まりっぺのお気楽読書

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『春にして君を離れ』孤独が教えること

2011-01-13 01:15:54 | アガサ・クリスティ
ABSENT IN THE SPRING 
1944年 “ メアリ・ウェストマコット ” アガサ・クリスティ

アガサ・クリスティのファンなら誰もが知っていることですが
クリスティは別名でミステリー以外の小説も書いていました。
もうひとつペンネームがあったという話しもあったような気がしますがよく知りません。

ミステリーの女王クリスティがわざわざペンネームで書いたというこの小説、
殺人やスパイなどの事件はありませんが、そこはかとなくハラハラ感を孕んだ
少し肌寒さを感じる物語でした。

主人公はジョーン・スカダモアという英国女性。
夫ロドニーは町で一番成功している法律事務所の共同経営者、
長男トニーはアフリカでオレンジ農園を経営しています。
長女エイヴラルは裕福なブローカーに嫁いでロンドンで暮らし
次女バーバラはイラクで地位のある職についている男性に嫁いでいます。

現状にはすっかり満足しているパワフルなジョーンが
病気になったというバーバラを訪問したバグダットからの帰路
女学校時代の友人で、すっかり落ちぶれ果てたように見えるブランチ・ハガードと
ばったり会ったところから物語が始まります。

細かいことは省きますけど、ジョーンは砂漠の中にぽつりとあるレストハウスで
汽車が到着しないために、(西洋人としては)たったひとり足止めを食ってしまうのね。

ジョーンはものすごく精力的で、毎日忙しく動き回っている人なわけです。
そんな女性が何もすることがなく、話し相手もいないまま何日も捨て置かれたら?
「ゆっくり休めばいいじゃない?」と思いますよね?
しかしそうはいかないのが文明社会にどっぷりつかった人間のつらいとこ。

休息時間を欲していたジョーンも、1日も経たないうちにムズムズ、イライラし始めます。
そして考えなくてはいいことを勝手に考え始めます。

例えばですけど…
ブランチが「バーバラはもう心配いらないわ」と言ったこと、
彼女を見送りにきた夫が去って行くとき、後ろ姿がやけに元気溌剌としていたこと、
若い頃「農園を経営したい」と言っていた夫を思いとどまらせたこと、
不幸なレスリー・シャーストンを、夫が「勇気ある女性」と言ったこと、などなど…

2日3日と過ぎるうちに、ジョーンの神経は過敏になっていきます。
何度も繰り返し嫌なことを考えるうちに、様々なことに思いあたります。
家庭でおこった様々な問題に対して自分と夫の考えがまったく違っていたことや
子どもたちの不自然な態度にも思いが及んでいきます。

4日目、砂漠の中で方向を見失いかけたジョーンはあることを悟りました。
それは自分がものすごく家族に嫌われていたこと、そして夫とレスリーのこと…

錯乱状態でレストハウスに帰り着いたジョーンに汽車の到着が告げられます。

そうですねぇ…
ラストでジョーンはロンドンに帰って夫に再会するんですけどね。

たとえば彼女に改心してもらって別人のように謙虚な女性になりました、とか
ものすごく痛い目に遭って、今までのことを悔やみながら一生を終えるとか
そんなラストは期待していなかったんですよね。
たしかに一番ノーマルで、賢い結末のつけかたかもしれない…でも後味悪い

このすっきりしない感じはジョーンのせいなのか夫ロドニーのせいなのか
はたまたふたりのせいなのかよくわかりません。
もしかしてふたりとも悪くないのかも… 夫婦だからって全てを正直に話す必要ないもんね。
いったいこの結末の何が私をモヤモヤさせるのか、後日じっくり考えてみます。

自分の人生に一点の曇りも無い、幸せ一杯だ! という方がもしいらしたら
じーっと自分のことを考える時間があってもいいかもしれないです。
良い結果になるかそうでないかは責任持てませんけどね

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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高校生の頃 (ピコ)
2011-01-16 01:06:59
姉が文庫を持っていて読みました。アガサ・クリスティの探偵ミステリーとはまた違った側面の小説で興味深かったのを覚えてます。主人公のような女性て結構いるんじゃないかと身近な心理ミステリーとして怖く感じました。さすがクリスティ!
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こんばんわ (マリッペ)
2011-01-16 02:39:33
ピコさま、こんばんわ。
コメントありがとうございます。

私はけっして独りが苦手な方じゃないんですけど、こんな状況におかれたら…と考えるとゾッとしますね。

ウェストマコットものはこの一冊しか読んでいないのですが、もしかしたらミステリーより普通の小説の方が恐ろしいんじゃないですかね?
他のものも読んでみようかしら…なんて思っています。
返信する

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