まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

取得条項付新株予約権と株主平等・不平等

2008-07-22 16:18:15 | 商事法務

     取得条項付新株予約権が買収防衛策で利用されています。会社法23617号には、「株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、一定の事由が生じた日にその新株予約権を取得する旨及びその事由」等を規定するよう求めています。

○ 有名なケースは、ブルドックソースの件ですね。基準日(2007.7.10)現在の株主に対して、普通株1株につき3個の割合で新株予約権を割り当てました。予約権行使可能期間は、2007.9.1-9.30として、新株予約権行使により普通株式を交付する場合における、1株当たりの払込金額(行使価額)は1円とする。尚、新株予約権の譲渡は、取締役会の承認(譲渡制限付)が必要。

-         取得条項、即ち新株予約権の取得の事由及び取得の条件は、取締役会が別途定める日(行使可能期間前の日=7.24の臨時取締役会で8.9と決定)をもって、株主の同意無く、新株予約権を取得して、その対価として、非適格者=敵対的買収者以外の株主に対しては、予約権1個について普通株式1株を交付する。非適格者に対しては、予約権1個について金396円を交付することができるとしていました。

-         2007.6.24開催の株主総会では、議決権総数の8割以上の賛成でもって可決承認されました。

     ご承知の通り最高裁まで争われましたね。株主平等原則違反と著しく不公正な方法によるものか否かが争われました。最高裁は、1091項の株主平等原則の趣旨は、新株予約権無償割当の場合にも及ぶ。しかし、個々の株主の利益は、企業価値が毀損され、会社利益・株主共同の利益が害されるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に扱っても、衡平の理念に反し相当性を欠くものでないかぎり、平等原則の趣旨に反しない。そして、価値毀損・株主共同利益が害されるかの最終的判断は、株主により判断される。本件では、株主は、買収者の経営支配権取得が、企業価値を毀損し、株主共同利益を害することになると、株主が総会で判断し、議決権の約83.4%の賛成で可決されたものである。

- 衡平の理念に反し、相当性を欠くものであるかについては、買収者の持株比率は大幅に低下するが、金員の交付を受けることができることになるので、この理念に反しないし相当性を欠くものでもない。また、金員交付により企業価値が毀損するが、それも買収者以外の大半の株主がやむをえないと判断したものである。また、著しく不公正な方法によるものでもない。

     株主平等原則は、合理的な理由があれば差別を容認しています。新株予約権は、株式ではないけど、株主平等原則の直接の適用はないけれども趣旨は及ぶとしています。学者のなかには新株予約権には及ばないという見解もあるようですけど、ちょっと如何なものでしょうか。合理的な理由としては、役員・従業員であることを条件に行使できる等は納得の行く理由ですね。なにしろその会社の役職員は、企業価値向上に貢献しているわけですからね。新株予約権を株主に与える場合でも、その内容に違いのあることが直ちに違法になるわけではない。例えば、敵対的買収者が20%以上の株式を取得した場合に、その者以外の新株予約権者は、新株予約権を行使できるということも認められるとしています。しかし、買収者へのコンペンセーションは、やはり考える必要がありますね。

     ブルドックのケースでは、買収者には株式ではなく金員が交付されます。①総会の特別決議が通ったからという点が強調されていますが、やはり②金員が交付されるのも重要だと思いますね。まあ、買収者はお金ももらえるし、他の大多数の株主が反対しているから、この決定はやむを得ないと思います。

     しかし、企業価値研究会の買収防衛策の在り方についての2008.6.3案では、買収者が合理的手続きに反し、株主が適切な判断を行う為の時間・情報・交渉機会の確保を認めないなら、あるいは正当防衛的なものは、「金員等の交付を行う必要はない」と言っています。こういう発想は如何なものでしょうか?こんな暴論無いですよね。買収者も、それなりに株式を5%ルールも遵守して)取得してから、あるいは既存の大株主の売却意向を確かめてからTOBを行います。そういったTOBに応じて株式を売却するのも株主の意思です。多額の金員を投じて買収を目指す者に不当に損失を与える発想ですね。株主不平等+不当取扱いだと思います。ブルドックのケースで言えば、スティールは、13-19%のプレミアムを付けて、当初1584/株、その後変更し1700/株でTOBを行いました。彼らの取得価額がいくらなのか知りませんが、仮に1000/株ぐらいとしましょうか。株式分割として株数は4倍、株式の価値は1/4となりました。金員交付は、1株396(=1,584/4)ですね。金員等が交付されないと、買収者は莫大な損失を被ります。企業価値研究会の見解は、違法な事を行っていないにも拘わらず、紳士的なルールに従わない濫用的買収者には、金員等を交付する必要は無いとしています。株式市場では自由に株式売買できます。市場外ではTOBですね(*)。金融商品・株式市場制度の根幹を無視する考え方だと思います。

* 正確には、①60日間で市場外・11名以上・5%以上の場合、②60日間で市場外・10名以内・1/3超の場合、③市場内・立会外・1/3超、④3月内に10%超・うち立会外又は市場外で5%超・1/3超、⑤他者TOB中・1/3超保有者・5%超買付の場合ですね。

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