まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

合弁契約の重要条項

2017-05-20 21:59:16 | 商事法務
今回は、合弁契約に記載する重要条項についての解説です。

機関・出資比率・役員構成について
・会社の機関として、株主総会、取締役会を設置、その権限等を規定する。また業務執行機関であるCEO/Managing Director等について定める。英法系では会社法遵守チェックのSecretary、インドネシアでは監査役会(Komisaris会)等の規定も入れる。
 
・中国企業との合弁である中外合弁(出資比率に応じた利益配当)・中外合作(契約で利益配当を決める)有限公司には、株主会(股东会=gudonghui)は存在しない(設置出来ないと考えられている)。会社法に加えて中外合弁企業法等が適用される。
 中外合弁企業の最高意思決定機関は董事会。定款変更、資本金増減、合併・分割・終了・解散等は、出席董事全員一致事項(法定ではないが、一般的に、定款で持分譲渡も、全会一致とされている)。中国は、原則許認可主義であり、合併の規定はあるが、監督官庁が許可しなければ出来ない。本店移転も規定上はできるが、(政治的なことをしない限り)実際は出来ない(税務局がよく反対する)ことが多いですね。
 
・株主総会の決議は、普通決議(過半数)と特別決議(国により、2/3以上(日本、インドネシア等)又は3/4以上(インド・マレーシア等)が多い。
 →相手が1/3以上、又は1/4以上持てば拒否権が生じる。
・特別決議事項は、法定(基本定款・付属定款変更、合併、減資、解散決議等)の他に、当事者の契約で定める事ができる(法定事項に加えて、全会一致を求めるReserved Matterを規定する場合が多い)。

・合弁の場合は、取締役の員数も出資比率を反映したものになる。合弁契約では取締役会で、全員一致事項(Reserved Board Matter)を決める事がよくある。⇒取締役会レベルで規定すれば、総会レベルでも結局一緒になる。

・会社設立発起人(個人)&取締役が株式を保有する義務を有する国がある。タイでは発起人(個人)は必ず1株保有しなければならないが、直ぐに出資者(会社)に売却できる。しかし、フィリピンでは取締役個人に保有義務が有り、株式売却したら取締役の職務は終了する。

・出資比率50% - 50% の場合:取締役の人数も同数であり、取締役会・株主総会でdead lock(後述)になったときの規定が必要となる。

・増資・融資・保証:増資・融資・保証は出資比率と同じ比率。資金繰り多忙の企業等は、増資に適時に応じられない場合がある。また親会社ローンは、設備投資に限る等(インド)の規制のある国がある。

・会計年度:インドは4-3月と法定。その他は、1-12月が多い(法定されているところも多い)。定時株主総会開催は決算期後6か月以内が多い(マレーシア等)。→日本側の企業が3月決算の上場企業である場合は、東証に5月上旬に決算短信提出必要なので、そういったことも念頭に置く必要がある。

・取締役:過半数とか2名は居住者であること(フィリピン)。Secretaryは居住フィリピン人・インド人(資格必要)等がある。

Dead Lock条項(弁護士が入れたがる条項。金だけのFundはよく入れたがる。メーカー等の農耕民族の会社は、今までの努力を無にする田圃を突然なくす規定は入れないほうがよい。)
・Russian roulette:合弁相手に、お前の持株全部売るか、わしの持株全部買うかどっちだと通知(売買価格のoffer込)を出して迫るやり方。
・Texas shoot-out:Russian rouletteは、一方当事者が相手方に迫るやり方。この方法は、各当事者が第三者に、相手方保有全株式の現金買取・offerをSealed Bidで提出。そのsealed bids は同時にオープンされて、高い価格を提示した方が、その価格で他方当事者の持株全部を買取。相手方はその売却義務を負う。
・Mexican shoot-out (又は'Dutch auctionともいう):.上記Texas shoot-outの変形。Texas shoot-outは買取価格のofferですが、こちらは売却価格のofferで相手方が買うもの。売却価格の高い方が勝ちで、高い方の売却価格を提示した者が、安い方の売却価格を提示した(負けた)相手方保有の株式を買取り、負けた方に売却義務が生じます。
・その他のアプローチ:Arbitrationに付して第三者に決めてもらう(当事者は従う義務り)。Mediation(調停)を記載する場合もあります。

株式の譲渡制限(株式を譲渡するときは、JVA契約上の地位も譲渡。融資・保証も譲受人が承継)
・Tag-along, Drag-along (Bring-along)条項
Tag-along:原則はMajority Shareholderが、株式を第三者に売却しようとするとき、少数株主にもその売却に参加できる権利を与えないと、Majority Shareholderだけうまく会社を売り飛ばして、少数株主が置き去りにされる危険があるため、少数株主にも売却に参加できる権利を持たせる規定です(日本の会社法にも規定が有りますね)
・Drag Along (Bring along) :上記のTag alongは権利ですが、こちらは義務です。少数株主の売却参加義務ですが、売却する主要株主から見れば、少数株主を道ずれ出来る権利です。主要株主が、持株全部を第三者に売却するとき、少数株主に、同時に売却義務を課す、合弁契約にときどき見受けられる条項です。買収者が100%買収を希望するときに有効ですね。

Lock-up条項
 新会社設立後5年間等、合弁当事者に、子会社等を除き、株式売却を禁止する条項。(合弁した、直ぐに別れたでは話にならない。石の上にも3年)

Pre-Emptive (First- refusal)条項(先買権
 将来事情が替わり、合弁から抜けたい、株式を売却したいという事情が生じた時は、合弁当事者に、その出資比率に応じて売却・先買権がある旨規定。

● JVA当事者の競業避止義務
 合弁当事者が、自ら又は第三者と同じ地域で同種事業をすることを禁止する。合弁契約期間のみが一般的ですね。


新会社の解散
設立後5年間とか、本格操業3年経過しても、赤字解消の見通しがないとか、債務超過のときは、解散する旨規定することもある。
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合弁契約の構造 

2017-05-12 19:46:53 | 商事法務
〇 前々回のBlogでは株式による買収契約の構造について説明しました。今回は、合弁契約の構造と盛り込むべき条項の一例です。出資比率・設立国の投資規制・会社法等により少し異なりますね。インドネシアは、オランダ法系ですが、取締役会の上部組織として(あまり機能していませんが)監査役会がありますね。

○ 合弁契約にもいろいろあります。新会社を合弁で設立するが、どちらか一方の既存事業を承継する場合、株式取得を70%にして売主との合弁として継続する場合などですね。日系企業が、いきなり海外で100%買収して経営陣も変更するというのは、やはり難しいので、30%は買収後3年で買い取る。そのCall Option等を入れる、一時的な合弁契約もあります。

〇 合弁契約書(JVA)をdraftして、現地法制の関係もあり、日系(N)のあ(A)る弁護士事務所へ送付したことがあります。そうしたら、やたらと不要なコメントと修正をしてきました。当方でいちいち、解説をつけて元に戻しました。一番おかしな条項は、JVAなのにIndemnity条項を入れてきたことですね。Damages(損害賠償条項)は普通ですが、Indemnityは買収契約には入りますがJVAには普通は入りません。
[通常のindemnificationとcall optionの組み合わせが、アセアン地域では一般的であるため、修正致しました。] ⇒こんなコメントが付いていましたが、これは口から出まかせ嘘ですね。削除してとリクエストしたら、自分の事務所では一般的に入れているとか、顧客の意向を無視して変更しません。ところが、相手に1st draftを出す直前に、いつの間にか削除していました。1st draftを出してからの相手との交渉・修正は、当然その事務所に(FAにも)言わずに(無視して)、自分でやりました。

○ 法律事務所を起用したのは、「起用してやっています」と責任者に言えば、契約書を一行も読まない責任者が安心し、また取締役会も納得するからですね。事業を自分で立ち上げた経験もない弁護士の言うことは、ときとしてピンボケも多いし、必ずしも適切な条項を入れるわけでもないのですね。

≪合弁契約の構造・全体像≫
第1章 総 則
第1条 趣旨・目的
第2条 定義・解釈
第3条 当事者の表明・保証
                 
第2章 新会社       
第4条 新会社の設立・概要
第5条 出資と出資比率
第6条 取締役の員数と指名権等
第7条 監査役の員数と指名権
第8条 会計監査人
第9条 新会社設立条件:当局承認等
第10条 新会社の本契約への参加

第3章 新会社の経営   
第11条  株主総会
第12条  取締役会
第13条 デッドロックの対応
第14条 新会社の経営体制-CEO/CFO, MD、Chairmanと権限等
第15条 剰余金の配当
第16条 株主への報告義務・株主検査権
第17条 本製品の販売 -株主の協力
第18条 原材料の供給 -株主の協力

第4章 工場の建設     
第19条 用地取得・工場の建設予定等-土地は、JV契約締結したら現地合弁Partnerに押えてもらうとか、合弁パートナーの既存工場の遊休地を使うとか決めて記載するケースがあります。土地については、外資系企業にはいろいろ制限がある場合が多いですね。尚、インドでは制限はありません。
第20条 工場の主要設備と生産能力
第21条 工場の建設・設備導入

第5章 株主の協力と義務  
第22条 株主の協力
第23条 株主の会社立上支援 -土地取得・許認可取得・総務・経理・工場建設・人材採用
第24条 資金調達への協力 - 増資・融資・保証等
第25条 株主のその他協力(ライセンス提供等)
第26条 競業避止義務 
                   
第6章 株式の譲渡
第27条 株式の譲渡制限 - 先買権・譲渡株式の評価方法その他

第7章 その他
第28条 対外的発表
第29条 守秘義務
第30条 損害賠償 
第31条 新会社の解散等 
第32条 撤退
第33条 契約の譲渡 
第34条 準拠法
第35条 紛争解決
第36条 契約の費用負担(まあどうでも良い条項だけで、入れている例が多い)
第37条 契約の完全性・変更
第38条 協議事項

合弁契約を締結するときに、契約内容を反映した定款を添付するときもありますが(日本の場合は、定款が簡単なので添付する場合が多いかなあ?)、締結後作成する場合も多いと思います。しかし、そういった定款を作成することを考えない人も多いですね。(定款を、見ない知らない合弁会社経営者も多いですね)


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