まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

M&Aの事後PPA(価格調整)の不合理性

2016-08-17 22:25:40 | M&A
〇 最近は、株式取得による買収について、売買価格がDCFやEBITDA Multipleによるfree cash flowに基づく価格算定・交渉・決定をベースにしているところより、Closing Date等を基準にCash Flowを再度計算して、PPA (Purchase Price Adjustment)を行うべきだと言い張るFA (Financial Advisor)がいます。結論を言いますと、実務上混乱・見解の相違等でスムーズに行かないケースが多いです。自分でClosingを実行した事の無いFA等の言う事を真に受けると後で苦労します。出来るだけPPAは避けましょう。もし、株価を「株価キャッシュフロー倍率(PCFR)」等で行っている場合でも、closing date前月末日のBSを使用して、当事者間で事前確定しましょう。

〇 株式売買価格は、理論的には株式譲渡を実行するClosing Dateの時価です。ですからFAがClosing Date又はその直後の月末BS等を基準にPPAをしてclosing後価格調整をすべしと言ってきます。なるほどと思うクライアントもおられると思いますが、全く馬鹿げています。そもそも株価というものは、エイヤーで決まっているのです。EBITDA multipleでも、10倍とか11倍とかで買収価格を決めますが、最近の他社事例を参考に、「勝てる価格」を算出します。つまり買収価格はどんぶり勘定で決まるのです。それにも拘らず、いったん決めた価格を、決めた時点とClosing Date時点の運転資本の増加・減少の差異を計算してPPAを行います。まさに、砂上に楼閣を築く考え方です。PPAの部分だけ厳密に行って何の意味があるのですか。

〇 確かに契約時点とClosingの時点で、当然BS、PL、Cash Flowは異なってきます。乖離が、一定額以上の場合には、PPAが必要な場合も出てきます。その場合は、下記のルールで行う事を推奨します。

1) 事前調整でClosing Dateを変更しない:契約書でPPAの詳細を決めても、会計処理はいくつかの考え方・処理方法があるので、その通り行きません。お金を支払った後で、買主が支払済代金の一部を取り戻す場合、売主は「はい。そうですか」と直ぐに認めますか?認める筈ないでしょう。これがビジネスの常識です。逆もそうですね。当事者で決められない、調整が付かない場合はAppraiserに決めてもらうという条項を買収契約入れることもありますが、時間とお金がかかります。Appraiserが決めても不満が残ります。契約書に記載していても、お金をいったん払ってからの調整は必ずしも契約書通りにいかないこともあります。
もし、乖離・前提が大きくことなりPPAを行わざるを得ない場合は、事前にしましょう。買収側は、お金を支払ったら買収会社の経営に専念できる体制にすべきですね。

⇒ 事前調整ならClosing Dateの前月末日のBSならわかりやすいですね。それに基づいてClosing直前にPurchase Priceを再確定し支払うとすると事後調整不要です。(金を払う前なら相手も協力せざるを得ない。月次ベースでPL/BSの推移を見れば、(少しは操作できるけど、まあ大体の傾向はわかっているので、確定しやすいのではないでしょうか)

2) 調整は運転資本では無くNet Asset Value(NAV)で行う:運転資本なら操作される可能性があります。通常、売主と対象会社間にはビジネス・取引があります。従い運転資本(主としてAccount Payable & Account Payable)をある程度操作できる可能性があります。また、Closing Dateが月中の場合、その日のBSを作成してPPAをしましょうというFAもいます。通常月中のBSは作成しませんね。余計な手間暇です。月中のBSということは、その前後の売掛・買掛の計上日を操作できますね。(月末でも少し操作できますが)。それを見つけて指摘しても水掛け論になりかねません。

⇒従い、前月までの月次BSと対比できるように、月次決算(試算表)のBSを利用しましょう。しかも比較的わかりやすいBSのNAVを根拠にしましょう。

3) PPAをCash Flowの増減分で行うのは間違い:PPAを運転資本(WC)の増減分で行うというアイデアを出してきたFAがいますね。困ったものです。例えば、以下です。

PPAの金額 =Closing Date WC – Base BS WC
(Base BSとはDDを行った基準日=月末のBSです)

このPPAは、対象会社が製品販売の受注増が見込まれ、在庫を増やしたり、頑張って売上=A/C receivableを増やしたら株式売買価格が下がる考え方ですね。

売上が増えるという事は通常利益が増える事です。利益が増える場合にどうして株価を下げないといけないのでしょうか。売主が怒るでー。(米国のCorporate Financeの考え方にかぶれたFA同士では、CFで考えますので、こういった理屈が、顧客が気づかない間に決められてしまう可能性がありますので、要注意ですね)。

〇 どうしてもPPAが必要なときは、まず、一定額以上のNAV等が変動した場合に限りclosing前事前調整する(NAVの価格変動幅をそのまま反映させるか、当初の株価と同じPBR=株価純資産倍率等で行うなど、わかりやすい指標を使用)、前月末日のBSなりで、当事者が契約締結時からclosing直前まで推移を理解できる数字を使うことで行う事だと思います。

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4 コメント

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Unknown (uk)
2016-08-18 01:06:14
管理人さん
いつも勉強させてもらっています。

>頑張って売上=A/C receivableを増やしたら株式売>買価格が下がる考え方ですね。

Closing時点で想定より売掛金が増えたら、「売掛金は後日キャッシュで回収可能な債権」なので、その分は株式売買価格が上がるのではないですか。

その様子を裏から見れば、想定より在庫が激減していたら、「後日キャッシュ化できる在庫」がないということで株式売買価格を下げる。

本日の管理人さんの説明と真逆で理解しているのですが、どうでしょうか。
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Unknown (まさる)
2016-08-18 20:31:00
・A/C receivableを増やしたら株式売買価格が下がる考え方ですね。

→ご指摘の通り私も株式売買価格は上がると思いますね。
ある案件でFAが起用され、そのFAが、売掛+棚卸資産が増えるとCFが下に振れるというので、売買価格を下げるPPAを考えて当方に提示してきましたので、拒否しました。

→在庫が減少すれば、当然その部分が売掛金になるのが普通ですし、在庫が減少すれば買掛を増やして適正在庫レベルにもっていこうとします。そのFAは、

契約で前提とした基準日とClosing日の運転資本の差額を計算して、株式売買価格に+/-してPPAをすべしと言ってきたのですね。

なるほど、そういう考えもあるのかと思いましたが、私には、FAはfree cash flowをベースにDCFで企業価値を計算しているjのに、この運転資本のcash flowは、freeではないcash flowではないのか、少し考え方がおかしいかもしれないという疑問を持っております。
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Unknown (Unknown)
2020-10-21 17:50:30
管理人様
通りすがりのものです(Googleを漂ってこちらに辿りつきました)。非常に興味深い記事ばかりで大変勉強になりました。
一点だけ、この記事のクロージング価格調整、ですがPPAと略すのは一般的でしょうか?(PPAと略してしまうと一般にPurchase price allocationのことになりませんか?)。揚げ足を取るつもりは全くないのですが、実務界隈で価格調整のことをPPAと呼ぶこともあるのかな?というところを知りたくご質問させていただきました。
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Unknown (Unknown様)
2020-10-21 20:14:27
PPAは、ご指摘の通りPurchase Price Allocationの方が今では一般的だと思います(昔と異なり日本でもきちんとAllocationしないといけなくなりましたからね)。Purchase Price Adjustment(PPA)という言葉がTitle(Heading)に良く使われるM&A契約は、Stock DealではなくClosing Date現在の資産・負債の確定が必要で、事後価格調整が必須なAsset Deal(事業譲渡)ですね。
Stock Dealで価格調整する場合、Purchase Priceの大項目の下の中項目に例えばCalculation of the Closing Share ValueというSub-titleを記載して価格調整条項等を入れた契約は見たことがあります。
このブログを書いた4年前に、なんでPPAと記載したかはよく覚えていませんが、買収価格の配分ではなくPPA(価格調整)とタイトルを短くした方がわかりやすいと思ったからだと思います。
尚、4年たってもこの考え方は変わっておりません。類似の例を挙げますと、株主総会の議決権行使は、総会期日現在の株主が理論的には正しいですが、そんなことはしておりませんね。日本では基準日、米国では都度record dateを決めますね。実務上は、そういうことにしないと進められないからですね。
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