まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

のれん=超過収益力は間違い

2010-06-05 21:52:59 | 企業投資

  今回は「のれん」の話です。そもそも「のれん」とは何かですが、いろいろな角度から、まとまりの無い見解があるようですね。企業結合会計の形式的な基準としては時価ベース純資産との差額ですね。②のれんとは「超過収益力」であるという人がいます。「のれん」は将来キャッシュフローへの期待に対して支払った金額で、特定のものを資産計上したものではないという考え方もあります。更にのれんとは買収時に承継した特定の「なにか」を資産計上したものであるという考えもあります。「なにか?」とは「なんやねん」と言いたいですね。上記の中で、もっとも一般的な考えは、「のれんとは超過収益力である」ですね。そう考えている人が多いですね。財務会計の教科書にもそういった事が書いていると思います。結論を先に言いますと、この考え方は誤りです。

○ 上記①の会計上の考え方では、例えば買収価額のうち、対象会社の時価ベース純資産との差額ですから、PBRPrice Book-Value Ratio:株価純資産倍率=厳密には1株当たりの株主資本ですが、ここでは時価ベース純資産の何倍で株式を取得したかという意味)が1を超える価格で企業買収すれば、正ののれん、1未満なら負ののれんとなります。超過収益力とか平均利益金額とは関係がありません。

○ ②のれんとは超過収益力であると一般的には考えられています。税務の考え方もこれですね。相続税財産評価基本通達の165営業権の評価で、超過利益金額とか平均利益金額とか言っていますね。また、最高裁判所の判例でも、「営業権とは、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊な製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を獲得することができる無形の財産的価値を有する事実関係」としています。

       ③の考え方は良くわかりません。将来キャッシュフローの現在価値がのれんということでしょうけどね。のれんに基づく将来のキャッシュフローを維持するには、常に広告宣伝費等を投じて、ブランド維持をしないといけませんが、これは自家創設のれんですね。今の会計では自家創設のれんは認識しませんね。この点は次回にでも触れましょう。

       買収・合併等のM&Aが行われるとのれんが計上されますね。M&Aの対象企業っていうのは、平均利益を上回る超過利益を出している優良企業が対象になるのでしょうか?そんなことは無いですよね。他の企業と比べて業績がいまいちだけど、買収企業の資源と組み合わせて相互補完・相乗効果を発揮すれば、業績も向上すると考えてM&Aを行う訳ですね。即ちM&Aの対象企業は、超過収益力等無い企業が多いのです。しかしのれんが計上されますね。こういったM&A対象企業を調べて、実証してのれんとは超過収益力であると言っている方がいますか。そうでは無いですね。それなのにどうして「のれん」とは超過収益力ですと言うのでしょうか?

       では「のれん」とは何でしょうか。これは私の定義です。「人により、物(技術込み)・金・情報(知恵)等を有機的一体として継続的に機能させ、一定の取引分野で継続的顧客等を有する収益基盤である」とまあ、分かったような、分からないような定義をしておきましょう。のれんを維持するのは人です。人が良質な商品・サービスを提供し、約束(取引条件)を守り、継続的な信用・信頼関係を維持し増進します。人の地道な努力によりのれんが蓄積します。企業を買収しても重要な人が急減・去っていったら、のれんも減損しますね。のれんとは人が、従来の基盤をもとに、物・金・情報等を利用して維持・発展させるものです。

       BSを見て下さい。資産マイナス負債は純資産ですが、純資産の構成要素は物・金・知恵=知的財産等ですね。仮にPBR2(純資産の2倍の価格)が買収価額としましょう。この場合のれんの金額も純資産と同じですね。この「のれん」とは何でしょうか。それは、人の活動から生まれた収益基盤を評価した価値です。こういう基盤あるいは人の価値を見ることが重要な事であり、これが「のれん」なのです。


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2 コメント

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>M&Aの対象企業は、超過収益力等無い企業が多... (通りすがり)
2012-08-20 13:57:45
超過収益力がなければ(あることを証明できなければ)、そののれんはすぐに減損されます。

これが全てです。

異なる解釈をするのはかまいませんが、「間違い」と断ずるのはどうかと思います。
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ヴェブレンの「のれん」論について (麻垣康三)
2018-09-20 03:03:57
没後に「アメリカ史上最大の経済学者」と称讃されるヴェブレン(1857-1929)は、1929年の大恐慌発生直前の死亡当時、学界・経済界から疎外され、彼の学説もほぼ無視されていました。しかし、大恐慌発生を彼が理論的に予言していたことが明白になって以後、前述の称讃となったのですが、「のれん」について、彼はその経済学の主著「企業の理論」中で、御貴殿御批判の「超過収益力」論を、次のように述べています。

「のれんは主として、事業上の競争業者がである二、三の会社が有する格差利益の資本化であ」り(小原敬士訳1965年)。なお、原著が書かれたのは1905年ですが、アメリカでは当時既に、企業買収が盛んに行われていました。

このように、アメリカ最大の経済学者がその経済学の主著で10数か所にわたり「のれん」に言及している理論の根底を、あっさり「まちがいです」とおっしゃる御貴殿は、それこそ「世界史上最大最高の経済学者」なのかしらあ???
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