まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

M&AのMaterial Adverse Change (MAC)について

2016-10-24 22:18:20 | M&A
〇 M&Aの買収契約では、買収の条件として表明・保証が契約締結日現在及びClosing日現在真実・正確であること等の条件が入りますが、この買収実行の条件の中に、DDの調査基準日からClosing DateまでにMaterial Adverse Change (MAC) = Material Adverse Effectが、売主の売却対象会社に生じたときは、買主は買収をやめることができる旨の規定が一般的に入りますね。かつて私がドラフトした買収契約で、相手からMACを定量化して欲しいと言われましたので、定量化は財務的な数値で10%以上の純資産が減少したとき等の規定を入れることは可能なのですが、定性的なものもあるので(key Person等の退職等)、「定量化は難しい、でも検討するからアイデアを出して」と言ったら、それっきりになり、当方の条項の通り契約書に記載することができました。

〇 この規定は、心配性の買主が契約後に何かあったら、「やーめた」と言える一般条項ですね。日本やアジア等のM&Aで、この条項を使って買収をやめた企業がどれだけあるのか、また、どれだけそれを理由として仲裁・裁判などで争われたか知りません(多分、殆ど無いと思います)。しかしM&Aが日常茶飯事の米国では、主としてDelaware州法で争われて判例がいくつかあるようです。

この条項で、買収契約のCancelを広く認めると売主は不利ですね。従い、裁判所は、実際の適用に当たってはMACの解釈を制限的にとらえています。
IBP v. Tyson Foods, Inc. (789 A.2d 14 (Del.Ch. 2001)), Delaware Chancery Courtの判例では、「In reviewing the broadly drafted MAC contained in the acquisition agreement, the court restricted material adverse effects to “unknown events that substantially threaten the overall earnings potential of the target in a durationally significant manner.”」
即ち、買手にとってunknown event (想定外)であること、長期的に全体の潜在収益力に脅威を及ぼすものであることと制限していますね。少なくとも、具体的に記載しないと認められないということですね。

〇 MAC条項の簡単な例:
No Material Adverse Change. Since the date of the Balance Sheet, there has not been any material adverse change in the business, operations, properties, prospects, assets or condition of any Acquired Company, and no event has occurred or circumstances exist that may result in such material adverse effect.

〇 数量化する場合の例:
For purposes hereof, an event, occurrence, change in facts, conditions or other change or effect which has resulted or could reasonably be expected to result in a suit, action, charge, claim, demand, cost, damage, penalty, fine, liability or other adverse consequence of at least $500,000 shall be deemed to constitute a Material Adverse Effect.

〇 MACの一般規定の後に該当しない例を書く例(売主側が用意するDraftの場合)
None of the following shall be taken into account in determining whether there has been or will be, a Material Adverse Effect: (a) changes or effects that generally affect the industries in which the Business operates; (b) changes in securities or currency markets or general economic, regulatory or political conditions; (c) effects due to changes in any accounting policies or principles (including GAAP) or any laws affecting the Business; (d) the failure of the Business to meet any internal projections or forecasts; (e) changes or effects arising out of, or attributable to, the announcement or the consummation of the transactions contemplated hereby, the execution of this Agreement, or the identity of Buyer; (f) any effect arising out of any action taken or omitted to be taken at the request or with the consent of Buyer; or (g) any effect, development or circumstance arising out of any action taken by Buyer in connection with fulfillment of its obligations under this Agreement.

〇 MACの条項に拘る弁護士さんもいますね。何のためにM&A契約を作成しているのでしょうかね?M&Aを実現するためですよね。つぶすためじゃないですよね。誰の目にも明らかで客観的なMACが起こらない限りMAC条項は、殆ど発動されない、重要では無い条項ですね。
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会社買収のLOIの内容

2016-09-02 22:44:32 | M&A
〇 売却対象会社の書面情報など一次資料を受領し、買収に値するとして買収交渉に進むときに、買収意思の表明としてLetter of Intent (LOI)を売却側に提示します。そのときのLOIについてです。
FAが取り仕切って入札方式で行う場合と相対で交渉して行う場合の2通りがありますが、一部を除き、買収側の記載内容は大体同じです。尚入札方式の場合はFAより、注意事項と記載して欲しい条項等を言ってくる場合があります。注意事項としては、案件の取り進め方式(コンタクト窓口の統一等・一次Bid=Price Indication提出期限等)、Rangeのprice indicationの場合は、一番安値を入札価格として審査するとか、(Fundの入札等を想定した)買収資金の確保・所用期間等の記載を求める事項等が記載されています。

〇 LOIの記載内容
まず冒頭に、買収の機会を得てありがとうなど挨拶文言などをいれて、このLOIはlegally Non-bindingである旨記載します。続いて以下などを記載します。

1) 買収主体の概要: Stock dealにしろAsset Dealにしろ、誰が買収するのかの概要を書きます。海外の場合は、現地子会社が買収するなど買収の主体(Acquiring Entity)を記載します。

2) 買収予定価格:Price Indicationですね。昔は、RangeでIndicationを出して、価格交渉に持ち込もうという買収者が多かったですが、最近はFAが入っている案件では、Rangeのofferはするな。したときは一番下値をIndication価格とすると明記したFAの入札指示書が一般的になりましたね。売主にとり一番重要な要素ですからね。

3) 資金調達: 買収資金はきちんと調達できますよという内容を記載します。Acquisition Financingですね。価格を提示しても、その資金を調達できないと意味ないですからね。
資金調達の確実性(銀行とのCredit Lineを確保しているとか)、Fundの場合は、受注確定後資金手当てまでの期間等を書きます。

4)買収態様:株式取得なら100%取得か、あるいは創業者保有株の一部は創業者に継続保有して、また継続経営をしてもらい、そのPerformanceに従い、残りの株式を分割取得する等の概要を記載します。Asset Dealの場合は、特に承継不要の資産等があれば記載します。欧米のAsset Dealは、日本の場合と異なりExcluded Asset and Liabilitiesを明確に記載します。会社を新設して事業承継する場合は、年金等(会社制度であるDefined Benefit Plan:
DB=確定給付制度や、会社が枠組みを作り個人が加入し会社がMatching Contributionを行うDefined Contribution Plan:DC=確定給付)の制度を作るに1年はかかりますので、その間は出向扱いでやるしかないですね。(こういった点はFAも日本の自称MA専門弁護士も知りませんので注意が必要ですね)。

5) 買収資金支払方法:Cash払いですね。

6) DD実施:一次資料で概略を掴み、どういった点を重点的に行うか、工場のSite-visitの事などを記載します

7)買収スケジュール:今後の予定等を記載します。

8) 買収の条件:どういった条件が整ったら買収を実行できるか記載します。普通はDefinitive Agreement (DA)の内容は、取締役会承認条件と書きます。

9) その他の条件:交渉ベースで進めることができる場合は、一定期間他社との交渉禁止などの条件を記載します。

大体、これぐらいでしょうか。これでうまく相手と交渉が進めば、買収のfirm offerですね。
入札の場合は、大体finalistとして3社ぐらいが残ります。Firm offerと言っても条件を付けます。Satisfactory Definitive Agreement 締結が条件ですね。
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M&Aの事後PPA(価格調整)の不合理性

2016-08-17 22:25:40 | M&A
〇 最近は、株式取得による買収について、売買価格がDCFやEBITDA Multipleによるfree cash flowに基づく価格算定・交渉・決定をベースにしているところより、Closing Date等を基準にCash Flowを再度計算して、PPA (Purchase Price Adjustment)を行うべきだと言い張るFA (Financial Advisor)がいます。結論を言いますと、実務上混乱・見解の相違等でスムーズに行かないケースが多いです。自分でClosingを実行した事の無いFA等の言う事を真に受けると後で苦労します。出来るだけPPAは避けましょう。もし、株価を「株価キャッシュフロー倍率(PCFR)」等で行っている場合でも、closing date前月末日のBSを使用して、当事者間で事前確定しましょう。

〇 株式売買価格は、理論的には株式譲渡を実行するClosing Dateの時価です。ですからFAがClosing Date又はその直後の月末BS等を基準にPPAをしてclosing後価格調整をすべしと言ってきます。なるほどと思うクライアントもおられると思いますが、全く馬鹿げています。そもそも株価というものは、エイヤーで決まっているのです。EBITDA multipleでも、10倍とか11倍とかで買収価格を決めますが、最近の他社事例を参考に、「勝てる価格」を算出します。つまり買収価格はどんぶり勘定で決まるのです。それにも拘らず、いったん決めた価格を、決めた時点とClosing Date時点の運転資本の増加・減少の差異を計算してPPAを行います。まさに、砂上に楼閣を築く考え方です。PPAの部分だけ厳密に行って何の意味があるのですか。

〇 確かに契約時点とClosingの時点で、当然BS、PL、Cash Flowは異なってきます。乖離が、一定額以上の場合には、PPAが必要な場合も出てきます。その場合は、下記のルールで行う事を推奨します。

1) 事前調整でClosing Dateを変更しない:契約書でPPAの詳細を決めても、会計処理はいくつかの考え方・処理方法があるので、その通り行きません。お金を支払った後で、買主が支払済代金の一部を取り戻す場合、売主は「はい。そうですか」と直ぐに認めますか?認める筈ないでしょう。これがビジネスの常識です。逆もそうですね。当事者で決められない、調整が付かない場合はAppraiserに決めてもらうという条項を買収契約入れることもありますが、時間とお金がかかります。Appraiserが決めても不満が残ります。契約書に記載していても、お金をいったん払ってからの調整は必ずしも契約書通りにいかないこともあります。
もし、乖離・前提が大きくことなりPPAを行わざるを得ない場合は、事前にしましょう。買収側は、お金を支払ったら買収会社の経営に専念できる体制にすべきですね。

⇒ 事前調整ならClosing Dateの前月末日のBSならわかりやすいですね。それに基づいてClosing直前にPurchase Priceを再確定し支払うとすると事後調整不要です。(金を払う前なら相手も協力せざるを得ない。月次ベースでPL/BSの推移を見れば、(少しは操作できるけど、まあ大体の傾向はわかっているので、確定しやすいのではないでしょうか)

2) 調整は運転資本では無くNet Asset Value(NAV)で行う:運転資本なら操作される可能性があります。通常、売主と対象会社間にはビジネス・取引があります。従い運転資本(主としてAccount Payable & Account Payable)をある程度操作できる可能性があります。また、Closing Dateが月中の場合、その日のBSを作成してPPAをしましょうというFAもいます。通常月中のBSは作成しませんね。余計な手間暇です。月中のBSということは、その前後の売掛・買掛の計上日を操作できますね。(月末でも少し操作できますが)。それを見つけて指摘しても水掛け論になりかねません。

⇒従い、前月までの月次BSと対比できるように、月次決算(試算表)のBSを利用しましょう。しかも比較的わかりやすいBSのNAVを根拠にしましょう。

3) PPAをCash Flowの増減分で行うのは間違い:PPAを運転資本(WC)の増減分で行うというアイデアを出してきたFAがいますね。困ったものです。例えば、以下です。

PPAの金額 =Closing Date WC – Base BS WC
(Base BSとはDDを行った基準日=月末のBSです)

このPPAは、対象会社が製品販売の受注増が見込まれ、在庫を増やしたり、頑張って売上=A/C receivableを増やしたら株式売買価格が下がる考え方ですね。

売上が増えるという事は通常利益が増える事です。利益が増える場合にどうして株価を下げないといけないのでしょうか。売主が怒るでー。(米国のCorporate Financeの考え方にかぶれたFA同士では、CFで考えますので、こういった理屈が、顧客が気づかない間に決められてしまう可能性がありますので、要注意ですね)。

〇 どうしてもPPAが必要なときは、まず、一定額以上のNAV等が変動した場合に限りclosing前事前調整する(NAVの価格変動幅をそのまま反映させるか、当初の株価と同じPBR=株価純資産倍率等で行うなど、わかりやすい指標を使用)、前月末日のBSなりで、当事者が契約締結時からclosing直前まで推移を理解できる数字を使うことで行う事だと思います。

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金融資産発生の認識と未公開株投資

2016-02-20 23:52:08 | M&A
○ 企業会計基準委員会が制定している金融商品に関する会計基準では、private equityの投資をしている人にはおかしな条項と思われる規定がありますね。「金融資産の契約上の権利又は金融負債の契約上の義務を生じさせる契約を締結したときは、原則として、当該金融資産又は金融負債の発生を認識しなければならない」また、これを受けて実務指針では「有価証券の売買契約については、約定日から受渡日までの期間が市場の規則又は慣行に従った通常の期間である場合、売買約定日に買手は有価証券の発生を認識し、売手は有価証券の消滅の認識を行う。」としています。

○ こういった規定があるので、杓子定規な会計士が、契約締結日に株式取得の認識をしろとか言ってきますね。困ったものですね。「市場の規則」つまりT+2とか、T+3で、日本の株式はT+3即ち、売買約定日を入れて4日目に自動的に決済しますね。金融商品取引所で取引される金融商品とprivate equityとは性格を全く事にするものです。

○ M&A等で、株式取得契約を締結しても多くの前提条件(Conditions Precedent)を入れます。それを満たせばClosing Dateに決済が行われます。この会計基準・実務指針の前提とは全く違いますね。会計基準・実務指針は、優秀な公認会計士や学者先生等が集まって制定したものですね。でも、上場している金融資産・有価証券だけしか念頭に置いてない視野の狭い人が決めたルールではないでしょうか。基準作っても、その前提条件をきちんと記載してほしいですね。

○ 海外では、例えば中国の合資会社・有限公司等の持分取得契約を締結しても、この契約では効力発生しないですね。中国は審査規制機関の承認日、これも2通りの解釈があり、新しい批准証書の発行日なのか、新しい営業許可証の発行日なのか場所によって批准証書が出れば、ほぼ自動的に営業許可証を出す都市と別々に一応審査するところもありますね。また新興国では、規制当局の承認などが必要な場合もあります。外資規制で許認可の必要な株式・持分取得などもあります。

○ 企業会計基準委員会の会計基準や実務指針は、金融商品の会計基準・処理を詳細に規定していますが、どうも作成している人は、別世界があることにも気を配ってほしいですね。
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日米のM&A契約書の比較

2015-10-22 21:56:49 | M&A
○ 昔は、日本の合併契約、株式取得契約、事業譲渡契約は、せいぜい3-4ページぐらいでしたね。それでも、お互いの信頼関係のもと、それ程の支障もなく実行できていました。しかし、最近は米国などの影響を受けた詳細なM&A契約を見ることが多くなりました。投資契約でも10-20ページ、事業譲渡契約では多くの別紙を添付して50-100ページになるものまであります。これは、大手の法律事務所などで若手の弁護士を米国などのLaw School等に研修に出し、New York州弁護士などの資格を取得して帰国した人が、米国の契約を真似るからですね。そういう弁護士さんの得意分野を見るとM&Aなどと書いています。ということで、今回は、そういった弁護士さんがドラフトした契約の一部の条項を抜粋してみましょう。

○ 事業譲渡契約で、事業譲渡に伴い、お客様との契約の承継について、クロージングの前までに、一定割合のお客さんから契約上の地位の承継の承諾等をとることにしている契約がありました。これは当然ですね、しかしその他の前提条件を見てみると、以下のような米国の株式取得や事業譲渡契約では一般的に記載されますが、日本では不要と思われるものもいろいろ記載されていました。
① クロージング日に譲渡企業の登記簿謄本(資格証明)・印鑑証明の提出。(これって日本で意味あることだと思いますか?既にM&A契約には代表者が記名捺印して、それに従って、クロージングの準備をしているのにですね。ですからDefinitive Agreementの締結の時に取得しておけばいいんじゃないでしょうか?)
② 表明・保証事項として、日本法に準拠して有効に設立され、適法に存続して、事業を行うために必要な権限・権能を有していること。(当然の前提ですね
③ 取締役会の授権をされていること。(日本では代表者が記名・捺印していますから、ここまで書かなくても無効になることはあまりないですね。別にこれぐらいは記載してもいいですけどね。合併契約では総会承認が必要ですから、その旨は記載するのは当然だと思いますが。)
④ 契約は強制執行可能であること。(当たり前でしょ。これは書かなくてもいいでしょう)
⑤ 事業を行うに必要な許認可を得ていること。(事業譲渡契約で、承継されない許認可まで記載していました。なぜ書くのでしょうか)
(事業譲渡なのに)偶発債務・簿外債務のないこと。
⑦ 承継対象契約は、有効で拘束力のあること。(契約がきちんと締結されておれば当たり前ですね)
⑧ アドバイザーへの支払い義務のないこと。(米国のM&A契約にはよく記載ある条項ですね。日本のM&A契約で記載する必要あるでしょうか?ないでしょ。)
⑨ 法的倒産手続きの不存在。(会社見ればわかるでしょ。事業やっているのに。)
  
○ 米国のM&A契約では、定義をきちんと書きますね。本文中の定義についても、それを引用する形で定義の条文に書くことも多いですね。ある契約を見たら、「クロージング」とは、第xx条に定義される意味を有する。(その契約書では、こういった定義が3ページにわたって記載がありました。米国式M&Aに慣れた人は、契約書を読みにくくする術にたけていますね)。不要なことが多く記載されていることも多いですね。

○ ある株式譲渡契約では、こんな規定がありました。「本契約の条項がいずれも無効又は違法とされていないこと。」これを書いた弁護士は、この契約の条項が無効になるか違法であるか分からないのですかね。そういえば、公取の事業譲受届出書について、事業譲渡人の義務にしていた契約書もありました。独禁法は市場集中のチェックのための届出ですので、両社の協力で届出書の準備をしますが、譲受人側の義務ですね。M&A専門とか書いてあった弁護士さんでも羊頭狗肉の人もいますね。

○ その他、M&Aの承認をした総会・取締役の原本証明付き議事録の写しを提出しろとか、昔の日本のM&A契約では考えられない条項をふんだんに入れた契約を見るようになりました。

○ 日本の弁護士さんも、米国で勉強されて米国で一般的な書き方で日本のM&A契約を書かれるようになりました。ご苦労さんな話というか、どうでもよい条項を山ほど書いて、弁護士同士で重箱の隅のやり取りを一杯して、ちゃりんちゃりんとお金を取っている感じですね。

・米国の契約書を勉強した弁護士は、狩猟民族(獲物を食べつくしたら次の獲物を探す)の米国の敵対的で自己だけが非常に有利な条項を一杯記載したドラフトを出発点として、相手に提示して交渉を開始することもあります。最近のファンドの投資契約などにも当てはまりますね。日本は、田んぼの水は隣の田んぼに流す。収穫の時は一緒に手伝う農耕民族です。これが1億3千万人の人が、助け合って食っていく日本の基本原理です。

相手の事情を35%、自分に有利な部分は65%ぐらいの力関係の契約書ドラフトを相手に提示するのが、日本のビジネスの健全な常識ではないでしょうか。


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米国M&A Asset Deal契約の落とし穴条項

2015-06-12 23:58:32 | M&A
○ M&Aに手慣れた米国大企業の入札式部門売却、即ちAsset Dealでは、一次入札に通過すれば、売主からAsset Purchase Agreementの契約ドラフトを買主候補に提示して、二次入札価格とともに、(買主がマークアップした)契約書の修正版の提出を求められます。多くのカウンターをすれば不利に取り扱うよという脅しの文言付の2次入札手続手順書も送付されます。

○ 相手方提示のAsset Purchase Agreementですので、売主に非常に有利な内容が多いですが、その巧妙な内容に、日本の大手法律所(mhm等)の自称M&A専門弁護士も気づきませんし頼りになりません。特に以下のような実務上の重要点は、弁護士は殆ど知見をもたないので要注意です。
(1) 価格計算formulaと譲渡財産との間に差、即ち買収金額算定の根拠となった資産よりも譲渡される資産を巧妙に少なくしていることに気が付かない。
(2) Asset Dealですから、買主側で受皿会社を用意して従業員を引き受けないといけませんが、社会保険・年金等についての知見はない。
(3) 固定資産の承継や地方税である固定資産税等の税務知識もない。

○ もう少し具体的に記載してみましょう。
① Asset Dealですので、closing date現在の財産(承継資産―承継負債)の額は確定しません。事後的に確定して事後精算が発生します。買収価格としては、入札で提示した基本買収価格(Base purchase price)にclosing dateのNet (現金は承継しない)working capitalを加えて、これからclosing date debtの金額を差し引いた金額になります。
Working capitalを加える、即ちその重要な中身としてはAccount Receivables(A/R)がありInventory等の金額と合算しaccount payableを差し引いて算出します。しかし、ある契約のドラフトを見たら譲渡しないExcluded assetとして、all account receivablesと記載していました。即ち、買収金額算定にはA/Rを加えるのですが、承継対象資産からは除外されていたのです。数人のチームを組んで莫大な報酬を支払っている弁護士さんからは何の指摘もありませんでした。

② 従業員の承継については、結構詳しく記載している契約書ドラフトがあります。承継後1年間は待遇を悪くしてはいけないとか、同等のEmployee benefitsを求めるものもあります。中でも大変なのがasset dealですから年金制度の承継ができません。年金には旧制度の確定給付年金(Defined Benefit Plan=DB)と確定拠出年金(DC=Defined Contribution Plan=401(k))があります。DBなど掛金は会社負担ですが、DCは、枠組みは企業が設計しますが(日本と異なり)米国では個人拠出であり、会社は個人拠出に応じて一定限度までmatching contributionを行います。従いmatching contribution部分は、買収価格の調整でできますが、あくまでもメインは個人拠出ですので、買収会社で制度設計してその個人に加入してもらわないと継続はできません。このあたりの知見は弁護士にありません。買収会社を新規に設立する場合は、どんなに頑張っても類似制度制定までに半年は必要です。制度が無い場合は、60日以内にIRA(Individual Retirement Account)という個人退職勘定へ給付額を移管すれば、引続き非課税メリット(=課税を繰延べ)を享受できますが、各従業員個人で行ってもらうことになります(59.5歳前の引出&転職・退職に該当します)。

③ Asset Dealですので、お客様との契約の承継(契約上の地位の承継)については個別に手続きが必要となります。また許認可(製造業の場合は多いですね)についても自動で承継できるわけではないので個別承継手続きが必要です。ここで注意すべきことは、固定資産譲渡などで州政府などが譲渡税を徴収するのですが、契約書ドラフトでは、さらっと買主負担と記載していることもあります。当然お金を貰う売主負担が当然だと思いますので注意が必要ですね。

他にも、個々の契約では、いろいろ注意点が出てきますね。
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中国外商合資企業の持分変更書類

2015-01-30 22:13:01 | M&A
○ 今回は、久しぶりに中国の外商合資企業の話です。最近は中国でもM&Aがいろいろあり、持分を譲渡したい企業も増えてきました。勿論清算という方法も理屈上は考えられるのですが、残余財産がある場合の株主(持分保有者)への返還の海外送金許可がおりません。ご承知の通り、中国に一旦お金を入れると、普通の商取引は別として、また利益が出た場合の配当金の支払いは別として、資本取引・海外送金はなかなかできません。また清算するにしても、その手続きにはどれぐらいの時間がかかるか不明です。金持ちの中国ですが、相変わらず海外への送金は難しいですね。

○ 更に、困ったことに持分譲渡で要求される書類が役所によって少し違います。どう違うかわかりません。お役人によって違いますので、役所に行っていちいち聞かないとわかりません。

○ 中国は、広大な国で人口も日本の10倍以上ですから、全国統一ルールを詳細に定めても、やはり守れないのでしょうね。1.2億人の日本と比べても、人口が10倍の国では統治原理が違うのでしょう。主なルールは全国統一ですが、詳細は各地方・役所によって異なります。上海などは国際都市ですからある程度スムーズに役所も対応してくれますが、田舎の役所などでは申請書の内容にもいろいろくちばしを入れてきます。

○ でもまあ、概要をつかむ意味で、一例として法定代表者・董事長の交代がない持分譲渡の場合の必要書類の例を挙げて見ましょう。

【持分譲渡許可取得必要書類の例】
(変更)申請書
企業変更登記(備案)申請書
法律文書送達授権委託書
旧株主決定(決議事項:持分譲渡、董事解任・監事解任、定款修正)
新株主会決定(決議事項:董事任命・監事任命、定款修正)
旧董事会決議書(決議事項:持分譲渡、董事解任・監事解任、定款修正)
新董事会決議書(決議事項:董事任命・監事任命、定款修正)
合弁契約変更案・持分譲渡契約書
現在の定款+定款修正書=新定款
董事・監事解任書
持分譲渡前の董事会名簿
持分譲渡後の董事会+監事名簿
新董事・新監事任命書
新董事、新監事の身分証明書(パスポートコピー)
批准証書(正副)
営業許可証(正副)
直近の資本検査報告書
直近の財務監査報告書
買主の資産信用証明書(銀行発行)及び翻訳版
買主の法人資格証明(駐日中国大使館の認証必要+翻訳)
手続代行の授権委託書
投資者声明(投資方同意并郑重承諾如下)
その他

これぐらいでしょうか。準備・作成に1か月、申請から許可が下りるのが1か月ぐらいですが、勿論これはスムーズに行った場合ですので、田舎の役所などはもっと時間がかかるとおもいますね。
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買収金額と企業価値

2015-01-02 23:13:10 | M&A
○ 買収金額は、①EBITDAのmultiple、②DCF法、③類似企業比較法等で算出されます。場合によっては、④時価ベース純資産とか、⑤上場企業のPBRとかPERを参考にする方法等もありますね。世界的にはDCF法が一般的ですが、この手法は前提の置き方次第でどうにでもできる数字遊びの手法であると、何回もこのブログで言ってきました。③の手法は、上場企業をベンチマークとして、その企業の株価等から評価倍率を求めて、買収対象企業の企業価値・事業価値・株主価値を計算していく手法ですね。
DCF法については既に記載していますので、今回は株価を基にした類似企業比較法とEBITDAのmultipleの手法についてのコメントです。

○ 株価を基にした類似企業比較法についてですが、確かに株式の100%時価総額を払えば、理屈上は対象企業の株式100%を買えることになりますし、類似企業数社を選び、一番乖離している両企業の評価倍率を除外していますので、それなりの合理性があると思います。しかし、上場企業の株価というものは、企業価値だけで形成されているのではないという前提を無視した考え方ですね。2007年2月2日のブログで「株価は何によって形成されるか」を記載しておりますので、そちらを参考にしていただければと思います。
  
株価は、その企業の業績・今後2-3年の利益見通しを反映しますが、安定株主・流動性とか、需給関係、金融情勢、経済状況、ときには投機筋の動き等を反映しますので、企業価値と一致しないのが通例では無いでしょうか。また株価というのは、1株当たりの株価であって、発行済株式数ではないですね。時価総額というのは一つの指標ですけどね。この時価総額をEBITDAで割り算してmultipleを算出するのは、必ずしも適切な買収価額の算出ではないと思います。

○ 買収価額というのは、買収者が、連結のれんの償却も考慮して、また相乗効果も踏まえた上で、出来れば3年後、頑張っても5年後ぐらいには利益を出せる価格でないと買収する価値が無いという事です。ファンドなどは、事業で与えるものはあまりなくリストラなどして利益額を増やそうとするかもしれませんが、これは本末転倒のやり方です。買収企業が被買収企業にメリットを与える、相互補完・相乗効果を与えれば3年後には、買収がPayする価格でないとメリットがありません。連結暖簾の償却期間を仮に5年にして、その分を費用と見て5年後には利益を出せる額にしないと買収する価値はありません。IFRAや米国会計基準では、減損テストはするにしてものれんは非償却資産です。これは会計上のごまかしです。米国会計基準でも、ほんの十数年前までのれんは償却資産でしたね。M&Aをやりやすくするために会計基準を変更したのではないでしょうか?

○ 昔の日本の営業譲渡(現在の事業譲渡)では、譲渡の対価の算出は以下の計算式でした。
     承継資産(時価)+営業権(のれん)-承継負債=譲渡対価の額
この営業権の価額については、当事者の力関係で決まります。税前利益の3-5年ぐらいが多かったように思います。あるいは、過去2年+今年+今後2年の利益予想額というのも、現在(+/-前後)の利益で算出することもありました。
     「営業権=税前利益の5年分」というのも一つのアイデア
株式譲渡の場合は、上記算式で承継資産(総資産)―承継負債(負債総額)=純資産となります。これに当期税前利益の5倍ののれんを加えれば買収金額になりますね。

資産は、人と有機的一体となって利益を出す。従い、利益の源泉の純資産とフローの利益の額の数年分を加えるという考え方で、これも一理ある考えですね。EBITDAでは、利益の源泉である資産というBS的な考えが希薄になり、結局、税前利益+金利+償却という視点だけで考えていく考え方になりましたが。

○ 米英ではフリーキャッシュフローを重視します。従いDepreciation & Amortization (DA)を加えますが、EBITDA multipleの考え方は、上記ののれんの考え方と共通するものがあります。しかし、FAが買収価格算出に使用するMultipleは、他の買収価格・事例から導くものであって、買収企業が買収した後に利益を出せるMultipleではないのです。FAは、他社買収事例のmultipleを持ってきた後に、DCFの永久成長率(perpetuity)を操作して、multipleの最高額ぐらいにDCFで算出した買収価格の最低値ぐらいの買収価格を作り出して、それがあたかも正当な買収価格であるように装うのです即ち、FAの算出する買収価格というのは、買収企業が買収した後利益が出せずに苦労しても、そんなことは関知しないのです。つまり買収企業が買収後数年以内に利益を出せるかどうかという視点は乏しいということです。

欧米の買収ファンドがEBITDA 10倍以上で買収した案件は、投資回収が出来ずに困っている事例が多いように思います。要するに、儲からない高値で買収しているのです。買収企業は、買収して数年後には(出来れば3年後ぐらいには)利益を出さないと買収する意味がない。安易にFAの出してくる買収価格に乗っては買収価格を提示してはいけないのです。FAと同じ考えで買収を行っている買収ファンドが墓穴を掘って苦しんでいる事実をもっと直視すべきだと思います。
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Escrow Accountの利用

2014-12-01 22:27:28 | M&A
○ 楽天ビジネスエスクローサービスというのがありますね。発注者は、商品受領やサービス提供を受ける前に、その対価を楽天に仮払いし、発注者がサービス提供(納品)を受けた段階で、楽天が発注者から仮払いを受けていた費用を出展者に支払うサービスですね。見ず知らずの間の小口ビジネスや、消費者との間のビジネス等で少し利用されていると思いますが、日本ではあまり一般的ではありませんね。
BtoBビジネスの大口取引等では、信託銀行がサービス提供をしています。50-100億円の土地取引で、更地にしたら引渡すという条件では引渡が先になります。売主としては、買主からお金が確実に入金するか不安が残ります。それに備えて信託銀行にEscrow Accountを設定して、買主としては引渡前に代金を、そのアカウントに支払、引渡条件ができたときにその条件を確認して売主に代金を支払う訳ですね。

○ Escrow Accountは、Escrow Agent(日本の場合は信託銀行等)と契約を締結して開設します。
・締結する契約:信託約款、取引保全信託契約証書、当該取引の確認書が普通です。
・当事者は、Escrow Accountの開設を委託した委託者兼収益受益者、元本受益者及び受託する信託銀行です。元本受益者は、例えば土地代金を受領する売主であり、委託者は買主ですね。元本は土地の売買代金ですね。収益受益者とは、元本から利息を生じたら、その分は当然売主に渡す必要はありませんので委託者が収益受益者となります。
・注意点は、当事者の例えば土地売買契約書と履行の条件等を詳細に弁護士がチェックすることです。勿論費用は全て委託者持ちです。従い、このEscrow Accountの開設だけで1000万円を軽くオーバーする手数料を取られますので、金額の小さい取引では、コストが予想外にかかるという事ですね。

○ 欧米ではいろんな局面でEscrow Accountが利用されます。①株式譲渡の際に、政府許可など一定の条件の成就が必要で、売主・買主双方が譲渡承認の手続きを協力して行いますが、買主の支払いに懸念がある場合等に利用されます。②金銭だけでなく、株券を預託する場合もあります。株主が株券を預託する場合、例えばCash Mergerで株式の売主は株券を、買主は代金を預託して、独禁法の合併承認等を得た時に、株券引渡と代金支払いを行いますね。③Indemnity Escrow Agreementというのもあります。買収契約で、例えば訴訟継続中で多額の損害賠償責任を負う可能性がある場合、その金額を買主にIndemnify する場合等は、買収金額を全額払う訳には行きません。買収金額の一部をEscrow Accountに入れて、訴訟の結果が出るまで待つ。敗訴したら、買収金額の減額あるいは、損害賠償額のIndemnifyのためにその金額を使う訳ですね。

○ 上記のケースのうちで、政府許可等の条件成就は客観的にわかりますし、許可証を入手して買主に渡せばEscrowで押さえているFundのrelease指示をEscrow Agentに出せばよいので比較的はっきりしていますね。しかし、Indemnify Escrow Agreementの場合はなかなか難しいでしょうね。Escrow Agreementの文言は例えば下記のように書けますが、何がIndemnifyの対象かは、客観的に明瞭な基準が必要ですね。例えば、
「If the Agent shall receive a written notice from xxx at any time from the date of this Agreement through the date that is three hundred sixty-five (365) days from the Closing Date certifying that during the one (1) year period following the Closing Date xxx has suffered xxxx Losses as a result of the Company's breach of any of its representations and warranties or its failure to perform any of its covenants, in each case as set forth in the Acquisition Agreement.」

Escrow Agreementは、契約当事者の信頼性・資金力・力関係等いろんな要素が絡み合って結ばれることがあります。日本ではあまりPopularではありませんが、欧米ではときどき使われています。日本企業も、状況によっては利用を検討するのも良いのではないかと思います。
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Asset Dealの売主のRep.& Warranty ②

2014-11-12 20:14:27 | M&A
前回の続きです。
9) Business Employees – Asset Dealでは重要ですね。移籍する人は、少なくとも従来と同等な処遇を求めますからね。Fringe Benefit (法定を上回る部分)、Pension等は譲受会社の制度ですが、移籍従業員を当分どのように処遇するか等を書いているケースもあります。米国の税法に規定する確定拠出年金(DC=Defined Contribution)である401kを日本でも導入したと言われています。でも似て非なる制度なんですね。米国は、会社が設計した枠組みの制度の中で、個人拠出なのですね。日本は税法限度のなかで会社拠出です。米国では、従業員が受領する給与の中から、従業員が拠出額を決めて加入し、これに会社が一定限度まで損金算入可能なMatching Contribution をします。従業員の年金掛金拠出は税前所得からですが、課税後の給与からも拠出することが可能です。この辺の事は、日本の自称M&A専門弁護士は、全く理解していません。Asset Dealの価格調整すればよいとか、制度を移行すればよい等と平気で言います(M&AのFAも知りません)。個人拠出のものを会社が勝手に譲受人に移転できるのですか?できないですよね。譲受人側で同じ401kの制度があれば、従業員個人がその年金を移すことができる。だからPortableと言われているんですね(日本でもPortableですけどね)。

10) Contracts - Disclosure Scheduleで契約一覧を記載します。不動産のリース関係とか、アウトソース先、IT関係など種々雑多の契約があり、数が多ければ全部記載できません。Asset Dealでは、譲渡実行後も従来の取引先関係を継続しないと事業継続に大きな影響がでます。これを受けてCovenantsで、売主・買主が協力して、既存契約の契約上の地位を買主に移転できるよう協力して行いましょう等と記載します。

11) Financial Information; Absence of Certain Changes - 譲渡される事業部門だけのBS,PL &Cash Flowが重要ですね。またClosingまでに重要な変更は行わないというのはStock Dealと共通です。

12) Intellectual Property(IP)―Asset Dealだと移転手続きが必要です。Disclosure Scheduleで、事業継続に必要なIP一覧を記載して、譲渡手続きが必要です。

13) Product Liability and Recalls- 売主のProduct Liabilityは別に買主が承継するわけではないのですが、商品に同じ商標を継続使用する場合等は、買主の事業に支障をきたします。

14) Product Warranty―製造設備を承継しますので、買主が承継した設備で作る品質保証やその条件は実際上承継しますので、売主の製品の品質をチェックしてその標準的なスペック・条件に合致していることをRep.& warrantyするわけですね。Stock Dealでも同じ条項が入ります。

15) Inventory―買主が承継します。Closing Date現在の在庫量を双方で確認して、最終的な買収価格が決まります。譲渡日に譲渡する財産にリストアップされますが、obsolete, below-standard品は、含まれていないとかを記載しますね。

16) Customer and Suppliers-これは重要ですね。事業譲渡してもお客様・取引先との契約の承継が出来なければ業績に大きな影響が出ます。両当事者で協力して承継しましょう。Stock Dealでは、契約は継続していますので、だいぶ書き方が違います。

17) Restrictions on the Business -このDealによって事業継続に支障が出ることはないですよぐらいを記載します。

18) Taxes -Asset Dealでも税金の問題は発生します。不動産を譲渡すると資産譲渡税等の地方税がかかります。日本のM&A弁護士は、この辺ははっきり言って全く無知ですから、注意しましょう。Stock Dealでは、適正に税務申告し納税しています等と記載しますね。

Asset DealのRep. & Warrantyは、Stock Dealのそれとかなり異なります。また何十ページに及ぶDisclosure Scheduleも付きます。また、売主が行っている人事事務・経理・IT等は簡単に分離できませんので譲渡後半年とかは売主が継続してサービスを提供する。その間に買主はシステムを構築してくださいというTransitional service Agreement (TSA)等も同時に締結しますので、Asset Dealは結構手間がかかりますね。


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Asset Dealの売主のRep.& Warranty ①

2014-11-11 22:31:14 | M&A
○以前M&AのRep.& WarrantyとしてStock Dealの一般的なもののHeadings等を記載しましたが、今回はAsset DealのRep.& WarrantyのHeadingsを書いて見ましょう。同じような項目が多いのですが、Stock Dealとはかなり重点と内容が違います。主な注意点としては以下ぐらいでしょうか。

1) 労働契約についてStock Dealなら従業員の承継手続きは不要ですが、Asset Dealの場合は従業員の移籍について承諾が必要です。日本では会社分割の場合は労働契約承継法がありますが、事業譲渡の場合にはありません。しかし、欧州等の国によっては、Asset Dealでも買収者の承継が義務となっている国もあります。そのときのポイントは、福利厚生制度が違うし、年金制度も異なります。この点などどの様に調整するか非常に重要でまた難しい問題ですね。

2) 許認可も原則そのまま承継されませんね。当然です。法人格そのものの支配権を取得するわけではないですからね。許認可は原則取り直しが必要なのですが、これをスムーズに行わないと事業が一時中断しますね。

3) 環境問題などは厄介です。契約関係の承継ではなく不法行為ですからね。例えば土壌汚染等は、買収者がそのまま承継すれば責任を全て負うことになりかねません。売主のIndemnificationが非常に重要になってくる部分ですね。

4) 取引先等との契約も承継されません。承継には取引相手先の個別承諾が必要ですね。包括承継ができる会社分割ではないですからね。売主の協力をきちんとCovenantsに入れておく必要があります。

○ Asset Dealの一般的な売主のRep. & Warranty
1) Organization and Qualification – これはStock Dealと同じですね。
2) Authorization; Binding Effect - これも同じ。
3) Non-Contravention; Consents - これも同じ。

4) Title to Property; Principal Equipment; Sufficiency of Assets
Title to PropertyとPrincipal Equipmentの規定は、Stock Dealでも入る規定ですね。Principal Equipmentとは、「in good operating condition and repair, subject to normal wear and tear, suitable for the purposes」等と書きます。

・譲渡資産によって事業が継続できる旨の保証であるSufficiency of assetsの規定は、Asset Deal独特の規定ですね。米国のAsset Dealの契約書は、日本の契約書(一般的に、対象事業の譲渡資産・負債の内容を簡単に記載する程度)と異なり、譲渡する資産&負債、譲渡しない資産・負債を詳細に規定します。詳細といっても限度がありますので、譲渡資産で継続的に事業ができる旨を記載するのですね。

5)Permits; Licenses -これは現在きちんとしたライセンスを持って業務を行っていますねということで、Asset Dealの場合は承継されないケースが多いですね。

6) Real Estate; Environmental Matters – Asset Dealの場合は、自分が保有している不動産だけではなく、Leased Premisesは、譲渡資産リスト(貸主の同意を取ることは別途記載)にきちんと記載していて漏れがないという書き方になりますね。環境については、自己保有不動産だけでなく、リース物件も含めて、環境規制をきちんと順守していると記載しますが、環境は譲受人も責任を負いますから要注意規定ですね。

7) Compliance With Laws – これはStock DealでもAsset Dealでも重要ですね。承継する事業は法令順守されていないと困りますからね。

8)Litigation – Asset Dealなら引き継がないのが原則ですが、現実にはそうとはかぎりません。工場周辺住民との訴訟とかはね。


ここまで書いて疲れましたので、続きは次回にします。

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買収の法務DDレポートの価値

2014-11-01 11:19:27 | M&A
○ 今回は、外国企業の買収の際に法律事務所に作成を依頼する法務DDレポートの価値について書いてみたいと思います。二つのパターンに分けて考えて見ましょう。
① 欧米先進国で、買収対象企業が例えばNASDAQ等の上場企業の場合。
② 新興国の未公開企業の場合。
 上記の2つの場合は典型的な場合ですので、新興国の上場企業、先進国の未上場企業は、この両者の中間に位置すると考えれば良いわけですね。また、顧客の視点から見た望ましい法務DDなどの視点も記載してみたいと思います。

①の場合の法務DDレポートは、かなりのケース殆ど読む価値はありませんし、役に立ちません。法務DDは、パートナー弁護士の指揮(実際はあまりきちんとした指示は出さないのが多い)のもと、若手の弁護士が、契約書、法令順守状況、議事録(手に入らない場合も多い)等を読んでレポートを作成します。大抵のケース、調べたことをすべて網羅して、しかも平板単調でポイントがハッキリしません。ちょっとしたことでも、買収契約書(DA=Definitive Agreement)のRep.& Warrantyに反映したほうが良い等と記載していても、その通り契約書を直すわけでもないです。買収案件推進中の多忙のときに、ぐだぐだした何十ページの法務DDレポートなど出されても、誰も読みません。また読む価値もありません。しかし、しっかりお金だけは取っていきます。

事前に、弁護士に、法務DDの範囲とレポートのイメージを伝えておくことが大切です。弁護士に取引契約等読んでもらっても時間と金の無駄です。業界取引に従事している人でないと、取引のことはわかりませんし、その契約の意味も分かりません。取引契約は、買収企業の事業部が精読すべきものですね。従い、Change in Control条項があるか等の部分を除いて、弁護士がチェックしてもらうのは時間と金の無駄遣いです。Change in Control条項があるか否かは、中身を読まなくてもTitle/Headingを見ればわかります。数十ページの契約でも5分もあればわかります。
また、Executive サマリーを作って、最初の数ページにまとめてもらいましょう。法令違反状況などがあればその個所に明記すれば、該当部分の本文詳細は読みます。私のやったケースで、法務DDの範囲を限定したのに、頼んでもいない部分まで調査して、しかもサマリーをつけてと言っているのに、米国の提携事務所の作成したものをそのまま出してきた法律事務所がありました。こんなところは、もう二度と起用しません。

○ 顧客が欲する法務DDレポートは、会社のすべての視点に配慮したものです。即ち、財務・税務・労務(年金・社会保険)・環境・紛争等のことも記載したものです。勿論、財務・税務・環境・労務等については、それぞれ別の専門家を起用して、それぞれの視点からのレポートをもらいますが、税務・労務・社会保険・環境等もすべて法律です。ですから、法務の視点からのDDレポートが欲しいですね。しかし、こいうった分野は、自分の領域では無いと、すぐに他社にリスクヘッジする弁護士もいます。自称M&A専門の弁護士にもかかわらずですね。M&A専門弁護士なら、財務・税務・労務・環境のことについても概要でよいですから正確な知識を持つべきですね。

・ M&A専門弁護士は、最近は日本の弁護士資格のみならずNew York州弁護士の資格を持つ頭の良い人が増えています。勉強はよくできるんでしょうね。しかし、契約書に税務の事が記載されていても、まったく理解していない。特に、地方税の事や、州の法規制等は、現地弁護士事務所にきちんと聞くこともなく、誤解したままで話を進める人もいます。迷惑な話です。それでもお金はしっかりとります。
M&A専門弁護士と自称していますので、一応の知識もありますし、通り一遍のことはやってくれますが、顧客のために何が良いかを真剣に考え、そういった対応をしてくれません。従い、重要なことは、弁護士をあまり頼りにしてはいけないということです。

○ ②のケースは大変です。財務DDも、まず財務諸表の数字自体が、公正妥当な現地会計処理基準に合致しているか?数字自体が本当かなどから調査が必要です。法務DDも、環境規制・労働法等の法令違反はないか(あった場合には契約書に明記して、closingまでに治癒してもらはないといけません)、厳重チェックが必要です。新興国の場合は、労働者(の権利保障・地位保証・解雇制限や手続き)にやさしい労働法が多いですし、これをきちんと守っているか(厳密には守っていないとかいろいろあるようです)等のチェックが必要ですね。それと、税務には要注意です。税務時効も6年などもありますし、税務署なども忘れたことにやってきて、過去をほじくる等もあります。きちんと調査するだけでなく、契約書のIndemnificationに反映するとか、代金支払いをEscrowに一部抑えておくとか、あるいは分割延払いであるEarn Out条項を認めてもらうとかの手当てが必要です。こういった視点から現地法制や企業実態に詳しい、弁護士の起用が必要です。大手法律事務所のM&A専門弁護士というだけでは、全く役立ちません。また法務DDの結果とそれをDAに適切に反映することが大切ですね。
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インドの会社の新株発行・株式譲渡

2014-10-12 15:17:48 | M&A
○ 今回は、インドの非公開会社の株式譲渡についてです。先進国では、株式譲渡は当事者間だけで行い、会社に対抗するためには、株主名簿の名義書換を求めれば良いですが、新興国では、所定の譲渡証書等を用いて会社登記局等に譲渡内容を届出しなければならないケースが多いです。そのとき殆どStamp Dutyを払わないといけません。ということで、一例としてインドでの非公開会社(Private Limited)の新株発行・株式譲渡についてみて見ましょう。

○ インドの非公開会社の新株発行・株式譲渡の注意点は以下ぐらいです。
  1) 設立時の株主(=発起人&株式引受・払込人)以外の第三者に新株発行(例えばシンガポール在の子会社)を行うには、インド証券取引委員会(SERI)登録のカテゴリーIマーチャントバンカー又はChartered Accountant(勅許会計士)が算定する公正価格で発行する必要がある。
  2) 発行済株式を譲渡して譲渡益を得たときは、インドの課税権が及び譲渡益課税が発生する(中国などと一緒ですね)ので、納税しなければなりません。
  以下具体的に見てみましょう。

 ○ 株式の発行・譲渡価格
  非上場株式の譲渡価格については、ご承知の通り悪名高い非居住者差別条項がありますね。①居住者から非居住者に対して内国会社の既存株式を譲渡する場合、内国会社が非居住者に新株を発行する場合、②非居住者が居住者に既存株式を譲渡する場合、インド証券取引委員会(SERI)登録のカテゴリーIマーチャントバンカー又はChartered Accountant(勅許会計士)が、DCFという数字遊び手法で算定する公正な価値(何が公正なのか不明)を基準価格として、①の場合は基準価格以上の不公正価格で株式譲渡・発行、②に場合は基準価格以下の価格で株式譲渡とされていますね。
 ・譲渡して譲渡益が発生した場合は、譲渡人は当然譲渡人所在国での課税に服しますが、インドの会社の株式譲渡の場合は、上述の通りインドでも課税されます。では、インドの会社の株式を保有するケイマン等の会社の株式を譲渡した場合はどうでしょうか?これについては、有名なVodafone事件があります。高等裁判所まで課税権が及ぶとしましたが、最高裁では、課税権は及ばないとしました。でもその後、そういった場合でも、過去に遡って課税権は及ぶという法律ができているようです。

 ○ 株式譲渡
  株式譲渡について、こんどの新会社法(The Companies Act, 2013)では56条に規定されています。FormNo.SH-4のSecurities Transfer Formで行うわけですね。これを譲渡人・譲受人は、譲渡実行後60日以内に株券を添えて対象会社に提出し、対象会社は、このSH-4を会社登記局(ROC: Registrar of Companies)に提出して、確認を受けます。SH-4の記入欄を見ると、Father’s/ Mother’s / Spouse name等と記載があります。個人間の株式譲渡のケースを想定しているのでしょうね。Visaの申請等でもそうですが、父の名前等の記入を求められます。おもしろいですね。会社の場合はありませんので、「N/A=not available」と記載すればいいのですね。いずれにせよ、これに譲渡人・譲受人は署名行い、かつCorporate (Common) Sealを押捺しなければなりません。
 ・英法系の会社は、通常業務以外の株式取得などは、取締役会の決議で授権が必要ですね。従い、取締役会決議を証明する書類(又は授権者が権限を有する旨のCertificate等)を出すことになります。
 ・しかし、日本の場合は、大企業は権限規定で、取締役会決議の要る重要取引、代表取締役の権限で出来る場合等を規定していますので、多額でない場合は、取締役会決議をせずに株式取得する場合も多いですね。また代表取締役は、一切の業務を行う事ができますので(法349条)、代表取締役の署名だけでOKですね。インドの弁護士に聞くと、日本の制度を知りませんので取締役会決議が必要といいますね。
 ・取締役会決議を証する書面はROCには提出しませんので、別に対象会社のSecretaryがOKする書類、即ち「代表取締役には本件取引を承認する権限を有する旨」のCertificate等を適当に作ればいいのですね。
 ・SH-4には、Corporate Sealの押捺が必要ですが日本ではCorporate Sealはありませんので代表取締役印で良いですね。会社名も書いてありますので。
 ・新興国の場合、よくありますが、インドでも譲渡証書にstampを貼って、stamp dutyを納めます。

○ その他の必要書類
  対象会社からは、上記の通り、SH-4の署名者が署名権限を有する旨の書類提出を求められますが、その他に譲受人がきちんとした会社であることを証明するために定款・登記簿を求められます(譲渡人は既に提出済)。日本の会社の場合は、定款・登記簿を英訳して、アポスティーユを取得して(インド大使館での領事認証は不要)提出することになりますね。
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米国M&A契約の落とし穴条項

2014-10-01 21:45:28 | M&A
○ 米国企業の入札方式の買収案件では、最終買収候補に選ばれたときには売主企業側から買収契約書のドラフトが送付されてきて、これを買収側が一部修正(先方原稿に書き込むという意味でMark-upと言われています)して修正案を提示して契約交渉の詰めが行われます。売主が用意しますので、当然売主側に有利な条項が多いのですが、中には一見売主が有利なのかわからない条項やTrickyな条項が含まれています。米国では、それに気づかない、修正しない買主側がその責任を負えばよいという発想なのでしょうか?M&Aは、性善説で行ってはいけないということですね。米国では弁護士も含めて結構cheating society (ちょろまかし・ごまかし社会)という面があるのではないかと思っています。今回は、一見すると分からない落とし穴条項(勿論個別の契約で違うのですが)のいくつか(気づいた範囲ですが)を、取り上げて見ましょう。

1) Data Roomの情報
「Data roomで開示された一切の情報は、買主にdisclosed, provided, deliveredされたものとする。」という条項⇒膨大な資料を手分けして見ても、現実的には、どこにリスクがあるのかわからない場合が多いのではないか。しかし、きちんと見て、それなりのヘッジをしないわけには行かない。売主提示ドラフトには、「the disclosures in each Disclosure Schedule are exceptions and qualifications to the representations, warranties and covenants set forth in the Definitive Agreement (DA)」(ここでのQualificationsというのは「制限」という意味です)と、親切に?書いてあるものもあるので、Disclosure Scheduleも含めて、きちんと丁寧に読まないといけません。売主は、ひっかけ/Tricky条項をDisclosure Scheduleに忍ばせているケースが時々あります。要注意です。
注意:a.DDで見つけたリスクは、買主として認識しているので、売主の表明保証対象外となる。Disclosure Scheduleで明確に表明保証対象外とするむね確認する。
b.表明保証の各論ではなく、一般論で仮にカバーされていても、買主が知っている場合には、表明保証責任違反としては認められない可能性が高いので注意が必要。
c.「買主が知っていたとしても売主は、表明保証責任を免れない」という規定が契約書の入れば良いが、そんな規定を認める売主はいない。

2) Rep. & Warrantyの限定
「表明保証条項に規定した以外の事項は、一切表明保証しない」という条項⇒これはカウンターが必要ですね。修正として、表明保証は、重要な点で真実正確で、かつ重要事項は全てカバーされているとしないといけないですね。

3) Actual Knowledgeという限定
例えば、「Seller’s Actual Knowledge of Bill Clinton, xx, xx 」と記載。 これは、売主のBill Clinton,xx,xxが実際に知っていたことに限定(knowledge qualifier)されます。しかも、その立証責任を買主が負う事になります。この立証責任はかなり困難だと思います。日本でも、不祥事のときに経営トップが、「知らなかったとか記憶にありません」と言い逃れしますね。これは経営者ではないですね。仮に知らなかったとしても経営者として知るべきであったことは当然含まれるように、また人の限定をしてはいけませんね。

4) Material Adverse Effect (Change)=MAC条項の濫用
法令(税法・環境法令も含む)違反、ビジネス、表明保証等についてMaterial Adverse Effectを及ぼすことはしていないとか、closingの条件としてMACに該当する事実が起こっていないという条件をいれます。即ち軽微なものがあっても、その責任は負わないとか、軽微な事が発生してもclosingは予定通り行うという条項があります。当然、売主と買主側が考えるMACには、大きな隔たりがあります。売主側は、経済状況・為替相場の大きな変動があっても、これはMACに該当しないので契約実行を求めますが、買主側にとっては、これら経済状況・為替変動などは、事業の見通し・買収額の変動に大きな影響を与えるとしてMACに該当すると考えるでしょう。どこまでをMACとして定義するか検討・交渉して決める事項です。例えば買主の場合なら、Closing直前までに15%以上の為替が不利に変動したらMACに該当する等としておかないといけません。相手のdraftのまま見過ごしてはいけないですね。

5) Indemnificationの規定
Closing date後、売主が表明保証違反等により買主に損害を与えた場合、そのindemnification(補償)をどの範囲で行うのか規定が設けられます。普通は、個別案件の損害額と、これが積み重なった総額の損害額の2つの視点から損害賠償額の補償の規定がなされます。また総額についても買収額の20%とか15%とかのCapがはめられるのが普通です。
① 一件当たりUS$1万以上の場合はその全額で、かつ総額が$10万以上の場合には、の全額を補償する。例:1件5万ドルの損額が11件の場合=$55万の補償
② 一件当たりUS$1万以上の場合はその全額で、かつ総額が$10万以上の場合には、$10万を超える部分のみ補償する。55-10=$45万の補償
③ 一件当たりUS$1万以上の場合は、1万ドル超過分のみで、総額が$10万を超える場合は全額を補償する。4万x11=$44万の補償
④ 一件当たりUS$1万以上の場合は、1万ドル超過分のみで、総額が$10万を超える場合は、その超過額を補償する。4万x11=$44万-10万=$34万の補償
 規定の仕方によって、補償額がことなりますので、注意が必要です。


○ 一般的な落とし穴は上記ぐらいだと思います。しかし、個別案件でしばしばTrickyな条項に会います。Asset deal(=closing dateの譲渡財産額で価格調整)で、事前に取り決めた運転資本額をClosing dateの運転資本額で調整する案件がありました。運転資本額が増大すれば買収価格(支払額)が増える条項です。運転資本額のDisclosure Schedule記載の計算式にはAccount receivable(A/R)が入っていますが、譲渡資産にはA/Rが入っていません。つまり売主は、A/Rを意図的に増やして、その分受取額をかさ上げ、ねこばば出来るのですね。日米の一流法律事務所の自称M&A専門弁護士が数人担当していました。どうでもよいDisclosure Schedule(closing date現在でup-dateされるもの)を丹念に調べてしっかりfeeを取られましたが、こういった買主にとり重要な事項の指摘はありませんでした。

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上場前の株式の特定者への売却

2014-09-14 03:02:19 | M&A
株券上場前の第三者割当増資や売出は規制されていますね。即ち「企業の円滑な資金調達の要請に応えつつも、株式上場前に行われた第三者割当増資や株式移動による特定の株主の短期利得行為を極力排除し、株式上場制度の透明性・信頼性を確保する観点から」一定の規制を受けることになります。この事項に該当する場合には、上場申請不受理、受理取消、又は追加的情報開示が必要となる場合があります。例えば、今年2014.11.1を上場予定日とした場合、昨年の2013.4.1から上場予定日の前日10.31迄が制限期間となります。11.1を上場予定日とすると上場申請日は3か月前の8.1ぐらいまでに行う必要がありますので、実際上の制限期間は7.31ぐらいまででしょうか(上場申請したら動けなくなりますのでね)。しかし、制限期間と言っており「禁止期間」ではありません。ですから、短期売買禁止(上場日以後6か月のmandatory lock-up)と、透明性・信頼性を確保すれば可能ですね。透明性確保については、上場申請直前事業年度末日から遡る2年前の増資・売出・stock option行使、特別利害関係者等の株式等の移動の内容は、上場申請書Iの部及び有価証券届出書の株式公開情報にて開示が義務付けられています。

制限をクリアーするには、上記の①Lock-upと②開示が必要ですが、もうひとつ重要な事項があります。それは価格です。上場のときの公募・売出価格はブックビルディング(+入札により価格を決める方式もありますが、あまり行われていないと思います)により決まりますので、いくらになるかわかりません。第三者が上場前に購入する価格が、高ければ購入者は損しますし、安ければ得をします。でも問題は、この取得価格が上場時の価格形成をゆがめてしまうという重大な問題があります。

○ では、上場前に第三者へ株式の一部を売却するにはどうすればいいでしょうか。例えば、グループ会社で100%近い株式を保有しているけれども、有力事業パートナーに20%ぐらい売却して、上場後の事業の方向性と上場価格を有利に展開したいとか、上場前に株式を売却して譲渡益を得たいという場合ですね。それには、一工夫して、SPCを設立して、売却企業は一定額でそのSPCに株式を売却して、買主の取得価格は上場時の公募売出価格にすればいいのですね。具体的な方法について見てみましょう。

1) まず、20%ぐらいを長期保有・事業参画を考える、買主・買収企業を探すことですね。Majorityを売却すると上場できなくなりますから、20%ぐらいですね。上場すれば2位ぐらいの株主になりますから、経営にそれなりに影響を及ぼせますし、将来売主企業の体力が落ちたら徐々に買い増して、30%ぐらい保有すれば、株主分布にもよりますが、筆頭株主になれば、かなり経営をcontrolできますね。

2) 次に、SPCの設立ですね。このポイントは、欧州系等の銀行に頼んで、Charity Trust等の方法で、売主企業と関係が無い第三者企業として例えばUS$1,000ぐらいの基本金(nominalな資本)で設立してもらうことです。第三者企業として設立しないと売主企業は連結で売却したことになりませんからね。

3) 買収者の買収実行として、SPCに「ユーロ円建他社(=上場予定企業)株式交換権付社債(Exchangeable Bond)=EB」を発行させ、その全額を買収会社にが引受ます。この社債の主な条件は以下ですね。
① 公募売出価格がx円以上となったときは、上場日の前日までに公募売出価格で、社債額面を除した株数で強制的に上場企業の株式に交換する。
・交換価格は、x円≦公募売出価格≦Y円
・公募売出価格がY円超の場合は、交換価格はY円
② 公募売出価格が、X円を下回ったときは、金融商品市場で株価がx円以上となった日に、x円を交換価格として強制的に交換する。
③ 社債の満期までに、上場しなかった場合、または上記②で強制交換できなかった場合は、満期日に上場予定企業の株式(売却企業がSPCに売却した株数全部)に交換される。従い、社債の償還は無く、買収企業は株式を取得して、予定企業の株主となる。

上記が基本スキームですが、実際はもう少し複雑ですね。上場予定企業の株券を、買主に譲渡担保に供して買主はEB取得時に会計上株式を取得したとみなすとか、株券をCustodianに寄託するとかのアレンジも付随的にあります。結構「おたく的」な取得方法ですね。
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