まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

1円ストック・オプションは有利発行

2008-12-22 13:36:16 | 商事法務

     先のブログで、最近の企業の株式報酬型ストック・オプションの付与・発行パターンを述べました。今回は、①新株予約権を無償で付与し、かつ②払込価額即ち新株予約権の行使価額が1円の場合、常識的に考えれば有利発行で株主総会特別決議が必要ですが、これを公正発行として取締役会決議だけで行っている会社がありますので、どういった理屈で行っているのかとその不当性について考えて見たいと思います。

     ストック・オプションの発行が有利発行となるか否かは、払込価額が有償・無償とは必ずしも連動しないとされています。払込価額が有償であっても、公正価値を下回る場合には有利発行になりうるし、無償であっても、価値に見合うだけの便益、将来支払うべき金銭報酬の減少その他の費用節減等の代替効果等があれば、有利発行とならない場合があるとされています。

     従い、行使価額1円のとき、企業としては、付与される役職員は企業の業績に貢献しているわけですから、公正発行と言えるかもしれない、その場合は取締役会決議で行えるけど、やはり1円なので原則どおり有利発行として総会特別決議で行うべきか悩むわけですね。というわけで弁護士に依頼して弁護士意見書を書いてもらうわけです。企業としても、報酬体系をきちんと説明して、もしこのオプション付与に替わり、従来のパーフォナンスボーナスの会社業績部分を減額して、オプションを与えるなら対価関係も株主に説明出来ますが、そういった事はしません。従来の報酬に加えて、このオプションを与えるわけです。弁護士に、企業の報酬体系をきっちり分析して、対価性をきちんと説明できる人などいないでしょうね。

     行使価額1円でも公正発行だとしている企業の弁護士意見書の回答は、「業務執行の対価」であり公正発行、従い取締役会で決議して問題ないというものもあるようです。もちろん、法律用語や解説は、もったいぶってぐじゃぐじゃ書いて、いかにもきちんと検討しきっちり理論付けをしている化粧をしていると思いますが。私には、こんな理屈は、何の説得性もありません。不思議で珍奇な意見書であると思います。

     361条を踏まえれば、業務執行の対価の定義は以下です。

A業務執行の対価=財産上の利益=B1報酬+B2賞与+B3その他(企業年金、ストック・オプション等)

即ち、Aの構成要素の一つがストック・オプションですね。A=B1+B2+B3です。ストック・オプションが有利か、公正かは別次元の話です。弁護士の理屈は、B3=Aなので、公正発行ですというものですね。たとえ話をすれば以下です。

     企業から弁護士への質問:東京は良い所ですか、悪い所ですか?

     弁護士意見書の回答:日本なので良い所です。

     企業の対応:良い所(=公正発行)なので、総会特別決議は不要で取締役会決議で発行します。

良い所かどうかとその理由を聞いているのに、回答が「日本なので」で、どうして回答になっているのでしょう?全く納得性も合理性も無い回答です。特に有利な条件・金額か否かの判断基準、判断、理由の記載がないですね。株主利益に重要な影響を及ぼす事案を、こんな理屈を根拠にして取締役会で決定している企業があります。大企業なら、お風呂にコップ一杯ぐらいの希薄化ですが、小さな上場企業では、バケツにジョッキの水を入れる希薄化ぐらいのときもあります。きちんと特別決議で承認を取得すべきです。

  では、有利発行か、公正発行かは、どのように判断すれば良いのでしょうか?やはり、健全な常識が判断基準になると考えます。企業側が、今回は、パーフォナンスボーナスの業績部分を減額して、その替わりストック・オプションを付与するといった理由等を開示・説明しない限り、有利発行の特別決議とするのが妥当だと思います。そうですよね、株価1000円のものを1円でもらえるなど、得だなんて小学生でも分かります。企業の総務課の人や弁護士も、法令解釈の基本は、右手は法令、左手は良識・常識ですよね。常識的な感覚の無い人もいるんですね?

     行使価額が1株1円。うらやましいですね。お手盛りですね。私にも頂戴!! でも、その場合税金問題はどうなるのでしょうか。

権利行使価額が1円である新株予約権(ストック・オプション)を付与された場合の税務上の取扱いについて、日興コ-ディアルグル-プ(日興は特別決議を取っています)からの事前照会に対してH15.4.11東京国税局が回答していますね。「本件新株予約権の付与時および権利行使可能となる時においては付与対象者に所得税の課税関係が生ぜず、権利行使時に課税関係が生ずるものとして取り扱って差し支えない」という回答ですね。

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株式報酬型ストックオプションについて

2008-12-15 16:42:44 | 商事法務

     職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益には、報酬・給与、賞与・その他(企業年金)等がありますが、最近はインセンティブ報酬としてのストック・オプションを、役職員に付与する企業が増えて来ているようです。今回は、この株式報酬型ストック・オプションの、最近の発行のパターンについて見てみましょう。理論的な事は、会社法体系や葉玉弁護士の著作物等を御参照下さい。

 役職員にストック・オプションを付与するときは、やはり少しは有利な条件でないと役職員も納得行きません。募集新株予約権の第三者割当方式により発行され、役職員が払い込む新株予約権の対価としての金額を、無償又はそれに近い金額としていますね。238IIでは、募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨を募集事項で定めないといけないと規定しています。また同条3①では、この場合(=新株予約権の対価)、金銭の払込みを要しないこととすることが当該者に特に有利な条件(=有利発行)であるときは、取締役は、株主総会で、その理由を説明しなければなりません。新株予約権の払込金額、即ち行使価額についても、同様な規制が、238IIIと③IIにあります。

     有利発行の場合は、株主総会の特別決議ですが、公開会社の場合で、公正価値に相当する価額での発行の場合は、取締役会決議で行えます。①新株予約権につき金銭等を払い込むか無償(特に有利)かと、②新株予約権の払込金額が、公正価値に相当する金額か特に有利かですね。有利発行なら特別決議、公正発行なら取締役会決議ということです。

 最近多い例は、上記①について無償、上記②について市場時価が多いですね。例えば、行使価額の決定日に先立つ取引所の45取引日目に始まる30取引日の各日における当社普通株式の終値平均値等としています。しかし、①について無償とすることをどのように考えるかについては、見方が2つに分かれている様子です。

a. どうせ②が時価だから有利発行に該当しない(特に有利とまでは言えない)ので、取締役会決議で新株予約権を発行しよう。(この場合は、払い込みを要しない事は有利発行に該当しないと記載するのが一般的ですね)

b. ②が時価だから有利発行に該当しないかもしれないが、念の為手数がかかるけど、どうせ総会決議は可決されるから特別決議の承認をとっておこう。あるいはやはり無償なので、特別決議の承認をとっておこう。

・ 対応が分かれている原因は、条文の規定の仕方をどのように読むかが原因だと思います。240条で、238③各号の場合は、総会決議としており、238Iは、「金銭の払込みを要しないこととすることが当該者に特に有利な条件であるとき。」と規定していますしね。「特に有利な条件」かどうかは当事者の判断ということですね。当事者の判断でどちらでも出来そうな条文の規定は如何なものでしょうか。

・ 企業としては、取締役会で行った方がコスト的に安くなるし、何時でも出来ますからね。まさかこの為だけに臨時総会を開くわけにも行きません。bを選ぶ慎重派は年一回の定時総会のときしか現実的には出来ません。

・ 上記②即ち払込金額(=行使価額)は時価が多いと言いました。では役職員は、結局個人で購入するのと変わらないことになりますが、上場企業の役員等ですと、インサイダー取引疑惑を招きかねませんし、種々の規制もありますから、こういった制度に従って自社株を購入し、頑張って(運に恵まれて)会社の業績が好調で株価が上昇すれば、それだけ儲かりますから、業務の遂行に意欲・貼りが出てくるかもしれません。ただ最近の株式市場は突然奈落の底に落ちた感じですので、どうしようも無いですけどもね。まあ、不労所得でがっぽり儲けるのは、「時の運」次第ですね。(どうして私には運がないのでしょうか?)

     所得税が課されない税制適格ストック・オプションもあります。租税特別措置法第29条の2に規定されています。税制適格要件を満たした場合だけですね。権利行使は、付与決議日から2年後10年以内、譲渡禁止、年間の権利行使価額の上限は1,200万円、権利行使価額が契約締結時の時価以上、証券会社経由の売却等が条件で大株主には適用されません。税務署に調書等の提出も必要ですね。税金を払わないようにするのも大作業ですね。詳しくは専門家に聞いて下さい、私には縁が無いので実務は知りません。

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基準日公告の省略と総会の効力

2008-12-08 11:21:56 | 商事法務

     20081027日に「基準日と株主総会の手続の省略」↓という表題でブログを書きました。これが予想外にアクセスされています。検索用語「基準日 省略」等で検索された方がご覧になっているようです。真面目な人が、臨時株主総会等を開催するときのスケジューリング等で悩んでおられるのかもしれません。

http://blog.goo.ne.jp/masaru320/d/20081027

     このブログでは、株主総会の手続省略を規定する法300条では、前条の規定(招集の通知)にかかわらず、株主総会は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。」としているが、前条には基準日の規定(124)については何も触れられていないので、形式的には基準日公告をしないといけないことになっていると述べています。勿論、この基準日の規定は、世の中であまり遵守されていませんが。

     今回は、この基準日公告をしなかったこと、即ち総会招集手続きの瑕疵と総会の効力をどのように考えればよいかということですね。結論を言うと、総会後3ヵ月間、株主等から文句を言われなかったら(=総会決議取消の訴えの無い場合)、決議の瑕疵を争う余地が無くなり、瑕疵は治癒されます。基準日公告などしても、実際見ている人など殆どいませんね。いろいろ内紛のある会社は別ですが、仮に公告等しなくても、争いになる例などまずないですね。では、どういう理屈でこうなるのかですが、総会決議の瑕疵について整理して考えれば良いですね。

     株主総会の手続きあるいは決議内容に瑕疵がある場合とは、どういった整理になっているのでしょうか?瑕疵の軽重に応じて2つの制度がありますね。

A瑕疵の程度が軽い場合:①招集手続や決議方法が法令・定款に違反、または著しく不公正の場合、②決議内容が会社の自治規則である定款に違反するとき、③特別利害関係人が議決権を行使した結果、著しく不当な決議がなされたとき等

B瑕疵の程度が重い場合:①総会決議の内容が、法令に違反している場合、②株主総会そのものや、総会決議そのものが不存在である場合等ですね。

軽微な場合は、決議取消事由になるに過ぎず、形成訴訟の決議取消の訴え(831条)によって取り消されない限り、その決議は有効なものとして取り扱われますね。重い場合には決議の不存在又は無効の確認の訴え(830)ですね。

しかし、具体的にどちらのケースに該当するか判断が難しい場合も多いのではないでしょうか。例えば、特定株主からの自社株有償取得の特別決議の場合、当該株主は議決権行使が出来ません。ところが議決権を行使してしまったらどうなるのでしょう。その株主の議決権を算入してもしなくても議案の成否に影響しない場合と影響する場合等、影響しなければ瑕疵の程度は低いですが、影響する場合は、やはり法令違反になるのかもしれません。

また、内部的規律である定款違反等は第三者にその瑕疵を主張する利益がないから、瑕疵の程度が低い等と言っている人がいます。果たしてそうですかね?例えば、自社が消滅会社として合併する場合だけ特別決議の議決要件を2/3以上では無く、3/4以上に定款で強化していたとき、うっかりこれを忘れて2/33/4の間で承認決議されたとき等は、反対株主の利益を無視しています、この場合瑕疵の程度が軽い等とは言えないのではないでしょうか。

「うっかり忘れ」という事は、実は世の中結構多いんですね。株主総会事務などは総務部に任せていますから、総務部の担当者のちょんぼが、ほいほいとそのまま通ってしまうこともあるのです。取締役や監査役がきちんと目を光らせておけばすんだのに、そのまま見逃すことも時々あります。なにしろ、大企業の取締役会等、かなりの企業が単なる形式・儀式ですから、きちんと内容を種々検討し議論などしていませんからね。それで、何事も起こらず済んでしまうこともありますね。

○ 会社訴訟は、会社・株主・債権者等関係者が多いので、法的安定性と画一処理が強く求められます。事案によっては登記の抹消などもあります。従い対世的効力(確定判決の効力を拡張して第三者に対してもその効力を有する。838条)が認められています。瑕疵の程度が低いものについては、831条に従い3ヶ月以内に決議取消の訴えを提訴して、その認容判決を得て遡及的に無効としない限り、決議は有効なものとして取り扱っていますね。

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平取締役の監督義務の実効性

2008-12-02 10:02:35 | 商事法務

     取締役は種々の義務を負っています。会社法330条では、株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従うと記載されていますので、民法644条の善管注意義務を負いますし、会社法355条には忠実義務の規定があります。また、3624項には、大会社では内部統制システム構築義務も規定されています。その他に36222号では「取締役会は取締役の職務の執行の監督を行う」と規定されていることにより、この規定に従えば、代表権の有無に拘らず取締役会のメンバーである取締役は、(必要あれば自ら招集して)取締役会を通じて他の取締役の行為を監督する義務があるとされています。今回は、この監督義務の実効性についてです。

     整理すると以下ですね。

1】監督義務の対象者

1)     代表取締役は他の代表取締役の職務執行の監督義務がある。

2)     代表取締役は他の平取締役(主として業務執行取締役)の監督義務を負う。

3)     平取締役といえども、代表取締役の職務執行の監督義務を負う。(最判昭48.5.22民集275655頁)

4)     平取締役は他の平取締役の監督義務を負うとされている。

5) 業務執行を行わない取締役は監督義務の対象者となるのか?

2】監督義務の範囲

     取締役会に上程された事項(報告事項&決議事項)のみか、それともそれ以外の事項も含めるべきか?これについては判例(上記の判例等)/通説では、取締役会に上程されない事項についても監督義務があるとされているようですね。

     上記【11)&2)は当然のことなので、3)以下についてコメントをしましょう。

  まず【13)についてです。普通の企業は代表取締役に人事権を握られています。社外取締役も、代表取締役により指名されている例が多いです。平取締役が会長・社長の行った行為を監督し、これを問題視することは現実的には非常に難しいのが実情ですね。そうかといって法律上の建前としては、勿論監督義務を負うとしていいのですが。

  上記【14)について、大企業では一般的に平取締役といえども所管部門について一定の範囲内で権限を有し業務執行を行っています。自分の所管の事項について、他の平取締役からとやかく言われたくないし、相手もそうですから、相互に他部門の事は口を挟まない傾向にあります。従い、いきおいどんなことでも口を挟めるのは職能担当の役員ということになります。平取締役は他の平取締役に対する監督義務があるといわれても、実際はなかなか監督できません。また、担当役員が専決で行ったことの詳細情報など他の役員に情報がいきませんので、この意味からも実効性は乏しくなりますね。

  上記【15)についてです。理屈上は、平取締役は、取締役会の単なるメンバーですから、取締役会から業務執行権を付与されていなければ、例えば社外取締役等は業務を執行しないわけですね。業務執行を行わない取締役に対しては監督義務が無いとなりますが、業務執行権が無いにも拘らず業務執行するような取締役に対しては、当然その範囲で監督義務があるということになるでしょう。しかし、業務執行とは関係ない事項まで監督義務が及ぶか不明ですね。

 上記【2】についてです。取締役としては、他の部門の担当取締役がその権限内で行った業務執行について、取締役会以外でも社内情報回付等で報告を受けるでしょうけど、監督義務を果たせるにたる十分な情報は、社内の正式ルートからは入手できないでしょうね。現実的には、取締役会に報告・決議された事項ぐらいが最大の監督範囲だと思います。また、他部門の業務にはお互い関知しない風土の会社が多いですね。内政干渉になりますからね。それが企業における責任分担ということでしょう。

     では、上記の体質・実効性の無さをどのように改善すれば良いのでしょうか。それはやはりシステムを作ることですね。内部統制システムですね。他の部門でも内部統制違反の場合は、取締役会報告・決議事項にすることですね。それと眠っている?人もときどきいると思いますが、監査役も機能を発揮すべきでしょうね。企業でよくあるケースですが、やましい事は隠して行います。現実問題として、事務レベルなら上から政治的圧力がかからない限り指摘できます。しかし、役員レベルとなると、種々の政治的思惑なども出てきますので、職能担当役員以外は、監督義務の発揮というのは難しいと思っております。

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