○ ライブドアvsニッポン放送事件の東京高裁の決定で、濫用目的をもって株式を取得した敵対的買収者は株主としての保護に値しない例として、四つの事例が挙げられています。少し長いですが該当箇所を引用してみます。「株式の敵対的買収者が、(1)真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメーラーである場合)、(2)会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど、いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合、(3)会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合、(4)会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合など、当該会社を食い物にしようとしている場合には、濫用目的をもって株式を取得した当該敵対的買収者は株主として保護するに値しないし、当該敵対的買収者を放置すれば他の株主の利益が損なわれることが明らかであるから、取締役会は、対抗手段として必要性や相当性が認められる限り、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権の発行を行うことが正当なものとして許されると解すべきである。」
○ 最近の議論では、企業価値・株主共同の利益を確保する場合は、限定的な条件下にて買収防衛策を発動して構わない。但し、敵対的買収者の損害回避可能性(=防衛策発動による希釈化の損害を回避出来る可能性)がある場合とすべしという議論がなされているようです。
尚、企業価値とは概念的には、「キャッシュフローの割引現在価値」を指すとしていますが、「株主共同の利益」については、特に定義らしきものは見当たりません。(企業価値研究会H20.6.3「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」ご参照)
○ 2005.5.27に経産省・法務省が「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」を公表してから、企業が買収防衛策を導入する場合には、馬鹿の一つ覚えの様に、「企業価値・株主共同の利益の確保」が決まり文句になりました。
○ 企業価値:東京高裁の決定に例示されている濫用的買収者から企業を守る場合の内容を見てみると、確かに企業価値が破壊・毀損されると思いますが、その内容はどういったものでしょうか。私は、①買収者が企業を食い物にして私利私欲を追求する。②付加価値を生み出して、顧客・社会に貢献している社会の公器たる企業の価値を破壊する。③企業の正常な事業活動を破壊して、そこで働く役職員の正常・平穏な活動を危険にさらす。等が企業価値を毀損する事だとしているのではと思います。しかし、企業価値研究会流に言うと、企業価値の毀損は「キャッシュフローの割引現在価値が減少する」となります。私には、企業価値研究会の企業価値の概念定義は少しおかしいのではないかと思います。米国の借り物概念を安直に持ってきて、「企業価値とは何か」を十分考えて議論していないのではないかと思います。
○ 株主共同の利益:これまた不思議な言葉ですね。株主共同の利益って何ですか?私は、基本的には株主は同床異夢の存在だと思います。私利私欲を追求する敵対的買収者であっても高値で株式を買ってくれれば、株式を売りたい株主にとっては株主の利益でしょ。そういった株主も株主ですし、高値で売り逃げるのも株主の意向・一つの判断です。ブルドックの様に、2/3以上の多数決で、日本的な企業防衛の判断を行ったのは株主ですが、組織規律・運営の基本原理である(単純あるいは2/3)多数決の原理が働いただけでしょ。株主の意向・判断を尊重する。それが過半数とか2/3以上だとそれを尊重する。資本多数決で決められた株主の意思の尊重ですね。即ち、多数派株主が少数派株主の利益を犠牲にするということです。これを株主共同の利益等と呼ぶのはおかしいということです。株主共同の利益というものが最初からあってそれを保護するということではありません。勝てば官軍。その官軍をあたかも株主全部の利益のような表現をするのはおかしいですね。一部の株主の意思は否定・否決されます。株主共同の利益等というごまかし表現は止めてほしいと思います。
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