まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

基準日と株主総会の手続の省略

2008-10-27 00:08:45 | 商事法務

     株主総会を開催するには招集手続が必要ですね。これをきちんとしないと、総会決議取消事由となる場合があります。しかし、全株主の同意があれば招集手続を省略して行っても有効であると最高裁の判例で認められていました。今度の会社法にはきちんと規定されました。300条ですね。「前条の規定(招集の通知)にかかわらず、株主総会は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。ただし、第298条第1項第3号(書面による議決権行使を認める場合)又は第4号(電磁的方法によって議決権を行使を認める場合)に掲げる事項を定めた場合は、この限りでない。」。

○ しかし、「前条の規定」は、招集手続のすべてをカバーしていませんね。即ち、前条以外の招集関連の手続は、行わなければならないということになりますね。基準日の規定(124条)ですね。まあ、こんなことを言うのは、かなりクレーマに近くなってきましたね。普通、定款には、定時株主総会の基準日の規定を記載しています。ですから定時株主総会では問題はありません。しかし、緊急に株主総会を開催する必要が生じたときですね。即ち臨時株主総会ですね。124条1項及び3項では、以下の様に規定(一部省略)しています。

1項 株式会社は、基準日を定めて、基準日において株主名簿に記載され又は記録されている株主をその権利を行使することができる者と定めることができる。

3項 株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の2週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項(基準日株主が行使することができる権利の内容)を公告しなければならない。

尚、976条では、公告若しくは通知をすることを怠ったとき、又は不正の公告若しくは通知をしたときは、100万円以下の過料に処すると規定されています。

     まあ、株主が数人以下の会社が、基準日の公告をまともにやっているかと問われると、殆どやっていないですね。招集手続もきちんとしていない会社が基準日を決めて公告しているとは、考えられませんね。また、一声かければ委任状もって集まれる数人の株主に対して公告する意味もありませんね。

     参考までに、最高裁の判例は以下ですね。「招集権者による株主総会の招集の手続を欠く場合であっても、株主(代理人も可)全員がその開催に同意して出席したいわゆる全員出席総会において、株主総会の権限に属する事項につき決議をしたときは、右会議は有効に成立する」最判S.60.12.20民集3981869頁)。多分このときも、基準日公告もしていないでしょうね。

     上記は全員出席総会でしたが、実態としては、株主全員の同意書を取得し、株主総会も、実際開催せずに書面で議事録を作成して、総会を開催していた例が多かったですね。この実態が今度の会社法では反映されましたね。

     基準日の事を無視して、整理すると以下の様になります。

     300条は招集手続の省略ですね。全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができるとしています。即ち、全員出席とは書いていませんので、一部の株主が総会に欠席する場合でも、その株主の同意があれば、招集手続無しで開催出来ますね。

     最高裁の判例では、招集の手続を欠いても、株主全員がその開催に同意して出席する全員出席総会は有効に成立するとしていますので、有効ですね。300条は招集手続の省略ですので、但し書き以下もあてはまりません。即ち、書面決議・電磁的方法による決議も出来るとしていた場合でも、全株主が出席している以上、総会としては有効ということになりますね。

     従来、全株主の同意を得て、株主総会自体を開催せずに書面で決議していた例が多いと言いましたが、今度の会社法には、これを認める規定が出来ましたね。319条の株主総会の決議の省略の規定ですね。即ち、「取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。」また、320条には、株主総会への報告の省略の規定があります。即ち「取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなす。」ですね。

     では、もとに戻って基準日・基準日の2週間前の公告との関連はどのように考えれば良いのでしょうか。まあ、300条には、前条とだけ書いていますが、株主全員が同意する以上、基準日公告をする必要もありませんので、124条の規定は適用されないと考えるんでしょうね。

株主が、数社のときで、株主がまずあるいは殆ど変動しない会社に、そもそも基準日・基準日の事前公告が必要かどうかですね。非公開会社(=全株式譲渡制限会社)では、譲渡承認も必要ですし、会社の知らないうちに株主が変動し突然名義書換請求されるわけでもありませんね。`124条1項の変更アイデアは「基準日を定めたときは、当該基準日の二週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項を公告しなければならない。ただし、公開会社でない株式会社については、基準日現在株主名簿に記載され、若しくは記録された株主に、基準日後通知することをもってたりるものとする」ぐらいで良いのではないかと思います。遵守されていない基準日公告の規定を、実害の無い範囲で実態に合わせるということですね。

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株主共同の利益の嘘―株主は多種多様

2008-10-20 22:07:58 | 企業一般

     「株主共同の利益」という言葉は、経産省が2005年5月に企業価値研究会が「企業価値報告書」及び「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」を公表してから、企業が買収防衛策を導入するときの枕詞として使用されるようになりました。報告書の中には、この言葉の定義はありません。私は、株主共同の利益というのは、「資本多数決の原理のもと、多数派株主の少数派株主の利益無視のこと」であり、共同などといういい加減というか、ごまかしの言葉を使用し、買収防衛策導入の方向性を打ち出したものだと考えています。まあ、少数派株主の利益無視と言いましたが、企業再編のときなどは株式買取請求権などもありますので金銭的には補償されますけれども。

株主の類型株主には株式保有の目的があります。いろんな目的をもって株式を保有します。株主の株式取得・保有目的を実現させることが、株主の利益ですね。共同の利益ではありません。では、どんな目的で株式を保有するのでしょうか。その類型をあげて見ましょう。

1) 事業目的:対象企業の株式を保有することにより、その企業と事業提携をしたり、あるいは取引を増やすことを目的として長期保有を前提に保有しますね。関連会社で持分法適用会社となる場合もありますし、子会社である場合もあります。中には、上場子会社もあります。経営支配権を有する場合ですね。投資利益・採算=ROI(Return on Investment)としては、配当のみならず取引利益・随伴取引利益もあてにします。

2) 利益追求目的:機関投資家や個人投資家などが儲けるために株式を保有します。これにはいろんな類型があります。

・長期的視点の保有で配当重視+キャピタルゲインも狙う場合。短期売買でキャピタルゲイン狙い。機関投資家でも年金基金から、デイトレーダーに近い人までいますね。今のように金融危機のときは、Cash is kingということで、現預金の保有が重要かもしれませんが、お金を持っていると、配当に回せとプレッシャーをかける投資家もいます。中には、信用取引で株価下落のときに儲けようとする投資家もいますね。こういった株主の中には、株式は金儲けの単なる手段と考える人もいます。議決権行使に興味の無い人ですね。会社は株主のものという理屈もありますが、そんなの関係なしという場合もあります。

・持株比率にもよりますが、議決権行使をきちんと検討する株主。例えば、配当増配を提案する株主もいますね。

・機関投資家でも、短期収益狙いの場合は一定期間内に手仕舞いをしないといけません。売買期間に期限のある株主、無い株主いろいろです。

3) 安定株主対策目的:最近また復活し始めている株式の相互持合いですね。経営者の保身、議決権の空洞化等と言われています。事業提携を看板に掲げていても、実質は持ち合いというのもあります。株主無視の経営者支配ですね。

4)     その他の目的:例えば、配当よりも株主優待(例えば、レストラン利用代金の割引券、鉄道会社の全線無料定期券等)を楽しみにしている個人株主もいます。経営に関与しなくても、創業者一族の子供だからとか、親戚が創業者だったなどという理由で株式を保有する場合があります。また、持株会もありますし、持株会から引き出して自分の名義にして、漠然と将来の備え等の目的で保有している人もいます。企業OBで、保有株を持っていて将来は子供にでもあげようという人もいます。

○ 上記のように株主は、いろんな目的をもって株式を保有します。共通の利益はありません。思惑も違います。例えば、同じ1000円の株価でも、もっと上昇すると考えて購入する人もいますし、儲かったので売り時だと思う人もいます。敵対的買収者でも高値で買ってくれるなら喜んで売る人もいますし、この買収者では企業価値を毀損するとして売らない人もいるでしょう。株主の考え・売買・保有目的等は多種多様です。多種多様であるから株価形成が出来るのです。ただ、株主が好き勝手なことを経営陣に求めては会社の経営重要事項の決定ができません。従い、総会決議は法令・定款で規定された事項だけ(会社法295条2項:取締役会設置会社が前提)にしましょう。それを資本多数決で決めましょうということになっているんです。多様な株主に株主共同の利益などありません。どこに共同性があるんですか。勝てば官軍というだけです。

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簡易企業再編の基準は不合理かも?

2008-10-14 16:35:31 | 商事法務

     企業再編では、株主総会の特別決議を行うことなく、取締役会決議で行える簡易再編の規定があります。整理すると以下ですね。

吸収合併では、存続会社の純資産の1/5以下の金額相当の対価が、消滅会社の株主に株式等により交付される場合は、存続会社では総会特別決議を不要としています。合併差損が生じる場合、全株式譲渡制限会社の場合、その他の例外もありますけれども。

会社分割では、分割会社の総資産額の20%以下であれば分割会社の特別決議が不要となり、会社分割の対価が承継会社の純資産額の20%以下であれば、承継会社の特別決議が不要となります。例外は、合併の場合と同じですね。

株式交換の場合は、完全子会社の株主に交付する対価の簿価が、完全親会社の純資産額の20%以下に止まる場合も総会特別決議が不要です。例外は、1/6超保有の株主が異議を唱えた場合ですね。尚、株式移転の場合は、完全子会社となる会社の株主が、全員その地位を失って完全親会社の株主になるので簡易株式移転はありません。(また特別支配会社の場合の略式株式移転というものも無い)

事業譲渡の場合は譲渡会社での総会特別決議は、総資産額の20%以下の場合は不要としています。事業全部の譲受の場合は、譲受会社でも総会特別決議が必要ですが、譲受会社の純資産額の20%以下の場合には、譲受会社の特別決議を不要としています。また、譲受会社が譲渡会社の特別支配会社の場合、即ち略式事業譲渡の場合も不要ですね。尚、当事者間で別段の合意の無い限り、譲渡会社は(過去の遺物である)21条の規定で競業避止義務を負いますね。同一の市町村(特別区)内だけですけれども。まあ、インターネット時代ですから、競業避止義務が課されるのは、昔からの老舗(お饅頭やさん等)・料亭・旅館等ぐらいだけでしょうか。

     総会特別決議の要否について基準が明確になっています。分かりやすさという点では、こういった規制の仕方もあると思いますが、やはり総資産額や純資産額で規制する発想が果たしてどれだけ合理性をもつかどうかは検討の余地があると思いますね。問題点としては以下ぐらいでしょうか。勿論、法律上は資産額で判断し、キャッシュフローは再編後の財務の問題という割り切った考えもありますけれどもね。例えば野村證券は、リーマンの日本・アジアの人員3000人とITシステム等を引き継ぐようです。これは事業譲受の方式ではなく、方式としては新規採用と個別資産譲受でしょうけど、資産規模というのが、必ずしも影響度・重要性を反映していない場合があるのではないかと思うからですね。機動性という意味では、取締役会決議だけで出来るのは経営者にとっても楽ですし、リーマンの事業価値毀損を防ぐという意味では、スピードという競争力が重要であることは理解しますけれどもね。

少ない資本で大きな売上を上げる商社の場合と、多額の資本でそれなりの売上をあげるメーカの場合では、企業再編後の影響度が大きく異なります。やはり影響度という点では、キャッシュフローの規模(例えば過去一年とか今後一年間の当該事業のキャッシュフローの一定割合)で考えるべきではないかと思います。

純資産額は単なる計算上の金額ですから、貸借対照表(BS)の借方を見ても、普通は固定資産になっています。流動資産(当座資産・棚卸資産)の流動性あるいは企業再編を行う会社の資金繰りなどの考慮はありませんね。

野村の例で言いましたが、企業が再編を行った場合、その後のインパクトの大きさ・影響度という点では資産額は必ずしも十分ではないのではないでしょうか。

企業再編の対価を金銭で行う場合は、再編会社のキャッシュフローに大きな影響が生じます。

業績の良い部門を再編する場合はどちらかというと少ないですね。業績不振部門なので、事業譲渡したり、他社に吸収分割や吸収合併してもらうわけですね。企業再編を行うと、再編会社の財務に大きな影響を及ぼす場合が通常です。

会社は、毎日活動しています。キャッシュフローが毎日動いています。動的にダイナミックに業務を遂行しています。総資産額や純資産額は、日々変動しています。会社再編のときの発想は、これを静止状態にして、そのときの資産額を基準にしています。会社のインパクトという視点なら、例えば過去一年あるいは今後一年のキャッシュフローの20%超の変動がある場合等を総会特別決議とすべきですね。しかし、いまだ資産額を基準にしています。会社の動的要素の考慮という点では、まだまだ会社法は進化が足りないのではと思います。

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事業全部の譲受の規定等

2008-10-07 17:46:17 | 商事法務

     企業の組織再編の一つである事業譲渡等については、会社法第二編株式会社第7章467から470条にまとめられていますね。基本的には、旧商法の規定を継承しています。変更点としては、事後設立(成立後2年以内にその成立前から存在する財産であってその事業のために継続して使用するものの取得。ただし、譲受財産の対価が譲受会社の純資産の1/5を超えない場合を除く。)で裁判所の選任する検査役の調査に代えて、平成2年の商法改悪前の総会特別決議に戻したこと、及び事業譲渡等をする企業が効力発生日の20日前までに通知・公告する義務が規定されたぐらいでしょうか。 

     しかし、変更を忘れたと言いますか、おかしいと分かりながら修正されなかった規定がありますね。46713号の「他の会社の事業の全部の譲受け」の場合における、譲受会社側での総会特別決議による承認の規定ですね。(旧商法24513)即ち、事業全部の譲受の場合は、譲受会社の規模との相対比較において、譲受事業がどんなに小さくても総会特別決議が必要となるという不合理がありますね。例えば純資産額が20億円の譲受会社が、資産総額50億円の会社で2つの事業を行っている会社から1つの事業を25億円で譲受する場合は、譲受会社では特別決議不要ですが、1億円でもそれが事業の全部であれば総会決議が必要となります。但し、譲受会社の純資産額の20%以下の場合には特別決議不要としていますが。

     事業譲渡の場合は、譲渡会社は一定規模以上の譲渡の場合=全部又は重要な一部の譲渡のときは特別決議が必要ですね。分割の場合と異なり、①債権者保護手続きが不要ですが、②個別の資産譲渡手続きが必要ですね。株主の多い譲受会社の場合は、総会決議をするもの手間ですね。でも、まあ、100%子会社を作ってそこを受け皿にすれば、総会決議なんか簡単ですけどね。他の手続きとしては、一定規模以上の場合は、譲受会社は公正取引委員会に、「事業等の譲受けの届出」(独禁法16)が必要ですね。30日の待機期間が求められていますが、実際は45日ぐらい必要です。届出書提出日は提出日であり、届出日ではありません(通常は翌週ぐらい)ので、急ぎの場合は理由を説明して30日の短縮を依頼することになりますね。

     会社法では、総資産や純資産を基準にして、総会特別決議が必要か、あるいは取締役会決議だけでOKかを定めています。この考え方も欠陥がありますね。商社の様に、資産規模に比して売上が多い会社と、メーカの様に売上対比で資産規模が大きな会社もあります。また、会社へのインパクトという点では、資産規模もさることながらキャッシュフローに大きな影響があります。従業員の多い会社のように、事業を買収してもすぐに多額の給与支払いが発生する会社もあります。会社法には、キャッシュフローで動いている動的な会社の実態を反映した条項がありませんね(米国の会社法、例えば模範事業会社法には、キャッシュフローを重視した規定がありますけど)。純資産という計算上の金額は、会社のキャッシュフローを全く反映していません。

     吸収分割を選ぶか、事業譲渡・譲受を選ぶかですが、事業譲渡の場合は、譲渡資産・負債を明確に出来ます。譲渡のときにスクリーンにかけられますので、簿外負債がついてくることがありません。一方吸収分割でも、不動産等は別途登記手続きなども発生します。事業譲受の場合、売掛金・買掛金等の流動資産・負債の承継があまりなければ、個別譲渡手続きは面倒で大変だということもありません。どちらの場合も、取引先にはきちんと挨拶・通知をしないといけませんしね。また、いずれの場合でも経理の人・人事の人の手間はあまり変わりません。経理の人は、全ての受入資産・負債の受入記帳が必要です。人事の人は、受入れた人の給与事務、社会保険(健康保険・厚生年金保険)・労働保険(雇用保険・労災保険)、企業年金等の退職給付(算定基準を引きつぐ場合、引き継がなくても新規に加入)事務、その他の事務(給与台帳、労働者名簿、通勤費支給)等を行わなければなりません。

     だいぶ話がそれました。それたついでに更に言えば、M&Aでは、案件の着手・契約までが表に出ますが、これの実行には多くの裏方?の人の協力がないとできませんし、再編・統合後のスムーズな事業遂行が出来ません。M&Aは、実行に5%の労力を、その後の経営に95%の労力を割くべきですね。

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新株予約権の機能・利用方法

2008-10-01 01:00:47 | 商事法務

     新株予約権については、会社の資金調達の一つの方法と位置づけられていますが、それ以外に買収防衛策やストックオプションとしての利用がなされています。会社の資金調達は、例えば投資計画を立ててそれの所用資金を調達するというのが通常ですが、普通は(取得条項付新株予約権を除き)新株予約権者が、行使期間中に行使価額の払込を行う事により行いますから、行使期間の定めにもよりますが、会社にとっては何時どれくらいの資金が払込・入金されるのか分かりません(転換社債型新株予約権付社債の場合を除く)。従い、計画的になされる資金調達とは異なります。また、払込資金を宛てにすることも出来ませんね。

 では、新株予約権の機能あるいは利用方法にはどんなものがあるのでしょうか。

 インセンティブ報酬―ストックオプションですね。多くの企業で役員に対してあるいは役職員に対して付与しています。行使期間を、2-3年後以降にして譲渡制限を付す場合が多いですね。業績向上を目指して、頑張って働いて頂戴ということで、人参をぶら下げて走らせる・働かせる効果がありますね。上場株の場合だと、予約権行使・払込・売却を殆ど同時に行えば、売却額―払込額がキャピタルゲインとして一挙に懐に入りますね。最近は、不明朗&お手盛りの役員退職慰労金の制度を廃止してストックオプションの付与に切り替えている例も出てきていますね。

 買収防衛策―有名な例はブルドックソースの例ですね。普通株1株につき3個の割合で新株予約権の株主割当を行いました。取得条項をつけて、株主の同意無く、新株予約権を取得して、その対価として、非適格者=敵対的買収者以外の株主に対しては、予約権1個について普通株式1株を交付する。非適格者に対しては、予約権1個について金396円を交付することができるとしていました。これによりステールパートナーズの持株比率を1/4にしましたね。

最高裁は、1091項の株主平等原則の趣旨は、新株予約権無償割当の場合にも及ぶ。しかし、個々の株主の利益は、企業価値が毀損され、会社利益・株主共同の利益が害されるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に扱っても、衡平の理念に反し相当性を欠くものでないかぎり、平等原則の趣旨に反しないとして、不平等取扱を認めています。同床異夢の株主に対して、「株主共同の利益(株主全体に共通する利益)」等という、企業価値研究会報告の造語?言葉を使用しています。資本多数決の原理ですね。多数派株主による、少数派株主の利益無視の事をどうして「共同の利益」等と言うのでしょうね。

 資金調達としての転換社債

(a)  ベンチャー企業の資金調達VCのベンチャー企業への投資はCBにすることが多いですね。企業にとってみればCBにすることにより金利を低く抑える事ができる。VCにとって見れば、上場が射程距離になれば株式に転換して上場時のIPOあるいはその後に徐々に売却してキャピタルゲインを狙えるからですね。但し、例えば3年後に上場を目指している企業の場合、5年以内に上場できない場合には、償還時に一定の利回り(Yield)を保証させられる場合もありますから、ベンチャー企業の経営者にとってみれば必ずしも良い条件とばかりとは言えませんね。

(b)    大企業の場合の甘味料(Sweetener)―社債の償還で元本プラス少しの利息、あるいは株価が上昇すればキャピタルゲインを狙えるということで、ダウンサイドリスクが限定されている割には、大きなリターンも狙えるということですね。ただし、機関投資家等は償還期限まで保有することは少ないでしょうし、金利が上昇して社債の価格が下落すると大きく損失をこうむることもありますね。

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