まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

企業価値研究会報告書の根本的誤り

2011-08-21 12:47:59 | 社会・経済

 

 著名な学者や実業界・M&A業界関係者などを委員として、企業価値研究会が発足し、いくつもの報告書が出されました。これらの報告書を参考にして、多くの企業では無批判に、殆ど発動もされない買収防衛策が導入されたりしました。またMBO報告書等は、健全な常識に立てば当たり前の事しか書いていないのですが、裁判官もよりどころがないので、この報告書を読んで裁判の判断を下しているのも見受けられる様です。私はいくつかの報告書を読みましたが、違和感を感じました。一言で言えば、アメリカの価値観が前提になっているし、その偏狭な発想から抜け出ていないということです。具体的には以下ですね。

【根本的誤り】

 「企業価値」の定義。

  市場原理主義は善である。

  会社は株主のものである。

 「企業価値」の定義。

H17.5.27に公表された企業価値報告書では、企業価値とは、「会社の財産、収益力、安定性、効率性、成長力等株主の利益に資する会社の属性又はその程度をいう」、換言すると、会社が生み出す将来収益の合計とし、株主に帰属する株主価値とステークホルダーなどに帰属する価値に分配されるとされています。どうして将来収益の合計なのでしょうか?どうして「株主の利益」と言っておきながら、換言すると、付け足しのように「ステークホルダーなど」と、言うのでしょうか?

米国かぶれの単細胞的発想である「将来キャッシュフローの現在価値の総和」であるとの考えです。これは間違いです。どうして将来収益ですか?右肩上がりの経営計画を立てて、獲得できるか不明の将来のフリーキャッシュフローの現在価値が企業価値だという発想です。

私は、「企業の存在根拠は社会への貢献であり、価値とは現在の貢献度・大きさである」と考えています。敢えて数量化すれば、その会社の生み出す「付加価値額」です。付加価値額ですから、営業利益や人件費等を含みます。従業員を減らし人件費を削減して利益を生み出し、株主への配当を増やす企業が、どうして企業価値のある企業と言えるのでしょうか。企業価値研究会のコアであり出発点である企業価値とは何かという、一番肝心のポイントが間違っているのです。

 市場原理主義は善である。

ドイツのシュミット元首相は、もう12-13年も前に、市場原理の抑制が社会の安定に必要であると言われていたようです。(福島清彦著 ヨーロッパ型資本主義 講談社現代新書)。「間違った米国流の新しいイデオロギーがある。その一つが「株主の価値」である」「株主のための価値極大化が推進されると、会社の顧客、同僚、会社の従業員に対する責任がとれないという危険があることを確認しておかなければならない」「いずれにしても、二つの基本的な認識を見失ってはならない。第一に、社会で進行する超高齢化時代にあっては、超福祉国家を作ることはできないこと第二に、「勤労する貧困者」という新しい下層階級を出現させてはならないことである」「従って、ヨーロッパ大陸の産業民主主義国家ではアメリカ的な見本は問題外である」等ですね。

米国流の市場原理主義は、リーマンショック後、悪であるような批判が起こりました。私は悪とは思いません。市場原理の抑制が重要であり、その功罪をきちんと見極める事です。それが報告書には反映されていません。言ってみれば、市場原理とはビールです。ビールをかき混ぜ泡が異常に膨らんで消えたのがリーマンショックです。ビールは液体が詰まっていないとおいしくありません。また液体だけでは、経済が活性化しません。適度の泡が必要です。即ち市場原理の抑制が必要なのです。企業価値の視点から言うと、株主中心で、企業価値を考えてはいけないという事です。

  会社は株主のものである。

株式の保有者は株主ですが、株主が会社を保有する等という規定は会社法にはありません。どうして会社が株主のものなのですか?株主は企業価値を生み出しますか?企業価値を生み出すのは、その会社の役職員の汗と努力と情熱です。株主ではありません。勿論、株主と提携、その資源と相互補完・相乗効果のある事業を行い、企業価値を増大させることがあることは承知しています。しかし、企業価値を生み出すのは株主ではありません。従い企業価値の増大・成果を享受するのは、株主だけでは無く、企業の全てのステークホルダーなのです。会社が株主のものである等という発想は、米国の投資銀行や数字の儲けを追求する機関投資家等の利己的な発想です。企業価値研究会の委員は、こういう発想をもった人たちを集めて、報告書を作成したのです。日本の企業社会に関係する多くの人の一般的で健全な認識とは違うのです。

米国でも、立派な企業は、健全な常識を持っています。例えば、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)です。J&Jのコアバリューは「我が信条(Our Credo)」です。企業理念・倫理規定として、J&Jが果たすべき4つの責任とその対象を明確にしています。

第1の責任は、製品・サービスを使用してくれる顧客に対する責任。第2の責任は、社員に対するものであり、社員は個人として尊重され、その尊厳と価値が認められ、社員は安心して仕事に従事できなければならない。待遇は公正かつ適切で、働く環境は清潔で、整理整頓され安全でなければならない。第3の責任は、我々が生活し働いている社会に対するものである。良き市民として、有益な社会事業・福祉に貢献し、適切な租税を負担する。我々は社会の発展、健康の増進、教育の改善に寄与する活動に参画しなければならない。我々の第4の、そして最後の責任は、会社の株主に対するものである。事業は健全な利益を生まなければならない。我々は新しい考えを試みなければならない。研究・開発は継続され、革新的な企画は開発され、失敗は償わなければならない。新しい設備を購入し、新しい施設を整備し、新しい製品を市場に導入しなければならない。逆境の時に備えて蓄積をおこなわなければならない。これらすべての原則が実行されてはじめて、株主は正当な報酬を享受することができるものと確信する。

 経産省・役所の研究会報告等は、一定の方向に誘導しようとするものです。そのまま鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考えるのです。考えることが重要なのです。

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米国企業の分配可能剰余金

2011-08-14 18:30:17 | 商事法務

 日本の会社法の剰余金は、決算期現在では、基本的には資産から負債を引いて純資産を出し、そこから資本金と準備金を差し引いた金額であり、これは「その他資本剰余金」+「その他利益剰余金」との合計額に自己株式の保有額を加えたものですね。このうち分配可能剰余金は、この剰余金から法4612項の各号の通り、加算・減算(自己株式の帳簿価額等)したものになります。剰余金の分配だけでなく自己株式の取得でも、この拘束を受けます。いわゆる財源規制と言われていますね。

 では、米国の会社法での分配可能剰余金の規制はどうなっているのでしょうか?模範事業会社法では、以下の様に定めています。 

 § 6.40. DISTRIBUTIONS TO SHAREHOLDERS

(a) A board of directors may authorize and the corporation may make distributions to its shareholders subject to restriction by the articles of incorporation and the limitation in subsection (c).

(c) No distribution may be made if, after giving it effect:

(1) the corporation would not be able to pay its debts as they become due in the usual course of business; or (2) the corporation’s total assets would be less than the sum of its total liabilities plus (unless the articles of incorporation permit otherwise) the amount that would be needed, if the corporation were to be dissolved at the time of the distribution, to satisfy the preferential rights upon dissolution of shareholders whose preferential rights are superior to those receiving the distribution.

即ち、債務を支払えないような配当は行ってはならない、あるいは資産が負債より少なくなるような分配は行ってはならないとしています。おもしろい規定ですね。普通は、資産合計額から負債合計額を差し引き、更に資本金(stated capital)の額を差し引いた金額を剰余金として、その限度において利益配当ができるとするのが当たり前だと思うのですが。日本法と違い、分配規制に資本金とか剰余金とかの概念はありませんね。

 米国では、州によっては額面株式の制度を廃止していますが、多くの州ではまだ額面株式が多いですね。即ち、発行済額面株式の株金総額をもって資本金としています。ただ日本と違うのは、日本では法44523項により払い込んだ額の1/2までは資本準備金としなければなりませんが、米国ではこういった規制はありません。 米国では、発行価格US$100/株であっても額面をUS$1/株として、発行株式数にUS$1に掛けて、その総額を資本金とすることが可能ですね。GoogleDelaware州法人)の普通株にも額面がありますが$0.001 par value per shareですね(*)1centではありません。1/10centですね。残りはCapital surplusで、これも剰余金なので分配可能ということで、もう資本金の意味がありませんね。従い、米国企業の財務諸表には、Stockholders’ equityという言葉はありますが、最近は資本金=Stated Capitalという言葉はあまり使わなくなってきています。

準備金についてですが、Delaware会社法171条では。取締役会は、配当に当てる会社の資金から正当な目的の為に準備金を積み立てることができるし、また準備金を廃止することもできるとしています。日本と異なり、取締役会決議でできますね。

§ 171. Special purpose reserves.

The directors of a corporation may set apart out of any of the funds of the corporation available for dividends a reserve or reserves for any proper purpose and may abolish any such reserve.

(*) GoogleJune.30,201110-Qを見ると、Stockholders’ equityとして以下の様に記載されています。

Stockholders’ equityClass A and Class B common stock and additional paid-in capital, $0.001 par value per share: 9,000,000 shares authorized; 321,301 (Class A 250,413, Class B 70,888) and par value of $321 (Class A $250, Class B $71) and 322,668 (Class A 253,830, Class B 68,838) and par value of $323 (Class A $254, Class B $69) shares issued and outstanding.

20110812

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米国会社法には計算書類の規定は無い

2011-08-08 20:57:59 | 商事法務

 

  日本の会社法には第五章に計算等の規定があります。またこれを受けて詳細は、会社計算規則に定められていますね。また法438条では、計算書類及び事業報告を定時株主総会に提出・提供し、計算書類は原則として定時株主総会の承認を受けなければならないとしています。この承認は、「計算が正当であることを承認する総会の決議である」と言われている学者がおられますが(神田会社法七版226頁)、会社外部の株主にとって、計算書類が正当であるかどうかなど、分かるわけ無いでしょ。全くおかしな見解ですね。

 

○ では、米国の会社法では、計算書類・財務諸表は総会の承認が要るのでしょうか?答えは要りませんね。そもそも総会の会議の目的事項に財務諸表の承認はありません。また会社は株主に財務諸表を、総会招集通知に添付したりして送付しませんね。勿論株主が、アニュアルレポートを頂戴といえば会社はすぐにその株主に送付しますけれども。では、米国の会社法では、財務諸表の扱いはどのようになっているのでしょうか?

 

○ 米国の会社法には、財務諸表の作成を要求する詳細な規定はありません。模範事業会社法に1条だけありますけど(後述)。面白いですね。でもアニュアルレポートがありますね。四半期報告もありますね。SEC(証券取引委員会)の届出書類で言えば、10-K,10-Qですね。米国では、財務諸表の作成は、1934年証券取引法13条(Securities Exchange Act of 1934 Section 13)で規定されているのですね。

 

○ この13条では、12条によりSECに登録した証券を発行している会社は、SECの定めた規則に従い、10-K(年次報告書)及び10-Q(四半期報告書)SECに提出しなければならないとしており、また、会社の取引及び財産の処分を反映する帳簿を記録・作成保存しなければならないと定めています。<o:p></o:p>

 

 12条では、証券取引所に上場されている証券の発行会社は、証券の登録をしなければならないとしています。更に州際通商(interstate commerce)等に従事している会社等も、その証券の登録が必要です。では、登録が免除される規定はどのようになっているのでしょうか。

Every issuer which is engaged in interstate commerce, or in a business affecting interstate commerce, or whose securities are traded by use of the mails or any means or instrumentality of interstate commerce shall?

A. within one hundred and twenty days after the last day of its first fiscal year ended after July 1, 1964, on which the issuer has total assets exceeding $1,000,000 and a class of equity security (other than an exempted security) held of record by seven hundred and fifty or more persons; and

B. within one hundred and twenty days after the last day of its first fiscal year ended after two years from July 1, 1964, on which the issuer has total assets exceeding $1,000,000 and a class of equity security (other than an exempted security) held of record by five hundred or more but less than seven hundred and fifty persons,<o:p></o:p>

 

 上記の通り、総資産が100万ドル(この金額は、SECexemption ruleにより$10millionになっています)以下かつ株主が500人未満の会社は、SECへの証券登録が不要となりますね。<o:p></o:p>

 

 かなり会社法から離れてしましましたが、模範事業会社法には少し、財務諸表の事が記載されています。Chapter 16 Records and Reports§ 16.20. FINANCIAL STATEMENTS FOR SHAREHOLDERSに以下が規定されています。

(a) A corporation shall furnish its shareholders annual financial statements, which may be consolidated or combined statements of the corporation and one or more of its subsidiaries, as appropriate, that include a balance sheet as of the end of the fiscal year, an income statement for that year, and a statement of changes in shareholders’ equity for the year unless that information appears elsewhere in the financial statements.(b)は省略

(c) A corporation shall mail the annual financial statements to each shareholder within 120 days after the close of each fiscal year. Thereafter, on written request from a shareholder who was not mailed the statements, the corporation shall mail him the latest financial statements.

<o:p></o:p>

20110806

 

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米国会社法の議決権信託等について

2011-08-01 21:36:22 | 商事法務

 

 昔の日本の会社の定款には、「質権の登録及び信託財産表示」等として、「当会社の発行する株式につき質権の登録、変更若しくは抹消、又は信託財産の表示若しくは抹消を請求するには、当会社所定の書式による請求書に当事者が署名又は記名押印してしなければならない。」等と記載されていました。しかし、信託財産としての表示は実際上殆どありませんでした。また、最近の会社、特に上場会社の定款の株式の箇所には、質権のことも信託財産のことも記載しなくなりました。上場株式等については、株式等振替制度(いわゆる「ほふり」)が導入され、上場会社について株券等を廃止し、株主等の権利の管理(発生、移転及び消滅)を、機構及び証券会社等に開設された口座で電子的に行うようになったのも原因の一つだと思います。ところが、今度は上場会社の大株主として、信託銀行が信託口として登場し、誰が実質の株主か分からなくなってきました。今回は、米国等で一般的な信託ですが、その会社法にはどのように規定されているのか等の話です。日本の会社法にはこういった規定はありませんね。<o:p></o:p>

 

○ 模範事業会社法Chapter 7 ShareholdersにはSubchapter CとしてVOTING TRUSTS AND AGREEMENTSとして、§ 7.30. VOTING TRUSTS(議決権信託)§ 7.31. VOTING AGREEMENTS(議決権拘束契約)と§ 7.32. SHAREHOLDER AGREEMENTS(株主間協定)の規定があります。つまりこの3つはそれぞれ関連したものとして纏めてられているわけですね。株主間協定のうち議決権の事についてのみ定めたものが議決権拘束契約と普通は考えていいですね。しかし、議決権拘束契約ということで言えば、別に株主間に限定せずに、会社の取引先等の利害関係者と株主間で、一定の事項の議決権を拘束する約束をしてもいいですね。そういう例外も考えられます。§7.31では、Two or more shareholders等と書いていますが、契約は自由ですから株主以外と株主間で議決権拘束の契約も結べますね。具体的な条文は以下です。§ 7.32.は長いので省略して議決権信託と議決権拘束契約について述べましょう。<o:p></o:p>

 

○ § 7.30. VOTING TRUSTS

(a) One or more shareholders may create a voting trust, conferring on a trustee the right to vote or otherwise act for them, by signing an agreement setting out the provisions of the trust (which may include anything consistent with its purpose) and transferring their shares to the trustee. When a voting trust agreement is signed, the trustee shall prepare a list of the names and addresses of all owners of beneficial interests in the trust, together with the number and class of shares each transferred to the trust, and deliver copies of the list and agreement to the corporation’s principal office. 

(b) A voting trust becomes effective on the date the first shares subject to the trust are registered in the trustee’s name. A voting trust is valid for not more than 10 years after its effective date unless extended under subsection (c). (c) =延長の場合も最長は10年以下にするという規定です。<o:p></o:p>

 

§ 7.31. VOTING AGREEMENTS

(a) Two or more shareholders may provide for the manner in which they will vote their shares by signing an agreement for that purpose. A voting agreement created under this section is not subject to the provisions of section 7.30.

(b) A voting agreement created under this section is specifically enforceable.<o:p></o:p>

 

 議決権信託と議決権拘束契約の関係

議決権拘束契約の問題点は、合意内容に反して議決権の行使がされた場合です。契約内容に違反する議決権行使がなされても、会社に対してはその行使は有効ですね。債権者は、契約違反の債務者に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求権を持ちますが、特殊な場合(違約罰の定めがある場合、配当増額の議案提出とその決議できる持株比率の確保等が出来ている場合等)以外は損害額の算定など出来ませんね。損害賠償なのに、損害額の算出が困難、あるいは無理に屁理屈こねて損害額を算出しても立証が困難ですね。この欠点をカバーする方法として、即ち合意内容を確実に実現したい場合に議決権信託が利用されますね。信用できる受託者は、信託目的に反する行動は取りませんからね。<o:p></o:p>

 

 議決権信託の利用

例えば、受託者が自ら株式の40%を有している場合、他の株主から30%の議決権の信託を受ければ、合計の70%の議決権を入手したことになり、会社の支配権を得ることができますね。一方で、議決権を信託した株主は、配当などの権利を受益者として享受します。オーナー企業の相続で長男(社長を引き継ぎ)が40%の株式を取得して、他の家に嫁に行った姉妹が合計30%取得、経営は兄に任せて配当はもらいますということが可能となりますね。これは信託利用の一形態です。信託を利用するといろいろな利用方法があると思います。研究熱心な方は、研究して私に教えてください。

尚、ご参考までに日本でも活用の動きがあります。H209月に中小企業庁から信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会における中間整理について」が公表されています。ご興味のある方は参照されては如何でしょうか。<o:p></o:p>

 

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