まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

合弁契約のDeadlock条項

2013-05-12 20:48:37 | 商事法務

 

 例えば50:50の合弁事業で、取締役の人数も同数のとき、取締役会決議が賛否同数となり、決議ができずに事業の方向性が決まらない場合があります。あるいは、出資比率が60:40で、取締役人数も3:2であり、決議が可能であっても、2人の反対が強硬で、会社の運営に著しく支障をきたす場合があります。例えば、取締役が2人の方が、原料供給側の株主なら、採算の合わない価格に値上げして事業の継続を危険にさらすこともできるわけです。<o:p></o:p>

 

 

 合弁契約では、出資比率・取締役指名権等を決めます。一方が過半数を占めれば、なんとか事業が進むと考えるのは、法律的・形式的で事業の実態を知らない新米弁護士にありがちなことですね。

合弁事業は、お金の出資割合、派遣される役員、その会社の事業、事業を取り巻く構造(原料供給・技術支援・販売・マーケティング)、従業員等、いろいろな要素が複雑に絡み合います。企業文化、考え方、行動様式、決裁方法が異なる会社・人が共同・協力して合弁で事業を行う、それも海外で行うとなるとなかなか上手くいかないのが普通です。<o:p></o:p>

 

 それはともかく、取締役会で紛糾し決議ができないとき、どのような対応方法をするかを合弁契約に記載する場合があります。今回は、その対応方法をまとめて見ましょう。

 Casting Vote付与:取締役会議長にCasting Voteを与える:例えば4人の取締役が出席して2:2では決議ができません。そのとき、議長にさらにCasting Vote(従い、議長は2回投票できる)を与えるという方法があります。議長は、合弁当事者双方から信用の厚い人で株主への根回しの上手い人である必要がありますね。<o:p></o:p>

 

 株主間協議Deadlockのときに、取締役会のレベルではなく、株主レベルにEscalationするということもあります。株主のトップ経営陣が、普段からよくコミュニケーションを計り、困難な問題に直面したときは、信頼関係をベースによく話し合って、互譲して妥協案を見つけるということでしょうか。<o:p></o:p>

 

 第三者起用:第三者委員会あるいは外部コンサルタント等を起用してその意見・報告を聞くという方法もあります。ただ、その外部者がどれだけ、当該問題の根深さ、状況、問題の核心をつかんで意見を述べるか、これはわかりませんね。一種の調停みたいなものですが、お互い不満の残る場合もあると思います。

 Russian roulette. ドラスティックなやり方としては、持株を購入するか・売却して合弁解消する方法です。申込当事者が、持株全部をキャッシュベースで価格を提示し、他方当事者は、全部を購入するか、自分の持株を全部売却するかを迫るものです。これはまじめに事業をこつこつ育てようという事業投資家の発想ではないですね。欧米の金融投資家の発想ですね。最近、一部の弁護士さんが合弁契約に入れている条項です。私が合弁契約を作る場合は、この条項は入れません。<o:p></o:p>

 

 

 Texas shoot-out. これも他方当事者の持株を購入して合弁を解消する方法です。自分の購入希望価格を、双方の当事者がアンパイア―・第三者に封印して提示し、第三者がそれを開封して最高の購入価格を提示した者が、その価格で購入する義務(他方当事者は売却義務)を負うものです。<o:p></o:p>

 

 

 Dutch auction. これは上記Texas shoot-outの変形です。封印した書類に持株の最低売却価格を記載します。そして一番高値の売却価格を提示した価格で買い主は購入する義務を負います。

 

 Cooling-off/Mediation. 調停者などを立てて解決策が見つかるまで待つというのもあります。あるいは調停者が妥協案を提示するというのも考えられると思います。<o:p></o:p>

 

 

 その他. 双方協議して自分の持ち株の売買について話し合うという条項をいれる場合もありますね。<o:p></o:p>

 

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従業員の企業経営への関与

2013-05-06 20:54:46 | 商事法務

 

 「会社は株主のものである」と多くの人が言います。もし株主のものなら、株主の指名した役員が株主総会で選任され、役員は株主の意向を受けて経営します。その会社の重要な経営戦略・投資等も株主の意向を受けて経営にあたります。これが会社は株主のものという意味です。

日本企業の現実は、そうなっているのでしょうか?当然なっていません。役員は、形式的には株主総会で選出となっていますが、実質は会長や社長等が指名します。株主が指名するケースは殆どありません。また株主の意向を受けて経営しているでしょうか?株主を尊重した振りはしますが、株主の意向に沿った経営はしていませんし、株主の意向もわかりません。物言う株主は、日本では外資系ファンド株主以外はあまりいません。またお互い様の持ち合い株式も多いです。三菱グループが集団で三菱グループの企業の株式を持ち合っている場合もあります。また経営戦略・投資戦略は、株主の意向を汲んで行っているわけではありませんね。その会社の役職員が考え・実行します。

 

 

 会社は株主のものという発想は、アメリカの市場原理主義の発想であり、こうったマネー資本主義がリーマンショックとなり、貧富を拡大し人の生活を不幸にしている現実があります。会社は株主のものと主張する人は、日本企業の現実をキチンと見ずに、アメリカの発想の形式的な請け売りです。企業を見れば利益剰余金は役職員が知恵と汗で獲得したものであり、株主は最初の元手は出してくれますが、株主は知恵も汗も出していません。株主には配当金で報いる。また市場で売却すればキャピタルゲインを得ることもあります。利益剰余金は、その会社の役職員のものです。その使途は役職員が決めて実行します。役職員は報酬・給与を得ると同時に、自分たちが稼いだ利益剰余金を元手に投資を行います。従い純資産(評価・換算差額等は除く)が株主のものだけであると考えるのは誤りです。<o:p></o:p>

 

 

 今回は、各国の制度で従業員が企業経営にどういった形で関与できるかについて例を言いましょう。元ネタは、H22.3の平成21年度M&A市場における公正なルール形成に関する調査である諸外国の上場企業法制に関する調査 報告(経産省委託)です。その68ページ以降に詳細が記載されています。

 この調査では、①従業員代表が会社の意思決定手続きに直接関与することを会社に義務付ける制度を持つ国、②従業員株主が一定数以上の株式を有している会社において、従業員株主の中から取締役や監査役等の役員を選任する制度を有している国、③従業員代表が会社の意思決定手続きに労使協議機関を通じて間接的に関与することを会社に義務付ける制度を有している国の一覧表があります。③については、米国など一部の国を除いて、多くの国が制度として有しています。しかし、従業員の企業経営への関与という視点から言えば、①の制度が中心になると思います。②の制度は、要するに従業員も株主になれば、株主権を有することになるので、株主という視点から考えればよいことだと思います。

 

 ①の制度を有している国としては、ドイツ、フランス、オランダ、スウェーデン等があります。その中でドイツとフランスの概要を記載してみたいと思います。

 

【ドイツの従業員の経営参加】

・ ドイツでは会社の形式や従業員数によって、従業員代表選任制度の適用の有無が決定されます。ガバナンス機関としては二層制(=取締役会以外に、監査役会や経営委員会が設置されている制度)が取られ、取締役会は業務執行機関であり、監査役会が取締役会の上部機関として経営の監督に責任を持っています。

 

・ 従業員が500名以下の会社では、従業員代表選任制度は適用されませんが、500名超では、監査役会(監査役の員数は3の倍数)の1/3は従業員から選出されます。また2000名超の会社では、1976年共同決定法が適用され、監査役会(員数は、従業員の数により12,16,20名)の半数は従業員から選出されます。

 

監査役会の役割は、経営の監視であり、監査役会は取締役会の任命・解任、取締役の報酬決定や、年次財務報告書作成業務を行います。

 

【フランスの従業員の経営参加】 

・フランスの商法では、取締役会又は監査役会メンバーの一定数を従業員から選任する制度を導入することができる、あるいは導入するものとするとされている様です。この制度は公共企業・民営化された企業では法的義務ですが、一般の株式会社では任意です。但し、ユーロネクスト等に上場している企業で従業員持株比率が3%を越える場合は必須となります。

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米国の裁判所制度

2013-05-03 15:22:43 | 商事法務

 

 米国には州裁判所と連邦裁判所がありますね。しかし、これらは独立していて一部の例外を除いて、州裁判所の上に連邦裁判所があるわけではありません。州が集まって合衆国ができたわけで、そういった経緯もあると思います。また州裁判所は、州法で独自に組織できることになっています。

 

 連邦の裁判所制度

(1) 通常の連邦裁判所

 District Court(連邦地方裁判所)⇒②Court of Appeals(連邦控訴裁判所)⇒③Supreme Court(連邦最高裁判所)

 連邦が裁判権を持つ全ての民事・刑事事件を取り扱います。各州に少なくとも1つあります。尚、Chapter 11等を取り扱うBankruptcy Court(倒産裁判所)は、District Courtの一部門です。

 控訴裁判所は、全国13Circuit(巡回区)にあります。通常は3人の裁判官で行いますが、重要事件は裁判官全員で行います。

 最高裁判所は、ワシントンにあり、裁判官はChief Justice1名と定員8名のAssociate Justiceから構成します。

 最高裁判所への上訴の方法には、AppealCertiorari(セルシオレイライ)2つがあります。Appealは、控訴裁判所で州法を連邦憲法、条約・法律に違反するとして無効とした場合で、かつ連邦法上の問題のみ争う場合に限り上訴できることになっています。Certiorariは、当事者が任意に上訴できますが、上訴を受理するかは最高裁判所の自由裁量となっています。<o:p></o:p>

 

(2) 特定の事件を取扱う連邦裁判所

1) Claims Court(請求裁判所):不法行為以外の合衆国に対する請求を扱います。但し、次の2)の専属管轄事件を除きます。

2) Court of International Trade(国際通商裁判所):関税法、通商法等に関する事件を扱います。

3) Court of Appeals for the Federal Circuit(巡回区控訴裁判所):上記1)&2)の判決に対する控訴、及び連邦地方裁判所の特許・商標・著作権等に関する判決に対する控訴等を受け付けます。この判決の上訴は、連邦最高裁判所になります。<o:p></o:p>

 

 州の裁判所制度 

州の裁判所をどのように定めるかは、それぞれの州が州の憲法その他の法律で定めることができます。名前も,Circuit CourtとかDistrict Courtとか様々です。

Delaware州等一部の州では、コモン・ロー裁判所 (court of law) と衡平法裁判所 (court of equity) を区別していますが、大半の州では裁判所は統一されています。Delaware州では、会社法専門の衡平法裁判制度が確立しています。裁判は陪審員でなく裁判官が行いますし、企業側に有利な判例が多いようです。<o:p></o:p>

 

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 連邦裁判所と州裁判所間の管轄権

連邦裁判所は、連邦憲法及び法律で特別の定めをしたものに限り訴訟事件として扱うことができますが、州裁判所は原則としてあらゆる事件を取扱うことができます。連邦裁判所で取り扱うことのできる主なものは以下です。

 連邦の問題を含む訴訟:連邦憲法・法律、条約に関する問題を含む民事事件。

 州籍の相違:別々の州や外国の者間との訴訟等

 海事・独禁法・倒産法、特許・著作権等の事件

 州同士、あるいは合衆国が原告・被告となる訴訟、大使館・領事に関する訴訟

 その他

上記の内、③と④は連邦裁判所のみに専属管轄権がありますが、その他の件は州でも連邦でもどちらの裁判所にも提訴できます。しかし、州裁判所に訴えられた被告は、原則として連邦裁判所に移送させることができます。また、連邦裁判所が連邦法のみを適用したり、各州の裁判所がその州だけの法律を適用したりするのではなく、連邦裁判所が州法を適用したり、州裁判所が連邦法・他の州法を適用する場合もあります。<o:p></o:p>

 

 州最高裁判所から連邦最高裁判所への例外的上訴 

連邦裁判所と州裁判所は、それぞれ独立していますが、例外として以下等の場合に限り州最高裁判所から連邦最高裁判所への上訴が認められています。

 州最高裁判所で、連邦の条約・法律を無効としり、効力が問題とされたとき。

 連邦憲法・条約・法律に違反したとして問題とされ、州法を有効にしたとき。

③ 連邦憲法・条約・法律に基づく権限・権利・免除が主張されたとき。

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