があり、大半の判例・通説は実質説ですね。

   会社法が出来ても、学者の見解は上記のとおり実質説が大半のようですね。即ち、他人(名義人)の承諾を得て名義人名義で株式を引受・払込をしても、株主は実質的に引受・払込をした者であるということですね。しかし、名義借用者が実質上の株主として会社に対して権利行使するには、株主名簿の名義書換が必要であるとしています。でもこの考え方は、おかしいですね。名義人に指図する権利があれば、名義人と実質上の株主を分けても問題ないと思いますけど。

   私は異端児ですから、形式説ですね。株式の法律関係は画一的にかつ形式的に大量の処理をしなければならない特性を有し、法的安定性が必要ですからね。また昨今は、ファンド名義とか、信託財産は受託者(信託銀行)とかの形式的名義人が増えてきています。実質上の株主が誰か等と言っても分からないことが多いのですね。ですから、この現実すなわち形式的な名義人が増えていることを踏まえて、形式説でOK、但し、それをどのように整理するかを考えるべきだと思います。

   即ち、①株式の名義人、②議決権の実質的行使者(名義人に議決権行使を指示する権限ある者)及び③実質的に引受・払込を行う者又は株式取得費の負担者の3つは、もう分離可能・バラバラを前提として考え、この3つの関係間のルールを確立すべきだと考えています。

   実質説・判例は昔からあったのですが、昔から名義人を立てて、形式的に行われてきましたね。金融商品取引法では、その現実を踏まえた規定を置いています。大量保有報告書に記載する保有者には他人名義をもって株券等を所有する者も含みます。27条の233項本文では「保有者には、自己又は他人(仮設人を含む。)の名義をもつて株券等を所有する者」等と言っています。

   しかし、名義人について、やりすぎの場合は、有価証券報告書虚偽記載になります。有名なケースは西武鉄道事件ですね。200410月に西武鉄道の大株主であるコクドが、保有する西武鉄道株を1000人以上の個人名義にしていたことが明るみに出ました。東証では、上場会社の上位10位までの大株主が保有する株式の合計が80%以上になると上場廃止になると定めていますが、コクドをはじめとする西武グループ10社が保有する西武鉄道株は88%を超えていました。つまり、コクドは上場廃止を避ける手段と高株価維持対応として、40年以上にわたり、多くの株式を個人名義にしていたのですね。

   西武のケースは上場廃止逃れと株価の高価格維持の操作ですね。この場合はやはり違法としか言いようがないでしょうが、別に名義人という視点では、多くの企業が行っています。やはり、名義人、議決権の実質権限者、お金の負担者の3者間の関係の整理とルールが必要なのではないでしょうか。

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子会社の粉飾決算等と親会社・取締役の第三者への責任

2011-02-01 01:10:35 | 商事法務

  子会社が不祥事や粉飾決算等を起こしたとき、親会社はその不祥事等の相手先である第三者に責任を負うでしょうか。法律上は勿論負わないと一般的には考えられていますね。別法人ですからね。株主である親会社は、子会社あるいは、子会社の取締役の責任を、親会社が負うということはありませんしね。→しかし、そう簡単に片付けて良い問題なのでしょうか。

○ 会社法23号の定義には、「子会社:会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。」として、施行規則3条では「財務及び事業の方針の決定を支配されている会社」として、法では「経営」と言っている言葉を「財務及び事業の方針の決定」という言葉に単に変換しただけの規定をおいています。(まあ、「変換」としてはへたくそですね)

  

会社法への疑問1):経営・財務や事業の方針の決定を支配しているのに、親会社の責任は無いのでしょうか。特に持株会社は、子会社の経営を支配するための会社ですよね。今の会社法には、連結経営にふさわしい規定がありませんね。しかし、まあ詳細に見れば少しはありますね。単なる付け足しで、きちんとしていませんけどね。(*)

*法人税基本通達9-4-1では、子会社等を整理する場合にやむを得ず損失を負担した場合には、寄付金とはしないという解釈をしていますが。

○ 取締役会の義務である内部統制を定めた36246号(大会社である取締役会設置会社は5項で義務化)は、本来なら子会社を含めた内部統制とすべきですが、そういう規定にはなっていませんね。しかし、施行規則10015号には、「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制としてグループ企業を含めた連結ベースの内部統制構築の定めがあります。 まあ、グループ企業を含めた内部統制を、有価証券報告書にきちん記載している会社はあまりないようですけれども。

会社法への疑問2):会社法の内部統制の規定は、付け足し&おまけで不十分だし分かりにくい。もう少しきちんとした規定の仕方をしてもらいたいですね。

  444条では、連結計算書類の作成についての記載があり、「作成することができる」としていますが、3項では有価証券報告書提出会社については、作成を義務としています。一方、役員等の第三者に対する損害賠償責任を定めている429条では、以下の様に規定しています。しかし、どういうわけか「計算書類」とだけ記載されています連結計算書類を含むのかどうかが、条文からはわかりません。連結経営が当然の時代なので、当然「連結計算書類」は含んでいると考えるのがあたりまえと思うのですが、どうも規定ぶりからみると連結計算書類が含まれていない感じもします。

4291項:役員等が、その職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。21号ロでは、注意を怠らなかったことを証明したときは除外していますが、取締役及び執行役が、以下の行為をしたときの賠償責任を規定しています。

「計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録」

会社法への疑問3)

  子会社が粉飾決算を行えば、それは当然親会社の連結計算書類に含まれます。重要な子会社の場合は、親会社の連結計算書類でも、重要な事項となりえますし、虚偽の記載になりますね。429条の計算書類に連結計算書類が含まれているのでしょうか?

 注意を怠らなかったことの証明は容易ではないですね。ところで、この注意義務には、子会社の管理監督を含むのでしょうか?

○ 尚、参考までに、金融商品取引法の21条では、「虚偽記載のある届出書の提出会社の役員等の賠償責任」また、24条の4には、「虚偽記載のある有価証券報告書の提出会社の役員等の、有価証券を取得した者への賠償責任」を定めていますね。

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