まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

取締役会による資本金の減少

2011-05-29 10:25:54 | 商事法務

○ 会社法447条には、資本金の額の減少の規定があります。1項では総会決議であり、減少する資本金の額等を定めなさいと規定しています。2項は、マイナスにしてはいけませんと内容で、資本金0でも良いですよとの定めですね。3項は、以下の様に定めています。

「株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときにおける第一項の規定の適用については、同項中「株主総会の決議」とあるのは、「取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)」とする。」ですね。要するに、この条件に当てはまるときは、取締役会設置会社では、取締役会決議でできますよと規定されています。

次の448条は、準備金の額の減少について同様の規定をおいています。従い、原則は総会決議ですが、上記と同様の条件の場合は、取締役会決議でできることになりました。尚、「準備金」については、「資本準備金and/or利益準備金」とされていますので、株主が元手として払込んだ払込金の中で資本金に入れないで資本準備金として計上したもののみならず、会社が稼得した利益から積み立てた利益準備金も含みますね。資本金等のバッファーとして資本金の1/4まで、資本準備金又は利益準備金により積み立てれば良くなりましたので、準備金の積み立てとしては楽というか、少額になりましたね。

○ 資本金等の額の減少は、従来の商法では、総会決議事項でした。しかし、会社法では、資本金・資本準備金という株主が払込んだお金でも、条件に合えば取締役会決議で減少できるという規定ですね。何かおかしくないでしょうか?

○ 第三者割当増資による既存株主の保有比率の希釈化

公開会社については、取締役会決議で、授権(発行可能)株式数の範囲内で新株発行ができますね。第三者割当増資が行なわれれば、既存株主の持株比率は希釈化します。その意味では取締役会決議で、持株比率が希釈化されます。増資が完了すれば、勿論資本金・資本準備金が増えます。しかし、既存株主にとっては、払込んだ資本金と資本準備金の額に、追加が加わっただけで自分が払込んだ額が減少するわけではなく、引き続き払込済み額で資本金と資本準備金の額の一部を構成します。勿論、お金があるわけではなく、払込と同時に資産に変換されていますが。

○ 取締役会決議による資本金・資本準備金の減少と第三者割当増資の組合せ

この場合は、既存株主は、払込んだ資本金・資本準備金の額が減少します。それに第三者割当増資が加わり、既存株主にとっては持株比率が低下します。勿論今は、資本金の額と株式数との結合が遮断されましたので、持株数が減ることはありませんけれども。例えば、既存株主にとって見れば、20株資本金100万円払込みをしたのに、会社=取締役会=代表取締役・取締役の経営能力がなく、赤字で欠損金が生じたので、ここは別の投資家を見つけてきて増資のOKをもらった。それではこの規定を利用して、既存株主が出資した資本金等を半分の50万円(保有株数20株は変更無し)にして、第三者割当で新株発行を行いその新規株主から50万円(1株1万円で50株)出してもらって元の100万円にすればいいのですね。

業績不振会社へ投資するときは、引受価格も大きく落ち込みます。即ち、既存株主は1株5万円で引き受けたのに、第三者割当増資を引き受ける新規株主は1株1万円となるのです。既存株主の保有比率は大きく落ち込むのが普通です。

⇒ 取締役会決議だけで行えるとすると、株主が総会で経営陣の責任を追求する機会がありません。資本金等を減少させるに至った、経営責任はどうするのですか?総会で議論をして、その経営責任を明らかにすべきです。新規株主を見つけてきてお金を出してもらえば、それでよいというものではありません。

⇒ 既存株主の株式保有比率が希釈化します。これにより、持株比率に従い付与されている会社法上の少数株主の権利に影響しますし、相対的比率低下により実際上の影響力も低下する場合もあります。株主の利益に影響する事項です。

既存株主の利益に影響することを、総会決議を取らずにどうして、取締役会決議で出来るようにしたのでしょう。全く株主利益を無視した考え方ですね。

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米国会社法の債権者保護

2011-05-22 20:27:54 | 商事法務

  日本の会社法にはいろいろの債権者保護の規定がありますが、現実的には殆ど機能していませんね。株式会社の債権者保護について簡単に纏めると以下ですね。①会社情報の開示(BS等の公告=440条、債権者の計算書類の謄写閲覧権=442)と②会社財産の流失防止という視点ですね。後者は具体的な規制として、1)出資の払戻禁止、2)剰余金分配規制=財源規制、3)蛸配当受領の株主と関与取締役の会社への支払い義務(=462条:規定だけの話で実際上責任を負う株主はまずいませんが。4631項)、4)債権者の株主への支払い請求権(4632項)、5)企業再編(株式交換・移転の場合は例外を除き不要)のときなどの異議申述催告などですね。この辺の事は、2007年2月7日のブログ「会社法の債権者保護規定について」などをご覧下さい。

  今回は、米国の会社法ではどのように債権者保護が規定されているのかについてです。「米国会社法」(有斐閣)という本が本屋さんにあったので購入して読んでみました。そこには、以下のように記載されていました。「債権者も株主も会社に対して法的権利を有している点では共通するが、大きく異なるのは、請求権として追及し得る金額が変動するという点で基本的に株主が不確定な請求権者であるのに対し、債権者はより確定的な請求権者であるという点である。債権者は、--固定された請求権者である。一方、株主は会社の残余財産に対してのみ請求権を主張できる」等と記載されていました。

  また日本の学者でも、以下のような事を言われている人がいます。「会社法が一般債権者の保護のために特別な規定を置いているのは,なぜかと言えば、それは、会社法には社員(=株主)は、会社財産について債権者に劣後する地位にあるという特別なルールがあるので、そのルールを潜脱するような会社の行為を防止するためです。即ち、会社が解散して会社財産を分配するときには、まず債権者が配分を受け、その後残余財産を社員で分配するというルールを守るのが嫌になって、会社が解散する前に、社員に対し財産を流出させ、社員を債権者よりも事実上優先させてしまうようなことを防止したいのです。」

  相変わらずピントがぼけたこと言う人が多いですね。なぜ、事業継続中の債権者と、解散決議をした後=事業終了後の債権者への支払いを済ませた後で、通常は一文も戻ってこない、残余財産分配請求権とを比べているのでしょうか。時間軸と前提が異なるものを同列にどうして比べるのでしょうね。

  米国の会社法の債権者保護の規定ですが、結論を先に言いますと、保護と言えるほどの規定は無いですね。模範事業会社法とデラウェア州会社法の関連規定を見てみましょう。

・模範事業会社法では以下ですね。

§ 6.40. DISTRIBUTIONS TO SHAREHOLDERS

(c) No distribution may be made if, after giving it effect:

(1) the corporation would not be able to pay its debts as they become due in the usual course of business; or

(2) the corporation’s total assets would be less than the sum of its total liabilities plus (unless the articles of incorporation permit otherwise) the amount that would be needed, if the corporation were to be dissolved at the time of the distribution, to satisfy the preferential rights upon dissolution of shareholders whose preferential rights are superior to those receiving the distribution.

上記のとおり、多少日本よりも実際的ですね。債務を支払えなくなるような剰余金分配はしてはいけないと禁止(may not)していますね。

Delaware 州のGENERAL CORPORATION LAWでは以下ですね

§ 170. Dividends; payment; wasting asset corporations.

(a) The directors of every corporation, subject to any restrictions contained in its certificate of incorporation, may declare and pay dividends upon the shares of its capital stock either:

(1) Out of its surplus, as defined in and computed in accordance with §§ 154 and 244 of this title; or

(2) In case there shall be no such surplus, out of its net profits for the fiscal year in which the dividend is declared and/or the preceding fiscal year.

剰余金から配当をしてよい。剰余金が無くても当該期・直前期の純利益より配当してよいとしています。この剰余金が曲者ですね。Delaware会社法では、資本剰余金(Csapital Surplus)と利益剰余金(Retained Earnings or Surplus)を区別していません。また、例えば1株US$100を払込金額として新株発行しても、資本金は日本のように半分という規制はありませんので、1セントだけ資本金(税金は資本金に対してかかるので、資本金を少なくするのが普通です)にして、US$99.99を剰余金にすることもできますね。

債権者保護の規定がありません。しかし勿論会社法上の保護規定が無いだけで、契約(UCCUniform Commercial Code)遵守されれば別に会社法に規定が無くても良いのですね。

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骨抜きの疑似外国会社の規定

2011-05-08 20:56:25 | 商事法務

  会社法821条には疑似外国会社の規定があります。外国会社を利用した日本の会社法制の脱法行為を禁止する趣旨の規定ですね。

1.日本に本店を置き、又は日本において事業を行うことを主たる目的とする外国会社は、日本において取引を継続してすることができない。

2.前項の規定に違反して取引をした者は、相手方に対し、外国会社と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

外国会社の定義は2条2号に「外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するものをいう。」としています。

  旧商法482条では、「日本ニ本店ヲ設ケ又ハ日本ニ於テ営業ヲ為スヲ以テ主タル目的トスル会社ハ外国ニ於テ設立スルモノト雖モ日本ニ於テ設立スル会社ト同一ノ規定ニ従フコトヲ要ス」としており、「同一の規定」とは会社設立の規定も含むと解されておりました。

   外資系証券会社では、東京支店として登記しているのが一般的でしたが、税務戦略等の影響で、例えば形式的にベルギー等に会社を設立してその東京支店というのもあり、疑似外国会社と疑われる会社があったようですね。

   821条は、審議の際いろいろ議論があり、また参議院でも附帯決議がされたものですね。審議の過程では、いろいろなケースを想定して、実質疑似外国会社の規定の適用は、殆ど無いような骨抜きがされました。例えば「日本国外に役員が在住し、または日本国外で役員会が開催されている場合」にも疑似外国会社には該当しないとされています。

  外国会社は、外国の法令に準拠して設立された法人ですが、役員が誰も居ないあるいは設立のときに、役員の氏名を一人も記載しないことがあるでしょうか?例えば、ベルギー法人を作れば、役員が米国に居ようが香港に居ようが、実際名目上の役員でも最低一人ぐらいの氏名は記載されます。これで「日本国外に役員が在住し」の条件は満たされます。また、「役員会が開催されている場合」かどうかは、当然法務局にはわかりません。議事録の紙を一枚作れば、それで役員会が開催されているということになります。

  この規定は、「日本に本店を置き」と記載していますが、これは「本店登記もせずに」ということですね。本店登記すれば会社設立ですからね。また支店登記もしないという事だろうと思います。支店登記をすれば、日本における代表者も登記簿謄本(証明書)に記載されますからね。817条1項には、「外国会社は、日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定めなければならない。この場合において、その日本における代表者のうち一人以上は、日本に住所を有する者でなければならない。」としています。また818条は「外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができない。」としています。

  ということで、

上記の様な「日本国外に役員が在住し」だけでこの規定の適用は無いと解釈をするなら、この疑似外国会社の規定は殆ど存在価値が無いという事です。

② この規定の趣旨が「日本の会社法制の脱法行為を禁止する趣旨」と言われることです。この趣旨がおかしいのです。日本に外国会社の支店を設置すれば、当然その外国法人の設立準拠法の規定に従いますね。日本の会社法の規制に従う必要はありません。例えば、ベルギー法人として本店をベルギーに置き、その支店を東京に開いたときはどうでしょうか。東京支店のガバナンスは、日本の会社法に従って行わなければならないのでしょうか?そんなことないですよね。支店であれば、勿論税法上はPEですし、全ての国内源泉所得は課税されます。また外為法上は居住者ですので日本企業と同じ扱いですが、会社法上は外国会社です。日本の会社法制に従う義務は無いのでは無いでしょうか?

○ 解釈による骨抜きは別として、規定の仕方もおかしいですね。8211項は正確には日本において本店又は支店の登記をせず、かつ日本において事業を行うことを主たる目的とする外国会社は、日本において取引を継続してすることができない。」とすべきではないでしょうか。

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米国での民事訴訟と開示手続(Discovery)③

2011-05-01 12:44:32 | 商事法務

今回は三回目です。陪審による事実審理(Trial)からです。

   合衆国憲法第7修正では、陪審審理を受ける権利が保証されています。

  「In Suits at common law, where the value in controversy shall exceed twenty dollars, the right of trial by jury shall be preserved, and no fact tried by a jury, shall be otherwise re-examined in any Court of the United States, than according to the rules of the common law.

・ コモン・ロー上の訴訟では、と記載されていますが、現在では、コモン・ロー裁判所とエクイティ裁判所は分かれていませんね。後半は分かりにくいですが、陪審により審理された事実は、コモン・ローのルールによるほか、合衆国の裁判所で再度審理されることは無いとしています。即ち陪審が認定した事実がファイナルですよと言っていますね。陪審が事実審理を行います。一定の手続きに従い選任された陪審員の前で行います。(陪審に付されずに事実審理を行う事件もあります)

   事実審理:進め方は以下です。

1)     原告の冒頭陳述(opening statement)- 原告側弁護士が事件の概要を説明します。

2)     被告の冒頭陳述。

3)  原告側の証明(Case in chief)- 自らの請求の根拠となる主要事実を証明するために、証拠を提出する。書証については原本の提出が原則ですね。

4)  被告側の証明(Case in defense)- 被告は、原告の主張事実の存在を否定するための、また自らが依拠している抗弁を構成する事実を証明するための証明を行う。

5)     原告の反証(evidence in rebuttal)-被告側の証拠に反駁する証拠の提出

6)     被告の反証(evidence in rebuttal)-上記に反駁する証拠の提出

7)  最終弁論(closing argument; summation)-これまでに提出された証拠を基に、そこから導き出される論理的結論を、原告・被告側が述べる。

8)  裁判官による説示(instruction)-陪審の職務は事実の認定ですが、それに法を適用するには、適用する法律を陪審にきちんと説明する必要があります。裁判官による適用する法律の説明が説示です。

   陪審の評決(verdict)

裁判官による説示を受けた後、陪審員は陪審室に行き非公開で、評議を行い評決します。評決には、一般評決(general verdict)と特別評決(special verdict)があります。一般評決が一般的で、どちらが勝訴し、その救済の内容を示します。評決の根拠は開示されません。また、評決は原則的には陪審員全員の一致です。特別評決では、争点毎の認定事実を示し、裁判官がそれに法律を適用します。

  陪審が評決に達すれば、法廷に戻り陪審長又は裁判所の書記官が評決を読み上げます。

評決に必要な数の賛成が得られないときは、不一致陪審(hung jury)の為審理は不設立(mistrial)となり、別の陪審により審理をやり直すことになります。

  陪審により評決が下されると、裁判所は判決を判決簿に登録します。

その他

  終局判決(final judgment)=当該審級を締めくくる判決が下されると、敗訴当事者又は一部勝訴当事者は上訴することが出来ます(final judgment rule)

  終局判決が下されると、当事者間で同じ請求について、訴訟をもう一度提起できなくなります。まあ当然ですね。これを請求排除の効力(claim preclusion)といいます。日本の民訴では既判力といっていますね。

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