まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

米国での民事訴訟と開示手続(Discovery)②

2011-04-29 10:14:17 | 商事法務

前回の続きです。開示手続からです。

  開示手続の主なものは、①証言録取(書)(deposition)、②質問(書)(interrogatory)、③書類等の提出(production of documents)、④自白の要求等ですね。①は、証人が弁護士事務所等で書記官等の面前で、宣誓の上弁護士の尋問に答える形で証言するものですね。②は、一方当事者から相手方への質問書で、相手方が宣誓の上回答します。③は一方当事者が他方に要求する書類等の提出です。④の自白の要求に対しては、否認等の対応をしないでほっておくと要求通り自白したと見なされますね。実務上大変なのが③の書類等の提出です。例えば、「問題の取引に関する全ての書類を提出せよ」ですね。全てですから大変です。契約書、見積書、引き合い、メール交信、会議の議事録、果ては社内報告まで広範な範囲に及びます。勿論日本語であろうと関係ありませんし、企業秘密も関係ありません。免除特権(privilege)=弁護士・医者・牧師が依頼人から得た情報は除かれますが、それ以外は殆ど免除されません。

  種々の証拠の提出を相手方に要求するわけですが、要求された方は、やはり後ろめたいものもありますね。というわけで自分に有利なものだけしか出さないこともありますが、そういうときは、裁判所にDiscovery命令を出してもらうわけですね。Discovery命令は、①Discoveryの取り進め方の協議が不調のとき、②相手方が証拠収集に協力しないとき等に裁判所が命じます。逆に、開示の濫用(関連無い書類まで執拗に出せ等)の場合は、保護命令(protective order)を出してもらうわけですね。

  特に最近問題になっているのはe-discoveryですね。当事者間・関係者の関連メールなど、膨大な量になります。これらの情報は、ESI=electronic stored informationと呼ばれます。このe-discoveryについては、FRCP26条に規定されています。Discoveryに応じないとか、不都合な証拠を破棄(spoliation)したりすると、書類要求当事者の被った、discovery命令の申立弁護士費用、電子記録検証等の費用は、回答義務者側に転嫁されます。即ち、誤魔化そうとしたりすると制裁(sanction)が課されるわけですね。Sanctionには、①不利な推定(adverse inference)、②請求の却下・棄却(dismissal)and/or ③金銭賠償等があります。

   開示手続が完了して後には、事実審理前会議(pretrial conference)が弁護士と裁判官との間で開かれます。ここでは争点の整理、攻撃・防御方法の方針、事実審理の方法等を話し合いますが、重要な事は和解の可能背を探る事ですね。当事者にとっては、大体このままでは負けそうだとかが分かりますからね。結構この段階までに和解や略式判決(summary judgment)で終了するケースも多いとの事です。この会議の結論はpretrial orderと呼ばれ、その後の訴訟の進行を規律しますね。Discoveryまでは、予審判事(Magistrate Judge)が担当します。

  これでやっと次の事実審理に入ります。判事もtrial judge(本案訴訟担当判事)になります。事実審理を経て陪審の評決(verdict)がなされます。

事実審理からは次回にします。

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米国での民事訴訟と開示手続(Discovery)①

2011-04-26 22:17:51 | 商事法務

  米国の民事訴訟制度は、連邦裁判所と州裁判所の二重の制度になっていますね。別に州裁判所が連邦裁判所の下に来るわけでもありません。今回は連邦裁判所の民事訴訟について書いてみましょう。といっても州裁判所の民事訴訟規則や民事訴訟法典を知っているわけでもありませんが。でも州では連邦裁判所の民事訴訟規則(Federal Rules of Civil Procedure=FRCP)をかなり採用しているようです。しかし、違う部分も多いようです。例えば、訴状を裁判所に提出しなくても被告への呼出状を裁判所が出してくれるところとか、呼出状は弁護士が作成するという州もありますので要注意ですね。

  原告=plaintiffが訴状=complaint連邦地方裁判所(District Court=全米で91あるようでうね)に提出すると訴訟が始まりますね。そうしたら、裁判所の書記官が呼出状を発行し、それを原告に交付します。

  原告は被告=defendantに、summons=呼出状と訴状=complaintの写しからなる召喚状を速やかに送達(service of process)します。直接被告に手渡しても(personal service)良いのですが、まあ郵便による送達も認められていますので、郵便が多いのではないでしょうか。

  これに対し被告は管轄権の欠如や法廷地(venue)の不適正等を理由として、訴えの却下を申し立てることもあります。例えば米国企業が日本の会社を訴えたときには、法廷地が不適正・対人管轄権が無いということのみで応訴することもありますね。これをspecial appearanceと言いますね。これに対して裁判所の管轄権に異議を留めず応訴することをgeneral appearanceと言いますね。

  原告は、訴状を提出すると、これに対して被告は原則として一定期間内に答弁書(answer)を原告に返しますね(答弁書の前にmotionを起こす場合もありますが)。訴状には、①裁判所の管轄権の根拠、②請求原因の表示、③要求する判決内容が記載されています。

  上記の様な、訴状や答弁書のやりとりを訴答(pleading)といいますね。訴訟において、両当事者が、請求・防御について自らの主張を記載した書面のことで、相手方当事者・裁判所に提出されます。訴答によって、訴訟の対象となっている争点を絞るわけですね。

  宣誓供述書(affidavit)等により事実に関する争いが存在しないことを証明し、当該事実に実体法を適用すれば当然自分が勝訴する主張して、事実審理を経ないで勝訴判決を求める事ができます。これを略式判決の申立(motion for summary judgment)といいますね

l  宣誓供述書=事実に関する任意になされた供述で書面化され、しかも宣誓(oath)又は確約(affirmation)により真実であることが担保されたもの。

  次に来るのが開示手続(discovery)ですね。開示手続きにより、双方とも争点の整理が出来ますし、また不意打ちがなくなるわけですね。これが重要でかつ大変です。当事者が主体となって証拠収集を行ないます。これはPre-trialであり、その後は事実審理前会議(pretrial conference)を弁護士と裁判官との間で行い、争点整理、訴訟の方向付け、事実審理(trial)の方法、和解の可能性を探ります。この会議の結論はpretrial orderと呼ばれ、その後の訴訟の進行を規律します。そしてtrialとなります。米国では事実審理は陪審が行います。

長くなりますので、分割して次回は開示手続きからということにします。

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会社法・内部統制等の「効率性」

2011-04-10 15:27:52 | 商事法務

○ 最近は英文契約の事をだいぶ書いてきましたが、久しぶりに会社法の「けち」シリーズの復活です。会社法362条では取締役会の権限等を定めています。2項の取締役会の職務には、取締役会設置会社の業務執行の決定、あるいは取締役の職務の執行の監督等が規定されています。また4項では、取締役会で決定しなければならない事項、即ち取締役に委任してはならない事項を定めており、その6号には、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を即ち内部統制を定めています。また第5項で、大会社では決定を義務化していますね。職務と業務という言葉が出てきますが、どうも同じような意味の様ですね。

○ これを受けて施行規則100条1項で内部統制の体制として以下を定めています。

1)  取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制 

2)  損失の危険の管理に関する規程その他の体制 

3)  取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制 

4)  使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制 

5)  当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制 

 金融商品取引法では、内部統制に関する直接の規定はありません。規定としては、24条の44に「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制の評価」として、内部統制報告書を提出しなさいと規定されており、193条の2で、内部統制報告書には監査法人などの監査証明を受けなさいと規定されているだけです。

○ 企業会計審議会の実施基準では、内部統制の定義として、①業務の有効性及び効率性、②財務報告の信頼性、③事業活動に関わる法令等並びに資産の保全を目的としています。ここでも「効率性」と言ってます。これは米国のSOX法の元になったCOSO(the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission) の内部統制フレームワークの猿まねですね。

○ 法令等に業務の効率性の規定がありますが、業務は効率的に行わなければならないという事は、法令で定めなければならない事でしょうか?効率的に事業を行おうが、非効率に行おうが、自由ですね。そういったことまで法令でとやかく言われる筋合いのものではありません。なぜこんな言葉を規定したのか如何なものでしょうね。

 国際競争に晒されている企業等は勿論業務を効率化しないと生き残っていけません、しかし、効率性を追求しない企業等いくらでもあります。例えば、特製の手作りのバッグや機械式の腕時計を注文して、職人さんに一ヶ月がかりで作ってもらうとか、お醤油の工場でも、温度管理で出来るタンクで6ヶ月で作るのも良いですが、昔ながらの木桶で2年かけて作り、プレミアム醤油で販売することもあります。こういった業務は効率的でしょうか?またこういった業務を効率的に行う必要はあるでしょうか?ありませんね。それが価値ですから。

○ ある企業の事業報告書に、「取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制」と施行規則の用語をそのまま使用し、「各取締役および各執行役員の業務分担を定め、効率的な業務執行を行いうる体制を取っています」と記載されていました。業務分担はあたりまえですね。これを効率的な業務執行の体制としています。実態はどうか知りませんが、どうも「効率的」という言葉を使うことが効率的としているようです。言葉遊びですね。

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英米のFloating Charge(浮動担保)

2011-04-03 13:53:15 | 商事法務

 昔、私は英国Scotlandのある企業A社と取引を行っていましたが、あるとき銀行(そのころはまだそれほど大きくないRBSでしたが)が、Receiver(収益管理人)を選任したというニュースが飛び込んできました。即ち、その会社A社は倒産したわけですね。そのとき膨大なメール(当事はTelex)がきましたが、そのなかに銀行がFloating Chargecrystallizeしたという事が記載されていました。ということで、今回は英国の浮動担保の話です。(尚、英国では、ScotlandWalesでは、少し法律が違うので要注意)

Floating Chargeという言い方は英国ですが、国により呼び方に違いはあっても、英法系の国の担保の制度はこの形が基本です。

 Floating Chargeは、動産・不動産・無形資産等を含めて会社の全資産に対し、現在存在するもののみならず、将来その会社が取得する全資産を対象として設定する担保です。ですから会社が存続して事業を継続(going concern)することが前提で設定されます。全資産と言いましたが、債権者との約定で、担保資産の範囲を限定することも勿論可能です。Floating Chargeを設定しても、その会社は通常の業務(Ordinary course of business)を行いますし、通常業務の範囲内で資産処分ができます。

 Floating Chargeは登記事項ですね。登記しておかないと第三者に対抗できません。一方、全財産ではなく特定の資産に対しての担保は、Fixed Charge(あるいはMortgage)といいます。これも当然登記事項ですね。では、このFixed ChargeFloating Chargeとの優劣、登記の日の関係はどのようになっているのでしょうか。結論は、登記の日の前後を問わずFixed Chargeが優先するのですね。日本の抵当権の制度とは異なりますね

英国では、一般に銀行等はFloating Chargeを設定しています。ですからこれに優先させるには、融資のときにFixed Chargeの設定を行う必要がありますね。

  債務者が支払停止したり、融資の返済ができなくなると、それまでFloatしてふらふらしていた浮動担保が結晶化(dormantしていた担保がcrystallize)して固まったしまうわけですね。CrystallizationしたときにFixed Chargeに変化したと考える訳ですね。Crystallizeすれば、Receiverが選任されて、資産管理・処分権は当該Receiverが行う事になりますこのReceiverの注意点は、特定債権者が選任するわけですから、Receiverの責務は、選任した債権者の為に働くということです。裁判所選任の管財人等が行う、債権者に平等(勿論担保保有債権者と無担保債権者の扱いは違いますが)などということではありませんね。

  では最後に少し戻ってFloating Chargeの設定についてです。Floating Chargeを設定するには、債務者が債務を負担していることを証明する必要があります。従い債務者が債務を負担しているという証書=debentureが必要ですね。このdebentureを作成し債権者にdeliver=交付し、この債務の返済を担保するためにFloating Chargeを設定することになります。尚、融資金額が多額になったり協調融資のときは、信託会社(受託会社=trustee)を入れて、融資者(Creditor)を受益者(Beneficiary)として、信託証書(trust deed)を作成して行う事がありますね。

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