まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

英国法上のReceiver②

2014-12-16 21:04:41 | 商事法務
前回の続きです。
○Receiverの権限:
権限ですが、Insolvency Act 42条( Administrative receivers: General)に基づいてSchedule 1 Powers of Administrator or Administrative Receiverに規定されています。23項目記載されていますが主なものだけを下記に列挙します。尚、England & WalesとScotlandに適用される規定が別々に記載されていますので注意が必要です。
① 資産の占有、回収及びその為の手続き
② 資産の、公売・私契約による売却・処分
③ 訴えの提起、応訴、仲裁手続き開始
④ 会社名義での契約締結及びその執行(all acts)
⑤ 為替手形・約束手形の振出・裏書
⑥ 資産の換価に必要な一切の行為
⑦ 事業の遂行
⑧ 子会社設立(収益が出ている事業のみを子会社に移して、これを売却して有利に回収する等)
⑨ 最後の23条には「power to do all other things incidental to the exercise of the foregoing powers」と書いています。
要するに、広汎な権限がありますね。

○Receiverの義務:
① 会社の財務情報の収集と提供-会社関係者から、会社の資産・負債・債権者・担保等の状況を調査して、原則選任後3か月以内に、報告書を作成し、会社登記所・知れたる担保付債権者に提出します。またこの写しは一般債権者にも提供されますので、一般債権者がどれぐらい回収できるかもわかりますね。
② 優先順位の債権者への支払。これをしないと自分の分の回収ができませんね。

○ Receiverが選任されても会社にはDirectorが居ますので、その関係はどうなるのでしょうか?通常、会社の全財産がFloating Chargeでカバーされているため、Receiverが選任されるとDirectorは財産の管理処分権は喪失し、Receiverの監督下に入り、その指示に従い取締役が財産の処分等を行います。Director等(法律ではOfficersや従業員)はReceiverが選任されると、宣誓供述書(Affidavit)のもとに、会社の財産内容・債権者の詳細等のstatementをReceiverに提出します。
 債権者会議が招集されたときは、その会議で適切と判断されたときは、債権者委員会を組成しその委員会に機能させることもできます。

○ Receiverの選任との関連事項
 既存契約の効力- Receiverが選任されても既存契約があります。これらの契約はどうなるのでしょうか?米国倒産法ではAutomatic Stayという制度がありますが、英国では自動的に終了することはありません。即ち、形式上は会社は契約履行の義務が存続しますが、会社財産の全てがDebentureの担保ですから、社債権者の利益を犠牲にして契約履行する義務はないので、契約は履行されないのが普通です。

② Receiverが選任されても、一般債権者がその会社の解散を申し立てることは妨げられません。会社の解散が決定されると清算人が選任され一般債権者も対象とする清算手続きが開始されますが、Receiverは会社の財産の処分権はそのまま存続します。裁判所選任の清算人は、Receiverを監督する立場にたちます。でも、銀行などがReceiverを選任した時点で、一般債権者には殆ど回収見込みがないですから、一般債権者が解散の申立をすることはあまりないのではないかと思います。
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英国法上のReceiver①

2014-12-13 09:41:37 | 商事法務
○ 以前Floating Charge(浮動担保)について記載しました。今回は、英国の倒産処理の法律であるInsolvency Act 1986のReceiverについて記載します。旧英連邦即ち、豪、ニュージーランドのみならず、India, Malaysia, Singapore等の担保・倒産制度の参考になりますね。日系企業では金融機関を除き、一般的に取引先から担保(特定担保=fixed charge)等を取れませんので、無担保の一般債権者を念頭に置いて記載しますが、結論を先に言いますと、Receiverが選任されたら、まあ回収はあきらめた方が良いですね。殆ど回収できません。あきらめた方が楽なのですが、社内の審査部などからぎゃぎゃ言われて、税務上損金処理をしないといけないので、それなりの書類を揃えて社内手続きを進めます。労多くして回収が殆ど見込めない、後ろ向きの処理ですね。

○ 英国では、会社が銀行等から資金借入を行う場合には、社債=Debentureを発行する形式が多く、融資の条件とともにDebentureの担保として、流動資産等も含む会社の全財産を担保物とするFloating Chargeを設定するのが一般的です。借入会社が元本・利息支払その他一定の事由=Defaultが生じた場合には、Debentureの条件に基づき、裁判所の介入なしに銀行などがReceiverを選任することができ、その選任は会社登記所で登記されます。Receiverの役割は、社債権者へ出来るだけ有利な弁済を目指して会社財産を処分することですが、必要有り、それの方が有利だと判断される場合は会社の事業を継続することもあります(この場合は、Managerとも言われます)。Receiverは、社債権者の為に選任されますが、Fixed Charge等を押さえている、社債権者に優先する債権を持っている債権者もいますから、その債権者への弁済が優先されます。
  尚、Receiverには2種類あり、Floating Chargeを実行するためのReceiverをAdministrative Receiverと言います。以下の説明はこのReceiverの事です。裁判所が選任するReceiverは、Official Receiverと言います。

○ 債権者の法律上の優先順位は以下です。
 ① Fixed Chargeの権利者
 ② 法人税、VAT(付加価値税)、社会保険料、賃金等のPreferential claims(優先的請求権)
 ③ Floating Charge(浮動担保)の権利者
 ④ 一般債権者(Unsecured creditors)
Receiverの目的は、社債権者への返済ですので、①②は自分よりも優先順位だから仕方なく行いますが、④は関係ないです。即ち、一般債権者への弁済には関与しません。即ち、一般債権者の事など知りませんという対応です。もし仮に一般債権者に回す財産がある場合には、会社(清算手続き開始後は清算人)に引渡し、会社が分配を行います。

長くなりそうなので、Receiverの権限・義務、関連事項などは次回に記載します。
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現物出資(Contribution)契約について

2014-12-07 16:47:34 | 商事法務
○ 日本国内では、現物出資は少ないですね。会社法で設立のときは定款で定めないといけませんし、少額・客観的で明らかである場合を除き、裁判所の選任する検査役の調査が原則ですからね。邪魔くさいですね。従い、金銭出資にして、そのお金で購入すれば良いですね。この取得価額を不合理・操作すれば、検査役の調査を潜脱することができます。検査役の選任も裁判所に申請した弁護士等がなることが多いようです。弁護士等が価値評価できるという虚構の上の制度ですね。土地などは不動産鑑定士を起用しますので別ですが、弁護士等がその評価調査ができるように資料を提供します。意図的な資料を渡して、自分の希望する価格になるように操作できますね。検査役の調査を回避して金銭で購入する場合は、ただ事後設立(会社法467条1項⑤号。309条2項⑪号の規定により特別決議)の規制をクリアーしないといけませんけどね。米国・中国等では専門の評価会社があります。中国などは評価基準等を国が定めているようですね。

○ 日本企業が、中国・ベトナム等に進出する場合、現地パートナーは土地の使用権を現物出資する場合もありますね。また、日本の本社が、東南アジア各国に合弁企業等を保有しているが、これをシンガポールの地域統括会社に、税法特例を利用して簿価―簿価で移すときも現物出資ですね。各国の合弁会社の株式・持分を直接SingaporeのRegional Headquarterに移し、それの対価としてSingaporeの統括会社の株式を取得するということです。

米国では、LLCを組成するときに知的財産等を現物出資するケースもままあるようです。Member(=LLCの出資者)が、合弁事業契約書(=株式会社の株主間契約で、(LLC) Operating agreementを結びます。その中のMemberの以下のような出資勘定(Capital Account)の条項(その他組織・運営内容、意思決定方式等いろいろ規定)に、現物出資の内容を記載して契約を締結してLLC(多分Delaware LLCが多い)を設立しますね。
•Percentage of ownership of each member
•Required initial contribution (=知的財産とか金銭とかのcontribution)
•Required additional contributions, if any
•Actions if member fails to make an initial contribution or required contributions

○ 今回は、この現物出資契約の条項をどのように書けば良いのかを超簡単に触れましょう。結論を言えば簡単ですね。身内・親子孫間の場合の契約には、Rep. & Warrantyも簡単ですが、こういった関係のない会社より現物出資を受けるには、買収契約と同じようなきちっとしたRep.& Warrantyを記載する必要があります。買収契約との違いは、まず、現物出資(Contribution)する資産を記載して、それに対する割当新株(又は自己株)の内容を書けば良いわけですね。一例は以下です。

○ まず、何を現物出資(Contribute)するかを書きますね。
“Article xx. Subject to the conditions precedent set forth in the Article xx hereafter, the Contributors (親会社) shall, on the Closing Date, contribute all of the Contributors' Shares of xx Co. Ltd .(孫会社になる会社の株式) to Singapore Subsidiary (Singapore在Regional Headquarter) (the "Contribution"), and Singapore Subsidiary shall accept such Contribution.”これに対して、Singapore Regional Headquarterが、新株を親会社に割当発行します。
“Article xx. As a consideration for the Contribution, Singapore Subsidiary shall issue, on the Closing Date, xxxxxx new shares of Singapore Subsidiary.
簡単ですね。対価(consideration)として株式を割当発行しますと書けばいいんですね。
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Escrow Accountの利用

2014-12-01 22:27:28 | M&A
○ 楽天ビジネスエスクローサービスというのがありますね。発注者は、商品受領やサービス提供を受ける前に、その対価を楽天に仮払いし、発注者がサービス提供(納品)を受けた段階で、楽天が発注者から仮払いを受けていた費用を出展者に支払うサービスですね。見ず知らずの間の小口ビジネスや、消費者との間のビジネス等で少し利用されていると思いますが、日本ではあまり一般的ではありませんね。
BtoBビジネスの大口取引等では、信託銀行がサービス提供をしています。50-100億円の土地取引で、更地にしたら引渡すという条件では引渡が先になります。売主としては、買主からお金が確実に入金するか不安が残ります。それに備えて信託銀行にEscrow Accountを設定して、買主としては引渡前に代金を、そのアカウントに支払、引渡条件ができたときにその条件を確認して売主に代金を支払う訳ですね。

○ Escrow Accountは、Escrow Agent(日本の場合は信託銀行等)と契約を締結して開設します。
・締結する契約:信託約款、取引保全信託契約証書、当該取引の確認書が普通です。
・当事者は、Escrow Accountの開設を委託した委託者兼収益受益者、元本受益者及び受託する信託銀行です。元本受益者は、例えば土地代金を受領する売主であり、委託者は買主ですね。元本は土地の売買代金ですね。収益受益者とは、元本から利息を生じたら、その分は当然売主に渡す必要はありませんので委託者が収益受益者となります。
・注意点は、当事者の例えば土地売買契約書と履行の条件等を詳細に弁護士がチェックすることです。勿論費用は全て委託者持ちです。従い、このEscrow Accountの開設だけで1000万円を軽くオーバーする手数料を取られますので、金額の小さい取引では、コストが予想外にかかるという事ですね。

○ 欧米ではいろんな局面でEscrow Accountが利用されます。①株式譲渡の際に、政府許可など一定の条件の成就が必要で、売主・買主双方が譲渡承認の手続きを協力して行いますが、買主の支払いに懸念がある場合等に利用されます。②金銭だけでなく、株券を預託する場合もあります。株主が株券を預託する場合、例えばCash Mergerで株式の売主は株券を、買主は代金を預託して、独禁法の合併承認等を得た時に、株券引渡と代金支払いを行いますね。③Indemnity Escrow Agreementというのもあります。買収契約で、例えば訴訟継続中で多額の損害賠償責任を負う可能性がある場合、その金額を買主にIndemnify する場合等は、買収金額を全額払う訳には行きません。買収金額の一部をEscrow Accountに入れて、訴訟の結果が出るまで待つ。敗訴したら、買収金額の減額あるいは、損害賠償額のIndemnifyのためにその金額を使う訳ですね。

○ 上記のケースのうちで、政府許可等の条件成就は客観的にわかりますし、許可証を入手して買主に渡せばEscrowで押さえているFundのrelease指示をEscrow Agentに出せばよいので比較的はっきりしていますね。しかし、Indemnify Escrow Agreementの場合はなかなか難しいでしょうね。Escrow Agreementの文言は例えば下記のように書けますが、何がIndemnifyの対象かは、客観的に明瞭な基準が必要ですね。例えば、
「If the Agent shall receive a written notice from xxx at any time from the date of this Agreement through the date that is three hundred sixty-five (365) days from the Closing Date certifying that during the one (1) year period following the Closing Date xxx has suffered xxxx Losses as a result of the Company's breach of any of its representations and warranties or its failure to perform any of its covenants, in each case as set forth in the Acquisition Agreement.」

Escrow Agreementは、契約当事者の信頼性・資金力・力関係等いろんな要素が絡み合って結ばれることがあります。日本ではあまりPopularではありませんが、欧米ではときどき使われています。日本企業も、状況によっては利用を検討するのも良いのではないかと思います。
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