まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

株主名簿閲覧請求権と高裁決定

2009-04-26 01:33:21 | 商事法務

     株主名簿閲覧請求権の規定、即ち会社法125条の解釈について、画期的な解釈(あるいは解釈指針)に従って東京高裁の決定がなされましたね。結論は妥当だと思いますね。2008年6月12日に、原弘産が日本ハウズイング側に対して求めていた株主名簿閲覧謄写仮処分命令事件において、東京高裁が原弘産側の主張を認める逆転決定を出しました。(平成20年(ラ)第844号 株主名簿閲覧謄写仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件 原審・東京地裁 平成20年(ヨ)第20050号)

     弘産は、日本ハウズイングの定時株主総会(H20.6.27開催予定)に向けて委任状勧誘を行うことを目的として、日本ハウズイングに対し、平成20 3 31 日現在の株主名簿及び実質株主名簿の閲覧謄写を請求しましたが、日本ハウズイングは、原弘産が日本ハウズイングの競業者であることを理由として、これを拒絶しました。そこで原弘産は、平成20 4 23 日付で東京地裁に対し株主名簿閲覧謄写仮処分命令の申立てを行っていましたが、5 15 日付で同裁判所から、却下の決定を受けたことから、同日付で東京高裁に対して原決定の取り消しを求める即時抗告を行い、これが認められた訳ですね。

     会社法125条(株主名簿の備置き及び閲覧等)の規定は以下ですね(一部省略・改変)

② 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、株主名簿(電磁的記録を表示したもの)の閲覧又は謄写の請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

③ 株式会社は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。

I 当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。

II 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。

III請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。

IV 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。

V 請求者が、過去二年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利   益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

     旧商法263条③I号は、以下ですね(2号は電磁的記録の場合で同様の規定)。「③株主及会社ノ債権者ハ営業時間内何時ニテモ左ノ請求ヲ為スコトヲ得

I号 株主名簿、新株予約権原簿、社債原簿若ハ端株原簿ガ書面ヲ以テ作ラレタル場合ニ於ケル其ノ書面又ハ株主名簿、新株予約権原簿若ハ社債原簿ノ複本ノ閲覧又ハ謄写ノ請求」

     旧商法時代の判例では以下の様に述べています。「株主名簿の閲覧又は謄写の請求が、不当な意図・目的によるものであるなど、その権利を濫用するものと認められる場合には、会社は株主の請求を拒絶することができると解するのが相当」(最高裁判決平成2年4月17日 裁判集民事159号449頁)

     III号の競争関係にある事業者等に株主名簿を見られてまずいというのは、どういう場合なのでしょうか。株主である以上事業報告は送付されてきます、総会にも出席できますね。EDINETで有価証券報告書も見られます。別に株主名簿を見られて困ることはそれ程ないのでは無いでしょうか(1-10単元ぐらいの個人株主の住所は除いて良いかもしれませんがね)。競争会社の分析・内容検討してどこが悪いのでしょうか。米国の模範事業会社法には別にそんな制限などありませんね。勿論、名簿会社がダイレクトメール送付する為とか、総会屋が嫌がらせして金員を得ることを目的に請求する場合などは拒絶できるとしておくべきだとは思いますが。まあ、III号は、法務省立案者が草案起草のときに、競争事業者による(例えば役員選任の株主提案への賛同を呼びかけるような、あるいは買収防衛策を発動しない決議を求める)委任状争奪戦や敵対的買収の事を想定していなかったのが実態ではないでしょうか。

     債権者がどうして株主名簿の閲覧請求が出来るのですか?理解できませんね。株主は有限責任であると言ってるくせにですね。即ち、株主は会社債務について債権者に責任は負いませんし、追加出資の義務も負いませんね。上記高裁決定も、「株主及び債権者」と条文を引用した後は、株主の事しか書いていませんね。基本書で、債権者の名簿閲覧請求権の根拠を説明したものなど見たことありません。まあ、敢えて言いますと蛸配当のときに債権者が株主に求償権をもつ場合ぐらいでしょうか(463②)。でもこの規定が発動されたのを私は知りません。

     上記高裁決定では、125条③の新しい解釈がなされましたね。

     拒絶できる場合を類型化した1-3号について、1号・2号の規定は確認的な規定であり、3号の規定は1号・2号の特則である。1・2号の証明責任は会社であるが、3号の証明責任は転換されており、3号では株主が権利の確保又は行使に関する調査の目的で行う事を証明しなければならない。(本件では、原弘産側が、不当目的で閲覧申請を行っているものではないことを、一応証明している。)

・ 競争関係者であっても、ただそのことのみによって拒絶できるとすべきではなく、株主(請求者)が専らその権利の確保又は行使に関する調査の目的で請求を行ったものであると証明すれば、会社は閲覧を拒否できない。

     「競争関係事業者が、株主名簿の閲覧謄写の請求をする場合には、会社の犠牲において専ら自己の利益を図る目的でこれを行っていると推定することに一定の合理性を肯定できる」等と言っています。

こういう推定は止めてもらいたいですね。競争関係事業者に株主名簿が閲覧されても、それがすぐに会社の犠牲に直結するものではありません。例えば、競争事業者が委任状争奪戦のために行うのがどうして会社の犠牲ですか?経営者の保身でしょ。また、「自己の利益」を図る目的での請求がどうして悪いのですか?誰が株主共同の利益や他人の利益の為に請求するのですか?そんなことビジネスの世界ではありえないでしょ。自己の利益の為の請求に決まってるじゃないですか。

○ この高裁決定は、今後の実務に大きな影響を与えそうですね。結構なことですね。経営者が秘密主義で何でも隠そうとする体質が日本の企業にはありますからね。上場企業ですから、実害がそれほどないものについては公開する姿勢が必要ですね。

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簡易組織再編の規定等について

2009-04-19 18:38:53 | 商事法務

     今回も前回に引き続いて会社法への「けち」です。簡易組織再編の規定については、「簡易企業再編の基準は不合理かも?」というブログを書きました。

http://blog.goo.ne.jp/masaru320/d/20081014

   今回は、この簡易組織再編の規定について、いまだに何故こんな規定があるのか理解できない部分がありますので、それの話です。

     例えば、784(吸収合併契約等の承認を要しない場合)3項は、以下の様に規定しています。「前条及び前項の規定は、吸収分割により吸収分割承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が吸収分割株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を吸収分割株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、適用しない。」

  私が理解できないのは、括弧書の部分です。即ち、「これを下回る割合を吸収分割株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合」と規定された部分です。事業譲渡についても同趣旨の規定が467①2にあります。

     会社を設立するときに定款を作成します。最初から組織再編を前提とした定款を作りますか?この規定を利用して、規制を強化している定款等私は見たことがありません。仮に、事後的にこういった規制を強化するときに、定款を変更するような場合もあるかもしれません。しかしその定款変更は特別決議が必要です。もし仮に要件を強化して特別決議にするということは、二重に特別決議が必要ということです。そんなこと現実にする会社があるでしょうか?

     同じような規定は、会社法の規定の随所に見られます。例えば、特別支配会社の定義は468条の事業譲渡の規定のところにあります。特別支配会社=90%以上の議決権を支配している会社の定義には、括弧書で「(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)」と記載しています。余計な括弧書ですね。法務省の頭の良い人が、定款で要件を強化出来ますよと注意的に書いたのでしょうけど、ちょっと現実離れした内容ではないでしょうか?

     余計な内容を注意的に括弧書きで書いている事例を言いましたが、誤解を避けるための括弧書きもありますね。これは別にあっても構わないと思いますが。例えば、取締役会設置会社の代表取締役の選定については362条に規定されていますが、349条(株式会社の代表)③には、「株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる。」として、取締役設置会社を除外しています。

     会社法の規定のなかの括弧書の部分は、「余計な記載」が多すぎますね。もちょっと工夫して、必要なものだけに整理して欲し気がします。

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組織再編手続期間の不整合

2009-04-12 00:12:32 | 商事法務

     久々に会社法の「けち」です。今回は、公開会社でない株式会社(全株式「譲渡制限会社」)の組織再編の事前備置書類の期間と株主総会招集通知の期間との不整合についての指摘です。

     株主総会の招集通知については、会社法299条①に以下のように規定しています。即ち「株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(前条①III/IV=書面・電磁的方法による議決権行使を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、一週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。」

     一方、組織再編の事前備置書類の開示については、例えば782条以下に以下のように規定しています。

782条①=消滅株式会社等は、吸収合併契約等備置開始日から吸収合併、吸収分割又は株式交換(=「吸収合併等」)がその効力を生ずる日(=「効力発生日」)後六箇月を経過する日までの間、「吸収合併契約等」の内容その他法務省令で定める事項(施行規則182条以下に規定)を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。

782条②=「前項に規定する「吸収合併契約等備置開始日」とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう。」とし、I号では、「吸収合併契約等について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の二週間前の日」と規定しています。

譲渡制限会社については、例えば、二週間を一週間と読み替えるとか、総会招集通知を発した日から事前備置書類を、株主・債権者に開示するというような規定は見当たりません。どうしてですか?取締役会非設置会社では定款でさらに短く出来ます。それに対応する規定もありません。なんで招集通知を発する前から備置書類を準備して開示しないといけないのですか?整合性をとるのを忘れたのですか?

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1株純資産算出基準の不合理

2009-04-04 01:46:31 | 企業一般

1株当たり純資産額の算定については、企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」及びそれを受けた企業会計基準適用指針第4号「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」に規定されています。現在の基準は、H18.1.31に企業会計基準委員会が改定したルールに従っていると思います。それによれば、以下にて算出することになっています。

1株当たり純資産額=(貸借対照表の純資産の部の合計額-控除する金額)/(期末の普通株式の発行済株式数-期末の普通株式の自己株式数)

  なお、連結財務諸表において1株当たり純資産額を算定する際に控除する自己株式数には、子会社及び関連会社が保有する親会社等の発行する普通株式数のうち、親会社等の持分に相当する株式数を含めるものとする。

控除する金額

1) 新株式申込証拠金

2) 自己株式申込証拠金

3) 普通株式よりも配当請求権又は残余財産分配請求権が優先的な株式の払込金額(当該優先的な株式に係る資本金及び資本剰余金の合計額)

4) 当該会計期間に係る剰余金の配当であって普通株主に関連しない金額

5) 新株予約権

6) 少数株主持分(連結財務諸表の場合)

     上記の控除する金額について、よくあるケースは3)&5)ですね。配当優先・残余財産分配優先の種類株式がよく発行されていますからね。例えば、三菱自動車工業等は、A種優先株式からG種優先株式まで、山ほど優先株式を発行しています。ということで、1株純資産については、変な?金額が、有価証券報告書に記載されています。即ち、H20.3末連結ベースの純資産額は3,280億円ぐらいあります。ところが、1株純資産の金額は、△21.81円となっています。

○ 1株当り純資産額の計算は、単純にかつ常識的に、以下とすべきではないでしょうか。

1株当たり純資産額=(貸借対照表の純資産の部の合計額)/(期末の発行済株式数-期末の自己株式数)

○ その理由としては以下です。

- 配当優先株式を発行していても、分配可能剰余金がなければ配当できません。

- 残余財産分配優先権付種類株式を保有していても、会社がつぶれたら、一般債権者でもまともに回収できません。会社の解散・清算のときに、残余財産等分配されている例が(ファンドを除き)どれだけあるのでしょう。この優先株も、会社が事業を継続する為に発行されるものです。会社が解散に際し、優先株主に先に分配し、普通株の株主にはその残余が分配されるので、考え方としては控除すべきであると考えたのでしょうか?継続企業が前提になって、あるいは会社を継続的に存続させるために発行されるにもかかわらず、残余財産分配優先株式の払込金額を控除して、1株純資産を計算するのもおかしな話だと思います。

-         申込証拠金は、払込期間に新株払込を行った金額ですね。当然払込期日になれば資本金・資本準備金となります(払込者はその日から株主)。一旦払い込んだ申込証拠金は取り戻せません。新株予約権でも同じですね。取り戻せない金額をどうして控除するのでしょうか?

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