まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

インド子会社の課税問題と本社の居住証明書

2014-11-17 22:12:24 | 企業一般
○ 最近は、新興国の不合理課税の問題がクローズアップされていますね。そのため、経済産業省(貿易振興課)なども資料(“METIレポート”)を作成して注意喚起をしています。ワースト3は、中国・インド・インドネシアですね。特にこの10年間に注目を集めるようになったのは、移転価格税制ですね。しかし、それ以外にもいろいろ面倒な事が多いですね。今回は、インド等の例等を挙げて、インドのPANの取得と居住者証明書の事などを書いてみましょう。

○ PANの取得
・METIレポートでは、日印租税条約適用手続きにおいて、インドは「インド企業から源泉徴収の対象となる支払を受ける場合、Permanent Account Number (PAN)を取得しなければ租税条約が適用(適用の場合は10%)されず、インド国内法の源泉税率(役務サービスの場合は25%)が適用される。PANを取得すると、現地拠点の有無にかかわらずインドでの税務申告が義務付けられるため、負担が大きい。」と記載されています。

・PANの取得は、会社だけでなく、会社を代表してインドの法人所得税申告書(Form ITR6)に署名する人のPAN及びその人のDSC(Digital Signature Certificate:署名証明書)の取得が必要です。会社の登記簿謄本(全部証明書)・その英訳にアポスティーユを受けて、個人でも住民票+英訳・パスポート等も必要ですね。署名者が変更になれば取り直しです。

○ Tax Residency Certificate(居住者証明書)の提出
 METIレポートには記載がありませんが、日本の企業になじみのない書類の提出もあります。これは必ずしもインドだけではなく、英法系の国やオランダの影響を受けているインドネシア等でも要請されるものです。インドネシア等は、所定のフォームがありますので必要事項を記載して、税務署の確認印をもらえば良いのですが、インドは記載する事項は決まっていますが所定のフォームはまだ無いようです。2012年に通達が出され2013年4月から施行されている制度で、未だ十分浸透していないようです。

○ 設立準拠法主義と管理支配地主義
日本では、会社法上の本店と税法上の居住地が一緒ですね。即ち「設立準拠法主義(又は「本店所在地主義」)」をとっています。法人税法第2条第3号で内国法人について「国内に本店または主たる事務所を有する法人」としています。その判断は形式的ですね。従い、日本の会社法による設立法人が、人的にも物理的にも事業のほとんどが海外に存在していたとしても税務上は内国法人となります。(会社法第821条に変な規定がありますが、この擬似外国会社の規定は殆ど機能していません。堂々と日本xxという会社名で日本で取引している外国会社があります。) これに対して、その法人の意思決定(取締役会等の決定)等を行っている所在国を、登記とは関係なしに税務上の居住地とするのが管理支配地主義 ですね。
 
○ インドは英国の税法の影響を受けて、報酬等の支払先法人が、税法上の居住者(インドの非居住者)に支払をきちんと行っている事を確かめるために居住者証明書を要求しています。記載事項は、法人の名称、法人の形態、登記地、居住地における納税者番号、税法上の居住状況等の記載を求めている様です。

○ 何故居住者証明が要求されるのか?
これは日本の居住法人がインド企業から得た所得については、日印租税条約に基づきインドで所得税の軽減(役務報酬の場合は25%→10%)がなされます。即ち、インドの税務当局の収入が減るのですね。租税条約を締結している国に居住している法人に支払っている場合には、仕方がないから軽減税率にしてあげましょう。だからその証明書を出せということですね。
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Asset Dealの売主のRep.& Warranty ②

2014-11-12 20:14:27 | M&A
前回の続きです。
9) Business Employees – Asset Dealでは重要ですね。移籍する人は、少なくとも従来と同等な処遇を求めますからね。Fringe Benefit (法定を上回る部分)、Pension等は譲受会社の制度ですが、移籍従業員を当分どのように処遇するか等を書いているケースもあります。米国の税法に規定する確定拠出年金(DC=Defined Contribution)である401kを日本でも導入したと言われています。でも似て非なる制度なんですね。米国は、会社が設計した枠組みの制度の中で、個人拠出なのですね。日本は税法限度のなかで会社拠出です。米国では、従業員が受領する給与の中から、従業員が拠出額を決めて加入し、これに会社が一定限度まで損金算入可能なMatching Contribution をします。従業員の年金掛金拠出は税前所得からですが、課税後の給与からも拠出することが可能です。この辺の事は、日本の自称M&A専門弁護士は、全く理解していません。Asset Dealの価格調整すればよいとか、制度を移行すればよい等と平気で言います(M&AのFAも知りません)。個人拠出のものを会社が勝手に譲受人に移転できるのですか?できないですよね。譲受人側で同じ401kの制度があれば、従業員個人がその年金を移すことができる。だからPortableと言われているんですね(日本でもPortableですけどね)。

10) Contracts - Disclosure Scheduleで契約一覧を記載します。不動産のリース関係とか、アウトソース先、IT関係など種々雑多の契約があり、数が多ければ全部記載できません。Asset Dealでは、譲渡実行後も従来の取引先関係を継続しないと事業継続に大きな影響がでます。これを受けてCovenantsで、売主・買主が協力して、既存契約の契約上の地位を買主に移転できるよう協力して行いましょう等と記載します。

11) Financial Information; Absence of Certain Changes - 譲渡される事業部門だけのBS,PL &Cash Flowが重要ですね。またClosingまでに重要な変更は行わないというのはStock Dealと共通です。

12) Intellectual Property(IP)―Asset Dealだと移転手続きが必要です。Disclosure Scheduleで、事業継続に必要なIP一覧を記載して、譲渡手続きが必要です。

13) Product Liability and Recalls- 売主のProduct Liabilityは別に買主が承継するわけではないのですが、商品に同じ商標を継続使用する場合等は、買主の事業に支障をきたします。

14) Product Warranty―製造設備を承継しますので、買主が承継した設備で作る品質保証やその条件は実際上承継しますので、売主の製品の品質をチェックしてその標準的なスペック・条件に合致していることをRep.& warrantyするわけですね。Stock Dealでも同じ条項が入ります。

15) Inventory―買主が承継します。Closing Date現在の在庫量を双方で確認して、最終的な買収価格が決まります。譲渡日に譲渡する財産にリストアップされますが、obsolete, below-standard品は、含まれていないとかを記載しますね。

16) Customer and Suppliers-これは重要ですね。事業譲渡してもお客様・取引先との契約の承継が出来なければ業績に大きな影響が出ます。両当事者で協力して承継しましょう。Stock Dealでは、契約は継続していますので、だいぶ書き方が違います。

17) Restrictions on the Business -このDealによって事業継続に支障が出ることはないですよぐらいを記載します。

18) Taxes -Asset Dealでも税金の問題は発生します。不動産を譲渡すると資産譲渡税等の地方税がかかります。日本のM&A弁護士は、この辺ははっきり言って全く無知ですから、注意しましょう。Stock Dealでは、適正に税務申告し納税しています等と記載しますね。

Asset DealのRep. & Warrantyは、Stock Dealのそれとかなり異なります。また何十ページに及ぶDisclosure Scheduleも付きます。また、売主が行っている人事事務・経理・IT等は簡単に分離できませんので譲渡後半年とかは売主が継続してサービスを提供する。その間に買主はシステムを構築してくださいというTransitional service Agreement (TSA)等も同時に締結しますので、Asset Dealは結構手間がかかりますね。


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Asset Dealの売主のRep.& Warranty ①

2014-11-11 22:31:14 | M&A
○以前M&AのRep.& WarrantyとしてStock Dealの一般的なもののHeadings等を記載しましたが、今回はAsset DealのRep.& WarrantyのHeadingsを書いて見ましょう。同じような項目が多いのですが、Stock Dealとはかなり重点と内容が違います。主な注意点としては以下ぐらいでしょうか。

1) 労働契約についてStock Dealなら従業員の承継手続きは不要ですが、Asset Dealの場合は従業員の移籍について承諾が必要です。日本では会社分割の場合は労働契約承継法がありますが、事業譲渡の場合にはありません。しかし、欧州等の国によっては、Asset Dealでも買収者の承継が義務となっている国もあります。そのときのポイントは、福利厚生制度が違うし、年金制度も異なります。この点などどの様に調整するか非常に重要でまた難しい問題ですね。

2) 許認可も原則そのまま承継されませんね。当然です。法人格そのものの支配権を取得するわけではないですからね。許認可は原則取り直しが必要なのですが、これをスムーズに行わないと事業が一時中断しますね。

3) 環境問題などは厄介です。契約関係の承継ではなく不法行為ですからね。例えば土壌汚染等は、買収者がそのまま承継すれば責任を全て負うことになりかねません。売主のIndemnificationが非常に重要になってくる部分ですね。

4) 取引先等との契約も承継されません。承継には取引相手先の個別承諾が必要ですね。包括承継ができる会社分割ではないですからね。売主の協力をきちんとCovenantsに入れておく必要があります。

○ Asset Dealの一般的な売主のRep. & Warranty
1) Organization and Qualification – これはStock Dealと同じですね。
2) Authorization; Binding Effect - これも同じ。
3) Non-Contravention; Consents - これも同じ。

4) Title to Property; Principal Equipment; Sufficiency of Assets
Title to PropertyとPrincipal Equipmentの規定は、Stock Dealでも入る規定ですね。Principal Equipmentとは、「in good operating condition and repair, subject to normal wear and tear, suitable for the purposes」等と書きます。

・譲渡資産によって事業が継続できる旨の保証であるSufficiency of assetsの規定は、Asset Deal独特の規定ですね。米国のAsset Dealの契約書は、日本の契約書(一般的に、対象事業の譲渡資産・負債の内容を簡単に記載する程度)と異なり、譲渡する資産&負債、譲渡しない資産・負債を詳細に規定します。詳細といっても限度がありますので、譲渡資産で継続的に事業ができる旨を記載するのですね。

5)Permits; Licenses -これは現在きちんとしたライセンスを持って業務を行っていますねということで、Asset Dealの場合は承継されないケースが多いですね。

6) Real Estate; Environmental Matters – Asset Dealの場合は、自分が保有している不動産だけではなく、Leased Premisesは、譲渡資産リスト(貸主の同意を取ることは別途記載)にきちんと記載していて漏れがないという書き方になりますね。環境については、自己保有不動産だけでなく、リース物件も含めて、環境規制をきちんと順守していると記載しますが、環境は譲受人も責任を負いますから要注意規定ですね。

7) Compliance With Laws – これはStock DealでもAsset Dealでも重要ですね。承継する事業は法令順守されていないと困りますからね。

8)Litigation – Asset Dealなら引き継がないのが原則ですが、現実にはそうとはかぎりません。工場周辺住民との訴訟とかはね。


ここまで書いて疲れましたので、続きは次回にします。

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買収の法務DDレポートの価値

2014-11-01 11:19:27 | M&A
○ 今回は、外国企業の買収の際に法律事務所に作成を依頼する法務DDレポートの価値について書いてみたいと思います。二つのパターンに分けて考えて見ましょう。
① 欧米先進国で、買収対象企業が例えばNASDAQ等の上場企業の場合。
② 新興国の未公開企業の場合。
 上記の2つの場合は典型的な場合ですので、新興国の上場企業、先進国の未上場企業は、この両者の中間に位置すると考えれば良いわけですね。また、顧客の視点から見た望ましい法務DDなどの視点も記載してみたいと思います。

①の場合の法務DDレポートは、かなりのケース殆ど読む価値はありませんし、役に立ちません。法務DDは、パートナー弁護士の指揮(実際はあまりきちんとした指示は出さないのが多い)のもと、若手の弁護士が、契約書、法令順守状況、議事録(手に入らない場合も多い)等を読んでレポートを作成します。大抵のケース、調べたことをすべて網羅して、しかも平板単調でポイントがハッキリしません。ちょっとしたことでも、買収契約書(DA=Definitive Agreement)のRep.& Warrantyに反映したほうが良い等と記載していても、その通り契約書を直すわけでもないです。買収案件推進中の多忙のときに、ぐだぐだした何十ページの法務DDレポートなど出されても、誰も読みません。また読む価値もありません。しかし、しっかりお金だけは取っていきます。

事前に、弁護士に、法務DDの範囲とレポートのイメージを伝えておくことが大切です。弁護士に取引契約等読んでもらっても時間と金の無駄です。業界取引に従事している人でないと、取引のことはわかりませんし、その契約の意味も分かりません。取引契約は、買収企業の事業部が精読すべきものですね。従い、Change in Control条項があるか等の部分を除いて、弁護士がチェックしてもらうのは時間と金の無駄遣いです。Change in Control条項があるか否かは、中身を読まなくてもTitle/Headingを見ればわかります。数十ページの契約でも5分もあればわかります。
また、Executive サマリーを作って、最初の数ページにまとめてもらいましょう。法令違反状況などがあればその個所に明記すれば、該当部分の本文詳細は読みます。私のやったケースで、法務DDの範囲を限定したのに、頼んでもいない部分まで調査して、しかもサマリーをつけてと言っているのに、米国の提携事務所の作成したものをそのまま出してきた法律事務所がありました。こんなところは、もう二度と起用しません。

○ 顧客が欲する法務DDレポートは、会社のすべての視点に配慮したものです。即ち、財務・税務・労務(年金・社会保険)・環境・紛争等のことも記載したものです。勿論、財務・税務・環境・労務等については、それぞれ別の専門家を起用して、それぞれの視点からのレポートをもらいますが、税務・労務・社会保険・環境等もすべて法律です。ですから、法務の視点からのDDレポートが欲しいですね。しかし、こいうった分野は、自分の領域では無いと、すぐに他社にリスクヘッジする弁護士もいます。自称M&A専門の弁護士にもかかわらずですね。M&A専門弁護士なら、財務・税務・労務・環境のことについても概要でよいですから正確な知識を持つべきですね。

・ M&A専門弁護士は、最近は日本の弁護士資格のみならずNew York州弁護士の資格を持つ頭の良い人が増えています。勉強はよくできるんでしょうね。しかし、契約書に税務の事が記載されていても、まったく理解していない。特に、地方税の事や、州の法規制等は、現地弁護士事務所にきちんと聞くこともなく、誤解したままで話を進める人もいます。迷惑な話です。それでもお金はしっかりとります。
M&A専門弁護士と自称していますので、一応の知識もありますし、通り一遍のことはやってくれますが、顧客のために何が良いかを真剣に考え、そういった対応をしてくれません。従い、重要なことは、弁護士をあまり頼りにしてはいけないということです。

○ ②のケースは大変です。財務DDも、まず財務諸表の数字自体が、公正妥当な現地会計処理基準に合致しているか?数字自体が本当かなどから調査が必要です。法務DDも、環境規制・労働法等の法令違反はないか(あった場合には契約書に明記して、closingまでに治癒してもらはないといけません)、厳重チェックが必要です。新興国の場合は、労働者(の権利保障・地位保証・解雇制限や手続き)にやさしい労働法が多いですし、これをきちんと守っているか(厳密には守っていないとかいろいろあるようです)等のチェックが必要ですね。それと、税務には要注意です。税務時効も6年などもありますし、税務署なども忘れたことにやってきて、過去をほじくる等もあります。きちんと調査するだけでなく、契約書のIndemnificationに反映するとか、代金支払いをEscrowに一部抑えておくとか、あるいは分割延払いであるEarn Out条項を認めてもらうとかの手当てが必要です。こういった視点から現地法制や企業実態に詳しい、弁護士の起用が必要です。大手法律事務所のM&A専門弁護士というだけでは、全く役立ちません。また法務DDの結果とそれをDAに適切に反映することが大切ですね。
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