まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

法律文書上の中国・英米企業の会社印(Seal)

2011-03-19 15:18:33 | 商事法務

   日本では普通の契約書には、署名ではなく記名押印しますね。代表印は法務局に届出されて印鑑証明も発行されますので、方式のやかましい役所的な会社と重要契約を締結するときには、代表取締役の記名押印、それと法務局からの印鑑証明を取得して提出することがあります。代表取締役の記名押印があれば、その会社の行為になります。法律では、本来は英米と同じように署名のみなのですが、記名押印が一般的です。「商法中署名スヘキ場合ニ関スル法律」が廃止されましたが、同じ規定が、H17年の商法改正で32条にあります。即ちこの法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる。」と規定していますね。

  日本にも会社印がありますね。いわゆる角印です。受領証などとか、会社によっては請求書などに押印しているようです。代表印は厳密管理されているので、フットワークを利かすためですね。契約等の法律行為は代表印、意思表示を要素としない、催告・代理権授与表示等の準法律行為は角印というような区別はなく、それぞれの会社で適宜行っているようです。一方、英米や中国企業にも会社印があります。英米では最近は見かけませんが、中国では必須ですね。ということで、まず中国の会社印の事です。

【中国企業の会社印】

  中国では契約書には必ず会社印を押します。これがないと効力がないのか、それとも第三者対抗要件なのかはっきりしませんが(知り合いの中国人の法務担当に聞いたら第三者対抗要件だと言っていましたが)、許認可事項が山ほどある、何でもかんでも許認可の中国ですから、貿易局・商工局・税務局等に許認可申請する一切の申請書・添付書類にも会社印が必要です。これがないと役所等は書類を受け取ってくれません。

  これにならって日本側(株主・持分保有者側)でも、中国の市政府等へ提出する申請書の添付書類には「印」が必要です。例えば、日本の企業が中国に会社を設立するときなどは、株主の董事任命書類、中国の会社の株主(持分保有者)総会の株主側の署名捺印、定款の株主(持分保有者)の署名捺印のときなどは、「印」が必要です。ということで、日本の会社側でも代表印等を押しますね。まあ、でも角印でもOKみたいですね。角印を最初に押したら、中国では日本の代表印の制度は知りませんのでそのまま角印でもかまいません。角印なら角印を継続的に押さないと、以前提出した書類に押印したのと同じ印にしておく必要があります。尚、中国では記名+会社印押印ではなく、署名+会社印押印ですから注意が必要です。また、署名は、「水性サインペン」必須ですね。ボールペンで書くと役所で跳ねられます。なぜ「水性サインペン」なのか知りませんが、いろいろ手間ですね。

【英米企業の会社印】

 英米では契約書類は署名が一般的ですが、普通は会社印を持っています。また現在でも(取締役会決議を得て)たまに使用される場合がありますので簡単に触れましょう。英米では、契約を有効に成立させる要件として、捺印証書の方式によるか、Consideration(約因)が必要でした。例えば、贈与契約等は捺印証書(deed, contract under seal, contract by deed, specialty contract等いろいろな言い方があります)によらなければ無効ですね。

○ 捺印証書は、Formal contract=要式契約ですので要式が必要です。例えば無償の贈与契約=約因のない契約や負担する債務の内容を書面にして、以下の3つの要件が必要です。①署名(英国では、昔は署名は無しでも構わなかったようですが、判例法により今では署名が必要です。尚、米国では署名は要件としていないようですが、一般的に署名しますので署名しているようです)、②捺印=法人の印章・会社印ですね。Corporate Sealとか、Common Sealと呼ばれます。(英国では個人は、印鑑を持っていないので一般的に不要。米国では署名の後に「Seal」とか「L.S.=locus sigilli=place of the sealと記載して簡略化する場合があります。)及び③交付delivery。効力を発生させる行為ですが、現実の交付は要件とはなっていない)

   Corporate Seal(日本の様に朱肉をつけるのではなく刻印型です)の捺印ですが、契約書の左上に穴を開けてひも(紐)で結んで、この紐を垂らして、交差する箇所をつくりそこに書面にひっつくようにろう=蝋(=封蝋といい茶色の蝋です)を垂らして、そこにこのCorporate Sealを押印します。昔、某国の国営企業向けの契約で23回行った事があります。これが正式の方式ですが、今は大半が簡略化したり(会社印を押印したシールを貼ったり)、省略する場合が多いです。電子署名の時代ですからね。

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英文契約のExpress & Implied Warranty(性能・品質保証)

2011-03-12 16:52:15 | 商事法務

  最近は結構英文契約を作成していますので、またちょっと英文契約のことを書いてみましょう。今回はWarranty即ち、品質や性能保証のことについてです(Guaranteeは、通常は他人の債務の保証で、品質保証はWarrantyですね)

米国企業が売主の契約書の性能・品質保証条項には、よく以下のような規定が入っています。

ABC- MAKES NO OTHER EXPRESS, IMPLIED OR STATUTORY WARRANTY AND EXPRESSLY DISCLAIM ALL WARRANTIES OF MERCHANTABILITY, FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE即ち、明示・黙示・法令上の保証以外は一切しませんし、Merchantability(商品性)Fitness for a particular purpose(特定の目的に適合する=目的適合性)の全ての保証責任を明確に拒否しますと言っていますね。この条項が果たして有効なのか等を検討してみましょう。

○ その前に、基本的なところで、そもそもExpress Warranty(明示の保証)とは何か、Implied Warranty(黙示の保証)とは何かですね。

1) Express Warranty = 例えば、このカラープリンターはA4サイズで、1分間で10枚印刷可能とかと、案内パンフレットや仕様書等に記載されているとこれがExpress Warrantyとなりますね。別に契約書にその旨の明記が必要な訳ではありません(勿論書いても良いですが)。取引の基礎(the basis of the bargain)となるものですね。

2) Implied Warranty = これは取引の性質や当事者の取引の状況から通常当然あると規定される保証ですね。これにはMerchantability (*2-314)Fitness for Particular Purpose (2-315)があります。

Merchantabilityとは、例えば靴を買ったときに、靴の中に針や釘が残っていたようなとき、誰しもそんな針・釘が残っているとは思わないですね。当たり前の事です。その製品が、製品として当然有すべき性質・性能の事、商品性があることが前提ですね。

Fitness for Particular Purposeとは、店の人にテニス用の靴を買いたいと言ったのに、陸上用の靴を渡された場合、陸上用の靴としてはMerchantabilityを持っているのですが、陸上用の靴ではテニスには使えません。テニスコートを傷めてしまいます。即ち目的適合性はないですね。

  Express Warranty:米国で製品を販売する売主の立場から言えばWarrantyはなるべく少ないしたいところですが、冒頭のような文言を契約書に記載したいところですが、上記のような一般的な条項では排除出来ない場合がありますので注意が必要ですね。製品案内や仕様書を顧客に提示して製品を販売する場合は、それを保証することになります。従い、実際の製品がその性能・品質を満たさない場合には保証責任を負います。即ち、製品案内や仕様書の提示がExpress Warrantyとなり、このExpress Warrantyの排除は制限があるからです。

具体的には、以下のように規定(2-316(1))されています。

Words or conduct relevant to the creation of an express warranty and words or conduct tending to negate or limit warranty shall be construed wherever reasonable as consistent with each other;  but subject to Section 2-202, negation or limitation is inoperative to the extent that such construction is unreasonable.

但し、Express Warrantyを例えば、修理・取替等に制限することは出来ます。

2-316(4) Remedies for breach of warranty may be limited in accordance with Sections 2-718 and 2-719.repairreplacementbuyerremedyを制限できる」

  Implied Warrantyについては、一定の方式を満たせば特約により否定することができます。Merchantabilityを否定する場合は、Merchantabilityを明確(conspicuous)に指摘して否定すればできますね。Fitnessを否定する場合も、書面で明確に(in a record and be conspicuous)否定すればできますね。(2-316(2))

*上記の括弧内の番号は、Uniform Commercial Code = UCCの条文番号です。ご興味のある人はCornell学のWEBをご参照ください。

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M&A-FA起用の問題点

2011-03-06 12:02:05 | M&A

○ 新日鉄・住金の合併検討が大きく報道されています。大企業ですし、国内のみならず海外にも多くの連結子会社等を有しているでしょうから、日本国内の子会社のみならず海外子会社の再編・合併などの検討も必要ですね。合併検討と報道されていますが、方式として合併がよいのか株式移転が良いか、これからいろいろ検討されると思います。

○ 報道によれば、財務アドバイザー(Financial Adviser=FA)として、報道直後から、各証券会社が両社に営業攻勢をかけ、結局各4社計8社が起用されるようですね。新日鉄は、三菱UFJモルガン・スタンレー、みずほ、メリルリンチ日本、JPモルガン、一方住金は、ゴールドマン・サックス、日興コーディアル、大和証券キャピタル・マーケット、ドイツ証券ということで大変ですね。新日鉄・住金にとっては、この4者の棲み分け、分担、コントロールも大変です。これだけ大きな再編・合併ですから、大作業が発生しますし、その雑用の一部、FAを起用してやってもらうのも良いと思いますが、まあ4社というのはちょっとやり過ぎでしょうね、2社ぐらいで十分だと思います。

○ FAの機能については、200793日のブログ、M&A-FAと弁護士の機能 をご参照ください。FAの機能は雑用係です。例えば、両者の合併に関する会社法の手続きは弁護士をアドバイザーにして、当事会社で行わざるを得ません。独禁法の審査に必要な製品毎の詳細マーケット規模及びそのシェアーを示すデータの整理・加工等も当然新日鉄・住金+日本や世界の鉄鋼連盟等の資料ですね。FAの保有データとは雲泥の差です。最大の作業である、合併による財務諸表の統合(存続会社の受入記帳等)は当然当事会社しかできません。人事制度・グループ人事制度の統合、退職給付債務・厚生年金基金の統合等については、FAは殆ど知識すら持っていません。合併契約、あるいは承認総会が終了したら、お金だけもらって去って行きますね。

○ だいぶ横道にそれましたが、FA起用の問題点を思いつくままにいくつか書いてみましょう。

1)  企業評価・合併比率算定両社とも上場企業ですので株価があります。これを見れば、大体見当がつきます。ということで、企業比較法、とかDCF法等は、かなり自由に数字を作れる算定方式ですが、最初から結論・落としどころが分かっていますので、FAは、妥結するように作るんですねそれをあたかも、公正・妥当な評価であるように、一杯Excel等を駆使して装いますね。

2)  意見書(Fairness Opinion)の作成:総会決議の事前開示書類には、「合併対価の相当性に関する事項・参考となるべき事項(会社法施行規則1821)」が含まれます。即ち、上記の合併比率算定理由書と、それが相当であるという意見書です。意見書の結論は簡単です。「弊社は、本意見書の日付現在において、本合併比率は貴社株主にとって財務的見地から公正なものであると考えます」などと言うのが意見書の最後の文章です。この意見書はFAが作成します。自分から起用してくれと新日鉄・住金に営業をかけて、お金(報酬)も顧客企業からもらいます。最初から結論はわかりきっています。何がFairness Opinionですかね。こんな信用できないUnfair な意見書はありません。欺瞞に満ちています。ただの「やらせ」です。

3)  秘密保持義務違反:新日鉄は、例えばブラジルで高炉を建設するとか・中止するとかは、現地のウジミナス等と契約を結んでいます。膨大な重要契約を結んでいますが、これらの契約には、殆ど守秘義務条項がある筈ですね。新日鉄は、重要な契約の内容の一部はFAに開示するでしょうね。これは明らかに新日鉄の守秘義務の契約違反です。またFAとのアドバイザリー契約の中には当然守秘義務条項があります、相手のFAや住金とも守秘義務契約は結ぶかもしれません。しかし、守秘義務契約を結んだところには開示して良いとは書いていませんね。契約相手方の書面による事前同意が必要等と記載されている筈です。でも、そんな同意をいちいちとりますか?取ってないですよね。FAが新日鉄から入手し加工した秘密情報・資料は、FAを通じて住金に開示されます。「合併検討」という大義名分は守秘義務違反を免責してくれません。みんなそろって守秘義務違反というのがM&Aなのです。

4) 個人情報保護法違反従業員の個人情報は、当然個人情報保護法の対象で す。本人の同意無くして個人情報を第三者に提供してはいけません。例外としては法令に基づく場合、生命・身体・財産保護の場合、国などに協力する場合(事業者が税務署に顧客情報や個人への支払調書を出していますね)。FA、相手方のFA経由、相手方に個人を特定出来る情報(人事組織図等=個人名が記載されていなくても他の情報と照合すれば容易に特定できる場合を含む)を、本人の同意無く提供するのは、個人情報保護法違反です。新日鉄・FA/FA・住金間で人事・組織に関する情報交換をするだろうと思いますが、これは個人情報保護法違反に該当するでしょうね。

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